公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成23年度第4回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月2日

平成23年度第4回倫理委員会議事録

日 時:平成24年3月19日(月)午後6時00分~7時40分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」

出席者(敬称略)
   委員長: 落合 和徳
   副委員長:久具 宏司
   主務幹事:榊原 秀也
   委員:安達 知子、石原 理、苛原 稔、小森 慎二、杉浦 真弓、髙橋 健太郎、竹下 俊行、
中村 和人、平原 史樹、矢野 哲、山中 美智子
 <欠席者:大川 玲子委員、齊藤 英和委員、澤 倫太郎委員、津田 尚武委員、阪埜 浩司委員、
峯岸 敬委員、吉村 泰典委員、小西 郁生理事長>
 

   定刻になり、落合委員長の宣言により開会となった。
   次第に則り、平成23年度第3回委員会議事録(案)を確認後、まずセント・ルカ産婦人科宇津宮隆史先生の着床前診断に関するヒアリングから開始した。
   落合 和徳委員長:本日はセント・ルカ産婦人科の宇津宮院長にお越し頂いており、話し合いを持とうと思っている。宇津宮先生はARTに積極的に取り組んでおられるが、認識の点で相互の理解を深めておく事が必要で、そのためには書面より話し合いの方がよいと考えておいで頂いた。
その後、落合委員長をはじめ、出席の各委員が自己紹介を行った。
   落合 和徳委員長:話し合いを円滑に進めるために予め質問事項をお送りさせて頂いている。それに沿ってご回答頂いて協議をし、生殖医療を健全な方向に進めていくため、その後に御意見を伺いたいと思っている。
まず、審査対象外とした症例に対するPGS施行の件について以下のような説明、討議が行われた。
   宇津宮 隆史先生:こういう場を設けて頂いて感謝している。施設概要を説明すると採卵500~700件、子宮筋腫等の手術もしている。ARTの妊娠率40%程度で、大分では唯一のART施設である。最近、40歳以上の高齢の患者が目立っている。PGDは2007年から始めている。施設の倫理委員会を当時から立ち上げている。PGDに関しては日産婦がダウン症や筋ジストロフィーなどの患者団体と話し合ってやってきたので強い反対意見が少なくなっていると感じている。
   PGSに関しては患者の高齢化とともに必要と感じて日産婦に申請したが、「審査対象外」とされた。セント・ルカの倫理委員会では「施行してはならない」とは書いていないこと、施設としての評価がされていること、患者さんが強く望んでいることから実施した。結局、戻せる胚はなかった。ただ、結果として流産は避けられたと思う。「審査対象外」は「施行してはいけない」という意味であるという認識がなかった。ESHREではPGSをしても効果には差がないという結果も出てきているが、日本でも研究を進めていく必要があると感じている。
   落合 和徳委員長:我々の意図したことの真意が伝わらなかったことがわかった。
   平原 史樹委員:セント・ルカの倫理委員会の議事などをみると切実な事情はわかる。しかし、現時点ではスクリーニングは見解で認められていないので、今しばらくは控えて頂きたい。しかしながら、議論は始めるべきだと思う。
   宇津宮 隆史先生:PGSとPGDの区別がわからない。流産は患者さんにとても深刻な問題である。
   杉浦 真弓委員:特定の遺伝子を調べるのがPGDで、いくつかの染色体を調べるのがPGSである。
   宇津宮 隆史先生:致死的な疾患のPGDは認められているがトリソミーによる流産は重篤な疾患といえないのか?
