公益社団法人 日本産科婦人科学会

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平成30年度臨時倫理委員会議事録

更新日時:2019年5月7日

平成30年度臨時倫理委員会議事録

日 時:平成30年12月25日(火)午後6時30分~8時35分
場 所:日本産科婦人科学会事務局会議室

出席者(*=着床前診断に関する審査小委員会委員)
   委員長:苛原  稔
 副委員長:三上 幹男
   主務幹事・委員:桑原  章
   委 員:石原 理、織田 克利、河端 恵美子、久具 宏司、倉澤 健太郎、黒澤 健司*、
     齊藤 英和、榊原 秀也、佐々木 愛子*、佐藤 美紀子、澤 倫太郎、杉浦 真弓、
     須郷 慶信*、関沢 明彦、竹下 俊行、寺田 幸弘、松尾 真理*、山上 亘、
     山中 美智子
 オブザーバー 理事長:藤井 知行、顧問:吉村 泰典
 欠席者:桑原 慶充、阪埜 浩司
<敬称略>
 

 定刻に苛原委員長が開会を宣言し、協議事項に移った。

1. 着床前診断の適応(遺伝性疾患の重篤性)について【資料1、資料2、資料3】

 苛原  稔委員長:着床前診断の適応に関する議論を深めるため、倫理委員会および着床前診断に関する審査小委員会のメンバーにお集まりいただいた。加えて、これまでの経緯を知る在京の歴代倫理委員長にもご案内し、吉村先生にご参加いただいている。まず、これまでの経緯に関して、吉村先生からご発言をお願いしたい。
 吉村 泰典顧問:着床前診断の見解策定にあたり、適応を定義することは難しかった。当時は、主にデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する着床前診断の適応基準が検討されていた。当初、委員会では、症例ごとの重篤性による判断では、審査する個人個人の判断基準が異なるので、むしろ、「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」と、適応となる診断名を明示してはどうかとの意見が多かった。一方、障害者団体からは、診断名を明示することは好ましくないとの意見が強く寄せられた。公開講座を数回開催し、障害者団体の理事会に出向いて意見交換を行い、関連学会とも調整し、数年間検討を重ねた結果、見解では、適応を「重篤な遺伝性疾患」とした。そして、具体的な重篤の基準は、当時、遺伝医学関連10学会*から示されていた遺伝診療のガイドラインの中にある出生前診断の適応基準「新生児期もしくは小児期に発症する重篤な遺伝性疾患」を参考に、「成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が出現したり死亡する疾患」と定義した【資料6:当日配布資料】。「成人に達する以前に日常生活を損ない死亡する疾患」との意見もあったが、当時デュシェンヌ型筋ジストロフィーでも30-35歳まで生存可能な時代であったので、「日常生活を強く損なう症状が出現したり死亡する」と、必ずしも死亡にこだわらないこととした経緯がある。専門委員会では有識者の意見も聴取しており、その一人に、国立精神・神経センター総長の埜中先生がおられたことを記憶している。
 (*遺伝医学関連10学会:日本人類遺伝学会、日本遺伝カウンセリング学会、日本遺伝子診療学会、日本家族性腫瘍学会、日本産科婦人科学会、日本小児遺伝学会、日本先天異常学会、日本先天代謝異常学会、日本マス・スクリーニング学会、日本臨床検査医学会)
 今回の再検討のきっかけは、新生児期に失明する疾患と聞いた。失明をどのように捉えるか議論を深めていただきたいが、視覚を失うことが、「成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状」と捉えるならば、承認されても矛盾しないと私は思う。なぜなら、死亡に至らないとしても、個人ごとに意見は異なるであろうが、日常生活を強く損なう症状を有する場合も適応としていたからである。そして今後、視覚以外の日常生活を強く損なう症状を伴う遺伝性疾患に対する適応を検討する場合は、症例ごとに検討することが妥当と考える。
 苛原  稔委員長:吉村先生から、当時の経緯に関するご説明をいただいた。ひとまず、吉村先生に対するご質問をいただきたい。
 佐々木 愛子(着床前診断に関する審査小委員会)委員:当時、既にあった出生前診断の適応を参考にしたとのことであるが、その出生前診断の適応が決まった経緯は?
 吉村 泰典顧問:遺伝医学関連10学会で決めたものであり、産科婦人科学会で検討したものではなかったと記憶している。重篤の解釈は人それぞれであり、当時の「重篤な遺伝性疾患」としてのコンセンサスはこのようなものであり、個々の解釈差がありながら、現在に至っている。
 山中 美智子委員:当時、着床前診断の有効性や安全性に不明点が多いため、対象を限定したと考えることはできるか?
 吉村 泰典顧問:そう考えてよろしいと思う。
 久具 宏司委員:10年以上に及ぶ重篤性の議論の発端は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーであったことが確認できた。10年前の申請症例は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーが多かったので、「デュシェンヌ型筋ジストロフィーであれば、どのような状態を重篤とするか?」という重篤性の基準で妥当な判定を行うことができたのである。しかし現在、様々な疾患が申請されている状況では、異なる尺度があっても良いと思われる。
 榊原 秀也委員:これまで長い間、着床前診断は、死亡に至ることを最も重篤とし、死亡に至らないまでも、人工呼吸器を必要とするなど、生命維持が極めて困難な状態を目安として、極めて限定的に許可してきた経緯がある。審査小委員会では、今回の疾患は失明するとしても、死亡や生命維持困難となる可能性は極めて低く、許可できないと判断し、既に回答している。その回答に対して、患者団体およびPGD申請施設から意見書が提出されたので、改めて学会からの回答案を前回の倫理委員会で検討したところ、様々な意見があったので、今回、臨時倫理委員会を開催していただいたという経緯である。今回、吉村先生からご説明いただいたこれまでの経緯を踏まえ、今後の審査では、重篤性に関する解釈を改めてみつめ直し、審査の実務にあたる必要があると感じる。
 杉浦 真弓委員:2004年に、慶應大や当院から申請があった頃(大濱先生が委員長をされていた時代)に、重篤とは、20歳までに寝たきりまたは死亡することと明確に定義したと記憶しており、吉村先生の解釈とは少し一致しない点を感じる。現在の我が国では、やはり重篤とは命に関わることであり、失明を重篤とすることは受け入れられない考え方も多いと思う。これまでの経緯、現在の状況、そしてマスコミ、障害者団体など、一般の受け止め方などを慎重に検討する必要がある。
 (吉村先生 退席)

