公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成17年度第5回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月3日

平成17年度第5回倫理委員会議事録

日時:平成17年12月8日(火)18:00~21:00
場所:学会事務局 会議室
出席者:委員長:吉村泰典
      委員:安達知子、大川玲子、稲葉憲之(代 北澤正文)、齊藤英和、竹下俊行、栃木明人、
松岡幸一郎、宮崎亮一郎
      幹事:阪埜浩司、久具宏司、下平和久

1. 議事録確認
  平成17年度第4回倫理委員会議事録(案)につき、一部修正のうえ承認された。

2. 報告事項
(1) 11月分諸登録について
①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録
  申請5件〔審査 受理4件、返却1件〕:55研究
②体外受精・胚移植、およびGIFTの臨床実施に関する登録
  申請5件〔審査 受理3件、照会1件、返却1件〕:656施設
③ヒト胚および卵の凍結保存と移植に関する登録
  申請5件〔審査 受理1件、照会3件、返却1件〕:555施設
④パーコールを用いてのXY精子選別法の臨床実施に関する登録
  機関誌46巻8号(平成6年8月)において登録一時中止以来なし、17施設
⑤顕微授精の臨床実施に関する登録
  申請8件〔審査 受理4件、照会4件〕:390施設
⑥非配偶者人工授精の臨床実施に関する登録
  申請なし:22施設
(2) 会議開催
  平成17年度第7回登録・調査小委員会を11月29日(火)に開催した。
  平成17年度第2回遺伝カウンセリング小委員会を12月7日(水)に開催した。
  慶應義塾大学からの着床前診断に関する申請(7月21日受領)に対する審査小委員会を開催すべく日程調整を行っている。

3.  協議事項
(1) 慶應義塾大学から申請された4例の着床前診断に対する審査小委員会の答申書について
  吉村委員長「慶應義塾大学から4例の着床前診断の申請があり、審査小委員会において審議していただき、答申書を受領した。4例はすべてデュシェンヌ型筋ジストロフィーの症例である。3例が許可され、1例が非許可との結論になった。前回の倫理委員会の協議をへて、一部修正した。これを次回の理事会に提出し、諮りたい。もし、理事会で承認されれば、理事会後の記者会見で公表する。その際にはクライアントの個人情報の保護に十分配慮したい。」
  久具幹事「マスコミ用の答申は一部修正が必要である。」
  以上の説明ののち、本件は承認された。

(2) 遺伝カウンセリング小委員会の答申について
  吉村委員長「昨日開催された小委員会において、近年本会で問題となっていた遺伝カウンセリングに関して一応の決着をみた。答申にあるように、日本人類遺伝学会および日本遺伝カウンセリング学会において生殖医療に関する遺伝カウンセリングの講習プログラムを企画、実施していただき、参加者に聴講証を発行していただく。これをもとに届け出を受付け、生殖医療に関わる遺伝カウンセリング相談が可能な臨床遺伝専門医を本会倫理委員会で審査し、理事長名で認定するしくみを考えている。さらにはホームページ上で、産婦人科専門医かつ臨床遺伝専門医の名簿に生殖医療に関わる遺伝カウンセリング相談が可能であることを公表する。本案を次回理事会で諮りたい。」
  以上の説明ののち、本件は承認された。

