生まれてくるこどものための医療に関わる「生命倫理について審議・監理・運営する公的プラットホーム」設置についての提案について(第3報)
公益社団法人日本産科婦人科学会 理事長 木村 正
臨床倫理監理委員会 委員長 三上 幹男
同副委員長 鈴木 直
平素より本会の運営に多大なるご支援を賜りまして、誠に有難うございます。
日本産科婦人科学会(以下本会)では、過日まとめました、生まれてくるこどものための医療に関わる「生命倫理について審議・監理・運営する公的プラットホーム」設置について、7月25日に加藤勝信現厚生労働大臣、7月29日に野田聖子元こども家庭庁担当大臣、に提出し、その必要性を訴えてまいりました(持参資料1)。
以下がその設置の趣旨になります(資料2,3)。資料2,3は後日送付いたしました。以下をご参照ください。
設置の趣旨
「生まれてくるこども」のための医療(生殖・周産期医療)の中で、特に生殖医療は、日本の危機的な少子化の現状においては国家の存亡にもつながる重要な医療として認識されている。2019年のデータによれば、14人に一人は体外受精・胚移植で妊娠した児であり1、エコチル調査では、出生児の5人に一人は何らかの不妊治療を受け出生した児でもあると推定されている2。生殖・周産期医療の中には、着床前遺伝学的検査、出生前遺伝学的検査、医学的適応のない卵子凍結、第3者からの提供が必要な生殖補助医療(特定生殖補助医療)にとどまらず、死後生殖等、社会に対して大きな影響を与える倫理的課題も多い。これまで、日本産科婦人科学会(以下本会)が、これらの課題に関する学会の見解を学会員に対して公表し、その遵守を求める対応を実施してきた3。さらに、今なお生殖補助医療を行う施設認定(体外受精・胚移植に関する登録施設)や、症例登録(ARTオンライン登録)等も本会が担当しており、2022年4月から始まった不妊治療に対する保険適用の生殖補助医療に係る医療技術等の評価等の要件(厚生労働省)にも含まれている。
しかしながら、本会が行ってきた見解策定・遵守促進(生命倫理に配慮するとともに、国民の理解を得るよう努める)、生殖補助医療の施設認定・症例登録事業(生殖補助医療の適切な提供等を確保するための施策)は、現在、一学会のプロフェッショナルオートノミーの範疇を大きく超えるものとなっている。しかも、実際にこの2点は、生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律(令和2年法律第76号; 2022/12/4成立、2022/12/11公布)の中にも国の責務(第4条)として明記されている。そして今後、遺伝医学・テクノロジーの進歩に伴い、さらに多くの課題が継続的に発生するであろうことは容易に予想される。
以上から、本会は、①国が法制上の措置を行い監理すべき事項と、②国が直接法制上の措置を行うことが難しい事項を、初めに明確に分離し、特に②に関して、広く国民の意見を聞くために当事者・一般・専門家による開かれた議論による指針決定を行い、その指針に沿った監理運営を行っていく公的なプラットホームの設置が急務であると考える。
そこで、「生まれてくるこども」のための医療全般に関する公的なプラットホームとして、これらの医療に関する生命倫理について、継続的に方向性を議論し、国民的合意を図る専門委員会A(指針の決定)、Aの専門委員会で示された指針に従い監理・運営を行う運営委員会Bを、こども家庭庁内あるいは公益財団法人等(医療機能評価機構などがモデル)で組織することを提案する。
1 日本産科婦人科学会.倫理委員会登録・調査小委員会データブック.
https://www.jsog.or.jp/medical/committee-12#houkoku
2 PLoS One. 2019 Aug 2;14(8):e0220256.doi: 10.1371/journal.pone.0220256.
3 https://www.jsog.or.jp/medical/statement-3