公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成25年度第5回倫理委員会議事録

更新日時:2018年8月2日

平成25年度第5回倫理委員会議事録

日 時:平成26年2月4日(火)午後6時00分~8時30分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」

出席者(敬称略)
   委員長:苛原  稔
   副委員長:久具 宏司
   主務幹事:桑原  章
   委 員:安達 知子、石原  理、久保田 俊郎、齊藤 英和、榊原 秀也、澤 倫太郎、
髙橋 健太郎、竹下 俊行、阪埜 浩司、平原 史樹、山中 美智子
欠席者:加藤 聖子委員、杉浦 真弓委員、関沢 明彦委員、矢幡 秀昭委員、小西 郁生理事長
 

 定刻に苛原委員長が開会を宣言し、平成25年度第4回倫理委員会議事録(案)および平成25年12月23日に行われた臨時倫理委員会議事録(案)【資料1】を確認した後、報告・協議事項に移った。

1. 登録関係
(1)本会の見解に基づく諸登録<平成26年1月27日現在>【資料2】
 齊藤委員より、登録・調査小委員会の諸登録について報告があった。ART件数は近年、毎年3万件程度の増加であったが、現在集計中の2012年は現時点で約32万件と、前年に比して約5万件増えていることが報告された。
(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について【資料3】
 平原委員より、着床前診断に関する審査小委員会の結果が報告された。
   平原 史樹委員:今回、反復流産で腕間逆位の症例が申請された。反復流産で均衡型転座を認める場合はPGDの対象としているが、腕間逆位は重篤な遺伝性疾患ではなく、反復流産の原因である可能性も極めて低いので、審査対象外とした。
   竹下 俊行委員:PGDに関する見解を改定した時、反復流産に対する着床前診断の適応となる染色体構造異常には、均衡型転座のみでなく腕間逆位などを含むと考えて「均衡型染色体構造異常」とした経緯がある。
   平原 史樹委員:特定の腕間逆位で流産が多いという報告もあるが、遺伝に関する専門委員から、普遍的に全ての腕間逆位で有意に流産が多いとは言えない、との指摘があった。
   久具 宏司副委員長:腕間逆位を一括して審査対象外にはせず、均衡型染色体構造異常の詳細を個々に検討した結果、今回の症例は流産との因果関係が乏しく非承認となった、としてはどうか。
(3)着床前診断審査後の調査、データ解析について【資料4】
 平原委員より、PGD審査結果のうち学会誌へ公開する内容について説明があった。
   平原 史樹委員:申請された症例の集計は資料4のとおりで、メディアには公開しているが、会員には公開されていなかった。施設名、疾患名は非公開とし、申請数、承認数などの年別総数を学会誌などに公開し、研究目的でのデータ利用は、利用申請があった場合に審議したい。
 委員から特に異論無く、了承された。

