公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成19年度第3回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月3日

平成19年度第3回倫理委員会議事録

日    時:平成19年9月5日(木)18:00~20:00
場    所:日本産科婦人科学会事務局会議室
出 席 者:
理 事 長:吉村  泰典
倫 理 委 員 長:星合  昊
委    員:安達 知子、大川 玲子、久具 宏司、五味淵 秀人、齊藤 英和、澤 倫太郎、白須 和裕、
竹下 俊行、田中 俊誠、阪埜 浩司、増山  寿、矢野  哲、渡部  洋

資 料:

1.平成19年度第1回倫理委員会議事録(案)
2.根津問題・JISARTについての倫理委員会委員からの意見まとめ
3.根津問題について新聞記事、長野地方部会長宛事実確認依頼ならびにそれに対する根津会員からの照会文など
4.JISARTからの文書
5.京野アートクリニックからの申請依頼文書
6.日本臨床エンブリオロジスト学会からの文書
7.倫理関係新聞記事
8.登録・調査小委員会報告

番号なし  倫理的に注意すべき事項に関する見解

  星合委員長より挨拶があり、委員会が開始された。
   吉村理事長より挨拶があった。

1.議事録確認

   平成19年度第1回倫理委員会議事録(案)につき、特に異議なく承認され、議事録とした。

2.報告事項

   齊藤登録調査小委員会委員長より、以下の諸報告がなされた。
   【8月】

①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録
申請なし:67研究
②体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録
申請7件〔審査 受理 3件、照会 4件〕:596施設
③ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録
申請15件〔審査 受理 9件、照会 5件、返却 1件〕:590施設
④顕微授精に関する登録
申請12件〔審査 受理 7件、照会 5件〕:453施設
⑤非配偶者間人工授精に関する登録
申請なし:16施設

  さらに資料8についての説明がなされた。
   ARTオンライン登録状況については、本年度から個票での登録を各施設にお願いしているところであるが、5月頃に理事長と登録調査小委員会名でのお願い文をホームページに掲載したところ、6月から登録数が増えた。年間登録数が約14万件であることを考えると、6月以降はかなりの部分が登録されるようになったとみてよいのではないか。しかし、一括登録を希望する施設があり、もし各自治体が症例番号なしでも助成金申請を受け付けるとする、すなわち施設側からみると一括登録でも可能である、ということになると、個々の登録は遅れるようになるかもしれない、との説明がなされた。
   吉村理事長より、この件については、自治体が症例を一括登録でなく個票により個々に登録することを、厚生労働省から各自治体に対して指導するよう、小委員会委員長が厚生労働省に依頼すればよいと考えられる、との意見が示された。
   星合委員長により、厚生労働省に依頼するか否かについて検討するようまとめられた。

