公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成18年度第2回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月3日

平成18年度第2回倫理委員会議事録

日 時:平成18年12月7日(木)17:30~19:30
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」
出席者:委員長:吉村泰典
委 員:安達知子、稲葉憲之(代理:北澤正文)、大川玲子、亀井 清、
齊藤英和、竹下俊行、平原史樹
幹 事:阪埜浩司、内田聡子、久具宏司、高倉 聡

配布資料
【資料1】平成18年度第1回倫理委員会議事録(案)
【資料2】精子の凍結保存に関する見解(案)
【資料3】施設内倫理審査委員会の理想的構成および運営について
【資料4】着床前診断の実施に関する細則(改定案)
【資料5】日本人類遺伝学会ならびに日本遺伝カウンセリング学会からの出生前親子鑑定についての要望書
【資料6】出生前親子鑑定について会員へのお知らせ
【資料7】「先天異常の胎児診断、特に妊娠初期絨毛検査に関する見解」の見直しについての要望書
【資料8】着床前診断審査小委員会からの答申(新規)
【資料9】着床前診断審査小委員会からの答申(保留分)
【当日配布資料】日本産科婦人科学会遺伝カウンセリング小委員会通達事項

1. 議事録の確認
(1) 平成18年度第1回倫理委員会議事録(案)【資料1】
上記議事録(案)が示され、本委員会終了までに異論は出ず、原案通り承認した。

2. 報告事項
(1)11月分諸登録について
①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録
申請1件〔審査 返却1件〕:62研究
②体外受精・胚移植、およびGIFTの臨床実施に関する登録
申請3件〔審査 受理3件〕:661施設
③ヒト胚および卵の凍結保存と移植に関する登録
申請3件〔審査 受理3件〕:568施設
④顕微授精の臨床実施に関する登録
申請3件〔審査 照会2件、返却1件〕:417施設
(2)会議開催
①第8回登録・調査小委員会を11月27日に開催した。
(3)その他
① 理想的な倫理委員会のあり方について【資料3】(機関誌12号・学会HP掲載済み)

