公益社団法人 日本産科婦人科学会

English
委員会情報
SUB MENU

平成26年度第3回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月2日

平成26年度第3回倫理委員会議事録

日 時:平成26年9月3日(水)午後6時00分~8時25分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」

出席者(敬称略)
   委員長:苛原  稔
   副委員長:久具 宏司
   主務幹事:桑原  章
   委 員:安達 知子、齊藤 英和、榊原 秀也、佐藤 美紀子、澤 倫太郎、杉浦 真弓、
関沢 明彦、髙橋 健太郎、竹下 俊行、平原 史樹、矢幡 秀昭、山中 美智子
   理事長:小西 郁生
欠 席:石原  理委員、加藤 聖子委員、久保田 俊郎委員、阪埜 浩司委員
 

 定刻に苛原委員長が開会を宣言し、定例の議事の前に、日本医師会今村常任理事との意見交換から議事を開始した。

<日本医師会常任理事今村 定臣先生とのNIPT実施施設に関する意見交換>
   今村 定臣先生:NIPTは日本産科婦人科学会が日本医学会と共同してコンソーシアムを形成し開始して以来、約1年間が経過した。現在は臨床研究として限られた施設で行われているが、国民の関心も大きいことから今後、実施施設を拡大してはと考えている。母体保護法との関連性も高いことから、母体保護法指定医師が適切な研修を修めて実施することが適切と考えている。
   関沢 明彦委員:今後、実施施設を増やして、妊婦のアクセスをより良くする必要性は認識しているが、人工妊娠中絶と直結するとの意見から、出生前診断に関して母体保護法指定医師を必要要件とすることには、以前より患者団体の反発が激しかった。なお、NIPTの現状は、実施施設が42施設(コンソーシアム参加施設38施設)、準備中の施設を加えると全都道府県の8割に実施施設がある。医師不足で開設出来ない地域もある。実施数は昨年度で7,700件、今年8月時点で合計12,000件、陽性率は1.6−1.7%、陽性例は約200例で、95%以上の陽性的中率である。
   久具 宏司副委員長:施設審査する立場であるが、これまでのところ、十分準備できている施設が多く、今後も、条件を満たす施設は認可、実施可能と考える。しかし、改善が必要と思われる施設も散見されている。産科婦人科医のみで実施することは望ましくない。産科婦人科では判らない、関わっていないことも多く、遺伝、小児の専門家も関与して、カウンセリングを行う必要がある。
   平原 史樹委員:羊水検査はこれまで、遺伝、小児科の専門的知識が無くても広く実施されており、一部では説明など問題のある症例も発生している。検査して、単純に結果を伝えるのでは問題が多く、NIPTはカウンセリングが重要視されている。「遺伝専門医」か否かではなく、知識、スキル、対応の問題である。一方、中絶を選択するリスクなどを検討するためには遺伝のみの知識で対応できない症例もあり、今後は社会の理解を得ながら拡大していくことになろう。
   杉浦 真弓委員:当院では昨年度1,000件を医師4名で担当した。医師個人の負担も大きく、大変なので、実施施設を拡大してほしいと思うが、前医からリスクが事実以上に高いと説明されたり、配偶者や家族の強い意見に従って受動的に実施している例など、抑鬱、不安が多い症例が多く、NIPT実施施設には十分なカウンセリング体制が整っていることが必要と考えている。
   今村 定臣先生:カウンセリングの重要性は認識している。一方で、遺伝に関する高度な知識がNIPTで果たして必要なのか疑問に思う。むしろ重要なのは医師の見識、生命倫理、とくに中絶の是非に関する見識が重要である。陽性であればほぼ、全例が中絶を選択しているのに、遺伝の専門知識のみで行われているカウンセリング内容に疑問を感じる。産科婦人科学会よりも人類遺伝学会の方が、より関与して、囲い込むような働きをしていると感じている現場医師の意見が多いことを指摘したい。
   澤 倫太郎委員:我が国には胎児条項が無い現状を認識している産科婦人科以外の医師は少数派であり、NIPTに関しては産科婦人科医師でないと判断できないことが多い。
   苛原  稔委員長:今回の貴重な意見を参考に、今後も検討を続けて行きたいと考えている。
以上で、今村常任理事との意見交換を終え、今村常任理事が退席された後、平成26年度第2回倫理委員会議事録(案)【資料1】を確認し、定例の報告・協議事項に移った。

<報告・協議事項>
1.登録関係
(1)本会の見解に基づく諸登録【資料2】
 齊藤委員より登録・調査小委員会の諸登録について報告があった。「医学的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存に関する登録」に2施設が登録されたこと、2012年ART報告は日産婦誌9月号に掲載予定であり、登録総数が326,426件であることが報告された。また、2013年のART登録件数は約32万件、2014年は20万件が既に登録されていることが報告された。
(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可に関して【資料3】
 平原委員より着床前診断に関する審査小委員会の結果が報告された。大谷LCからの申請が初めてなされたが、その内容に不備があり、照会となったことが説明された。
   竹下 俊行委員:外注によるアレーCGHでPGDを行っている施設、症例が増えている。得られた結果をどのように扱うか、PGSの議論とも併せて今後なるべく早く一定の見解を作る必要がある。