  星合委員長より、会議開催について報告があった。

3.協議事項

   星合委員長より、根津問題とJISART問題について一度通信で各委員の意見を聴取してあるが、今一度この場で各自の意見を聞きたい旨提案があった。
   以下順に
   星合委員長:根津問題について、各委員の意見に共通するものとして、事実確認はまず必要であろうということであった。資料3にあるように事実確認をしたところ、先方より逆質問がなされ、それに対してこちらから回答したという段階である。したがって現在事実確認の手続き中ということになる。正確な返答がない場合、法律的には(回答を)しているとみなしてよいということになっている。次に各委員の意見の共通していない部分としては、まず、卵子や精子の提供に関して学術会議で検討がなされており、前回彼を除名した時と状況が変わってきているので、その結論を待とう、という意見、それともう一方には、彼は常習で確信犯である、また裁判の和解条項を破っており、もう学会で待ちましょうという段階ではない、という意見、この2つに大別できる。
   矢野委員:根津医師も学会の会員であるのだから、症例の報告をしてもらうべきであり、ヤミに葬るべきではない。学会で検証委員会のようなものを立ち上げてはどうか。
   田中委員:根津医師の回答書の中で、自分のほかに「水面下」で同じことが行われており証拠もある、と述べているが、これが事実なら、根津医師だけを取り上げるのはいかがなものかという、気がする。はたしてこの点に関しての事実確認はどうなっているのか。
   星合委員長:われわれのところに直接知らされたことではないので、事実確認は行っていない。
   矢野委員:現時点でこの事実確認は必要ないと考える。
   星合委員長:うわさレベルでは同様の処置が行われているということを耳にすることはある。
   田中委員:もしこの水面下での同様の手技が事実なら、根津医師だけを問題にするのは法の下で平等でないのではないか、何か水が漏れているのではないかという気もする。
   白須委員:学会は捜査機関ではないので、捜査はできない。しかし、もし根津医師がほかの事案を証拠を挙げて公にしたら、確認せざるを得なくなる。
   星合委員長:すでにそのような趣旨で、報道されたら(学会として)確認する、と根津医師に対して回答している。
   澤委員:前回除名になった時は、学会としてやめるように言ったにもかかわらず、今後も続ける趣旨の発言をし、確信犯的であったので、処分となった。登録調査小委員会でも細かくいえば、学会の取り決めに反している例も見受けられるが、照会することにより全ての例で改善する旨の回答が得られるので、それ以上の問題とはならない。裁判所の判断では、法がない状況では、専門団体の取り決めは守るべきものだということになっている。
   竹下委員:根津医師が学会員をやめずにこのように繰り返すことに腹立たしささえ感じる。また、学問的には興味を覚える部分もある。特に近親者の卵子提供などは貴重な例であり、解析すると興味深いデータが出ることも考えられ、学術団体としては、このような点も考慮してよいのではないか。
   大川委員:やはり学会のルールであるので、守るべきであると考える。会告が24年も変えられていないことを挙げているが、変わっていなくともルールとしては生きているので、守ることは必要である。
   星合委員長:24年変わっていないというが、前の期の倫理委員会で、会告のかなり大幅な見直しが行われておりこの根津医師の主張は当たらない。
   安達委員:新聞報道だけでは不十分なのでやはり確認は大切である。学会も卵子提供などについて真剣に考えるべきであるが、現在は、現在あるガイドラインを遵守する以外ないと考える。根津医師の行ったことはガイドラインに反しているのであり、守るよう言うしかない。ただ、根津医師は自分が先に行って学会は後からついてくる、と考えているようだ。
   星合委員長:学術会議の結論を待つ、ということでよいか。
   安達委員:結局そういうことになる。
   久具委員:資料2に私の意見として書いてあるとおり、卵子提供は現在の日産婦の見解には何も規定がないものと考えられる。体外受精胚移植についての見解に記載してある、被実施者は婚姻しており…というくだりは、卵子提供を禁止する条項ではなく、体外受精の依頼者に関する見解として規定してあるものと考えられる。したがって、JISART報道に際して、現在日産婦学会は卵子提供に関する規定を定めていないというコメントを出したのである。したがって、根津医師に対して卵子提供を行ったことに対して処分を行うとなるとその根拠がないことになってしまう。ただし、約10年前の除名処分とどう整合性をとるか、という点が問題となる。
   星合委員長:JISART問題とも関連するが、根津医師は非配偶者間体外受精を行ったと報道されているわけであり、卵子提供とか精子提供ということは言っていない。日産婦としては事実婚の体外受精を理事会確認事項で認めているわけであり、そうすると配偶子の提供のない「非配偶者間体外受精」というものは存在するのか。
   久具委員:それは、「非配偶者間体外受精」というのは、事実婚を含めた、法律婚でないカップルに対する体外受精ということになる。そして、この行為は現日産婦見解では認めていない。理事会確認文書では、たとえ事実婚カップルに対して体外受精を行ったとしても、大目にみると言っているだけであり、見解としては認めないということになっている。
   吉村理事長:根津医師のいう「非配偶者間体外受精」というのは卵子提供のことである。
   星合委員長:この「非配偶者間体外受精」は見解で禁止されている、ということである。
   久具委員:いや、そうではなくて、学会で禁止しているのは、婚姻していないカップルに体外受精を行うことを認めないとする文言があるのであって、これは依頼者が婚姻していることとする文言によって規定されている。卵子提供の可否を定める文言ではないと考える。
