公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成25年度第3回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月2日

平成25年度第3回倫理委員会議事録

日 時:平成25年8月21日(水)午後6時30分~8時30分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」

出席者(敬称略)
   委員長:苛原  稔
   副委員長:久具 宏司
   主務幹事:桑原  章
   委 員:石原  理、加藤 聖子、久保田 俊郎、齊藤 英和、榊原 秀也、澤 倫太郎、
杉浦 真弓、関沢 明彦、髙橋健太郎、阪埜 浩司、平原 史樹、矢幡 秀昭、山中 美智子
   理事長:小西 郁生
   陪 席:前倫理委員会委員長 落合 和徳
 <欠席者:安達 知子委員、竹下 俊行委員>
 

 苛原委員長が開会を宣言し、各委員が挨拶をした後、議事を開始した。
 最初に、苛原委員長より、2.第1回「生殖補助医療の法制化に関する小委員会」【資料4】、および本日の第2回小委員会の経過に関して報告があった。国会内で生殖補助医療に関する議員立法案の検討が進み、本会に意見を求められたので、倫理委員会内に小委員会を設けて2回検討を行った。法案は、「生殖補助医療に関する法律骨子素案」と「生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律骨子素案」からなり、第三者が関与する生殖医療(AIDを含む)を対象としていること、精子、卵子、胚の提供、代理懐胎を対象としていること、親子関係の定義(分娩した女性が母で、提供精子による妊娠に同意した夫が父)を明文化していることが説明された。現在各委員からの意見を集約しつつあり、具体的には、夫婦間で行われるARTは現状を踏襲し法律の対象とせず、法律の対象は第三者が関与するものに限定すること、AIDを含めた第三者が関与する生殖医療を総称する言葉として、「第三者が関与する医療(技術)が補助する生殖医療」を提案すること(背景として現在、IUIとARTを含む概念として国際的にMAR(Medically Assisted Reproduction)が提唱されているが、日本語対訳が定まっていないため、委員会内で「医療(技術)が補助する生殖医療」を提案)、医師・医療機関の指定と、適応となる患者情報の管理などを所掌する公的管理機関が必要であること、この機関の運営に本会も協力すること、出自を知る権利については今後の検討課題とすることと、民法の特例法案は必要であること、以上を提案する予定であるとの説明があった。特に代理懐胎は、従来の検討(厚生科学審議会、日本学術会議)を踏まえ原則禁止の姿勢であるが、結論は国会内の議論に委ねること、行う場合でも何らかの方策を設け、特例として代理懐胎を行うよう意見をまとめている、とのことであった。

以上の説明の後、以下のような発言があった。

   小西 郁生理事長:これまで本会としても、第三者が関与する生殖医療に関しては国が法制化してほしいと申し入れていたところであり、それに沿った望ましい動きと考えている。議員立法として国会内での議論が始まる前に、学会で意見をまとめて、申し入れる大事な時期にさしかかっている。理事会で検討し、自民党原案に対する本会の要望書を提出したいので、しっかり検討していただきたい。
   苛原  稔委員長:慎重かつ迅速な対応が求められているため、本日の議論を含めた学会案を倫理委員会委員に回覧しつつ、同時に理事会で検討することに了解をいただきたい。
   髙橋健太郎委員:代理懐胎の特例とは、どのような場合を想定しているのか?
   小西 郁生理事長:先天性子宮欠損や、子宮全摘例などに限定し、臨床研究のような形をとると推測している。
   久具 宏司副委員長:法律案が、禁止ではなくて、可能と読める書きぶりになるのは、以下の経緯を反映していると考えている。すなわち、厚生科学審議会で禁止とされ、その後の日本学術会議では、「原則として禁止であるが一部は臨床試験としての試行を認める」という経過からである。学術会議で対象を検討した時点では、絶対的適応(子宮が無い)が対象とされ、相対的適応(子宮はある症例)は除外されていた。
   苛原  稔委員長:一例一例検討するなどの、極めて慎重な対応が必要と考えている。
   久保田 俊郎委員:代理懐胎における母子の定義は?
   石原  理委員:現行民法には記載が無いので、今回は産んだ女性が母であると定義する法案が含まれている。
   苛原  稔委員長:代理懐胎にて妊娠出産した場合、依頼者は特別養子縁組にて母子となる枠組みである。産んだ女性が母という原則が明記される。さらに、提供精子を用いた妊娠の場合、文章による同意を行った男性は、父としての嫡出を否認できないことも書かれている。
   澤 倫太郎委員:相対的適応による代理懐胎は想定されているのか?
   久具 宏司副委員長:相対適応とは、子宮は存在するが器質的疾患があり妊娠が困難とされる場合や、習慣流産など、適応は曖昧である。諸外国の報告では、代理懐胎対象は絶対的適応:相対的適応=1:1となっており、相対的適応を可とすれば、かなりの数になることが想像される。
   杉浦 真弓委員:代理懐胎を本会が反対してきた理由の一つに、産む女性のリスクが挙げられる。法律ができることは望ましいが、代理懐胎を是とするのであれば、妊娠、出産のリスクを一般に啓発し、代理懐胎を行う女性に十分なICが行われるよう、学会が主張する必要がある。
   苛原  稔委員長:法案で「国および地方公共団体は広報、教育を通じて、不妊およびその予防と生殖医療に対する正しい知識の普及と啓発につとめる」とあり、その点も含まれると期待している。
   石原  理委員:今までは議論すらできなかった。法案ができれば、運用面で症例毎に慎重に検討するので、非常に厳密な適応とすることも可能ではないか。
   阪埜 浩司委員:最も違和感があるのは代理懐胎だが、第三者が関わる生殖医療に関して大きな枠組みができれば、我々が智恵を出して、具体的な運用面でのハードルは高く設定できる。結果的に海外渡航を促すようなことではなく、少なくとも国内で実施できる可能性があることは望ましいかもしれない。
   久保田 俊郎委員:関連学会である日本生殖医学会、日本受精着床学会、JISARTなどとの共同歩調も必要と考える。
   苛原  稔委員長:代理懐胎は最も慎重な対応が必要であり、解禁と受け取られないように意見を強調してまとめたい。法律案が固まったら、泌尿器科学会を含め、関連学会の円卓会議でも検討を行いたい。いずれにせよ、立法化そのものは希望するところであり、その後の運用面においても我々が協力して慎重に取り組むことのできる枠組みを望む。今までの議論を踏まえて、後日、理事長案を回覧するが、時間の都合もあり、理事会案件とすることをご了承いただきたい。