 苛原  稔委員長:これまでの経緯、長年維持してきた基準を尊重する意見、そして、現在や今後を見据えた意見をいただいた。本日は、着床前診断に関する審査小委員会、倫理委員会のメンバーの皆さんから多くの意見をいただきたいと考えている。本日の議論を踏まえ、理事会に報告し、承認を得ることが最終的に必要となる。10年前の基準に戻す必要もなければ、今回の様に、患者団体から意見があったから変更するということでもない。網膜芽細胞腫のみを検討するのではなく、今後の判断基準の基本となるコンセンサスを検討していただきたい。

(以下、出席者が順番に所見を述べた)
 倉澤 健太郎委員:検査方法、治療方法が変わり、以前は認められなかった疾患でも、認められることはある。今回の症例に関して、再度、小委員会で検討も可能であると考えられる。しかし、当面、見解を変更する必要はないと思う。
 関沢 明彦委員:重篤性の判断は、これまで医師の視点から定義されてきたが、今後は、患者の視点から再検討する必要もある。今回の症例のように、患児を養育している親がその疾患を理解し、日常生活を強く損なっていると実感し、PGT検査にも理解が進んでいるのであれば、十分な遺伝カウンセリングを前提に、許可できると考える。この疾患は、出生前診断も実施されており、見解の解釈とも矛盾しない。
 寺田 幸弘委員:RBより重篤な遺伝性疾患は多数あり、RBを許可した場合には、従来の基準、適応範囲に変更が生じる。当面は、個々に判断することになるが、見解は現在のままで良いとしても、判断基準について、内規を再検討する必要がある。
 齊藤 英和委員:PGTが始まった当初は、技術の信頼性などが未確定であり、慎重に適応を検討してきた。信頼性がある程度確立した現在、適応基準を見直す必要がある。利用できる、信頼できる技術の恩恵を享受できる権利が患者にあることを、認める必要がある。
 須郷 慶信(着床前診断に関する審査小委員会)委員:着床前診断は、学会見解で定義されているが、出生前診断は学会が管理する状況ではないので、両者を同列に議論することには無理がある。また、各ART施設の倫理審査委員会での審査において、遺伝学や疾患の専門家も参加して、十分に倫理的、科学的議論がなされていないことも懸念している。
 杉浦 真弓委員:患者、家族のみでなく、多くの人がRBを重篤な疾患であると感じるかどうか、疑問がある。患者団体の意見があるとしても、全ての患者が賛成しているわけではない。これまで我々は、そういった少数の反対意見を尊重し、判断してきたことも認識していただきたい。
 藤井 知行理事長:医師、学者の視線で、少数意見も尊重して慎重に判断することも重要であるが、実施を希望する大多数の患者の意見を無視することは、情報公開が進んだ現在、副作用を生んでいる。一方的に禁止すると闇施設が増え、むしろ患者の権利が損なわれる。大多数が賛成しているのに、少数意見を採用することは、全体の適正を損なう懸念がある。
 三上 幹男副委員長:これまで、医師、専門家の意見で判断してきたが、今後は子供を産み育てる親の意見も尊重しなければならない。疾患があっても生みたいという個人の意見も尊重される一方で、避けたいと感じている親の意見を一瞥することは、倫理的に許されない。十分な遺伝カウンセリングを受けたうえで、この技術を利用できる権利を尊重するべきである。適応基準は、一例ごとに議論する必要がある。
 石原  理委員:見解や内規の文章にとらわれる、教理主義的な判断は避けるべきであり、見解などを作成する途中段階で、様々な意見があったことに配慮し、文章の受け止め方にも様々な意見があることを前提にするべきである。これまでの内規の解釈のみをもって、患者が希望し、担当医師も患者団体も意見がある状況を否定することには、倫理的な誤りがある。内規を見直し、今後は、個別に判断することが適切であると思われる。
 織田 克利委員:一定の基準を先に決めることは難しいので、今後は、個々の遺伝性疾患の申請が上がってきた段階で、個別に判断することが重要だと思う。
 苛原  稔委員長:個別に判断すると、症例ごとに判断基準が揺らぐ懸念がある。
 石原  理委員:治療法、予後の改善もあり、基準を決めても、疾患によっては申請時点で変化している可能性があるので、一律な基準を定めることは難しい。
 松尾 真理(着床前診断に関する審査小委員会)委員:小児科医として、遺伝性疾患の患者個々がおかれている状況を考えると、その患者にとっては「最大に重篤な状態」であり、他人がその状況を重篤でないとは言えない。筋ジストロフィーの予後が改善したとはいっても、やはり、通院やハンディを抱えて生活していく重篤さは、想像以上のものがあり、重篤であることには変わりない。しかし、すべての遺伝性疾患患者さんが重篤と訴えたからとすると、全例が適応になりかねない。RBの患者さんにとっての重篤さと、筋ジストロフィーの患者さんの重篤さは、ご本人にとってはいずれも重篤であるが、私から見るとその重篤の程度は同じではない。その時代の倫理観で判断するしか方法はないが、一方的な意見に流されることは危険である。何らかの見解を持たないと、現存する患者の立場を危ういものにしかねない優生思想と指摘される懸念がある。
