公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成20年度第3回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月3日

平成20年度第3回倫理委員会議事録

日時:平成21年1月6日(火)18:00~20:00
場所:日本産科婦人科学会事務局会議室
出席者:理事長 吉村 泰典
             倫理委員会委員長 星合  昊
             委 員 平原 史樹、安達 知子、岩下 光利、大川 玲子、神谷 直樹、久具 宏司、
小林 重高、五味淵秀人、齊藤 英和、澤 倫太郎、高倉  聡、竹下 俊行、阪埜 浩司、
宮崎亮一郎、山中美智子、渡部  洋

星合 昊委員長より挨拶があり、委員会が開始された。

1.議事録確認
   平成20年度第2回倫理委員会議事録(案)につき検討され、会終了時に特に異議なく承認され、議事録とした。

2.報告事項
(1)登録調査小委員会の報告が、齊藤英和委員よりなされた。
(2)着床前診断審査小委員会からの報告が、星合 昊委員長よりなされた。
また、着床前診断による妊娠例数発表について、実施施設からの報告にやや不正確な部分もあり、今後報道に乗せる時には十分に注意することが必要とのコメントも付け加えられた。

3.協議事項
(1)共同通信社・福岡支社より依頼について
   生殖補助医療における「取り違え」などを防止する対策について、学会に対し、コメントが求められていた件に対する対応についてである。この件は内容からいって、学会がコメントするというものではなく、各施設において対策を講じるべきものである。一度照会があったきりその後は依頼がないので、今回答をする必要はなく、もしもう一度照会があった場合に、上記のようなスタンスで回答すればよい、と結論された。