3.協議事項
(1)精子の凍結保存に関する見解について【資料2】
阪埜幹事が資料2を読み上げた。
吉村委員長:稲葉委員と大川委員より意見が寄せられた。稲葉委員からは同意文書の保管期間に関するものである。実際には精子が凍結保存されている期間に問題になることは殆どなく、それ以降に問題になる。いつまで同意文書を保管するかは難しい。
亀井委員:同意文書の保管期間に関して言及したものはあるのか。吉村委員長:AIDのみ厚生労働省で決まっていて、80年間保管することになっている。一般の病院では困難で、国の機関でしかできない。期間に関しては言及しないでよい。大川委員の意見を説明してください。
大川委員:未成年者の場合、成人に達した時点で本人に凍結保存の意思を確認することが必要でないか。
吉村委員長: 2番の文に「本人が未成年者の場合には本人および親権者の同意を得て」とあるが不十分か。
大川委員:「本人“および親権者”の同意」が必要なのは、本人だけでは不十分だからであり、未成年者の本人の意思ははっきりわからないということだ。
吉村委員長:本人あるいは親権者にすればよいか。
大川委員:いえ、未成年者の場合には親権者の同意が必要だと思う。だけど凍結保存されてきたことが必ずしも本人の意思かどうかはわからないわけだから、本人が成人になった場合には、改めて本人に凍結保存を継続する意思があるかどうか確認した方がよい。
安達委員:1に本人から廃棄の意思が表明された場合には廃棄されるとあるので充分では。
大川委員:精子が凍結保存されていることを親から伝えられて本人が知っていればそれでいい。しかし、小児癌などで子供の時に保存したような場合、成人した際にあなたの精子を保存してあるのだがこのまま保存を続けますか、ということを再確認しなくてよいか。
安達委員:インフォメーションという意味か。
久具幹事:大川委員の意見を盛り込むとすれば2番の文章に続けて、「なお、本人が成人に達した時点で改めて本人の意思を確認する必要がある」という文章を追加することになる。
吉村委員長:大事なことかもしれない。
久具幹事:つまり大川委員の意見は、本人が未成年の時に同意したものは本人が一人前の同意をしたわけではないという前提に基づいており、一人前でないから親権者の同意が必要なわけで、本人が成年になったからには一人前の人間になったのだから、成年となった時点でその同意を得るということですね。
吉村委員長:成人に達した時点で凍結保存の意思を確認するということでよいか。
安達委員:精子の場合、保存期間は生殖年齢を超えないとは言えず、死亡したかどうかは家族が連絡しない限りわからない。定期的に本人の意思を確認するのがよいのではないか。
竹下委員:多くの病院では1年ごとに凍結保存を継続するかどうか意思を確認して更新することにしている。
安達委員:運用は各施設に任せて、学会としては大枠を決めておけばよい。定期的に本人の意思を確認するということではいかがか。
大川委員:それは具体的な保存法であり、成人に達した時点で意思を確認するのとは違う。
吉村委員長:1番と2番はこの順でいいか? 2番を先にする方がいいでしょう。1で凍結保存、2で廃棄、3で売買を認めない。その後は。
久具幹事:安達委員の意見を聞いて思ったのだが、本人が死亡したかどうかは家族が連絡しなければわからない。使用する時に本人が生存していることを確認することを見解の中に入れる必要はないか。
吉村委員長:以前の議論の中で、これは保存に関する見解だから、使用に関することには触れなくていいということになった。
亀井委員:しかし問題になるのは使用の際である。
吉村委員長:ここで決めたのは本人が死亡した場合は廃棄する、ということで、使用する際のことには触れていない。本来は使用する際に本人の意思を確認することが必要である。
安達委員:ヒト胚を用いた研究の際に精子の入手をどうするか問題になることがある。もし凍結保存精子を廃棄する意思がでたときにこれを使用することは可能か。
亀井委員:DNA研究とか。
安達委員:本人が不妊治療には用いたくないが研究には使ってよいと考えることがあるかもしれない。
亀井委員:「不妊治療」といわずに「使用する」だけのほうがいいかもしれない。
北澤委員:廃棄という言葉はいかがか。生殖医学会で患者側が受精卵を廃棄するという言葉を非常に嫌がるので保存を中止するという言葉を使っているという発表があった。精子の場合はどうだろう。廃棄という言葉は適切な表現なのだろうか。
久具幹事:廃棄と中止は違う。廃棄は物を捨てることで、中止はある行為をやめることである。保存を中止しても物は残る。この場合物をなくすことが必要だから、少なくとも中止に置き換えることはできない。
吉村委員長:自分の意思で、自分のものを使ってくれるな、捨ててくれと言うわけだから、廃棄でよいと思う。
久具幹事:生殖医学会での発表の考えは、受精卵を全く人格のないものとして扱うことに異を唱えているのだと思う。受精卵に人格を認めるかどうかも議論となるが、ここではあくまでも精子の段階であるから廃棄でよいと思う。
吉村委員長:この場合は物をなくすということが大切になるので、廃棄でよいと思う。
齊藤委員:それにこれは会員に示すものであって、患者に示すものではない。施設が患者に説明するときにはかみくだいて話をすればよい。
以上の議論から資料2の精子の凍結保存に関する見解(案)の一部を修正して、1.精子の凍結保存を希望する者が成人の場合には、本人の同意に基づいて実施することができる。また未成年者の場合には、本人および親権者の同意を得て、精子の凍結保存を実施することができ、成人に達した時点で、凍結保存継続の意思を確認する。2.凍結保存精子を使用する場合には、その時点で本人の生存および意思を確認する。3.凍結精子は、本人から廃棄の意思が表明されるか、あるいは本人が死亡した場合、廃棄される。4.凍結保存精子の売買は・・・以下は原案通りとすることとした。