 藤井 知行理事長:生まれてくる遺伝性疾患児が減ると、その分、現存する患者さんへ医療資源を重点的に注ぐことができるので、出生前、着床前診断を行うことが、今いる患者の立場を脅かすことにはならないという考え方もある。
 松尾 真理(着床前診断に関する審査小委員会)委員:多くの患者がPGTを行う時代になってしまうと、受けなかったことで責めを負ったり、遺伝性疾患児を生んだことに罪悪感を感じる懸念がある。実際の患者家族でも、本人は受けたくないが、家族からのプレッシャーがあり、実施せざるを得ないと言った女性患者もいる。実施できないから可哀想であるという考えも、公平さを欠いている。
 河端 恵美子委員:助産師の立場で見ると、なぜ産婦人科医のみでPGTの適応を判断しているのか疑問を感じる。一般の方々は、悩んでいるお母さんが希望しているのであれば、許可してよいのではと考えているのではないか。希望する患者さんが多いことは、先日の公開シンポジウムでも明らかであった。個別の線引きに関しては 個々に判断することになると思う。
 佐々木 愛子(着床前診断に関する審査小委員会)委員:遺伝カウンセリングの原則は、患者が十分な知識を持ち、自己決定することをサポートすることである。重篤性に関して画一的に判断することは、患者の自己決定権を尊重する、現在の遺伝カウンセリングの原則とは矛盾している。ハンディを持つ者が生きていく権利を尊重する一方、検査を希望する者の権利も尊重されなければならない。全員無料でNIPTを行える国でも、全例は希望しないと聞いている。その国ではダウン症の出生率は減少したが、ゼロにはならず横這いであると聞いた。疾患があっても生みたいという患者の自己決定権も、避けたいと思う意思も、尊重されている。今回のRB症例は、第一子はほぼ失明している状況での通院が続いており、もう一人同じことを繰り返せとは誰も言えない。出生前診断をすればよいとか、海外に行けば良いと言った意見もあるが、裕福であったり、思い切った判断が出来る人しか選べない状況は避けるべきである。線引きは難しいが、例えば、重篤な疾患児を生んだ経験がある場合に限るなど、何らかの納得できる線引きは必要であると考えている。
 黒澤 健司(着床前診断に関する審査小委員会)委員:デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する歴史的な基準を議論していたが、疾患名を名指しすることの問題点から、「重篤性」という言葉に落ち着いたことは理解できた。重篤の定義は一般には難しいが、デュシェンヌ型は、比較的単純である。遺伝学的にも医療的にも、診断は明確である。浸透率100%、遺伝子型と表現型の一致率が高く、重篤な遺伝子変異があるのに元気でいることはありえないし、多臓器にわたる異常が発現する。RBは、浸透率100%ではなく、遺伝子変異と表現型の一致率も不明確で、骨肉腫などの稀少腫瘍を発症する可能性があるとはいっても、その確率は、極めて低い(多くは2次発がんとも言える)。従って、遺伝学的に考えると、RBは、この症例も含めて、重篤性による適応があるとは認められない。患者団体といっても、メンバー(親)は患者ではない。患者団体に所属していない患者の親の意見は反映されているのか、眼科主治医が、浸透率、遺伝子型と表現型の相関関係などを理解しているのかも疑問であり、今回の症例は、適応外と言える。
 佐藤 美紀子委員:これまで3年間、審査委員を務めていた経験から、日産婦の重篤の定義を変更する必要はないと思う。しかし、近年の一般社会の要請、診断技術や遺伝医療環境の変化を考慮すると、死亡に限りなく近い基準で重篤と判断していた現状を変えていかないといけないと思っていたので、今回の議論は、良い機会であると思う。判断基準として、当事者・患者の意見が尊重されるべきであると思う。
 山中 美智子委員:技術が完成しつつあり、患者は、その恩恵を受けたいと考えている。重篤性の判断は、医師が行うことではない。技術の限界があるとしても、それは科学の話であって、どのように利用するか、どのように適応を決めるかは、倫理上の問題である。一概に、99%発症しないから適応ではない、とは倫理的に言えない。適切な遺伝カウンセリングを前提に、技術の限界などを理解したうえで、その技術を選びたいと考えた時に、それを阻む権利は誰にもない。内規などに沿っているかどうかで判断するには限界が来ているので、改める機会だと思う。一方、スクリーニング的に、多くの人が考えもなく検査を受ける事態にならない配慮も必要である。
 山上  亘委員:これまで症例ごとに検討しているのは、やはり、個別の重篤性や事情を配慮して判断しているのであって、一定の基準を定めることが難しいからなのではないか。判断基準が症例ごとに変動すると大変であるが、やはり、個別に検討することが必要で、結果として基準が変動することも止むを得ない。また、我々が「社会が変わったので解釈も変える必要がある」と思っているとしても、果たして一般社会や患者さんの意識が、どのように変わっているのか、調べる努力も必要であると思う。
