公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成18年度第3回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月3日

平成18年度第3回倫理委員会議事録

日時:平成19年1月11日(木)17:30~19:30
場所:日本産科婦人科学会事務局 会議室
出席者:委員長:吉村泰典
             委員:安達知子、稲葉憲之、大川玲子、亀井 清、齊籐英和、竹下俊行、平原史樹、
松岡幸一郎、宮崎亮一郎
             幹事:阪埜浩司、内田聡子、久具宏司、澤 倫太郎、高倉 聡

 

1.議事録確認
    平成18年度第2回倫理委員会議事録(案)につき、一部個人情報に配慮する形式で公開することに決定した。

2.報告事項
    吉村委員長より以下の事項が報告された。
    (1)12月分諸登録について
      ① ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録
        申請2件〔審査 受理1件、照会1件〕:63研究
      ② 体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録
        申請1件〔審査 照会 1件〕:661施設
      ③ ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録
        申請5件〔審査 受理1件、照会4件〕:569施設
      ④ 顕微授精に関する登録
        申請5件〔審査 受理1件、照会4件〕:418施設

   (2)会議開催
      ①第9回登録・調査小委員会を12月21日に開催した。

3. 協議事項
    (1)精子の凍結保存に関する見解案について
      吉村委員長「前回の理事会における承認を経て、現在、委員会提案として会員からの意見を聴取している。」
      阪埜幹事「理事会後の記者会見において、この見解は非配偶者間人工受精を含むのかという質問や売買についての質問がなされた。本会ではAIDに関しては既に見解を改定し、営利目的の精子提供は禁止している。」
      吉村委員長「未成年や夫婦になっていない人の精子凍結保存もあり得る。」
      久具幹事「この見解案は夫婦間の使用に限定しているわけでなく、凍結保存精子の売買を認めないという記載があって違和感はない。AIDに関しては別の見解がある。」
      吉村委員長「AIDを含めないことを明記したほうが良いか。」
      竹下委員「あえて記載しなくてもいいのではないか。」
      松岡委員「AIDに関しては、別の見解があるので明記は必要ない。」

     以上の議論を経て、この精子の凍結保存に関する見解案にはAIDは含まれない事を確認した。

    (2)会員からの問い合わせについて
      吉村委員長「男性から女性への性転換手術を希望されている性同一性障害の方から精子凍結保存の相談を受けたという会員から問い合わせがきている。」
      松岡委員「女性になりたいという患者なわけですね。」
      大川委員「性同一性障害で戸籍を変更する場合は、生殖能力がないことが前提のはずだ。」
      松岡委員「自分の精子の凍結保存を希望するということは、性同一性障害ではないということではないか。」
      吉村委員長「このような方は精子の凍結保存の対象とは思えない。原則的に性同一性障害の方が精子の凍結保存を希望するとは思えない。」

      以上の議論をふまえ、本会会員にその旨、返事することを確認した。

    (3)出生前検査及び診断に関する見解案について
      吉村委員長「前回の倫理委員会での議論をふまえ、平原委員に本会の先天異常の胎児診断、特に妊娠初期絨毛検査に関する見解の改定をお願いし、原案を作成して頂いた。」
      平原委員「本会の見解は昭和63年に制定されているが、現在の遺伝関連学会の遺伝学的検査に関するガイドラインとの間に不整合もあり、見直した。」
      平原委員および阪埜幹事より改定案の全文が紹介された。
      吉村委員長「大幅に改定して頂いた。この見解案のあとに遺伝学検査に関するガイドラインをつけるべきかも検討したほうがよい。」
      平原委員「10ページ以上もある。」
      竹下委員「出生前検査という言葉は一般的であるか。」
      平原委員「遺伝学的検査に関するガイドラインにはそのように記載がある。」
      久具幹事「出生前検査という言葉は違和感がある。検査を受けるのは母体であり、診断は胎児である。あくまで出生前は胎児である。出生前に行われる検査及び診断という表現が適切ではないか。」
      稲葉委員「その表現のほうが適切ではないか。」
      吉村委員長「検査の実施は臨床遺伝専門医の指導のもとに限定しなくて良いか。」
      平原委員「実施する医師なので、そこまで限定しなくてよいと思う。」
      大川委員「検査の副作用という表現はおかしい。」
      吉村委員長「合併症のほうがふさわしい。」
      阪埜幹事「着床前診断については別に臨床研究として本会の見解があるが、この出生前診断に関する見解に着床前診断に関する事項を入れたほうがよいか。」
      平原委員「広い意味の出生前診断には着床前診断も含まれるものと理解している。」
      吉村委員長「そういう考え方もある。」
      安達委員「近い将来、臨床になるのは時間の問題だ。」
      平原委員「我々は臨床研究といっているが、受ける患者さんたちは研究という認識をすでに越えている。」
      松岡委員「着床前診断についても記載しておく方がよい。」
      吉村委員長「出生前親子鑑定については本会のお知らせの内容を記載してはどうか。」
      久具幹事「染色体異常症という言葉は正しいのか。」
      平原委員「これはこれでよいのではないか。疾患として治療の対象となるという意味を含めての用語である。」
      吉村委員長「医療的介入が必要なものを症とするという考え方でいいのではないか。」
      大川委員「検査をしなければならないような圧力が加わらないだろうか。」
      安達委員「あくまで選択の一つという意味である。」
      稲葉委員「夫婦が希望する場合と記載されている。」
      平原委員「さらに十分なカウンセリングの後にと規定されている。」