   星合委員長:メディアが納得する説明であるか否かということが問題である。
   久具委員:しかし、すでにJISART報道に際し、「卵子提供について学会は規定をもたない」というコメントをメディアに向けて発している。
   吉村理事長:「非配偶者間体外受精」という言葉は、体外受精が行われ始めた頃に使われた言葉であって、正しいとはいえない。「卵子提供」「精子提供」という言葉が使われるべきであり、現在ほとんどの場でそのように使用されている。厚生労働省もそのようにしている。「非配偶者間体外受精」という言葉はわれわれが当初、配偶者間での体外受精に対するものとして非配偶者に対して行う体外受精という意味で使っていたのである。「卵子提供」や「精子提供」のことについて「非配偶者間体外受精」という言葉を使っているのは、おそらくメディアの一部と根津医師だけであろう。
   久具委員:卵子提供についても精子提供体外受精についても日産婦見解としては規定がないので、今の見解のままでは解釈の抜け道があるということもいえるわけである。
   安達委員:精子提供体外受精については、以前日産婦の倫理審議会で検討したのではなかったか。
   吉村理事長:検討した。卵子提供についても検討した。
   久具委員:しかし、見解または会告という形になってない以上、処分を下す根拠にするには慎重とならざるを得ないのではないか。
   安達委員:非配偶者間については、当分の間AID以外は認めない、という通達があったと思うが、その通達がまだ生きていると考えられるのではないか。
   吉村理事長:たしかにあった。
   星合委員長:厚生労働省のスタンスということか。
   安達委員:それに対して医会も、会員に周知させたと思う。
   星合委員長:次に齊藤先生どうぞ。
   齊藤委員:私も事実関係を確認することがまず大切だと思う。そのうえで、学会として何かコメントを出す必要があると思う。そのコメントの中で学問的な問題点もあることに言及し、根津医師も会員なので、会員としての自重を求めることが必要と考える。また、彼が会員であることを考えると、どのようなことを行いどんな問題があったのかなど、この場に来て話をしてもらってもよいのではないか。
   星合委員長:他人の卵が着床することに関する産科的問題点だけでなく、その後の親子関係がどうなるかなどの倫理的問題点についても倫理委員会では議論すべきではないかと個人的には考える。
   渡部委員:体外受精の歴史についてはあまり詳しくは知らないが、単純に考えて、会員であれば会則を守るというのは当然のことであり、注意をしても会告を無視するのであれば、会員としての資格はないと思う。違反することであってもやっているうちに認められるということを他の会員に知らしめてしまうことになるのは問題である。ARTの施設登録についても、基準を満たさない申請を出してきた施設の医師を小委員会に呼んで話を聞いたことがあったが、会員皆で守ることを目的として作った規則だから守れないのであれば(会を)去ってください、という姿勢で臨んだら、実態との遊離があっても規則に従います、との回答が得られた。今回も同様の態度で臨めばよいと思う。
   五味淵委員:2003年の和解条項に会告を守ります、という項目があるのだから、そのうえで会告を守らない場合に議論の余地はないと思う。JISARTに関しては、スタートしてよいというシグナルがまだ鳴らされていない状況であるので、もう少し待つよう求めればよいと思う。
   増山委員:倫理的な面と学術的な面がある。この問題の学術的な面についての検討は全然なされていないので、そのような場を設けてあげることも必要ではないか。しかし、倫理的な面からみると、報道されていることが事実であって、それが会告に違反することが確実なのであれば、「会告違反」としてきちんとした対応を取ることが必要と考える。JISARTについて、まだ結論の得られていない案件には待ってもらうのが適当である。しかし学会としてもできるだけ早く何らかの結論を出すよう努力することが必要である。
   星合委員長:JISARTの問題に対する学会のスタンスは、既に声明として発せられているとおり、学術会議で結論が出るまでは待とう、ということである。それまでに何かできるのか、ということである。もしそれまでに行われた場合に会告違反として処分するのかどうか、ということである。JISARTについては、これから行いたいということであり、まだ行っていないのであるから、待ってくださいという余地がある。しかし、根津医師の場合は既にやっちゃったということですから、両者の対応は全く異なることになると思われる。
   白須委員:根津医師については、前回の(除名処分の)こともあるし、復帰の条件のこともあるので、うやむやにしておくことは、前回のは何だったんだということにもなり、望ましくない。ただ、厚生科学審議会で条件付きながら配偶子の提供を認めるようなことになり、取り巻く状況が幾分変化してきているので、除名にまでするのかという処分の内容についてはなお議論が必要であろう。JISARTについては、過渡期の問題なのですが、学術会議の結論を待つといっても、結論が出るかどうかわからないという話もあるようであるし、どうなるかわからないが、これまでの学会の考え方が残っているわけだから、やはり慎重にしてください、というべきである。卵子提供が会告に違反するのか否かということについては、体外受精の会告は、夫婦の間のオーソドックスな体外受精だけを認めそれ以外は認めないという趣旨とみるべきであろうから、この会告の内容が現在適切なものであるか否かは検討の余地はあるが、現在の会告には違反することとなるであろう。確かに卵子提供とか精子提供という文言がなく、それを明確に禁止しているわけではないが、やはり現在の会告の趣旨はそこにあるのであろう。