 澤 倫太郎委員:見解を作る当時は、倫理委員会幹事であった。患者団体からも、着床前診断が選択肢の一つとしてあるのは良いことである、という意見があった。患者、家族が決定することが重要であるとの意見があったと記憶している。
 竹下 俊行委員:ASRMが公表している、成人発症型遺伝疾患に対するPGT-Mに関する見解では、適応基準を明確にせず、遺伝カウンセリングを適切に行い、自己決定を支援することが重要であると述べられており、本会も、その点に重点を置くべきであると考える。
 桑原  章委員:RBより重篤な遺伝性疾患が多数あること、そして、その多くが成人発症型の疾患や遺伝性腫瘍であることも認識しておかねばならない。そもそも見解は「重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある遺伝子変異」を検査対象としており、成人発症型の疾患は、対象となり得ない。小児期発症では、PGT希望者は保因者であることが多く、患者団体と意見が対立しがちであったが、成人発症型では、実施希望者も患者であることが多く、患者団体の立場も異なってくる可能性がある。RBだけの線引きだけを検討するのではなく、見解の根本的な見直しが必要となる時期が近づいている。
 苛原  稔委員長:全ての委員からご発言をいただいた。これまでの発言を聞いて、意見のある方からご発言いただきたい。
 松尾 真理(着床前診断に関する審査小委員会)委員:患者の自己決定権というが、実際に検査を受けているのは胚であり、患者ではない。患者の意思を尊重するべきとの意見は理解できるが、声を発することのできない胚の立場を尊重することも重要である。PGTを実施する産婦人科医の意見だけではなく、多くの方の意見を集約しながら検討することが必要である。
 久具 宏司委員:胚の立場に立つことが必要かどうかは判らないが、胚の立場で考えると、異なった評価となることも忘れてはならない。
 石原  理委員:胚が命であるかどうか、胚の地位に関する検討は感情的な議論となり、ましてや胚との合意が得られることはなく、結論は得られない。胚を人として扱い、操作しないこと、つまり技術的モラトリアムを行うことは簡単であるが、それは何も生まない。多くの先進国では現在、胚の地位に対するモラトリアムを行い、技術的発展を促してきた。学術団体が形而上学的議論にとらわれることは避けるべきである。
 藤井 知行理事長:ARTで胚を形態評価し、移植胚を選んでいることは問題にならず、PGTは問題となるのか?
 松尾 真理(着床前診断に関する審査小委員会)委員:着床の可能性、形態的評価という属性で胚を選択することと、疾患を有する胚を選択することとは、同義ではない。
 山中 美智子委員:実際にNIPTに関する遺伝カウンセリングを行っている。「安易に中絶を選んだ」と言われるが、各患者個人は、安易な判断を行っているわけではない。人それぞれの悩みや価値観があり、判断していることに対して、「あなたの判断は倫理に反している」と、我々が言うことはできないと思う。他人が可否を決めて、押しつけることはできない。一方、社会全体として、全員が受けなければならないような雰囲気を作らないことが、最も重要であるとも思われる。
 関沢 明彦委員:オランダでは、2017年から全例無料でNIPTを出来るようになったが、実際の希望例は34%で、57%は希望しない意思表示があった。英国やデンマークに比べて、オランダの希望率が低い理由は精査中であるが、米国でも州による差があり、環境に左右されるようである。オランダではハンディをもつことに対する受容が高いとの意見も聞いた。いずれにしても、十分なカウンセリングが整えば、しっかり自己決定できることが示されており、希望しても選べないのではなく、希望があれば実施できるように環境を整えることが重要であると感じる。
 桑原  章委員:いままでのPGT-Mに関する審査の問題として、ARTクリニックで遺伝医療や遺伝学的診断に関する専門家が不在のまま、カウンセリング、倫理審査が行われ、審査小委員会で差し戻すことが少なからず発生している。現在の見解は、遺伝医療の重要性が認識される前に成立しており、第三者遺伝カウンセリングが必須とはいえ、初期対応時点での遺伝学の専門家の関与を明確に定義できていない。PGT-AはARTの専門家でほぼ対応できるが、PGT-MはARTの専門家では判断できないことが多く含まれており、理想的な遺伝カウンセリングが行われていないことを懸念している。
 須郷 慶信(着床前診断に関する審査小委員会)委員:以前は、ART施設で倫理審査を行った後に、本会委員会で審査していた。今回の見解改訂で、各施設での倫理審査前に、本会で重篤性と診断技術に関する科学的妥当性を審査し、その後、各施設で実施の可否を倫理審査することとなった。将来的には、本会の判断を専門家の意見として参考にしつつ、最終的には、各施設の倫理委員会が責任を持って判断していく時代になるのではないかと考えている。  榊原 秀也委員:次回PGD小委員会で、本日いただいた意見を整理し、詳細を検証して、次回倫理委員会までにまとめたい。
 苛原  稔委員長:3月2日の理事会で承認を得るためには、1月29日のPGD小委員会、2月12日の倫理委員会で一定の結論を得ることが必要であるので、よろしくお願いしたい。
 

