公益社団法人 日本産科婦人科学会

English
委員会情報
SUB MENU

平成30年度第4回倫理委員会議事録

更新日時:2019年5月7日

 

平成30年度第4回倫理委員会議事録

日 時:平成30年11月20日(火)午後6時30分~8時38分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」

出席者
   委員長:苛原  稔
 副委員長:三上 幹男
   主務幹事・委員:桑原  章
   委 員:石原 理、織田 克利、河端 恵美子、久具 宏司、倉澤 健太郎、桑原 慶充、
     齊藤 英和、榊原 秀也、佐藤 美紀子、澤 倫太郎、関沢 明彦、竹下 俊行、
     寺田 幸弘、山上 亘、山中 美智子
 欠席者:杉浦 真弓、阪埜 浩司
<敬称略>

 定刻に苛原委員長が開会を宣言し、平成30年度第3回倫理委員会議事録【資料1】を確認した後、定例の報告・協議事項に移った。

1. 登録関係
 (1)本会の見解に基づく諸登録<平成30年10月31日現在>
 齊藤委員より、登録・調査小委員会の諸登録について報告があった【資料2-1】。

 (2)生殖補助実施医療機関の施設・機関責任者について
 齊藤 英和委員:一人の医師が複数のART登録施設の「施設・機関責任者」を兼ねることの可否に関して、委員から疑問があげられた。以前より、「施設・機関責任者」は兼任できるが、ART登録施設の「実施責任者」は複数施設を兼任できないこととしている。今回改めて、複数のART登録施設の施設・機関責任者を兼任することの是非に関して検討願いたい。平岩弁護士からのコメント【資料2-2】もいただいている。
 石原  理委員:一人の医師が複数のクリニックを巡回して診療を行うスタイルが歯科では増えている。極端に多くの施設で責任者となる場合は問題なので、事案ごとに検討することが良いと考える。
 寺田 幸弘委員:各施設でART関連の医療事故が発生した場合は、ART実施責任者の管理責任となることを確認しておく必要がある。
 澤 倫太郎委員:個々に判断することを前提に、現状通り、今回の案件は許可することで良いと考える。

 (3)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について
 榊原委員より、PGD審査小委員会結果【資料3-1】が報告された。

 (4)着床前診断に関する見解改定後の実施施設申請について
 榊原委員より、見解改定をうけて新たに申請されたPGD実施施設申請に関する現状【資料3-2】が報告された。これまでにPGD実施経験も申請もない新規施設が50施設あり、新たな見解に即して、倫理委員会や遺伝カウンセリングの体制に関して厳正に審査を行っているため、本日までに最終案がまとまっていないが、次回理事会までに一部の施設は申請承認となり、各委員へ回覧する予定であることが報告され、承認された。

 (5)着床前診断に関する症例登録報告様式の改定について
 榊原委員より、見解改定をうけて新たに必要となるPGD症例登録報告書(様式4)案【資料3-3】とPGD症例別経過報告書(様式5)案【資料3-3b、席上配布】が説明された。次回理事会で本様式の承認が得られれば、運用開始することとなった。

 (6)網膜芽細胞腫の審査に関して
 榊原委員より、網膜芽細胞腫に関するPGD審査結果に対する意見、質問書が申請施設および患者支援団体から寄せられたことが説明された。その各々に対する回答案を含め、対応方法に関して協議の提案があった。

 榊原 秀也委員:回答案の骨子は以下の通りである、議事録は公開できない。概要はお知らせする。これまで長い間、医師のみならず、患者団体など関連の専門家の意見も踏まえて、生命予後を主な判断基準としているので、網膜芽細胞腫を適応とすることは厳しい。遺伝性腫瘍、運動器や感覚器の遺伝疾患の重篤性については今後の課題であり、今回の疾患では眼科腫瘍専門医の意見も参考にしているが、現段階では従来の基準を変更するまでの意見は集まっていない。しかし、今回初めて感覚器疾患に関連する患者団体からの意見が学会に寄せられたことにより、これまでの基準を見直す必要性や、医師のみで基準を決めるのではなく広く意見を集める必要性などが議論されていることなどを含んだ学会回答案である。
 山中 美智子委員:PGD開始当初は、安全性や有効性に関する結論もなかったので、極めて慎重な基準を設けて開始したが、20年以上経過し、状況も変わっている。網膜芽細胞腫は失明のみならず、その後の発がんリスクもあり、生涯にわたるケア、通院が必要となる。しかし、稀少疾患ゆえに管理可能な施設が限られ、実質的には、国立がんセンター眼腫瘍科に通院している症例が多い。このような現状も認識すると、現在の基準の再検討に入る時期に来ていると考える。
 三上 幹男副委員長:遺伝医療の適応基準を患者が決めるのか、学会が決めるのか、そして今回の案件のように親の意見で決めるのか、様々な意見がある。一般的に遺伝的な疾患を経験した親が、次の子供に関して健康な子供であってほしいと願うことはとても自然な感情である。現在の腫瘍遺伝医療を例にすると、患者・家族に対して遺伝カウンセリングを行い、十分な情報と対応方法を説明した上で、患者および当事者が自身で判断することが基本となっている。これまでは学会が絶対的に決めてきたPGDの適応基準を再検討する必要性を感じる。
 苛原  稔委員長:これまでは、PGDを容認しない意見が多く寄せられ、極めて限定的にPGDを実施してきた。親の意見、産婦人科の意見だけで出生前遺伝医療を実施することの問題点が指摘されている。また、各施設に判断を任せると、施設による不一致が発生するため、これまでは様々な意見をとりまとめて、本会が見解・基準を定めて行ってきた。結果的に、賛否双方からの意見が本会に寄せられ、悩みながらこれらを運用してきた経緯がある。ごれまでの経緯と出生前遺伝医療の現状を踏まえ、再検討が必要という意見が多ければ、今回の回答を保留し、再検討しても良いが、いかがか?
 石原  理委員:世界的にみて、PGDの対象で最も多いのはHBOCである。遺伝性腫瘍に対する出生前診断のあり方を検討するべき時期である。
 苛原  稔委員長:一部の国では、NIPTを国民全例に推奨したり、全ARTを対象にPGT-Aを行っている。
 山中 美智子委員:出生前診断をマススクリーニングとして行うことの是非と、個々の症例に適応することを、同列に議論してはならない。特に遺伝性腫瘍の患者・家族の当事者意識が高まっている現在、各個人が熟慮の上で出生前遺伝学的診断を選択することを、学会が一方的に適応が無いと決めることにも、倫理的問題がある。着床前診断についても、現状を見直す時期と考える。
 (複数の委員から、適応基準の再検討を求める意見があった)
 久具 宏司委員:回答を保留しても、同じ基準で議論している限り結論は変わらない。現在の重篤性の基準は、10数年前の実情を踏まえて考えたものであり、不変な絶対的基準ではない。この症例をきっかけに、現時点における問題点を徹底的に議論して、基準なり、考え方に結論を得てから、回答することが重要である。
 澤 倫太郎委員:生命予後を重篤性の基準にしたこれまでの着床前診断は、よく考えられたものであったが、今回の事案に適応することは難しい。この機会に再検討が必要と思われるが、重篤性の基準を再検討するのではなく、始めに立ち戻って着床前診断という技術の適応基準を再検討することが必要と思われる。
 苛原  稔委員長:様々な意見があり、本日の文案で回答することは保留としたい。患者、家族の意見を尊重すべきとの意見もある一方、不十分な知識・準備のまま患者の希望に添えば問題のある結果となることが予想される。本症例の取り扱いのみならず、着床前診断全体の適応に関して改めて時間をとって議論したい。日を改めて臨時の倫理委員会を開催することを提案したい。2月の倫理委員会までに開催を準備したい。

