公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成23年度第3回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月2日

平成23年度第3回倫理委員会議事録

日 時:平成24年2月6日(月)午後6時00分~8時05分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」

出席者(敬称略)
   委員長: 落合 和徳
   副委員長:久具 宏司
   主務幹事:榊原 秀也
   委員:苛原 稔、大川 玲子、齊藤 英和、澤 倫太郎、杉浦 真弓、髙橋 健太郎、津田 尚武、
阪埜 浩司、平原 史樹、山中 美智子、矢野 哲
 <欠席者:安達 知子委員、石原 理委員、小森 慎二委員、竹下 俊行委員、中村 和人委員、
峯岸 敬委員、吉村 泰典委員、小西 郁生理事長>
 

定刻となり落合委員長が開会を宣言し、次第に則り議事が開始された。
まず、平成23年度第2回委員会議事録(案)を確認した後に報告・協議事項に移った。

1. 登録関係
(1)登録・調査小委員会報告
齊藤委員から資料2に基いて以下の報告があった。
・本会の見解に基づく諸登録<平成24年1月31日現在>
   ①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録:44研究
   ②体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録:578施設
   ③ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録:578施設
   ④顕微授精に関する登録:511施設
   ⑤非配偶者間人工授精に関する登録:16施設
・ARTオンライン登録状況
 2010年分は2月3日現在で6施設が未入力。妊娠について保留、予後未入力、転帰不明となっている施設に入力の協力依頼を12月と2月の2回行った。2011年分については既に5050施設が入力している。
・学会見解に基づく諸登録の更新申請
 今年は520施設が該当、478施設から更新書類の提出があった。その他、登録辞退が18施設あり、書類未提出の15施設に再度通知を行った。
・ART Registry of Japan, in English
 2008年度分の報告の英語版をHPに掲載した。
 以上の報告の後に、以下のような質疑応答が行われた。
   髙橋 健太郎委員:登録の更新のお願いは何回までするのか?
   齊藤 英和委員:最低3回くらいの予定である。
   落合 和徳委員長:実施が0の施設の登録の更新はどうしているのか?
   齊藤 英和委員:3年間実施が無ければ凍結胚の保存の無いことを確認して登録を辞退してもらっている。
   久具 宏司副委員長:これに関しては見解集3ページの4)に規定がある。
   落合 和徳委員長:ART Registry of Japan, in Englishについては日産婦の英語のHPにもリンクを貼るようにお願いしたい。
   齊藤 英和委員:広報に依頼することにする。
(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について
平原委員から以下の報告があった。
 申請件数:263例[承認226例、非承認4例、審査対象外18例、取り下げ1例、照会中5例、審査中9例](承認226例のうち7例は条件付)
(3)着床前診断の実施報告のまとめ
平原委員より加藤レディス、セントマザー産婦人科の症例は習慣流産として認可、慶応の症例は習慣流産に該当しないので対象外としたことが報告された。また、藤野婦人科の症例は診断法が遺伝子検査ではなく性別判定で、このままでは認可できないことから照会としたことも報告された。その後、以下のような質疑応答があった。
   杉浦 真弓委員:慶応の症例は死産児の核型などの情報はないのか?
   平原 史樹委員:情報が記載されていない。
   杉浦 真弓委員:児の多発奇形や親に転座があれば考慮されるのか?
   平原 史樹委員:2010年の見解では重篤な遺伝性疾患として視野に入ると思う。
   落合 和徳委員長:死産児の臨床情報を得るべく照会することは可能か?
   平原 史樹委員:可能だと思う。もう一度照会してみることにする。

2. セント・ルカ産婦人科からの、着床前診断申請に関する学会からの照会文に対する回答について
平原委員から資料4を基に経緯について以下の説明があった。
   今回の回答によるとセント・ルカ産婦人科が着床前診断に関する審査小委員会で審査対象外とされた症例に対して、自分達の倫理委員会で承認してPGDを行っていた。更に同様に見解で認められていないPGSを行ったことも確認された。その症例について先日の生殖医学会で発表していたことが判明したので照会したところ、行った旨の回答があった。
   落合 和徳委員長:言葉の問題が一つあるが、審査結果を対象外として問題になったことはあるのか?
   久具 宏司副委員長:ない。但し、対象外は「施行してはいけない」とは書いていない。
   落合 和徳委員長:PGSは、会告に行ってはいけないと書いてある。PGDは、対象外の症例を学会発表した点が問題である。
   平原 史樹委員:適応は見解として会告に書いてあるのだから、審査対象外だからやってよいという解釈は曲解である。
   矢野 哲委員:電話したところでは、対象外を「誤解していた」と云っていた。
   阪埜 浩司委員:適応外の着床前診断を施行した大谷先生の時は除名まで行っているので、今回もうやむやにするというわけにはいかない。倫理委員会にお呼びしてお話を聞くなど何かしらの公の手続きが必要である。
   矢野 哲委員:対象外というだけではよくない、やってはいけないということを明記すべきである。適応外で却下ということにするべきである。
   落合 和徳委員長:審査結果の定義をどこかに書いておく必要がある。
   平原 史樹委員:表現については今後、小委員会で検討する。
   苛原 稔委員:審査対象外というのは臨床研究の適応外ということである。
   落合 和徳委員長:既にやっていることに対してどう対応するか?こちらの真意が伝わっていないこともあるので面談して事情を聞くことも手段の一つだが、この取扱いについては最後に改めて議論することにする。