   田中委員:根津対産科婦人科学会の関係は、朝青龍対相撲協会の関係に似ている。相撲協会がだんだん朝青龍の態度を容認して後退してきている印象が必ずしも相撲協会にとってよくない方向に進んでいるようだ。同様に産科婦人科学会も根津医師に対してそれなりのけじめというか、確信犯である彼に対して何ら罰を与えることなく容認していけば、相撲協会と同じように乱れるのではないか、ということを恐れる。ただ、どういうふうにして彼に対して罰を与えるのかについてはにわかに考えを思いつかない。JISARTについては、6ヵ月以内に回答をほしいなど傲慢である。6ヵ月以内に回答がない場合は彼らは「go」なのでしょう。この態度は容認できない。現在国が審議していることはわかっているのだから、当然待つという態度を示すべきである。
   阪埜委員:根津医師については、よく会告を熟知しておられるようで、今回のことは会告違反にはあたらないと思う。提供卵子精子についての会告はないわけであるから。
   星合委員長:根津医師は非配偶者間体外受精を行ったと発表したのである。Egg donationと言ったわけではなく、そう言ったのはJISARTの方である。
   阪埜委員:実際に根津医師が行ったことはegg donationですね。それは、(旧会告の)解説部分が削除された現在の会告では違反にはならない、と考えられる。唯一会告違反があるとすれば、姉妹間の卵子提供で凍結した卵子を別の女性に戻したという行為である。その点以外は、会告違反にはならないと思う。また、厚生科学審議会や日産婦の倫理審議会でも卵子提供は匿名の第三者からならよいのではないかというところまでいった経緯があるので、卵子提供の行為がきわめて非倫理的であるかというと、それも甚だ疑問があるわけである。少なくとも規則が整備されるまではAID以外の配偶子提供は行わないでください、という厚生労働省通達があるので、それに基づいて、やらないでくださいよ、ということしかできない。1998年の除名処分は、会告の解説部分に記載してあった、夫婦間の精子と卵子を用いて体外受精を行うことという記述に違反したことが理由になったものだと考えられる。その解説部分は会告見直しで削除されたのであり、現在の会告の文章からだけでは違反とすることはできないと思う。JISARTに関しては、そもそもこれが臨床であるのか研究であるのか疑問、また国も現在匿名の第三者からのみ認めるという考え方を示しているのであり、それを超えたことを行うのに6ヵ月間で認めろというのはあまりにもかけ離れた要求といえる。とても6ヵ月で結論を出せるものではないし、学術会議での検討もあるだろう、という返事しか示せないのではないか。根津医師について、学術的にどのようなことが行われたかということを示す場を与えるのはよいと思う。
   矢野委員:AIDを認めている以上、卵子提供も倫理的には全く同じ行為なのだから、認められるべきかもしれない。根津医師も同じようなことを思っているのではないか。
   星合委員長:あの時本来ならAIDも禁止するべきという考え方もあった。しかし既に行われているという既成事実があり、生れた子のことを考えるとむしろ認めていくしかないという流れであった。卵子提供に関しては、まだ行われていない技術であり、既に行われている技術とは対応が異なることにならざるを得なかった。
   白須委員:矢野委員のとおり、あの時の議論ではAIDを認めるか否かかなり議論になった。AIDを認めてしまうと卵子提供を認めないという理屈がとおらなくなる、それで卵子採取にリスクを伴うなどの理由をつけて卵子提供だけを認めないことにした、という経緯である。倫理的に全く同じ手技なのにAIDだけ認めてしまうと将来的に自分の首を締めるようなことになると危惧する意見もずい分あった。
   星合委員長:首を締めてきたことは確かである。あの時AIDは間違いだったとして禁止すればこんなことにはならなかったし、逆にAIDがよいから他にも何でもありだとしておいてもこんなことにはならなかった。
   矢野委員:だから今非常に難しい立場にある。
   安達委員:卵子提供のIVFに関しては、匿名の第三者からもらうというのはほとんど無理じゃないかという見方もある。
   矢野委員:これについても私見であるが、匿名の第三者とするのは絶対におかしいと考える。子どもにとっては誰の子かということがわからない状況はよくない。
   安達委員:精子提供のIVFについて倫理審議会で認める方向になったのに、倫理委員会で認めないことになったのは、卵子提供に与える影響を考えてのことであったのか。
   吉村理事長:いやそうではなく、倫理委員会では審議していない。倫理委員会に出すまでに至らなかった。
   吉村理事長所用により退席
   星合委員長:会告違反であるか否かという点についても意見が割れている。事実確認が大切であるが、会告違反でないのなら、事実確認する意味もなくなる。これをどう考えるか。
   渡部委員:もし事実確認をして、会告違反がない、という判断になるのであれば、産科婦人科学会は、「この件に関して事実確認をしたけれども何ら会告違反はありませんでした」というコメントを出さざるを得なくなる。そういう危険があるのであれば、むしろ事実確認をしないほうがよいのではないか。
   矢野委員:AIDと同じように、会告がないから卵子提供をずーっとやっていればそのうちに既成事実化して認められるということになる。
   大川委員:AIDは規制が何もない状態で行われていたので、異議を申し立てにくい状況であるが、卵子提供は認めないというルールをあらかじめ作ったので、それに対する違反、ということはできると思う。