以上、委員からの賛同を得て、理事会へ報告し、今後は主に理事会で検討を行うこととした。

引き続き、平成25年度第2回倫理委員会議事録(案)【資料1】を確認して、定例の報告・協議事項に移った。
1.登録関係:(1)本会の見解に基づく諸登録<平成25年7月31日現在>(齊藤委員)
 齊藤委員より、登録・調査小委員会の諸登録について、【資料2】に基づき報告があった。2011年ART登録データ集計は、学会雑誌本年9月号に掲載予定、2012年データは、最終的に30万件以上の登録が予定されている。今年度の施設登録更新は19施設、安全管理調査表の回収も順調であることが報告された。

   澤 倫太郎委員:なぜ、ART実施件数は増えているのか?高齢者が増えているのか?
   石原  理委員:団塊ジュニア世代が40歳前後となり、ARTを必要とする症例も多いことが一因である。
   齊藤 英和委員:公的補助対象を42歳以下に制限しても、(年間の回数制限が無くなるので)件数は減らないと推測する。

(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について(平原委員)
 続いて、平原委員より、着床前診断に関する審査小委員会の結果【資料3】が報告された。
適応に関し、流産回数は適応を満たさないが明らかに染色体転座を有し習慣流産の懸念がある症例、(化学流産は回数に入れないことになっているが)化学的流産を繰り返し、かつ、血中hCG値が明らかに高い症例など、適応の再検討が必要と考えられる症例が増えていることが報告された。また、札幌医大は初申請で、生検は施設内で行うが、検査は外部(外国)で行うため、外注先の精度に関する証明書の提出を条件として承認としたこと、セントマザー産婦人科から、検査の外注に関する照会があったので、これに対する回答案を作成したことが報告された。

   苛原  稔委員長:化学流産の取り扱い、検査外注に関して、再度扱いを検討するべきと考えているのか?
   平原 史樹委員:以前検討した時には、化学流産を含めない結論であったが、施設、症例が増えて小委員会で判断に苦慮する事案が増えている。CGHによるPGDを許可したので、品質管理(外注先を含む監査)も明確な基準を示す必要性がある。加えてCGHは、PGSに極めて類似した結果が得られるので、改めてPGSに関して再討議する必要性も感じる。ARTは施設要件など制度設計が確立しているので、PGDも施設に関する制度設計を行う必要がある。情報を集めて再議論し、学会の立場を再確認してみる時期ではないか?
   久具 宏司副委員長:ART施設と検査施設を含めた基準、要件を検討する必要性がある。
   澤 倫太郎委員:外注でOKなら今後、多くのART施設でPGDが行われると思う。限定された施設で臨床研究として始まったPGDであるが、一般化する時期も近いと感じる。一方、CGHでの結果は、正常とは言えないが、解釈が困難で移植をためらう胚が増えることも懸念される。化学流産の定義以外にも重要な検討項目があるので、一度、枠を改めて議論し、学会全体の総意としていく必要がある。
   杉浦 真弓委員:精度に問題が無く流産が予防できても、高齢者の場合は移植中止が増えるだけで(PGDで良好胚が増える訳ではないので)、生児獲得の機会は増えないことを十分に患者へ説明する必要がある。若年が対象であるなら選べる胚があるので成功率は高くなるが、高齢患者に行うことが患者自身のためになっているとは思えない。欧米で一定の結論が出ているのに、患者に良いと思って実施している医師、受けている患者が多く、結果的にその施設のPRになっているのも問題である。
   苛原  稔委員長:評価、意義の解釈が曖昧なまま、実施している事実だけが積み重なることには懸念があるので、どういう方向で検討していくか、今の議論を踏まえて考えてみたい。実施を前提とはせずに、PGSを含めた生殖医療技術の評価、検討を行うことが必要と思われる。