3. ART登録施設更新において、非配偶者間人工授精登録に求めるべき事項
久具副委員長から資料5に基づいて提案があり、以下のような議論が交わされた。
   久具 宏司副委員長:AID登録の更新の審査が行われているが、初めての更新のところが多いためか内容がいい加減なところが多い。例えば、AIDで生まれた子どもの出自を知る権利については更新14施設中3施設ほどしか書いていない。AID患者の記録と提供者の記録を照合できるような状態で保存しているか、保存するとなると精子の提供者の同意書が必要となってくる。しかし、見解集の21,22ページのAIDに関する記載は保存期間は長期間とあるだけで曖昧である。したがって、現状では上述のようなことを求める根拠はない。
   平原 史樹委員:以前の厚生科学審議会や学術会議の議論を雛型にできないか?
   久具 宏司副委員長:結局それは法制化されなかったので根拠とはなり得ない状況である。
   阪埜 浩司委員:精子に関しては80年となっていたと思う。去年認可した2施設は以前と違って上記の用件を満たすような厳しい条件を課して認可したので、今回もそれを要求してよいのではないか?
   落合 和徳委員長:去年認可した施設に求めた基準を適用するべきである。これは明文化されているのか?
   久具 宏司副委員長:明文化されていないが、送った照会文はある。これはいずれ見解の見直しになると思う。
   落合 和徳委員長:必要なら見解の見直しも考えるべきである。会員や社会にも示すことが必要である。
   苛原 稔委員:見直すとすると、出自を知る権利が問題になると思う。時代の流れを見てどの程度にするか考える必要がある。内規のような柔軟性があるものでもよいと思う。
   落合 和徳委員長:今のままで不整合が生じなければ、改定はいらないと思うが検討は必要である。
   澤 倫太郎委員:平成2年の厚生科学審議会の数字では80年間公的機関に保管するとなっていた。ドナーとしては10人以上に提供しないことになっている。
   落合 和徳委員長:国が動かないとしても、日産婦として国に要望する必要は無いのか?
   澤 倫太郎委員:まずは父の推定が必要。それには民法の改正が必要。
   久具 宏司副委員長:出自を知る権利を学会が推進するのではない、そういうことが必要になった時に備えておくことが大切である。
   苛原 稔委員:私も同意見である。
   落合 和徳委員長:学会としては、専門科団体として公的機関の設置などを国にアピールしておくことが必要であると思う。
   澤 倫太郎委員:AIDで生まれた本人達が名乗り出て来るようになって来たことなど、最近は世の中が変わってきた。
   苛原 稔委員:子に知らせる義務がある国もある。学会として国にアピールする必要がある。
   久具 宏司副委員長:施設への照会文と国へのアピールについて検討することにする。

4. 「遺伝カウンセリング講習会」の開催について
平原委員から説明があり、以下の議論が交わされた。
   平原 史樹委員:着床前診断の進捗状況と課題について、着床前診断に関する遺伝カウンセリングをする先生方に伝達することが目的である。講演内容などは資料6の通り。臨床遺伝専門医は生殖医療に関するカウンセリング受け入れ可能な医師として日産婦のHPに公表する。
   落合 和徳委員長:承認とする。常務理事会の審議事項として承認してもらい、理事会は報告事項とする。

5. 慶應義塾大学医学部倫理委員会との意見交換会について
平原委員から資料7に基づき経緯について説明があった。1月24日に、着床前診断に関する審査小委員会と、慶応義塾大学の倫理委員会委員長、委員、事務局員との話し合いを持った。まとめると、慶應義塾大学は自分達で判断できないことは日産婦で判断して欲しいということであったが、我々としては、慶応では患者さんに対する医学的な判断を、日産婦は社会に対する倫理審査をしているという立場を説明した。お互い忌憚なき話し合いが出来て有意義なものであった。
   落合 和徳委員長:詳細は議事録を参照して欲しい。当日は何か結論を出そうというものではなく、我々がどういう考え方で審査しているかを説明した。小委員会の審査内容や意見のやり取りについて当該施設にフィードバックしていくことをこの倫理委員会で検討することにした。この点に関しては如何か?
   杉浦 真弓委員:だめな時はわかりやすい理由があると納得しやすい。
   平原 史樹委員:慶応に関しては、症例の重篤性について慶応の倫理委員会と意見が異なってしまったことがあった。
   落合 和徳委員長:ケースによっては、文書のやり取りだけでなく話し合うことが重要だと思った。お断りする場合には理由をわかりやすく説明することにする。書面だけだと不十分な場合は機を失しないよう内容について話し合うことも考えて行く。

