公益社団法人 日本産科婦人科学会

English
見解/宣言/声明
SUB MENU

HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種の積極的勧奨の早期再開を強く求める声明

更新日時:2018年7月12日

平成29年8月28日

公益社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 藤井 知行

 HPVワクチンは、子宮頸がんの一次予防を目的として平成25年4月に定期接種化されましたが、同年6月にその接種の積極的勧奨が中止され4年以上が経過しました。日本産科婦人科学会は、平成27年8月および29年1月に、本ワクチン接種の積極的勧奨再開を求める声明1,2)を発表してきましたが、今回、以下の根拠に基づき、再度HPVワクチン接種の積極的勧奨の一刻も早い再開を強く求めます。

 子宮頸がんは20〜40歳代の女性で増加しており、国内では年間1万人以上が罹患しています。また年間約2900人が死亡し3)、過去10年間で死亡率が9.6%増加しています4)。子宮頸がん予防のためには、一次予防としてのワクチンが、二次予防としての検診(細胞診)とともに必須であることはグローバルコンセンサスとして確立しています。HPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れた英国・豪州などの国々では、ワクチン接種世代のHPV感染率の劇的な減少と前がん病変の有意な減少が示されています5)。一方、日本においては平成22年度からHPVワクチン接種の公費助成が開始され、その対象であった平成6〜11年度生まれの女子のHPVワクチン接種率が70%程度であったのに対して、平成25年6月の接種の積極的勧奨中止により平成12年度以降生まれの女子では接種率が劇的に低下し、特に平成14年度以降生まれの女子では1%未満の接種率となっています6-8)。その結果として、将来の日本では、接種率が高かった世代においてはHPV感染や子宮頸がん罹患のリスクが低下する一方で、平成12年度以降に生まれた女子ではワクチン導入前世代と同程度のリスクに戻ってしまうことが推計されています8-10)。この負の影響を少しでも軽減するためには、早期の積極的勧奨の再開に加え、接種を見送って対象年齢を超えてしまった世代にも接種機会を与えることも検討する必要があります9-11)

 WHO(世界保健機関)は平成27年12月の声明の中で、若い女性が本来予防し得るHPV関連がんのリスクにさらされている日本の状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されないことに繋がる現状の政策決定は真に有害な結果となり得ると警告しています12)。さらに平成29年5月に発表されたHPVワクチンに関するWHO の最新のPosition paper 13)では、9〜14歳の女児に対しては2回接種(15歳以上は3回接種)を推奨しており、日本で承認されている2価、4価のHPVワクチンに加えて、日本で未承認の9価ワクチンも高い安全性と有効性を示し、これらの接種を国のプログラムに導入することを強く推奨しています。日本では公費接種対象年齢が12〜16歳であり、2回接種の導入は現状では直ちには困難であり、先進国を中心とした世界のHPVワクチン接種推進の流れに大きく遅れをとっています。

 国内においても本ワクチンの有効性に関する複数の研究が進行中であり、そのデータも蓄積されてきています。

  1. 平成27年より厚生労働省科学研究「革新的がん医療実用化研究事業」14)として新潟県において開始されたNIIGATA STUDYでは、平成28年度までに登録完了したワクチン有効性の中間解析において、20〜22歳におけるHPV16/18型の感染はワクチン非接種者に比してワクチン接種者で有意に低率であり、大阪府で行われているOCEAN STUDYでも同様の結果でした。
  2. 宮城県における平成26年度の20~24歳女性の子宮頸がん検診データの解析では、HPVワクチン接種者のASC-US以上の細胞診異常率は有意に減少していました15)。秋田県における子宮頸がん検診のデータでも同様の結果が示されています16)
  3. 国内21施設で前がん病変および子宮頸がんと診断された女性のHPV16/18型感染率を調べる観察研究(MINT Study)において、20~24歳ではHPV16/18型感染率が有意に低下し、出生年コホートでは症例数は少ないものの、前がん病変(CIN2-3/AIS)におけるHPV16/18型感染率が昭和61〜平成5年生まれに比して平成6〜7年生まれでは有意に低下していました17)。HPV16/18型は日本人の20歳代の子宮頸がんの90%、30歳代の76%の原因となっていることから18)、HPV16/18型感染の減少により、今後子宮頸がんの減少も証明されるものと期待されます。