(2)着床前診断審査小委員会委員構成について【資料4】
阪埜幹事:会告集のP.1241、着床前診断の実施に関する細則の2に審査小委員会の規定が「本小委員会は、本会理事でかつ倫理委員3名、着床前診断に豊富な知識を有する本会会員で会長(現在は理事長)が委嘱する2名の計5名をもって構成する。(後略)」とある。人数も限定されており、「理事かつ倫理委員」が少ないため、最近の答申書の審査小委員会は厳密にはこの規定を満たしていない。正しい審査小委員会の構成員で審査されていないと言われると、それらの答申書は意味を成さなくなってしまう。細則は理事会決定で変更できるので、次回の理事会で変更したい。資料4に改定案を示した。論点は「5名」でなければならないのか、と、「理事かつ倫理委員」の縛りをはずしてよいか、の2点である。
吉村委員長:「程度」という言い方は気になる。この先、着床前診断の審査を日本産科婦人科学会だけでやっていくのはかなり大変で、審査委員を5人集めるのも大変である。
平原委員:同じ施設から同じような疾患の申請であれば審査を簡略化していけると思う。
吉村委員長:人数はどうか。
安達委員:人数に何も規定がなければ、2人ででも審査できてしまうことになる。
久具幹事:人数はある程度規定しないと、2人、或いは1人でも審査できてしまうのは困る。
平原委員:申請が増えて、審査に時間がかかり、実際に施設が待たされており、サービスとしては低下している。同様の施設からの同様の申請は、簡易審査とか書類審査のみとかを検討できないか。
吉村委員長:今もかなりそうしている。前もって書類を審査して、1回か2回集まれば結論が出るようにしている。それでも時間がかかり、申請者には迷惑をかけている。
平原委員:書類の回覧、持ち回りではいけないのか。
吉村委員長:審査が始まって1年少しなので、今はまだそういうわけにはいかない。そうすると数はある程度決めなければならないか。厚生労働省が出しているような倫理委員会に関しても人数は決められていない。女性2名以上としか決められていない。
大川委員:下限を決めて、何名以上とするのではどうか。
安達委員:4~6名とするのはどうか。
吉村委員長:大体4~6名くらいは出席できているが、症例が難しくなると、日本産科婦人科学会だけで審査するのは難しく、遺伝学に造詣の深い人を入れてもらわないと難しい。
安達委員:今も日本産科婦人科学会の会員ではない委員はいる。
吉村委員長:理事長が委嘱する着床前診断に豊富な知識を有する専門家として入ってもらっている。合計の人数だけを3名以上とか、3名から5名とかにするのはいかがか。
亀井委員:「原則として」という言葉があり、「理事長が委嘱する着床前診断に豊富な知識を有する専門家」が入れば、「なお、必要に応じて・・」以下の文言は必要ないのではないか。
久具幹事:「必要に応じて」以下は1件1件の症例ごとに必要な場合に臨時に委嘱するという意味である。
亀井委員:「原則として」とされていれば、含まれないか。
久具幹事:最初の文は常任の構成員を規定している。
安達委員:常任の委員? 小委員会は症例ごとに構成されるのではないか。
久具幹事:本小委員会を症例ごとに構成するとすれば、「必要に応じて」以降は要らない。
吉村委員長:現在は、同時期に複数例の申請があれば同じ委員で審査を行い、申請施設の関連者はその審査のみはずれている。「原則として」とあれば「専門家の計5名をもって構成される」でよいか。原則5名ならば、場合によっては4名でもよいことになる。
以上の議論より、「本小委員会は、原則として本会理事または倫理委員、および理事長が委嘱する着床前診断に豊富な知識を有する専門家をもって構成され、合計5名とする。委員の再任は妨げない」を改定案として理事会に諮ることとした。