2.日本受精着床学会における田中 温医師、根津 八紘医師の発表に関する対応について【資料4、資料5-1、資料5-2、資料6】
   苛原  稔委員長:7月の日本受精着床学会で発表された2つの口演内容に問題が指摘された。田中温医師は、厚生労働省、文部科学省の倫理指針に基づく報告をしていないことが判明したため、私が田中医師から事情を聴取して、当局へ私と田中医師が出向き、本人から事情の説明、謝罪があった。当局としては、本人へ指導するとともに、後日、当局へ報告し、審査する予定となった。本会としては次回理事会に報告し、対応を検討するとともに、再度、学会誌に会員へのお知らせを掲載し、注意を喚起する。
 根津医師の件は8月29日に本会事務局で事情を聴取した。提供精子によるARTは見解に触れると断定できないため、意見交換に止めた。第三者の関するARTは現在、国会で法制化の議論が進んでいる時期であり、慎重な対応、配慮が必要である点を説明した。次回理事会に報告する予定である。
   久具 宏司副委員長:配偶子提供について、人工授精は「AIDに関する見解」があるので、見解違反となる場合がある。一方、ARTに関する見解では配偶子提供に関する記載が無く、今回の事案も明確な見解違反には当たらないと解釈される。このような難解な解釈の原因として以下の出来事を理解しておく必要がある。2003年、当時の厚生科学審議会では配偶提供を認める方針で議論が進み、報告書が提出され、法制化に進むものと思われていた。2007年にJISARTが卵子提供の実施を発表した際、学会は見解には卵子提供に関する規定はないものと解釈し、JISARTの発表を黙認した。1997年に卵子提供を理由に根津医師を除名した時とは状況が異なる。
   苛原  稔委員長:2001年に本会会員向けに厚労省から「第三者が関与する生殖補助医療は、必要な制度の整備がなされるまでAIDを除いて実施されるべきではない」旨の周知徹底の依頼があり、現在もこの通達が有効である。従って現在も消極的に行わない方が良いとの立場を取っており、法制化の成り行きを慎重に見守る必要があるのが現状である。

3.各種見解における「婚姻」に関する記載とその変更について意見を頂いた会員への回答について【資料7-1、7-2】
 苛原委員長から説明があり、資料の通り、回答することとした。

4.「第3回PGSに関する小委員会」、「PGSに関するワーキンググループ委員会」について【資料8-1、資料8-2】
 竹下委員より、「第3回PGSに関する小委員会」を7月25日に開催し、さらに具体的なプロトコル案を議論するために「PGSに関するワーキンググループ委員会」を8月18日に開催したことが報告された。
   竹下 俊行委員:並行して倫理に関する議論も深めていくことを考えている。

5.「PGSに関するシンポジウム」の開催予定について
   竹下 俊行委員:11月16日(日)午後、PGSに関する公開シンポジウムを開催する予定である。
   苛原  稔委員長:PGSに関しては学会内で理事会での議論を行いつつ、産科婦人科以外の他の医療分野、患者さんや一般の意見を交えた検討が必要であり、今後も慎重に議論を重ねていきたい。
   久具 宏司副委員長:PGSの臨床研究は、流産の減少と臨床妊娠の増加を目的として、適応や有効性が検討されると考えているが、それとは次元の異なる議論として、流産するとは限らない胚を排除することの倫理に対して議論が必要と考えている。我が国には中絶に関して胎児条項が無いため、PGSにおいても流産しない異常胚を排除することの倫理性は、十分に議論する必要があると考えている。

6.「『生殖医療に関する遺伝カウンセリング受入れ可能な臨床遺伝専門医』認定講習会」の収支報告について【資料9】
 平原委員から資料のとおり報告があった。

7.倫理委員会審議事項、検討課題について【資料10】
 苛原委員長から、資料のとおり、昨年初めの検討課題と現在の進捗状況が説明され、今年度は、1)法制化に対する対応、2)PGSに関する議論と臨床研究の準備、3)NIPT、4)PGDの個別審議の取り扱いを主な検討課題として取り組みたいと考えていることが解説された。

【資 料:】
1. 平成26年度「第2回倫理委員会」議事録(案)
2. 「登録・調査小委員会」報告
3. 「着床前診断に関する審査小委員会」報告(答申書、照会文書、議事録)
4. 「平成26年度通信臨時倫理委員会」結果まとめ
5-1.田中医師経緯説明
 -2.根津医師との面談の記録
6. 会員へのお知らせ(再通知)文案
7-1.「体外受精・胚移植/ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する見解」における「婚姻」の削除についての会告
 -2.会員からのご意見に対する返答文案
8-1.「第3回PGSに関する小委員会」議事録(案)
 -2.「PGSワーキンググループ」議事録(案)
9. 「『生殖医療に関する遺伝カウンセリング受入れ可能な臨床遺伝専門医』認定講習会」の収支報告
10. 平成26年度日本産科婦人科学会倫理委員会検討課題
11. 報道記事など

このページの先頭へ