   久具委員:それについても、見方を変えると、卵子提供についてはやっていいとも悪いとも決められていない、すなわち規制のない状態であり、AIDが既成事実化するのと似ているともいえる。
   大川委員:そういう見方もできるのかもしれないけど、やはり学会は基本的には卵子提供は認めていないとみるべきだ。
   澤委員:産科の立場から、以前日産婦の倫理委員会で、「子を持たないと決めたカップルの判断を尊重する」という意見が出た。子を持たなくともよいということを医療者が言ってやることもあってもよいのではないか、根津医師の場合は、子供がいなくてかわいそうですね、なんとかしてあげましょう、という考え方に立っているようであって、これはジェンダーバイアスと考えられる。
   大川委員:私は全くそのとおりと思う。ARTが行われるようになってから、却って不幸な人が増えたとも考えられる。
   白須委員:この会告の文章は本当に卵子提供を認めると読めるのか、根本的な問題で重要である。この会告の趣旨はやはり卵子提供を認めるとは読めないのではないか。
   阪埜委員:この会告の趣旨は単純に依頼者を規定しただけのものである。
   久具委員:この会告は平成18年に改定されたけれどもその時の会告を作る趣旨では、卵子提供は想定外であった。
   安達委員:確かにこの会告に関しては、卵子提供のことは考えていなかった。この時の改定は、卵管性不妊について、まずその治療をしてからそれでだめなら体外受精、というようなことが書かれていたから、それを改めた。
   久具委員:それといわゆる事実婚カップルをどうするかということが議論となった。卵子提供というのは全く別の手技であるという認識であり、したがって別の会告で縛るべきものであるとの考えに立って会告改定が行われた。であるから、先般JISARTが卵子提供を行う予定との新聞報道を行った際に、日産婦が発したコメントには、日産婦はまだ卵子提供に関する見解をもっていない、と書かれたわけである。
   星合委員長:卵子提供は非配偶者間体外受精にあてはまらないのか、という質問にはどう答えるのか。そんな理屈はとおらないと考えられる。
   根津医師問題について、今日ここで結論を出すのは難しいので、まず事実関係を調べる、すなわち非配偶者間体外受精を実施したのか、という問い合わせを行う。
   矢野委員:非配偶者間体外受精というよりも卵子提供を行ったのか、ということをはっきり質したほうがよい。
   星合委員長:egg donationであるのかどうかという細かい問い合わせを1例1例に対して行ったほうがよいか。その場合、もしそうだと言ってきたら、それは会告違反にはあたらない、と回答することになるのか。しかしそれなら問い合わせをする意味もないのではないか。
   久具委員:卵子提供について問いただして、もし行ったといえば、日産婦として言えることは、「日産婦としては卵子提供をまだ認めていない」というしかないのではないか。「禁止している」とはいえない。
   白須委員:マスコミの論調も、日産婦は卵子提供を禁止しているという前提に立った論調となっている。マスコミも全部そう思っている。
   星合委員長:事実関係の問い合わせについては、どのような返事が来たのか、来なかったのか、ということを全員にメールでお知らせする。そうしてその内容についてどういう処分が必要なのか、ということについてはまた議論が必要と考える。返事が来た段階でもう一度委員会を開くということでよろしいか。質問はすでに資料3のものが行っている。これが会告違反にあたるのか否かという点で180度違う意見が出ているわけだから、この場で結論は出ないし、場合によっては倫理審議会を開かなければいけないかもしれない。
   根津医師については、事実確認をして、その返事によってまた委員会を開催する、または倫理審議会を別に開く、ということを本日の結論とする。ただ流れとしてはegg donationは厚生科学審議会でも容認の方向である。ただ今の会告に違反しているかどうかということは返事によっては討論しなければいけない。これは多数決という問題でもないので、このような意見があったということで理事会にあげなければいけないと思われる。これは次のステップのことである。
   JISARTに関しては、卵子提供についてはここまでの議論と同じだが、近親者を使うことを明確にしている点が問題だ。これは厚生科学審議会の中間答申または結論に反することになる。ただ、その結論を受けて学術会議にさらに審議を要請することになっている。卵子提供については、根津医師への考え方と同じであるが、近親者については学術会議で検討中なので実施を控えてください、という対応でよいか。
   矢野委員:自粛してください、という言い回しかと思う。でも会告がないのだから、実施されてもしようがないと思う。
   星合委員長:問い合わせをいただきましたが、会告がまだ定められていないので、どうぞご自由に行ってください、と書くのか。
   大川委員:自粛ではないか。
   安達委員:課長通達があるわけですからね。
   星合委員長:自粛してください、と書き、しなかった場合はどうするということは書かない。
   阪埜委員:卵子提供について会告にはなっていないが、厚生科学審議会の答申を受けて学会の倫理審議会でも姉妹からの卵子提供は認めない、という答申をまとめており、これが学会のスタンスと考えられる。したがってこれを根拠に自粛することを求めるのがよいと考える。
   星合委員長:1月に学術会議の答申が出なかった場合はどうするのか。
   久具委員:出ない可能性もあると思う。
   星合委員長:答申が出ると聞いている、ということにする。
   田中委員:この1年で根津医師に対する学会の態度が変貌してきているようで心配である。根津医師のすることを認めるように変わってきているとマスコミや会員にとられないようにするべきと考える。