(3)着床前診断の実施報告まとめ(平原委員)【資料3】
(4)着床前診断に関する申請書類のデータ解析のための臨時雇用について(平原委員)
5.セントマザー産婦人科医院からの検査の外部委託に関する要望について【資料7】
 引き続き平原委員から、着床前診断の実施報告まとめを行う予定であること、それに必要なデータ解析のための臨時雇用について、さらにセントマザー産婦人科医院からの検査の外部委託に関する要望について、協議の提案があった。

   平原 史樹委員:PGDは臨床研究として行っているが、学会としては結果をまとめたことが無かったので、今期、データ整理と報告の作成を予定したい。ついては、データ整理のための人件費を計上したい。
   落合 和徳前倫理委員会委員長:成果としてのデータ発表は学会からの報告の扱いであるので、業績として慎重に扱う必要がある。

議論の結果、結果報告のための人件費支出、セントマザー産婦人科医院への回答案が了承された。
続いて、3.「減胎手術」に関する日本産婦人科医会の現在の見解に関して澤委員から説明があった。【資料5】

   苛原  稔委員長:日本産科婦人科学会としてはコメントする立場にないが、日本産婦人科医会の見解に照らし合わせて、先日の受精着床学会での口演発表は、概ね問題の無いものと考えて宜しいか?
   澤 倫太郎委員:日本産婦人科医会の現在の見解とは矛盾しない。
   久具 宏司副委員長:異常と診断された児が、減数した児と一致しているか検証されていないことが懸念される。
   苛原  稔委員長:胎児診断に基づく減数の是非は、現在問いづらい状況なので、改めて、本会としては減数に対してコメントしない立場であることを再確認しておきたい。
   澤 倫太郎委員:さらに本会の意見として、世界に先駆けてART単一胚移植の原則により、多胎予防止の成果を上げていることや、排卵誘発による多胎予防に今後も取り組んでいくという姿勢を強調しておきたい。
   落合 和徳前倫理委員会委員長:本会では議論すらしてこなかった。現時点ではそれで良いと思うが、減数件数がこれだけある中で、本会が検討しないままで良いのかと思う。
   久具 宏司副委員長:これまでの減数に関する議論は医学的リスクを検討してきたが、今回は胎児適応による中絶の是非に触れざるを得ないので、学会で議論するのは難しい。
   石原  理委員:母体保護法に胎児条項が無いので、胎児適応の議論はしようがない。
   苛原  稔委員長:NIPTが認められている現在、論理的に議論がより難しい問題なので、本会としての意見をはっきりしておく必要がある。

 続いて、4.日本産科婦人科学会ホームページに掲載中の倫理委員会関連コンテンツについて【資料6】、桑原委員から説明があり、この機会に整理して、古いものは別の場所にデータ保存することとなった。
さらに苛原委員長より、6.「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解」ならびに「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」改定案に対してご意見を寄せてくださった会員への回答について【資料8】、7.障がい者団体からの「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」導入に対するご意見について【資料9-1、9-2】、8.(参考)着床前診断に関する一般からのご意見について【資料10】、9.関連報道記事(「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」、「卵子提供」関連、「減胎手術」、他)【資料11】、10.今後の審議事項について【資料12】の説明があった。

 以上で審議を終了し、次回委員会を11月19日18時より開催することを確認し、20:30に閉会となった。

【資 料:】
1.  平成25年度「第2回倫理委員会」議事録(案)
2. 「登録・調査小委員会」報告
3. 「着床前診断に関する審査小委員会」報告(議事録、答申書、審査対象外通知文書)
4. 第1回「生殖補助医療の法制化に関する小委員会」議事録
5. 医会提言(平成12年5月1日付け「日母医報付録」)、日本医師会母体保護法等に関する検討委員会答申(平成19年11月)
6. 日本産科婦人科学会ホームページ倫理委員会関連の掲載画面
7. セントマザー産婦人科医院からの要望、学会からの回答案
8. 会員からの見解改定案ご意見に対する回答文書
9-1. 日本発達障害連盟からの「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」導入に対する反対意見
9-2. 日本脳性マヒ者協会「全国青い芝の会」より、田村厚生労働大臣宛新型出生前診断に対する抗議文書
10. 着床前診断に関する一般からの参考意見
11. 報道記事など
12. 検討課題(案)

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