(3) 本会会告の見直しについて
  吉村委員長「前回の倫理委員会において、会告の見直しについて議論していただいた。その意見をもとに一部修正させていただいた。現在、日本不妊学会の倫理委員会において事実婚の不妊カップルにおける体外受精の是非が議論されている。それによれば、日本不妊学会では事実婚の不妊カップルにおける本人同士の生殖細胞を用いた体外受精を認めるべきとの見解に達し、本会に会告の改定を要求する動きがある。本会と日本不妊学会は別の学会であるが、多くの会員は重複しており、社会的混乱を招きかねない。あまりに大きな解離は避けるべきである。」
  田中委員「本会との整合性がいずれ問題にされるかもしれない。」
  宮崎委員「事実婚の不妊カップルに体外受精を実施することで生じる法的問題について日本不妊学会はどのように考えているのか。」
  吉村委員長「事実婚の不妊カップルが体外受精をおこなうことを学会が果たして禁止できるのか。」
  松岡委員「禁止しても、容認しても責任を問われる可能性はある。むしろ違法性が疑われる部分に我々が介入した場合にトラブルに巻き込まれる可能性がある。現状では、法的に婚姻関係にあるカップルと事実婚カップルでは保護に差があり、嫡出子と非嫡出子においても法的に同等ではない。現行法上からは法的婚姻関係を求めることがむしろ正しい。事実婚をどのように、誰が認定するかも問題で、事実婚の不妊カップルにおける体外受精を認めるとかえって混乱する。」
  久具幹事「事実婚カップルであることを証明する方法がない。」
  安達委員「事実婚を容認する方向に社会は流れている。しかし、事実婚を正しく証明できないとすれば、本会が禁止している代理懐胎なども実施される危険がある。生まれた子と生んだ母親の保護を考えると事実婚を認めるのは難しい。」
  松岡委員「夫婦別姓の事実婚とは次元と異なる事実婚も容易に想像される。」
  大川委員「事実婚は大変あいまいである。」
  齊藤委員「難しい問題である。事実婚のカップルのなかにも体外受精を認めてあげたいカップルがいるのも事実である。」
  久具幹事「事実婚を容認すれば、学会が非嫡出子をつくることを薦めていることになる。これは問題だ。」
  竹下委員「婚姻関係にあるカップルに限定するべきである。会告のなかにこのような規定を記載しないというのもひとつの見識かもしれない。」
  松岡委員「日本不妊学会とは別法人なので、会としての結論が異なっても問題はない。」
  吉村委員長「委員の多くの意見は、現時点では、体外受精は婚姻関係にある不妊カップルに限るということのようだ。しかし、時代は事実婚を認める方向に動いており、非嫡出子と嫡出子が法的に平等となれば当然ながら事実婚カップルも認められるべきである。原則5年をめどに見直しをしていきたい。」
  久具幹事「日本不妊学会の見解の文章は、不明や疑問の点が多い。」
  吉村委員長「体外受精の実施に法的婚姻関係を要件とする国も珍しい。」
  久具幹事「事実婚という言葉はもともとなく、事実婚主義という言葉に由来するらしい。むしろ法理用語では内縁という言葉しかない。」
  松岡委員「事実婚の不妊カップルに対する体外受精は、現行法上問題となるケースもある。社会の価値観の中で見直せばよい。」
  引き続き、非配偶者間人工授精に関する見解の改定案について阪埜幹事が説明した。
  吉村委員長「このAIDの会告改定案は現行の会告より、さらに厳しいものとなっている。厚生労働省の通達に基づき、凍結精子を用いる事を明記した。」
  安達委員「TESEやMESAについては触れなくて良いのか。」
  吉村委員長「あえて触れていない。当然AIDを施行する前には実施されているはずである。今回の改定では無精子症のみならず、HIV感染の回避などにも応用可能な会告になっている。AIDは法律婚に当然限定されるべきである。」
  大川委員「同一提供者からの出生児は10名以内でなく、もっと制限されるべきではないか。」
  吉村委員長「これは統計学的に近親婚の確立を上昇させないとされる数である。」
  久具幹事「クライアントよりクライエントのほうが適切である。カルテは診療録に修正したほうがよい。」
  大川委員「提供者はクライエントに対し匿名とされているが、子の出自を知る権利を認めるべきではないのか。」
  吉村委員長「厚生科学審議会でも出自を知る権利を認める方向に決定した。しかし、法整備にはいたっておらず、現状で、出自を知る権利を持ち出すと社会的混乱を助長させる。法律が決まった段階で検討するべき問題だ。」
  栃木委員「より長期の保存とあるが、この期間は。」
  吉村委員長「国の案では80年である。慶應病院では20年保存している。」
  安達委員「AIDの施設登録申請用紙に顕微授精の実施の有無の項目は不要である。」
以上の議論を経て、会告の見直し案は一部修正の上、次回理事会にて協議されることとなった。

(4) 着床前診断の適応に関するWG答申について
  吉村委員長「12月1日付けで着床前診断の適応に関するWGより答申を受領した。」
  この着床前診断の適応に関するWG答申について久具幹事が説明した。
  大川委員「習慣流産の染色体転座保因者にPGDを行うメリット何か。」
  吉村委員長「流産を回避できるというメリットがある。」
  大川委員「繰り返しIVFを実施するストレスもあるのではないか。」
  吉村委員長「この答申では習慣流産の染色体転座保因者に対する治療法の一つとしてPGDがあるという意味で、PGDが極めて有効な方法という訳ではない。我々は積極的に薦めているわけではない。」
  松岡委員「習慣流産の染色体転座保因者にPGDを行うメリット、デメリットをわかりやすく記載するべきである。」
  竹下委員「習慣流産の患者のごくわずかしかPGDの適応とはならないだろう。」
  松岡委員「現在、本会は争廷中であり、あたかも本会が誤りを認めたかのごとく、原告側に利用させるのは問題である。よほど慎重にこの答申は取り扱うべきである。」
  吉村委員長「このWGとしては、習慣流産の染色体転座保因者に対するPGDを臨床研究として認め、治療の選択肢のひとつとして位置づけ、現行の会告を改定せず、重篤な遺伝性疾患の範囲内と解釈する方向で答申がなされている。」
  田中委員「裁判は大きな問題であるが、この答申はこの答申として重く受け止めるべきで、理事会に諮ればよいのではないか。」
  本答申の取り扱いについては公表の時期も含めて、倫理委員会では最終結論に至らず、次回理事会で審議することになった。

以上で第5回倫理委員会は終了となった。

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