2. 委員会提案「医学的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存に関する見解」について【資料5】
 苛原委員長、桑原主務幹事から、会員からのコメントのまとめが説明され、各項目に関して順次審議を進めた。
□卵巣凍結を卵子凍結と別に扱う必要性
 卵巣組織と卵子を同時並行で採取、凍結することもあり、厳密に分けられない、研究段階ではあるが、触れないで良いとも言えない、などの意見があった。
□医学的適応の定義・範囲(非悪性腫瘍など)
 CMV感染症で放射線療法を行う場合、子宮内膜症手術症例も、卵巣機能低下例の適応となるとの意見があった。苛原委員長から、医学的介入がある場合の症例に対象を限定することとし、AMH低値例やターナー症候群などへの適応は今後の課題との意見があった。いわゆる社会的適応による卵子凍結は倫理的問題が少なく、生殖内分泌委員会でまとめられる臨床指針を参考にしながら実施されていれば、卵子凍結の実施を妨げるものでは無いとの意見があった。
□ 本法はがん治療に有益とは言えない
 「妊孕性温存と原疾患治療に有益」とは言えず、「著しい不利益にならない」との認識が妥当との意見が多数であった。
□ 腫瘍専門医の果たす役割
 「原疾患主治医から文書による適切な情報提供がなされていることを要す」と改めるべきとの意見があった。
□ がん治療施設側から見た医療連携情報の公開(対応可能な施設の提示)
 がん治療医と生殖専門医の医療連携に関する情報の公開(本見解に合致した施設のリストなど、卵巣機能温存に配慮したがん治療を行っている医療施設など)の医療連携に関する情報の公開と連携システムの構築を目指すこととなった。
□ 症例登録と臨床研究の必要性
 本法の有用性を検証するために、原疾患や本法実施内容を含めた症例登録の必要性を検討することとなった。
□既に未受精卵子凍結を実施している場合(医学的適応による場合)
 一部の施設からは既得権を侵すものであるとの意見もあるが、既得権が存在するとはいえない(平岩弁護士のリーガルオピニオン参照)。一方で、本見解以外の基準・適応による卵子凍結は、既に存在し、今後も行われると推測される。「社会的適応による未受精卵子凍結保存に関する診療指針」(生殖内分泌委員会において作成予定)に沿って実施され、あるいは早急に条件が整えられるのであれば実施は可能であり、既実施施設、被実施者、保存されている卵子の利益を損なうものではない。
□生殖医療専門医が必須であること
 苛原委員長から、平岩弁護士のリーガルオピニオンを参考に「望ましい」要件とするべきとの意見があり、久具副委員長からは、被実施者と実施施設の間で問題が起こった場合には、「望ましい」要件を満たしていないことが施設側にとって不利となる可能性もあることを認識するべきとの意見があった。
□院内倫理委員会について:院外の倫理委員会も可とした。
□ 保存中、移植前の確認
 凍結保存の期間に原疾患の病状が変化することがあるので、定期的に再同意を得ることを必要とした。
□ 移植時の条件を定めること
 がん治療後の移植時にも、がん治療主治医から移植・妊娠が妥当であると判断される時期に行うための医療情報の提供を求めることとした。
□がん治療前、途中での治療について
 融解・体外受精・移植はがん治療後だけでなく、治療前、途中の適切な時期に行われることもあるので、治療後のみに限定しないこととした。
□その他
 ICの内容に関しては 注釈で列記することとした。誤記を訂正した。(「文章」→「文書」、「破棄」→「廃棄」、「意志」→「意思」)
 訂正した内容を各委員に再度回覧したうえで、2月の理事会で協議する予定となった。加えて、腫瘍関連の学会と意見調整も行う予定となった。