(3)日本人類遺伝学会ならびに日本遺伝カウンセリング学会より、「出生前親子鑑定についての要望書」(11月21日受領)について【資料5・6】

吉村委員長:人類遺伝学会の理事長と倫理審議委員会委員長から要望書が届いている。出生前の親子鑑定を行う企業が、HPに「出生前であっても、母親のお腹の中にいる胎児のDNAを、羊水またはCVS(絨毛細胞)から取り出して、親子鑑定を行うことができます。羊水またはCVSサンプルを採取する病院は、原則、お客様でお探しいただきます。」と掲載している。患者さんが病院を自分で探して羊水穿刺すれば検体を調べますという意味で、さらに「病院を自分で探すことができなければ当方(企業)で探します」、とされている。どこかの病院と契約しているのかもしれない。「「出生前の親子鑑定」は「親子鑑定は医療でない」という考え方に基づけば、遺伝医学関連10学会の「遺伝学的検査に関するガイドライン」の対象外であり、また日本法医学会の「親子鑑定についての指針」でも想定されておりません。」ということである。
平原委員:経済産業省で審議にあがる予定なので、とにかく早く医学的サイドから話を進めて欲しい。商業ベース、つまり医学的生命倫理とは別のところで話が進んでおり、医学的なブレーキをきちんとかけたいので、という話である。日本産科婦人科医会は2回程前の常務理事会で議題になり、賛同するとの結論で、支部長通達を出し、日本人類遺伝学会へ賛同するとの返事を出した。
吉村委員長:どこの企業なのか御存知か?
平原委員:詳細は知らないが、外資系と聞いている。
吉村委員長:「東京23区内にご紹介できる病院がございます」とあるのは、
平原委員:誰かが組んでいるのかもしれない。
安達委員:契約している病院があるのかもしれない。
吉村委員長:日本人類遺伝学会からの要望としては、「法的措置の場合を除き、出生前親子鑑定など医療目的ではない遺伝子解析・検査のために、羊水穿刺など侵襲的医療行為を行わないように、貴学会員に通知すること」である。私は問題ないと思う。賛同するということでよいか。倫理委員長の名前で資料5、6の内容を学会HPに掲載することでよいか。
久具幹事:この要望は妥当であると思う。しかし、法律的に禁止されているわけではないし、需要はあるかもしれない。禁止するのはいいが、日本産科婦人科学会として禁止する確固たる根拠がどこにあるのか気になる。
平原委員:法的には何もない。
吉村委員長:遺伝学的検査に関するガイドラインにあったかと思う。
平原委員:「本ガイドラインの対象」で、「親子鑑定などの法医学的DNA検査は対象としない」とある。「法医学的な」という縛りをつけた親子鑑定は対象からはずしており、それ以外の親子鑑定に関してはここでは議論していない。人類遺伝学会の遺伝カウンセリングでは、親子鑑定は遺伝学的検査や遺伝カウンセリングの対象としないというのが人類遺伝学会でのコンセンサスになっている。しかし、現実にはこういう症例が産婦人科に来ている。
久具幹事:このガイドラインにも禁止する根拠がなく、では何を以って今回禁止するのですかと理由を聞かれたときには、倫理だからと言うしかないのか。
亀井委員:正にそうだと思う。商業的ベースでは取り扱わないというのは倫理である。
久具幹事:倫理だからと言うしかないのであれば、反発が出る可能性は高い。
吉村委員長:例えば、非配偶者間体外受精の際に出自を知る権利を認めないという立場にいても、父親の髪の毛を1本持ってきて検査したらわかってしまう。その際に前提となるのは我が国をそういうことを商業ベースで調べることを認めるような国にするのか、そういったものを禁止する国にするのかということである。突き詰めていくと、代理懐胎と同じく我々が学会で決定できるようなことではないということになってしまう。
亀井委員:これは侵襲的というところが問題なのではないか。
平原委員:普通の親子鑑定は、子供の口から頬粘膜をとって検査するので、侵襲はない。
吉村委員長:我々の立場としては、羊水穿刺という流産の可能性や母体にリスクがある医療的侵襲を加えてまで親子鑑定はしない、ということでよいのではないか。
安達委員:21トリソミーの検査をするついでに親子鑑定もしたいという場合はどうか。
吉村委員長:医療者としては21トリソミーの検査は可能だが、親子鑑定のDNA診断はできないと言うことが大事である。
亀井委員:21トリソミーの検査をした後の検体をください、と言ってくる可能性はある。
安達委員:患者が自分の体の中から検体として採ったものを用いてそういう検査をやって欲しいという場合、その意思をはねつけるというのは問題ないか。
平原委員:産婦人科医はそういう商業的なもののためには羊水検査をすべきでないという、日本産科婦人科学会としてのスタンスの問題を明確にすればいい。
吉村委員長:羊水検査は胎児に対しても母体に対してもリスクを与える検査であるから、羊水検査を親子鑑定のためにはしませんよ、というスタンスに日本産科婦人科学会は立つ。それでも検査に協力する人がいた場合には、これを阻止することは難しいだろう。出生前の親子鑑定をすることは患者の権利であるかどうか。我々は、これは患者の権利ではないと判断し、親子鑑定のための羊水穿刺に手を貸すことはできないというスタンスでいいと思う。これは明らかに医療ではない。我々は医療人である。
大川委員:誰が希望するのでしょうね。
平原委員:それは御主人でしょう。自分の子供かどうか。実際にかなり要望はある。
大川委員:レイプの場合はどうでしょう。
平原委員:それは法的な鑑定になる。裁判所の命令の場合はそれに従うことになる。
吉村委員長:倫理委員会としては、会員へのお知らせにしたい。
以上の議論を経て、資料5、6の内容を倫理委員長名で、会員へのお知らせという形でHPに掲載することとなった。