   平原 史樹委員:いくつかの遺伝子を調べるとなると網羅的であり、それはスクリーニングである。2010年改定で遺伝子の構造異常の適応を拡大した時にですら、パブリックコメントに大きな反響があった。そうした観点も含めて議論していく必要がある。
   宇津宮 隆史先生:基本的にうちでは染色体はあまり検査していない。PGDに反対する会に出席したことがある。もし、結婚して子供を希望した時にはPGDを考えるという意見もあった。障害者の方でも自分の子供は健康に、という願いはあると思う。
   落合 和徳委員長:PGDは症例毎に検討して認めている。PGSについて現在は認められていないが、広く議論していく必要があると思う。学会で発表された2番目の症例については如何か?
   宇津宮 隆史先生:転座を持つ症例である。日産婦の見解では2回流産しないと認められない症例である。もう1回流産を待つのは残酷なことである。前もって転座がわかっている時に流産が2回ないといけない、というのはおかしいと思う。
   平原 史樹委員:8回のIVFの不成功の理由が転座であったか?
   宇津宮 隆史先生:それはわからない。
   石原 理委員:問題は反復着床不全の理由の一つに転座があるかどうかである。可能性はあるが、今後議論していくべき問題である。
   竹下 俊行委員:前回の改定では化学流産について取り上げたが、あまり議論できなかった。
   平原 史樹委員:均衡型転座の人の3分の2は普通に出産する。流産する人との違いはわかっていない。
   杉浦 真弓委員:均衡型転座を持つIVF反復不成功例を認めてしまうと流産する可能性があるからPGSをする、ということに繋がってしまう。高齢女性の反復IVF不成功例+反復流産のPGSは無作為割り付け試験が9つあり、出産成功にはつながっていない。むしろ出産率が低下している。科学的根拠にもとづいた議論が必要。
   落合 和徳委員長:我々はまだ議論が必要な領域だと認識している。これは倫理委員会として継続して審議をしていくということで宜しいか?スクリーニングに関しては、いろいろな意見を公開で討論することも考えている。審査については申請者の立場でみてどう思うか?専門家集団の中で生殖にかかわらない人たちも含めて納得することが必要である。法律がない中で日産婦の見解がソフトローとしての役割を果たしている面もあると思う。
   宇津宮 隆史先生:日本中の体外受精を行うクリニックでは、40歳以上の患者さんをどうするのかが課題となっている。PGD,PGSによって卵子の状況が悪いということがわかると、これを治療終了の根拠としたいという人もいる。多胎妊娠の時と同じように、PGD,PGSについてのメリット・デメリットを学会から出して頂きたい。患者さんの会にも、流産を防ぐための方法としてアピールするべきだと思う。ヨーロッパではどんどん行われているのに、日本はその辺が下手だと思う。私は、このままだと水面下で行うところが出てくる可能性がある、ということを危惧している。また、着床前診断が認可されない場合には出生前診断が行われ、中絶に繋がることもある。
   落合 和徳委員長:宇津宮先生には生殖医学の第一人者として益々ご活躍頂きたい。一方、指導者的立場にあるということも御認識いただきたい。日産婦学会でも見解は常に見直されるべきであるが、現時点でPGSは見解で認められていないので、日産婦学会会員としてそういう方向でご理解頂きたい。「審査対象外」についても、「自由にやってよいという意味ではなかった」ということで同様にご理解頂きたい。
   今後、日産婦学会をより健全な方向に進めていくためにも、先生には是非お力をお借りして勧めて参りたい。今後も忌憚のない御意見をお寄せ頂きたいと思う。