3. 各種見解における「婚姻」に関する記載とその変更について【資料6】
 苛原委員長から、ARTに関する見解に含まれる婚姻に関する記載とその変更案について、これまでの経緯、特に1月6日の報道を受けて前回の常務理事会でもう一度、倫理委員会で検討するよう指示があったことの経緯が説明された。
   久具 宏司副委員長:現在の変更案どおり「体外受精・胚移植に関する見解」のみを変更すると、事実婚での胚凍結が不可能となる恐れがあり、それは我々の意図するところではない。では、凍結保存に関する見解も変更しようとすると、うまく表現できない。形式婚では無いので、いつ結婚し、いつ別れたかはだれにも判らない。ならば、なにも変えず、再度2005年の理事会確認事項を再確認すればよろしいのではないか。民法の改正(遺産相続上の不平等の解消)と本見解を改定する趣旨は異なる。
   苛原  稔委員長:平岩顧問弁護士からの意見でも、今回の最高裁判決は法律婚の尊重と遺産相続における嫡出子、非嫡出子の平等原則に基づくものであり、報道にあったような「体外受精における事実婚の追認」という解説は何らかの誤解と思われる。本会が「婚姻」の文言を外す根拠としては、以前から本会では夫婦としての実体があり、夫婦の子として育てようとする意思があることを推定できる場合には体外受精を実施していること、さらに、夫婦としての実体を持つ事実婚が日本の社会の中でそれなりに認知されるようになったという実体を考慮している。いずれにせよ見解の変更に際しては見解間の整合性を検討する必要がある。
   久具 宏司副委員長:「事実婚」という言葉は「内縁」と実態は同じで、法律用語は「内縁」を用いる。事実婚の多くは夫婦の実体があり、婚姻する意思はあるが、理由があって法律婚をしていない、できない場合を指す。しかし最近は「事実婚主義」という言葉もあり、法律的に結婚する意思が無いことを指す場合もある。「事実婚での体外受精を認める」ということは「内縁関係での体外受精を認める」と言うに等しいことを認識するべきであるし、事実婚主義に本会が賛同しているような印象を与えることは慎むべきである。実態としては事実婚でも体外受精を認めているので、見解を変える必要性を感じない。
   安達 知子委員:文言を「被実施者の夫婦関係の継続期間」程度に柔らかくするのが適切ではないか。
   石原  理委員:見解に「婚姻していること」と明記しながら、事実婚での体外受精を認める解釈・運用に問題がある。今回は「結婚」という文言で、この矛盾を解消するべきである。
   澤 倫太郎委員:今回の最高裁案件は重婚的内縁関係にある案件で、子の平等は認めるとしても、重婚を認める立場では無い。一般社会ではそのような事も混在していることを認識しておく必要がある。
   阪埜 浩司委員:個人的には久具副委員長と同じ考えであるが、既に理事会で承認されている見解の改定を、報道などの影響で撤回するのは適切で無い。本会は、婚姻関係にあることを確認することが事実上困難な案件もあるので、会員を守る意味でも、かなり前から実態として事実婚での体外受精を認めてきた。今回の報道の誤りは2点あり、これから適応を拡大しようとしているわけではない(既に事実婚でも実施している)ことと、最高裁判決がきっかけになった訳でもないこと、この2点を是非修正していただきたい。
   苛原  稔委員長:前回の常務理事会でも、2005年理事会確認事項は再確認され、事実婚でも体外受精によらなければ子供を授かれない夫婦に対して、医の倫理として、体外受精を実施することに異論が無いことを確認している。夫婦であることを判別する困難性があるとしても、夫婦であることは必須である。独身は適応外である。貴重な意見をたくさんいただいているので、婚姻という言葉を外すコンセンサスが得られている前提で、体外受精、凍結双方の見解の整合性がとれる形で変更をしたいと考える。もうしばらく各方面の意見を聞いて、会員からの意見も聞き、来年度中に結論を導き出したいと考えている。

4. 再生医療等の安全性の確保等に関する法律について【資料10】
   苛原  稔委員長:11月に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が成立し、1年以内に施行される予定となった。必要な政令を定めるにあたり、厚労省担当官から本会に概要の説明があり、産科婦人科で行われている医療のなかで「再生医療等技術」に該当するものがあるか検討を依頼された。生殖補助医療は対象から除外される予定であるが、問題がないかも検討を依頼された。法案によると「再生医療等技術」の範疇とされる医療は①人の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成、②人の疾病の治療又は予防と定義され、その詳細を政令で定め、用いる細胞の種類によりリスクを3段階に定義し、各々の手続き方法も定義される予定とのことであった。3月中に回答を求められている。具体的には卵子の体外活性化治療は該当するとのことであった。
   石原  理委員:幹細胞などを使った研究・医療技術開発に関しては、樹立から使用までのすべてを含むいわゆる「ヒト幹指針」が作られているので、政令では「ヒト幹指針」との整合性が求められることとなる。この法律は「人体に使用する」部分だけを扱ったもので、不十分な点が多々ある。しかし「ヒト幹指針」で配偶子作成は許可されているが、受精・胚作成は禁止されているので、幹細胞を用いた医療に関する帰着点は自ずと決まっていると考えられる。むしろ、通常の配偶子(幹細胞に由来しない)を操作・治療目的で使用することが本法律の対象とされる懸念があるので、十分に検討して、申し入れを行うことが必要である。生殖補助医療は除外されるとなっているが、人工授精は通常ARTに含まれないので、その点でも明確にしておいたほうが良いと考えられる。
   安達 知子委員:現在の「ヒト幹指針」では、幹細胞から精子を作成し人工授精をすることの可否はどうなっているか?
   桑原  章委員:採卵した卵子を加工して卵管内に移植する場合はART(GIFT)なので可能なのか?
   石原  理委員:胚を作成することが許可されていないので、胚を子宮に戻す是非は議論さえされていない。従って、精子を子宮に戻すことも議論すらされていない。卵子の移植も詳細は未だ検討されていない。いずれにせよ、患者さんの安全確保を最優先にしつつ、研究の発展が阻害されないようにすることが重要である。
   澤 倫太郎委員:この法律は、今、目の前にある医療の安全性を考えて作られたと考えられる。生殖(補助)医療は次世代の安全性も考慮する必要性があるため、この法律にはなじまないので、除外されるべきであると申し入れていただきたい。
   苛原  稔委員長:3月の常務理事会までに通信で回答案を検討いただくこととしたい。