(4)京都大学大学院遺伝カウンセラー・コーディネートユニット 澤井英明助教授より、本会会告「先天異常の胎児診断、特に妊娠初期絨毛検査に関する見解」の見直しについての要望書(11月22日受領)について【資料7】

あらかじめガイドラインと整合性のある形で会告のたたき台を作って、次回(1月)の倫理委員会で討議することとなった。

(5)着床前診断審査小委員会からの答申について
①新規答申【資料8】
新規答申の名古屋市立大学からの1症例と慶應義塾大学からの1症例を検討し、疾患の重篤性、遺伝カウンセリング、申請施設の診断技術と倫理審査委員会に問題ないと判断し、誤字と一部の文言を訂正した上で、2申請を認可とした。
②第1回倫理委員会協議保留分【資料9】
続いて、第1回倫理委員会で保留となり、通信にて意見を聴取した11例について検討した。
吉村委員長:6-10のみが非承認になっているが、これを重篤でないとした根拠は何か。照会はしたのか。あるいは照会するまでもなく重篤でないと判断したのか。
内田幹事:この症例に関しては照会していない。申請内容の中で、結婚して挙児を得ていることから、現在の重篤であるという基準に当てはまらないという判断となった。
吉村委員長:齊藤委員から意見が出ているようだが。
齊藤委員:小委員会が重篤性を定義して審議を重ねて出た結論に意義をはさむことは何もない。ただ、現在の重篤という概念をいつまでそのままでいるのか、一度決めたものをいつどのように再検討していくのかというのが疑問の一点である。もう一点はこの症例を考えた場合、医学の進歩がなかった時代に生まれたものは診断技術がなく疾患の原因も予後もわからないまま結婚して子供を作っていきたいという少しの希望を持って生きてきた。今は、診断技術が進んで、あなたは何歳くらいでどうなるかはっきりわかるようになった。すると、結婚への責任や出生児の養育などの責任を真摯に考える人ほど、結婚はせず、挙児も希望しない人生を最初から選択する可能性もある。このようにQOLの低下した人生は「重篤」の概念からはずれるものかもしれない。しかし、着床前診断の技術があるのならば、「重篤」の概念をもう少し広げ、医学の進歩がもたらした恩恵をこのような状況の症例にも広げてこういう人たちにも着床前診断してもよいのではないかと考える。しばらくは無理と思うが、「重篤」の概念をいつ再検討するのだろうかと思った次第である。
吉村委員長:この症例だけが重篤でないとされ、非承認になっているので、理事会や記者会見で質問を受ける可能性がある。 37歳での死亡が重篤でないという判断なのか。
久具幹事:小委員会での議論は、成年に達するまでの状況が申請書ではあまり詳しく書かれておらず、書かれているのは11歳で歩行障害があったということだけである。その後は結婚し挙児を得た後に入院となり、呼吸管理を必要とし2年後の37歳で死亡した。つまり35歳のちょっと前に結婚し挙児を得たと推測され、30歳過ぎくらいまでは、書かれてはいないが、結婚して挙児を得ることができる生活であった。これを重篤と言っていいのか、これまで審査してきた症例と比較すると、重篤とは言えないだろう、という議論であった。
吉村委員長: 35歳頃に結婚して挙児を得た頃の状況がよくわからない、ということか。
久具幹事:よくわからないのだけれど、少なくとも結婚して挙児を得たという事実があるのだから、今まで小委員会で検討してきた症例と比べると重篤性に関してははるかに低いとの判断である。
吉村委員長:これまですべて承認されてきて、この症例が初めて非承認であるからには、その辺はよく議論されたと思う。これを通知したときに申請者が重篤性についてもう少し詳しく言ってきたら、再検討すればよい。一例くらい拒否することがあってもいいと思う。
以上の議論を経て、11例中10例を認可、1例を非承認とした。
以上、①新規答申と②前回保留分を併せて、13症例中12症例を認可、1例を非承認とした。