以上で宇津宮先生に対するヒアリングは終了し、宇津宮先生は退席された。

   落合 和徳委員長:「審査対象外」については誤解であったことがわかった。今後は見解を守って頂けることは確認した。今後、PGD,PGSに関してはワーキンググループ等で検討していくことにする。
   石原 理委員:見直しの議論はいつまでにするのか?
   平原 史樹委員:審査する人とルールを作る人は別の方がよい。
   落合 和徳委員長:PGD,PGSについての見解を検討するWGを作る。構成メンバーには外部の人も入れるべきか?
   平原 史樹委員:法律関係や遺伝関係の人にも入っていただく方がよい。
   落合 和徳委員長:委員の先生方にも通信で御意見を伺いたい。
   苛原 稔委員:日産婦で常に議論しているということが大事である。

次いで、以下の事項についてそれぞれ担当者から報告がなされた。
<報告事項>
1. 登録関係(榊原主務幹事)
(1)本会の見解に基づく諸登録<平成24年2月29日現在>
   ①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録:45研究(38施設)
   ②体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録:575施設
   ③ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録:575施設
   ④顕微授精に関する登録:509施設
   ⑤非配偶者間人工授精に関する登録:16施設
(2)ARTオンライン登録状況(平成24年3月12日現在)
(3)学会見解に基づく諸登録の更新申請
 申請のない6施設のうち4施設は実施が0であり、登録辞退を勧めてよい。他の2施設は直接連絡することとなった。
(4)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について(平原委員)
 申請件数:269例[承認230例、非承認4例、審査対象外18例、取り下げ1例、照会中6例、審査中10例](承認230例のうち7例は条件付)
(5)着床前診断の実施報告のまとめ(平原委員)
      IVF大阪(2012-1)およびIVFなんば(2012-4)の症例:診断方法としてCGHのみを用いることに染色体の専門家から疑問の声が上がり、CGHの詳細について問い合わせることとなった。
      竹内レディース(2012-3)の症例:25週の死産について、流産に相当するのか臨床情報を問い合わせることとなった。
   杉浦 真弓委員:転座の人はトリソミーが多いので、CGHは意味があるかもしれない。実施している症例の成功率が上がる方法なら、スクリーニングを認めることも考慮されてもいいと思う。
   落合 和徳委員長:一般産婦人科医も正しく理解できていない可能性がある。

以上のような議論の後に、最終的に照会3例以外はすべて承認となった。

2. 「配偶子提供に関する国への規制整備働きかけ」について(榊原主務幹事)
   石原 理委員:これに関しては生殖医学会の倫理委員会から関係諸方面への働きかけをするための「文書」が3月に出ることになっている。
   落合 和徳委員長:AIDに関しては学会として国に働きかけていく必要があり、久具先生の御意見について委員の皆さんの御意見を伺った。今後どう議論していくのか?
   石原 理委員:生殖医学会が先に検討して、その後に日産婦が検討していく手順がよい。
   苛原 稔委員:3月30日に関係学会の倫理委員の合同会議があるので、その時に生殖医学会の作成した「文書」を日産婦に持ち帰って検討して頂きたい。
   落合 和徳委員長:それでは、生殖医学会の「文書」を頂いた後に本会で検討することにしたい。

3. 「遺伝カウンセリング講習会」について(平原委員)
   3月19日現在の申し込み数は138名。会費徴収について、修了証を必要とする方からは受講料を頂くことにすることが確認された。

4. 「出生前に行われる検査および診断に関する見解」改定案ワーキンググループ委員会の開催について(平原委員)
[委員会メンバー]
委員長:平原 史樹
委員:佐合 治彦、澤井 英明、杉浦 真弓、増崎 英明、山田 秀人、山田 重人
   平原 史樹委員:昨年6月に改定を出したが、その後急速な勢いで網羅的遺伝子診断が入ってきている。外資系の検査機関が入ってきて母体血だけ集めれば、何の規制もなく出来てしまう。とりあえず、ワーキンググループで検討して緊急アピールだけでも出すことを考えている。
   落合 和徳委員長:実態を把握することもお願いしたい。

5. 関連報道記事:資料6の出生前診断、卵子関連の参考記事が紹介された。

6. その他
   平原 史樹委員:資料4の「着床前診断の報告書の改定」について、報告書の改定案の叩き台を作った後、実施している施設にパイロット的にやってもらうことを考えている。

19:40  以上で審議を終了し、落合委員長の閉会宣言をもって閉会となった。

 

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資 料:
1. 着床前診断に関する申請についてセント・ルカ産婦人科に対する学会からの質問状
2. 前回議事録(案)
3. 「登録・調査小委員会」報告
4. 「着床前診断に関する審査小委員会」報告(答申書、議事録など)
5-1. 「配偶子提供に関する国への規制整備働きかけ」についての久具副委員長所感
  -2. 私案に対する委員からのご意見まとめ
  -3. 「AIDに関する国への規制整備働きかけ」のたたき台(久具副委員長私案)
6. 報道記事

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