(2)根津八紘会員への対応
   星合 昊委員長からの趣旨説明
   根津八紘会員が、平成20年8月の受精着床学会において代理懐胎を行ったことについての学会発表を行った。この件について、前回の倫理委員会の審議、その後の常務理事会での決定に基づき、本人への照会、および受精着床学会倫理委員会への照会を行った。これらは資料に提示してある。これらの照会に対し、それぞれから回答を受領した。これも資料に提示した。今回の倫理委員会では、常務理事会からの依頼により、根津会員からの回答に対し、学会はどう行動すべきか、とりわけ処分の必要性、処分するとしたら、いかなるものにすべきか、などを忌憚なく議論いただきたい。なお、根津会員からの回答に対し、学会の考えを示すための文書(案)を作成し、資料としたので、参考としていただきたい。さらに、今回の問題および関連する問題について時系列に従ってまとめた表、および裁判の和解条項を資料として配付した。また、資料には学会の懲戒内規も添付してあるが、このうちの(3)と(4)の会員資格の停止と退会勧告の2項目については、下線部の修正が前回(平成20年12月)の理事会においてなされたが、この修正は今回の根津会員の問題とは関係がなく、以前から修正すべき文言として挙がっていたものである。
順に意見を述べていただきたい。
   阪埜浩司委員:まず、裁判の和解条項について述べると、これは判決に匹敵するくらいの権限のあるものである。しかしどの程度の拘束力があるかよく知らない。次に学会の会告とその違反について、会告に違反するとすぐに「除名」という話が出る傾向がある。しかし会告違反ならば除名という図式があるわけではなく、違反の内容によって対応は異なるものと考える。今回の事案は、学会が禁止している代理懐胎を行ったというのであるが、代理懐胎という行為が絶対的に悪い行為かどうかは、学術会議が原則禁止の結論を出したとはいえ、一概に言えないのではないかと思う。実際学術会議の議論でも意見が割れたものであり、そのために試行の道を残す提言となった。このように絶対悪といえない行為に対して「除名」などの強い処分を下すのは適切とは思えない。しかし会員でありながら、学会の会告に違反しているのであるから、処分は必要であろう。ただ、処分により何らかの権利を奪うようなことになると、再び裁判、ないしはそれに近い争いになる可能性があるので、それは避けたい。譴責か、厳重注意を出し続けるのがよいと思う。
   宮崎亮一郎委員:譴責の項目に始末書の提出という要求事項があり、改善状況を学会が評価するような文言になっている。要求事項を提示すると、また根津会員の反発を招くのではないか。
   星合 昊委員長:始末書を出せと言っても本当に出してくるかどうかわからない。始末書の提出がない場合どうするとか、その内容はどうか、などというようなことは何も決まっていない。
   岩下光利委員:今回の根津会員からの回答書をみると、学会におけるディスカッションの場を要求している。学会に演題を出すのは難しいかもしれないが、倫理委員会に呼んで話を聞くということは考えてもよいのではないか。
   星合 昊委員長:議論の場として総会があるのに、根津会員は出席してこない。
   安達知子委員:ディスカッションの場を設定しても、今までに何例行ったということを顕示されるだけならば、意味のあるものにはならない。
   澤倫太郎委員:根津会員が学問的な点に関して聞いてもらいたいことがあるのであれば、その機会を与える場を設定すればよいではないか。
   久具宏司委員:ディスカッションが、代理懐胎の倫理性に関する概念に関して行われるのであれば構わないが、実例を挙げられるとなると、会告で禁止している行為を行ったということを話題にすることになるので、まずいのではないか。処分に関しては、会告違反と和解条項違反という要件が存在するので、行うべきだが、厳しいものにする必要はなく、厳重注意の繰り返しでよいと思う。
   大川玲子委員:学会の基本的姿勢として不毛な争いをこれ以上続けるのは避けるというものがあるのなら、すじ論を通すよりは、現実的な対応をとるということでもよいのかもしれない。堂々巡りになるかもしれないが。学会で発表の場を設けるというのは、何か大義名分を設ければできないことではないように思う。発表の場もディスカッションの場もなく堂々巡りをするというのも不毛なものといえる。学会で発表したら、学会は代理懐胎を認めてしまうことになるという理屈を通す必要もないのではないか。
   山中美智子委員:倫理的な部分に関して日産婦の中でディスカッションをしましょうということになると、世間は学会が代理懐胎を認める方向に動き始めたとみるだろう。その点を危惧するが、その方向でいくのか否か、十分に考えてからでないといけない。したがって、ディスカッションの場を日産婦の中で行うのかどうかをいうことが重要である。
   渡部 洋委員:物事が倫理的によいかどうか、すなわち正しい行為であるか否かの判断は難しく、誰にもできないであろう。しかし、日産婦の倫理委員会が判断する場合には、日産婦の現在での会告を基に判断すべきであるから、現時点で代理懐胎を認めないという見解をもっている以上、それに基づいた処分を行うべきである。会告や見解は、それをきちんと遵守している人たちを守るという意味も大きいと考える。したがって処分を行わないと、遵守している人たちの立場を壊してしまうことになりかねない。
   宮崎亮一郎委員:学会で学会発表の場を設けるという必要はなく、もっとコンパクトな会議の場を設けて倫理的な面を検討するというのがよい。処分はするのが必要と考える。
   五味淵秀人委員:学問を行う学会としては、すじを曲げてはいけない。これまでに行った行為に関してはすじを通す対応をすべきだ。しかし、今後についてはシンポジウムを開いてディスカッションを行うなどの前向きの行動を起こすことも必要と考える。