6. セントマザー産婦人科医院からの「臨床研究登録報告」について (資料8)
以前申請があり、認可した研究についてその後の進捗状況に関する報告があったことが榊原主務幹事から説明された。

7. 共同通信社からの「卵子提供」に関する取材について (資料9)
久具副委員長から上記について取材を受けたことが報告された。

8. NHK クローズアップ現代からの取材申し込みについて (資料10)
「卵子凍結と高齢出産のリスク」について学会としての意見ならびに見解を求められたが、学会の見解には今回の取材の趣旨に沿うものはない旨をお返事し、聖マリアンナ医科大学の石塚教授を紹介したことが落合委員長から報告された。
また、平原委員より朝日新聞の岡崎記者から2010年の見解、着床前診断についての取材があったことが報告された。

9. 関連報道記事 <「性同一性障害人工授精」、他>
参考資料として資料11にある倫理に関する報道記事が紹介された。

10. その他
平原委員より無番の資料に基づき以下の提案がなされた。
   平原 史樹委員:母体血や胎児試料による出生前診断が行われるようになってきた。また、PGSも行われる様になってきた。日産婦では2010年に見解を改定したが、上記のことに対して緊急アピールを出すなど早急に対応していく必要がある。日本の検査機関は日産婦の見解に従うとしているが、海外企業は何をするのかわからない。中国の企業は網羅的遺伝子出生前診断も視野に入れている。
   澤 倫太郎委員:異常があれば患者さんは我々のところに回ってくるので必要である。
   平原 史樹委員:これらの検査結果だけで染色体検査を施行せず、中絶してしまうような事例も出てきている。
   落合 和徳委員長:議論を進めていくことは当然だと思う。合わせて現状を含めてWGを設置し検討して倫理委員会に答申して欲しい。いつごろまでに答申を出すか?
   平原 史樹委員:夏頃までにまとめたい。
   落合 和徳委員長:理事会に通す必要があるので、時期を決めることが望ましい。5月18日の常務理事会、6月9日の理事会で諮ることにしたい。
   澤 倫太郎委員:2月の理事会、記者会見でWGを作って検討開始するということを表明はできる。
   久具 宏司副委員長:倫理委員会は5月21日である。
   平原 史樹委員:常務理事会前に通信で倫理委員会の審議をしたい。

次に、セント・ルカ産婦人科が見解に違反してPGSを施行したことへの対応を協議した。
   落合 和徳委員長:先方の意見を聞くことが必要なので来て頂いてお話しすることにしたい。
   澤 倫太郎委員:以前見解違反をした会員に来て頂き、謝罪してもらって書面で注意となった事例がある。その時は、事前に落としどころを探っておいた。
   落合 和徳委員長:来ていただくにしても、事前にこちらの真意を伝えておく必要がある。ペナルティーありきでお呼びするわけではない。見解を守っていただきたいというのが真意である。PGSについては今後きちんと検討していくことにしたい。
   平原 史樹委員:PGSについての議論を始めていくと言ってもよいのではないか?
   杉浦 真弓委員:PGSは欧米ではやっているが生児獲得率の向上に繋がっていない。聞こえはよいので患者さんやメディアは飛びつくと思う。ESHREは高齢女性でのRCTを開始している。
   落合 和徳委員長:そのようなことも含めてどのような形で議論していくか?
   矢野 哲委員:PGSだけでなく、PGD全体についてオープンに議論する必要がある。
   平原 史樹委員:前回の改定では改定する事項は竹下小委員会で検討していた。
   落合 和徳委員長:一度は公開シンポジウムをしてもよいかも知れない。
   杉浦 真弓委員:ESHREの結果を待ってからでもよいのではないか?
   落合 和徳委員長:問題点があることに対して我々が黙認しているわけではないことをどう示していくかだと思う。
   平原 史樹委員:2010年の改定の時でもPGDの適応の拡大に対してパブコメは大きな反響があった。
   落合 和徳委員長:時代時代で必要な議論をしておくのは大切である。まず、対象外に関してはやってはいけないということを説明しなければならない。また、現状では見解を守ってもらいたい。ただし、PGSについては検討すべき事項なので国民にも見える形で議論を進めていく。
   苛原 稔委員:世界でRCTが進んでいる中で患者が求めるからといって認めてよいのか?
   落合 和徳委員長:世界的に前向きな検討が進められている中で、患者が求めているからといって安易に進めてもよいのかどうかを理解してもらうことも必要である。3月19日の倫理委員会の冒頭にお呼びすることとする。事前に真意をお伝えしておくことが必要である。

 

以上で議事を終了し、閉会となった。

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