 今後のさらなる症例の蓄積と解析結果に基づいて、国内での本ワクチンの有効性が示されてくるものと考えます。

 一方、ワクチン接種後に報告された『多様な症状』に関しては、国内外において多くの解析が慎重に行われてきましたが、現在までに当該症状とワクチン接種との因果関係を証明するような科学的・疫学的根拠は示されておらず、WHOは平成29年7月の最新のHPVワクチンSafety updateにおいて、本ワクチンは極めて安全であるとの見解を改めて発表しています19)。平成28年12月開催の第23回副反応検討部会6)では、厚生労働省研究班(祖父江班)による全国疫学調査の結果に基づき、HPVワクチン接種歴のない方でも、HPVワクチン接種歴のある方に報告されている症状と同様の『多様な症状』を呈する者が、一定数(12〜18歳女子では10万人あたり20.4人、接種歴不明を全員「接種歴なし」と仮定した場合46.2人)存在することが報告されました20)。また平成29年7月の第28回副反応検討部会においては、厚生労働省研究班(牛田班)から、HPVワクチン接種歴があり症状を呈する方に対する認知行動療法的アプローチの効果に関する解析結果が示され、症状のフォローアップのできた156例中、115例(73.7%)は症状が消失または軽快し、32例(20.5%)は不変、9例(5.8%)は悪化したと報告されました21)。今後も私どもは、HPVワクチンの接種の有無にかかわらず、こうした症状を呈する若年者の診療体制の整備に、他の分野の専門家と協力して真摯に取り組んでまいります。

 日本産科婦人科学会は、将来、先進国の中で我が国に於いてのみ多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益が、これ以上拡大しないよう、国が一刻も早くHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開することを強く求めます。

<引用文献>
1)https://www.jsog.or.jp/statement/statement_150829.html
2)https://www.jsog.or.jp/statement/statement_170116.html
3) http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
4)http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/20161221_02.pdf
5) Brotherton JM et al. Med J Aust. 2016; 204(5):184-184e1.
6)第23回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(平成28年12月26日)
7) Hanley SJ, et al. HPV vaccination crisis in Japan. Lancet. 2015;385:2571
8)Yagi A, et al. Realistic fear of cervical cancer risk in Japan depending on birth year.Hum Vaccin Immunother. 2017;8:1-5.
9) Tanaka Y, et al Outcomes for girls without HPV vaccination in Japan. Lancet Oncol, 2016;17:868-869.
10)Tanaka Y, et al. Japan alone is going backwards in time. Eur J Gynaecol Oncol, 2017, in press.
11) Tanaka Y, et al. Struggles within Japan’s national HPV vaccination: a proposal for future strategy. Hum Vaccin Immunother. 2017;13:1167-1168.
12) http://www.who.int/vaccine_safety/committee/GACVS_HPV_ statement_17Dec2015.pdf?ua=1
13) Human papillomavirus vaccines: WHO position paper, May 2017. WHO Weekly epidemiological record No 19, 2017, 92, 241–268.
14) 日本医療研究開発機構研究費 革新的がん医療実用化研究事業「HPVワクチンの有効性と安全性の評価のための大規模疫学研究」平成27~28年度委託研究成果報告書 (研究開発代表者:榎本隆之、平成29年5月)
15) Ozawa N et al. Beneficial Effects of Human Papillomavirus Vaccine for Prevention of Cervical Abnormalities in Miyagi, Japan. Tohoku J Exp Med. 2016;240:147-151.
16) Tanaka H et al. Preventive effect of human papillomavirus vaccination on the development of uterine cervical lesions in young Japanese women. J Obstet Gynaecol Res. doi:
10.1111/jog.13419. [Epub ahead of print]
17) Matsumoto K et al. Early impact of the Japanese immunization program implemented before the HPV vaccination crisis. Int J Cancer. doi: 10.1002/ijc.30855. [Epub ahead of print]
18) Onuki M et al. Cancer Sci. 2009;100:1312-1316.
19) http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/hpv/ June_2017/en/
20) http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000161352.pdf
21) 第28回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(平成29年7月28日)

以上

このページの先頭へ