      以上の議論に基づいて、本見解案を一部修正のうえ通信で再度、各委員の意見を聴取することになった。さらに人類遺伝学会の意見を伺う方向で調整することになった。

    (4)着床前診断審査につき現況報告
      吉村委員長「現在審査中のものが9件ある。次回の倫理委員会には審査小委員会の答申が提出されるかもしれない。」

    (5)AIDの適応について
      吉村委員長「本会会員より男性に性転換された性同一性障害の方のAIDに対する問い合わせがあった。戸籍上も男性であり、本会の非配偶者間人工受精の見解に抵触しないと考える。」

      本件は会告に抵触しないことを確認し、返答することを承認した。

    (6)代理懐胎について
      阪埜幹事「久具幹事とともに民主党の勉強会に出席し、本会の代理懐胎の会告の内容、制定の経緯についてお話してきた。その後、民主党の生殖医療に関する論点整理チームが中間報告をまとめたとの報道があった。その内容は、代理懐胎を限定的に容認するものであるが、無償、第三者、限定的医療施設での実施というかなり厳しい条件下での容認という立場であり、現実的には実施は不可能ともいえるものだ。」
      吉村委員長「非現実的案だ。全く無償という訳にはいかない。今後、日本学術会議でこの代理懐胎を中心とした生殖補助医療のあり方を検討することになっており、本会から私と久具幹事が出席する。厚生科学審議会の報告書では刑事罰をもって禁止するという扱いになっている。国民のコンセンサスを得るということの方がはるかに重要だ。」
      澤幹事「日弁連は学術会議には委員として出ないのか。」
      吉村委員長「日弁連は入っていない。」
      久具幹事「厚生科学審議会の審議はこの学術会議でも尊重されるのか。」
      吉村委員長「時代の変化もあり、この学術会議についてはあまり関係がない考えたほうが良いだろう。現時点での議論である。」
      松岡委員「学会の代表という立場ではないにしろ、吉村委員長や荒木監事も出席されていた。さらに、本会の総意として代理懐胎の見解を制定している。学術会議も個人として出席されるのはわかるが、現職の倫理委員長でもあり、その経緯は十分理解して発言をされるべきである。日弁連も立場を全く変えていない。学会の立場は大変重い。」
      澤幹事「当時、日本医師会の立場で出席していたが、代理懐胎を認めるという意見はほとんどなかったと記憶している。特に、小児科の先生方が児の立場から大変強く反対していた。」
      吉村委員長「母親による代理懐胎は医学的には論外だ。姉妹間をどうするかについては議論になるのかもしれない。今後、また倫理委員会委員の先生方の意見を聞くこともあると思うが、その節はよろしくお願いしたい。」
      安達委員「親族間では圧力が加わり、自由な意志による選択が保障されない。」
      稲葉委員「移植医療と同様な問題が生じる。」
      竹下委員「医学的なアログラフトの妊娠の危険性に軸をおいた主張を本会はするべきではないか。」
      吉村委員長「50歳以上の女性による代理出産のデータは世界的にもほとんど存在しない。」

    (7)大阪府医師会「多胎妊娠防止のための胚移植数に関する提言」について
吉村委員長「大阪府医師会から多胎妊娠防止のために可能な限り単一胚移植を実施
するという提言がだされた。日本生殖医学会でも検討している。日本生殖医学会の結論を待って総合的に議論したい。本会の見解の改定も視野に入れて検討したい。」

      以上の方向性を承認した。

    (8)A-PARTによる臨床研究の申請について
      吉村委員長「A-PARTに所属する9施設の共同研究という形で複数施設における悪性腫瘍未婚女性における卵子採取、ならびに凍結保存の申請がきており、現在登録調査小委員会で3回ほど照会をして検討している。先日報道では聖路加病院でも卵巣凍結の臨床研究の報道がなされたがこの件についてはまだ申請がきていない。このA-PARTの臨床研究の取り扱いについて協議したい。通常の研究申請は登録調査小委員会で受領し、登録され、定期的な報告を義務づけている。」
      松岡委員「他の研究申請と同様な扱いでよい。」
      吉村委員長「このような事を報告もせずに行うよりは、正しい手続きで行ってもらうほうがよい事態ではないか。」
      稲葉委員「一応、常務理事会で取り扱いを確認してはどうか。」

     以上の議論より、倫理委員会としては、他の臨床研究と同様に登録・調査小委員会での登録という取り扱いでよいとの結論に達した。この方向性を、次回常務理事会で確認することとなった。

 

     以上で第3回倫理委員会は終了となった。

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