   齊藤英和委員:自己顕示欲の強いかたのために学会がディスカッションの場を設けるなどして振り回されるのはよくない。根津会員を入れないで、学会としての考え方を検討するという方向がよいと思う。処分に関しては、何かしらの処分は必要だが、重い処分にすると彼の思惑に乗ることにもなるので、一番軽い処分でよいのではないか。
   小林重高委員:日本産婦人科医会で数年前にこのような問題に対処すべく根津氏本人から直接話を聞く場を設けた。やはり本人から意見を聞くのがよいと思う。その時から約10年間、一人の医師だけがこのようなことを行い続けているというのは異常である。会を維持するのに規定は重要なものである。しかし、規定を機械的に適用するのでなく、一度本人を呼んで考え方を直接聞いてみるのがよい。裁判所の和解条項にも会告の遵守が明記されているのに、それすらも守らないというのは尋常ではないので、意見を聞くことは無駄かもしれない。しかし、本人の話を聞いてから対応するのがよいであろう。また、社会常識から言って、処分というものは常に同じものを科していたのでは処分にならず、レベルを上げていかないといけない。
   神谷直樹委員:代理懐胎の可否を考えるのが倫理委員会の目的ではなくて、根津会員の行ったことが会告に照らしてどうか、ということを考えることが目的である。現時点においては、会告に反する行為をしたのであるから、資料のように処分するのが適当と考える。ただし、今ある会告が将来通用するかということはわからないし、この場で決めることもできず、もっと広い視野で十分に議論すべきものである。
   岩下光利委員:根津会員の回答にもあるように、学会や公開講座などで発表する場がないのだから、学会員の総意が得られたならば、総会で発表する場を与えるのもよいかもしれない。そのような会を設定することを日産婦からの文書に盛り込むのがよいと思う。倫理委員会では代理懐胎の可否の議論でなく、会告に違反したことに対して議論をするべきであろう。
   竹下俊行委員:この倫理委員会は産婦人科の医師だけで成り立っているのであって、もし代理懐胎について議論するのであれば、他分野の人たちの意見も反映させるべく広い範囲の識者を集めた場で議論しなければいけない。処分については、会告に違反したのであるから、下されて当然と思う。
   安達知子委員:(根津会員を)お呼びしてディスカッションをすると言っても、彼が何を要求しているのかよくわからない状況では、食い違いが生じかねない。学問的な議論をして代理懐胎の可否を議論するということを要求しているようだから、その場を作ることができればよいとは思う。
   久具宏司委員:ディスカッションの話が先ほどから出ているが、なるほど根津会員の回答には、日産婦が代理懐胎の可否についての真摯な議論をするべきであるというように書いてあり、ついその気になってしまうが、その前段にもあるように、彼の言葉を借りて言えば、日産婦は一学会として結論を出せるものではなく、「国に下駄を預けた」わけだから、今や日産婦は国の議論を静観すべき立場にあると思う。より私的な会議で議論をするのはよいが、日産婦が会議を開いて議論を進めるのはいかがか。まして学術会議からは提言が出て、次に国会での国民的な議論が行われるのを待つ段階にあるので、その議論が進むのを静観すればよいと思う。
   星合 昊委員長:学術会議で原則禁止という提言が出された今、日産婦で会議を開くとすれば、会告違反に対する処分をするにあたって意見を聞くということになるのではないか。もし日産婦が根津会員から代理懐胎の可否について話を聞いて、学術会議と違う結論が出てしまったらどうするのか、という問題もあるが、建前はどうあれ、一度根津会員から考えを聞くということもよいのではないか。
   大川玲子委員:むしろ逆で、学術会議に一任したのであれば、日産婦としても会議を開いて、根津会員の考えに流されることなく、日産婦としての考えをまとめることも必要と思う。
   星合 昊委員長:処分は必要であろう、処分の内容は過去のものと同レベルかそれより一段だけ上のレベルのものがよい、という点では、委員の考えは一致していると思う。話し合いの場をどういう場に設定するかという点では認識の違いがあると思われる。
   吉村泰典:(過去の経過の説明:倫理審議会、厚生科学審議会、学術会議など)
代理懐胎の可否は学問的な問題とは異なるものであり、だから学会で結論を出すのではなく、国民が決めるようにお願いすることとなった。これらのことは、この数年間の議論の中でわかったことである。この問題は、学会でこれ以上議論するものではなく、立法府にお願いすればよいことである。
   星合 昊委員長:この点に関し、最近、行政府に対し、早く法制化を望むという要望書を提出した。
   阪埜浩司委員:(根津会員を)呼んで意見を聞くよりも、粛々と処分を進めるのがよいと思う。
   星合 昊委員長:彼との対話を行うかどうかは今決める必要はないが、行ってはどうかという意見が多かった、ということにしておく。処分については、どの処分とすべきか、倫理委員会としての意見を決めたいと思う。一つに決まればよいが、必ずしも一つに絞らなくてもよいかもしれない。
   一つには決めないことにして、それぞれの処分を支持する委員の人数を常務理事会に報告することとしたい。
(挙手、委員長を含む・理事長を含めず)
①厳重注意:2人
②譴責:14人
③会員資格停止を含めた、より重い処分:1人
どういう場とするかは別として、根津会員を呼んで意見を聴取する会を設定することを提案する意見、および会の設定に慎重な意見があったことを付記する。