2. 倫理委員会の体制について
 苛原委員長より、倫理委員会の体制【資料4】について再確認があった。

3. PGT-A公開シンポジウムの総括について
 苛原委員長より、公開シンポジウム【資料5】の状況が報告された。杉浦先生を中心に、最終データの投稿と、学会内部での委員会報告を行うことが報告された。

4. NIPTについて
 苛原委員長より、1月9日に、次回NIPTに関する検討委員会が開催予定であること、医学会から、未認可施設でのNIPTに関する注意喚起を促す声明が公表される予定であることが報告された。

5. その他
 苛原委員長より、子宮移植に関する医学会での検討に関しては、現在、医学会からの提案を待っていることが報告された。

 以上で予定の協議を終了し、20時35分に会議を終了した。

【資料】
1. 学会機関誌第69巻第9号掲載:着床前診断に関する審査小委員会報告1999~2015年度分の着床前診断の認可状況および実施成績
2. 12/8開催平成30年度第3回理事会資料:着床前診断に関する審査結果の報告(現在までの累計)
3. 「着床前診断」に関する見解(平成30年6月改定版)
4. 倫理委員会規程(平成29年8月26日改定版)、当日配布資料
5. PGT-A公開シンポジウムプログラム
6. 当日配布資料:遺伝医学関連10学会の出生前診断の適応基準とPGDに関する本会の内規

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