5.「PGSに関する小委員会」の立ち上げについて【資料7】
 苛原委員長から、平成25年12月23日にPGSに関する公開シンポジウムを行い、様々な情報と意見が集まったことが報告された。PGSの実施を前提とはせず、議論を深めるために「PGSに関する小委員会」を立ち上げること(臨床遺伝の専門家として、神奈川県立こども医療センター遺伝科の黒澤 健司先生と東京女子医科大学統合医科学研究所の山本 俊至先生も、オブザーバーとして参加する)が提案され、了承された。尚、第1回委員会は3月12日に開催予定となった。

6.生化学的妊娠の扱いを検討する「着床前診断ワーキンググループ」について
   竹下 俊行委員:平成22年にPGDに関する見解を改訂した際、生化学的妊娠は流産回数に含めないことを確認した。最近、hCGを投与していないART周期で血中hCG値が明らかに高いがGSは検出されない生化学的流産を5回繰り返す症例で、かつ均衡型転座を有する例が審査対象となり、小委員会ではこの症例をPGDの対象として承認することとなった。このような経緯もあり、改めて生化学的妊娠の扱いを検討する目的で「着床前診断ワーキンググループ」を1月30日に開催した。杉浦委員からは生化学的妊娠は疾患とは言えず、臨床流産とは異なる現象であるとの意見があった。杉委員、中塚委員からは反復生化学流産例と反復臨床流産例での検査異常値の出現頻度は変わらず、連続した疾患との意見があった。加藤委員からはhCG非投与ART妊娠の膨大なデータから胚移植後7日目のhCG値が50IU/L以上あると50%が臨床妊娠になる、80IU/L以上はほぼ全例が臨床妊娠であると報告された。次回(2月27日予定)、血中hCG値が一定基準を満たす場合はGS未確認でも臨床妊娠と見なすか否かを検討することとしている。一方、均衡型転座を有する生化学的流産反復例に関する臨床研究を行ってはどうかとの意見も出ており、検討予定である。
   安達 知子委員:hCG投与例では紛らわしい例があるので、定義をしっかり行っていただきたい。

7. 倫理委員会主催「『生殖医療に関する遺伝カウンセリング受入れ可能な臨床遺伝専門医』認定講習会」について【資料8】
 平原委員より、開催予定日と演者の案が示された。今回は、出生前診断に関する内容も含める予定である趣旨が説明された。

 以上で本日の審議を終了し、次回委員会は4月2日に開催することを確認し20:30に閉会となった。

 

【資 料:】
1.平成25年度「第4回倫理委員会」議事録(案)、平成25年度臨時倫理委員会議事録(案)
2.「登録・調査小委員会」報告
3.「着床前診断に関する審査小委員会」報告(答申書、照会文書、議事録)
4.着床前診断審査後の調査、データ解析について(案)
5.委員会提案「医学的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存に関する見解」(案)、会員からのご意見一覧、平岩顧問弁護士からのリーガルオピニオン
6.各種見解における「婚姻」に関する記載とその変更について(案)、久具副委員長のご意見、平岩顧問弁護士からのリーガルオピニオン
7.PGSに関する小委員会メンバー一覧
8.遺伝講習会開催概要(案)
9.報道記事など
10. 平成26年1月17日 厚生労働省との再生医療に関する面談資料

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