(3)着床前診断審査のあり方について
   (久具宏司委員より趣旨説明)申請数の急激な増加をみている。その中には同一施設からの申請が多く、新規施設からの申請は少数である。着床前診断の審査は症例ごとに(一例ずつ)行うことになっているので、各症例ごとにその施設の技術力も含めて審査しているが、診断技術が確立していることが既に明らかとなっている施設については、技術面の審査は簡略化してもよいのではないか。これらについては、審査内容を症例が適応に合致しているか否かにほぼ限定し、通信による審査も含めて効率的に行ってもよいと考えられる。一方、新規に着床前診断を行うことを申請する施設については、その技術が相応のものであるか否か十分に厳格に行うこととすることを提案する。以上は着床前診断審査小委員会からの提案である。
   この議題について議論が行われ、大筋で了承が得られた。ただし、技術面に関するものとして簡略化する項目と、個々の症例に関するものとして簡略できない項目についてわかりやすく提示することが求められた。また、技術が確立していることが認められたからといって、それが未来永劫続くものではありえず、その施設において確立した技術が継続していることの確認をどう担保するのか、という手続きを示すことが求められた。

(4)ART登録施設が治療継続不可能となったときの凍結保存配偶子・胚の取扱いについて、また胚の施設間移動を行った場合の報告義務の所在について
   (齊藤英和委員より実際の事例の説明、および宮崎委員より追加)本事例は、登録施設の実施責任医師が急死したが、凍結保存していた胚の取扱いにつき予め取決めがなかったため、大学病院へ凍結胚を移動した、というものであった。このような事例に対し、日産婦として指針を提示する必要はないのか、という問題提起である。
   この議題について議論が行われ、これは各施設と患者の契約の問題であるから、日産婦で一律な取扱いの指針を示すべきものではない、との結論に達した。ただし、このような事例が起こりうることを各施設に周知し、患者への説明・インフォームドコンセントの際に留意するよう注意を喚起することは考慮してよい、との意見もあった。また、胚の施設間移動について、日産婦登録調査小委員会への登録は、凍結胚を使用した時に登録することとなっており、その胚の出処を特定することは必要ないので、移動の事実を日産婦へ報告する必要はないと考える。これを参考に、登録調査小委員会で検討願いたい、との結論が得られた。

(5)着床前診断についての一般の方からのメールへの対応
   着床前診断についてメールが届いている。内容を要約すると、流産1回の経験があるが、遺伝によりロバートソン転座であることがわかっているのに着床前診断を受けられないことに疑問を感じる、年齢がやや高齢となっており妊娠に残された時間が少ない、今の日本は全体に倫理的な理由として生殖医療に制限をかけ過ぎている、というものである。
   このメールに対し、
   1回流産でも転座のわかっている例はこれまでにもあり、適応外として門前払いしていたが、その処置に疑問を感じないでもない(安達知子委員)
   1回流産でも着床前診断の対象となるとは思えないが、年齢の因子を加味すると、考えさせられる(竹下俊行委員)
   羊水穿刺を受けて遺伝子情報のわかっている子が将来次の世代の子をもつときのことを考えると、今のままの会告でよいとは思えない(山中美智子委員)
   もし、着床前診断の適応に関する見解に不備があると考えられれば、この倫理委員会で議論して決めるのでなく、別にワーキンググループを組織して検討することになる(久具宏司委員)
   などの意見が交わされた。その結果、ワーキンググループを結成するか否かは着床前診断審査小委員会の意見も聞いて決することとした。

以上
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