資料5 京野アートクリニックの申請について
   阪埜委員:同様の申請は登録調査小委員会でいくつかとり扱ってきた。ただしそれらは研究であり、臨床実施ではなかった。
   久具委員:臨床実施であるので、研究の登録としての扱いはできず、倫理委員会に提出された。また、現在の会告に、ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究についてのものはあるが、卵巣に関する規定は厳密に言えば、ない。
   安達委員:研究の登録に際しては、実施後廃棄などの条件を厳しく審査していたが、この申請では凍結保存した後、また体内に戻すのではないか。その点がはっきりしない。卵巣凍結に関するルールはない。その点も問題である。
   星合委員長:詳細なものを出してほしい。臨床実施がどうしても必要であれば、ここでもう一度検討したい、という返事でどうか。
   安達委員:または研究だけにしてほしい、という回答でもよいのではないか。
   白須委員:研究の結果を踏まえて臨床実施を検討するように要請するのがよい。
   竹下委員:この文章は申請の方法を問い合わせているものである。
   星合委員長:まず研究だけにできないか、詳細を提出してほしい、と回答することとしたい。臨床実施が必要なら、現在規定がないからいずれ作るまで待っていてくれ、という話になるのであろう。この方法はかなり需要はあるであろうから、ルール作りは必要と考える。
   資料6の臨床エンブリオロジスト学会からの要請については承ったということでよろしいですね。

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