(6)その他
①日本産科婦人科学会遺伝カウンセリング小委員会【当日配布資料】
まず平原委員より、資料の2ページ目に基づいてこれまでの経緯が説明された。
平原委員:以前より議論されてきたことだが、吉村委員長になった倫理委員会で再度議論して、生殖医療に携われ遺伝カウンセリングを担当する人たちがいることを学会のサービスの一環としてアナウンスする形にすることとなった。1ページ目の通達事項が最終的な案である。「生殖補助医療(ART)領域の臨床遺伝学的諸問題に対応する担当臨床遺伝専門医を、下記の条件に該当する者により設け、その情報を公示することができる。」要するにARTの遺伝学的問題に関してカウンセリングできる遺伝専門医の存在を学会のHPなどで情報提供する。その専門医の条件を1~3とし、手続き方法が4に記載されているが、実際の運用に当たって、担当する部門が必要である。一つは臨床遺伝専門医制度委員会の中で担当部門を設置することが承認された。もう一つ、日本産科婦人科学会の中で担当する部署をどこにするかが実務的な問題として残った。今の流れでは、倫理委員会で諮ってこの通達事項に承認を得てHPに示すのが妥当かと思う。日本産婦人科医会もすでに臨床遺伝専門医と産婦人科専門医のリストを載せている。臨床遺伝専門医制度委員会の実務担当部門は小生(平原委員)が担当することになったので、兼任してもよい。あとは学会の方で誰か窓口になる事務部門だけ担当を決めていただきたい。ただ、遺伝関係の学会の中の遺伝専門医の委員会である臨床遺伝専門医制度委員会と、日本産科婦人科学会とが相互の乗り入れた形の資格の公示なので、臨床遺伝専門医制度委員会の方にも同様の遺伝専門医のリストがあり、そこにもこれらの人は臨床遺伝専門医でかつARTの遺伝学的問題の相談を受けますよということを公示することに承認を得たい。場合によっては小児科医など必ずしも産婦人科医だけではないがそれでよいかを伺って、申請書等の準備に入りたい。
吉村委員長:これは、社会的にカウンセリングのニーズがあって始まった。人類遺伝学会の中で生殖の部門を作っていただくなどの案もあったが、結果的にこのようにまとまった。少し気になるのは、通達事項3の(1)の講習会を受けた人はすべて認めるのか。
平原委員:そういうことにした。講習会を受けて、かつ本人にそういう受け皿になる意思表示があれば申請をしてもらう。
吉村委員長:遺伝カウンセリング学会や人類遺伝学会の心遣いである。
安達委員:これは標榜できるのか?
竹下委員:名前は「生殖補助医療(ART)領域の臨床遺伝学的諸問題に対応する担当臨床遺伝専門医」となるのか。
平原委員:最初は標榜する予定で修了証を渡していた。2001年4月の日本産科婦人科総会で「生殖・遺伝カウンセリング制度」というのを設け、「生殖・遺伝カウンセラー」と名づけると承認され議事録にも載っているが、その後話が変遷している。
安達委員:標榜することはできない?
平原委員:そういうところでアプルーブされている人であるとはいえるが、何かの資格として標榜することはできない。
亀井委員:日本専門医認定制機構が認めるところの専門医として広告表示できるということにはならないのか。
安達委員:「生殖遺伝専門医」とかそういう言葉ではいけないのか。
平原委員:一時期そういう議論があったが、差し障りがあるようだ。
安達委員:結局表示していいのは何か。産婦人科専門医で臨床遺伝専門医ということか。
吉村委員長:そうだ。ただ、臨床遺伝専門医の名前を産婦人科で知っておくことの利点は、着床前診断のときに臨床遺伝専門医のカウンセリングが必要なので、その際に役立つ。
平原委員:HPをみれば誰にカウンセリングを受ければよいか、簡単にわかるようになる。
吉村委員長:学会としては広告、アドバタイズできるようになる。
亀井委員:それは大きい。
平原委員:臨床遺伝専門医の名簿も、今は名前が並んでいるだけである。これを契機に、それぞれが何を得意とし、どういうことの受け皿となるのか、わかるようにしようと考えている。
吉村委員長:臨床遺伝専門医を何らかの形で日本産科婦人科学会のHP上で出す方向で落ち着いたことになる。日本産科婦人科学会での事務担当は誰がいいか。倫理委員会を担当している増野さんでよいか。臨床遺伝専門医の名簿はあるのか。
平原委員:ベースになるデータは小生が持っている。これをHPに出してもらえばよい。
吉村委員長:生殖医療に関わるカウンセリングができる人たちはこういう方たちであるという紹介である。これは理事会に諮る必要がある。よければ今度の12月16日の理事会に諮りたい。
久具幹事:通達事項の4番は下記の条件とはいえないので、体裁を整える必要がある。
以上の議論を以って、資料の通達事項を一部訂正し、理事会に諮ることとなった。

 

以上

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