公益社団法人 日本産科婦人科学会

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挨拶

更新日時:2019年6月24日

公益社団法人日本産科婦人科学会
理事長 木村 正

日本産科婦人科学会の会員の皆様におかれましては日々ご健勝でご活躍のこととお慶び申し上げます。
私はこの6月22日の定時社員総会後に発足した新執行部において理事長を拝命いたしました木村 正でございます。昭和60(1985)年に大阪大学を卒業の後、大学病院と市中病院で周産期・生殖・女性ヘルスケア・婦人科腫瘍の各分野の診療・研究・教育に従事し、本会におきましては平成21年より理事、平成23年より渉外担当常務理事、平成29年よりは副理事長として活動してまいりました。本会は平成19年から理事長制となり、武谷先生、吉村先生、小西先生、藤井先生のもと大きな発展を遂げております。会員の皆様とともに「産科学及び婦人科学の進歩・発展を図りもって人類・社会の福祉に貢献する」と言う本会の高邁な目標に向かい2年間の任期を精一杯努める所存であります。

本会の役割といたしまして、産科学・婦人科学の学術振興を図るとともに、専門家集団として医療や社会のあり方について発信するという二つの側面があると思います。

学術振興といたしましては、学術奨励賞、優秀論文賞などの顕彰を通じ本会の将来の発展を担う若手会員の研究をさらに活性化したいと考えております。生殖・婦人科腫瘍・周産期・女性ヘルスケアがカバーするすべての年代の女性の健康向上と女性から産まれるすべての人々の健康向上に資する研究は私たちこそが担うべき領域です。従来日本が強かったいわゆるウエットラボでの研究に加え、本会が有する各分野のデータベースや媒体を充実し、ドライ領域・リアルワールドデータを用いた研究が行いやすい環境にしてまいりたいと思っております。学術の振興には会員の皆様へ最新の知識をお伝えすることが不可欠です。これまで同様、学術講演会、学会雑誌、ガイドラインなどの学会刊行物を用いての普及活動に加え、ホームページなどの電子媒体を用いて様々な情報提供を引き続き行って参る所存です。藤井前理事長のご英断の下、学術集会の国際化が進みました。アンケートなどを見ても現在の英語を用いたセッションの比率は概ね好評であり、引き続き維持してまいりたいと思います。さらにFIGO(国際産婦人科連合)やAOFOG(アジア・オセアニア産婦人科連合)との交流、低医療資源国学会との支援交流は、これら活動を通じて国内だけでは見えてこない、新しい学術上の問題点を発見し、解決への研究が進むものと期待します。

専門家集団としての医療や社会のあり方についての発信も重要な学会の責務であります。私たちは少子化問題と真摯に向き合わねばなりません。同時に学会員の働き方改革に対して5年以内に明確に対応する必要があります。大学病院の病院長勤務を通じて感じたことは、産婦人科の診療環境は社会のみならず同業者ですらよく理解できていない(理解しているとしても昭和のあり方でしか理解していない)ことであります。私は、この理解を広めるために「現状の産科(分娩)プラス婦人科の業務は、あたかも集中治療部の先生が自分の名前がついた外来をもち、予定手術をしている状態と同じ」という例えをしております。病院施設における産婦人科診療に対する国民からの期待はまさにこのレベルであり、これまで会員の先生方はこれを可能にするために全身全霊、日夜全力で取り組んでこられました。女性医師比率が半数を優に超える世代が50代に近づいてきた現在、国民からの産婦人科診療に対する期待に応えられるレベルの医療を、働き方改革法に沿いつつ全国で持続可能な形で展開することが必要です。そのためにこれまでの医療改革委員会をさらに進めてサステナブル(持続可能)医療体制確立委員会を置きました。若手委員会などの活発な活動を通じた若手新会員の確保とともに、医療体制の大幅かつ合理的な変革が急務です。

私たちは日本専門医機構に先駆けて厳格な専門医養成プログラムを実施しています。しかし、すでに十分優れた制度で養成されているサブスペシャリティー専門医については地域偏在を助長せぬよう地方でも養成できる体制が必要で、その運用負担とのバランスを考え慎重に対応したいと思います。一方で、診療科偏在・地域偏在の是正のために専門医制度を利用しようとする動きがあります。しかし、専攻医は優れたプログラムのもとで教育を受けるべきであり、偏在是正とは問題の次元が異なります。これらの偏在是正のためには経済的インセンティブによって診療科選択の誘導・自己完結力をもつレベルの医師の地域間の移動を促す方が合理的かつ永続的です。すべての女性の産婦人科へのアクセスを維持し、特に社会的・精神的な面も含めた妊産婦の包括的なケアを向上させながら働き方改革に合致し、かつ持続可能な地域産婦人科医療体制をとることができる医療モデルを学会として作成したいと考えます。そして、それをもとに特に地域住民との密接な関連が必要な自治体病院などの医療機関を統括する責務を負うことになった都道府県と向き合ってゆきたいと思います。

子供を産み、育てる、という行為は人間が連綿と続けてきた自然なものです。しかし、自然は残酷であり、自然のままでは多くの妊婦・新生児が命を落としました。そのために医科学が進歩し、我が国の妊娠・出産は世界で一番安全な水準になりました。特に妊娠出産に関しては自然に介入なしでも(多くの死を許容すれば)可能であるがゆえに様々な方が倫理的観点から色々なご意見をもたれる分野です。生殖医療のあり方、出生前診断などは時に大きな議論を巻き起こします。この議論はWHOなど国際機関の動きと全く異なる方向に向くこともあります。私たちはこれまでこれらの問題に対して専門家集団として科学的根拠をもとに対応をしてまいりました。今後もこのスタンスは一貫してもつべきだと考えます。また、医療提供に関する議論は医療・医学としての合理性を保ちつつ当事者である女性に一貫して寄り添うものでなければならないと考えます。HPVワクチンも社会的な関心をもたれている事案の一つです。日本でなされている行政的判断は国際標準からはかけ離れたものです。この問題の当事者は10年後、20年後の子宮頸がん患者さんであります。ワクチンに関する理解を広めると同時に、子宮頸がんスクリーニング(検診)のさらなる普及・あり方の検討を行い、10年後、20年後に子宮頸がんで苦しむ患者さんを一人でも少なくしていけるよう、責任ある発信・行動を引き続き取ってまいります。

産婦人科の特徴の一つとして、外科系でありながら同じ分野に対応する内科がなく、外科的治療から内科的治療まで一貫して行っていることがあります。今まで私費診療で行われる部分があったこととも相まって、産婦人科領域で重要な内科的治療・管理に対する診療報酬が低いと感じます。リプロダクティブ・ヘルスの概念を日本の女性にあまねく享受していただくためには産婦人科医による思春期からの長期間一貫した専門的管理が必要な疾患・病態がいくつもあり、これは身近な地域での管理が必要です。全国で、少なくとも外来診療へのアクセスのレベルを低下させず、将来にわたりサステナブルな医療体制とするためにはこの経済的問題も重要と考えます。
これら、学術の向上、働き方改革法に則ったサステナブルな産婦人科医療体制の確立、様々な新しい医療技術の導入とその正しい運用、などの諸問題の解決のためには日本産科婦人科学会の先生方はもとより、日本産婦人科医会、日本医師会、日本医学会連合をはじめとする様々な団体の諸先生方の連携・協力・ご理解をいただかねばなりません。また、一般社会のみなさまとの対話も重要だと考えます。この2年間、これらの問題解決のために浅学菲才の身でありますが、全力を尽くす所存です。どうか、会員諸兄姉のご指導・ご支援をよろしくお願い申し上げます。

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