わたしのON/OFF 明日に繋がるoff

わたしのON/OFF 明日に繋がるoff 松本 陽子 東京大学医学部附属病院女性外科/厚生労働省医政局

 この度、産婦人科医のワークライフバランスを考える企画として執筆の機会を頂きました。「ワーク」はもちろん産婦人科医です。「ライフ」にはいろいろありますが、中でも大きい部分を占める子育てについて取り上げたいと思います。
私のON

国内の学会懇親会にて家族で撮影

 学生時代に産婦人科専攻を決めた時から婦人科悪性腫瘍をサブスペシャリティーにしたいと思っていました。東京大学産婦人科学教室に入局し、伝統ある医局の一員として、大学病院でも関連病院でも素晴らしい先輩のご指導を受けることができました。大学院卒業後は婦人科悪性腫瘍の修練の機会を得て、大学病院や埼玉がんセンターで研鑽を積みました。医局の皆様の御指導や御配慮に感謝して、それを後輩の先生へ多少でも引き継ぎたいという思いを込めてこれまで働いてきました。
学会の記念式典で「厚生労働省から祝辞」という仕事もあります

学会の記念式典で「厚生労働省から祝辞」という仕事もあります

 平成27年4月、東大産婦人科から厚生労働省に人事交流という形で出向し、現在、医系技官として日々行政に携わっています。これまで医師の業務といえば、比重の差こそあれ「臨床」「研究」「教育」だと思っており、自分の中に「行政」という選択肢は全くありませんでした。今は厚生労働省で小児や周産期の医療制度を担当しているのですが、半年経って、うっすらと「行政」という立場を理解することが出来るようになました。今まで見えなかったこと、分からなかった仕組みが少しだけ見えるようになりました。臨床経験を生かした施策を考え、資料を作る仕事の合間に、国会答弁を作ったり、国会議員の先生に呼び出されたりと忙しい職場です。臨床に戻ったときに今の経験をどのように生かしていけるのか、後輩の先生がたに興味を持ってもらえるような道を作りたいと思い模索しています。
私のOFF
2013年7月、ハワイで開催された国際学会に一家で参加しました

2013年7月、ハワイで開催された国際学会に一家で参加しました

 「ライフ」はやはり子育ての占める割合が大きいです。「悩み」における比率なら、8割が「ライフ」の子育て、と言っても過言ではありません。大学院在学中に、長女、二女を続けて出産しました。大学院卒業後は臨床、研究、子育てを不均等に割り振っていましたが、毎日が綱渡りでした。仕事で遅くなる日はあらかじめ義母に子供達の夕食を頼んでいました。現在は子供達も大きくなって長女は小学5年生、二女は小学4年生です。「電子レンジでチン」を習得したため、朝食と一緒に夕食も作っておけば自分たちで食べてくれるようになりました。小学校や習い事の保護者会等にはなかなか参加できませんが、それも何とかなるものだと分かりました。大切なのは、周囲の協力や理解を得ることと、そしてそれに対して「いつかこのご恩はお返しします」と心から思う気持ちだと考えています。
 自分の趣味を楽しむ時間は正直ほとんど無いのが現状ですが、自分の好きなことを子どもと一緒にするのが一石二鳥だと思います。私は旅行が好きなので、よく子連れ旅行をしました。小学生になると学校を休めないので、むしろ保育園時代の方が機会は多かったように思います。元同級生で耳鼻科医の夫とは研究分野に共通点があるため、同じ学会での発表の機会も多く、夫婦で参加する国際学会や海外での講演出張にも子供達を度々連れて行きました。日産婦のように学会会場に託児室を用意している国際学会はほとんどなかったため、学会主催側に掛け合って現地のシッターさんを紹介してもらったり、宿泊ホテルのキッズプログラムなどに預けたりと工夫しました。子供達はシッターさんに連れられ、現地の子供達と遊んだり市民プールや動物園に行ったりと楽しんでおり、学会会場にいる親にとっては子ども達が羨ましいくらいでした。こんな学会参加の楽しみ方もあるのだと感動しました。
 最後に
 東大医学部では男女共同参画委員会が年1回学内でキャリア支援交流会を開催しており、学生から医師まで男女問わず参加者があります。また東大病院は両立支援委員会や院内保育園を備えています。このような大学や附属病院の取り組みに東大病院助教の時は委員として参加し、先輩の先生、後輩、学生の声を聞いてきました。現在は行政の立場から、女性医師の活躍促進だけでなく、社会全体での女性支援、少子化対策として出産・子育ての部分でのよりよい医療制度作りを目指しているところです。今後も自分が受けてきた恩恵を、臨床や研究、そして行政と様々な場で還元していきたいと思います。

2015年10月現在