2. 臨床研究審査小委員会について
 三上副委員長より、小委員会での各審査結果が報告された。さらにデータベースを利用して行う研究に関する申請者チェックシート案、審査用チェックシート案、誓約書案が説明された【資料4】。

3. PGT-Aに関する小委員会について
 竹下委員より、現在の臨床研究の進捗が説明された。研究の概要と倫理社会的問題点に関する意見を聴取するために、公開シンポジウム【資料5】を準備していることが案内された。

4. 子宮移植について
 石原委員より、慶應義塾大学からの問い合わせ【資料6】が本会に届いたことをうけて、日本移植学会と本会が日本医学会と共同して意見を集約する検討委員会を開催することが紹介された。(当日配布資料あり)

5. NIPTについて
 久具委員より、2回の小委員会での議論と、現在の指針見直し案【資料7】が紹介された。

 久具 宏司委員:これまでの議論では、現在の指針見直し案を成案とするには至らず、引き続き検討することとなっている。
 苛原  稔委員長:日本医学会の打ち合わせ会に出席したところ、前回の小委員会の議論は不十分と指摘された。様々な意見を尊重し議論を追加して、本会としての細則を含む指針案を作り、日本医学会に投げかけたいと考える。
 久具 宏司委員:現行の指針も、本会で成案を作成し、医学会のもとで、指針に賛同する学会と共同声明を出した経緯がある。採血のみで行えるNIPTは、産婦人科以外の医師でも実施可能であり、実施前後の診療やカウンセリングが不十分な環境でNIPTを実施することは妊婦に不利益となるため、そのような動きを規制するために、医学会で共同声明を出した。しかし、現在、この枠組の有効性が示されていないことが問題である。
 苛原  稔委員長:医学会において、指針に従わない医療機関に対する声明、検査施設に対する指導を期待したい。

6. その他
 苛原委員長より、仲田洋美医師から本会を相手取った訴訟が起こされていること【資料8】、JISARTからのAID見解に関する要望【資料9】があったことが報告された。

 次回定例の委員会は平成31年2月12日(火)18時30分より学会事務局会議室において開催予定であること、および本日の議論を受けて、臨時の倫理委員会をそれまでに開催することを確認し、20時38分に会議を終了した。

今後の委員会開催予定日:
2019/ 2/12(火)18時30分、3/26(火)18時30分より、5/14(火)18時30分より

【資 料:】
1.  平成30年度「第3回倫理委員会」議事録(案)
2-1.「登録・調査小委員会」報告
2-2. ART施設・機関の長に関する平岩顧問弁護士の見解
3-1.「着床前診断に関する審査小委員会」報告(答申、議事録など)
3-2. 着床前診断に関する見解改定後の実施施設申請審査結果一覧
3-3. 着床前診断に関する症例登録報告様式4(案)、現行の様式4(参考)
3-3b.着床前診断に関する症例登録報告様式5(案)(当日配布)
3-4.「網膜芽細胞腫」非承認の審査結果に対する申請施設からのご意見および患者支援団体からの質問書、学会からの回答案
4. 申請者用のチェックシート(案)、審査用のチェックシート(案)、誓約書(新)
5.  PGT-A公開シンポジウムプログラム(案)
6.  慶應義塾大学からの子宮移植に関する申請文書、研究概要
7.  NIPT指針の見直しについて
8.  東京地方裁判所からの口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状
9.  JISARTからのAID見解に関する変更要望書
10.  関連報道記事
[見解集]第70巻8号(最新版)

このページの先頭へ