日 時:平成22年6月7日(月)午後6時~8時
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」
出席者:敬称略
[委員長];嘉村 敏治
[理事長]:吉村 泰典
[副委員長];久具 宏司
[委 員]:安達 知子、齊藤 英和、榊原 秀也、澤 倫太郎、杉浦 真弓、竹下 俊行、津田 尚武、
平原 史樹、山中 美智子
開会
会の冒頭、嘉村委員長より開会の挨拶があり、委員会が開始された。
平成21年度第4回倫理委員会議事録(案)について、会議終了までに特に異議の申し出がなく、議事録は承認された。【資料1】
協議事項
1: 会告改定案ならびにそれに対する意見【資料4~7】
2: 着床前診断に関するWG報告(竹下委員)【資料8~10】
嘉村 敏治委員長:「着床前診断」に関する見解について学会会告(改定案)に対し複数名の方からご意見をいただいた。まずはこの点に関しての協議を行いたい。
竹下 俊行委員:資料4が日産婦に発表された倫理委員会提案である。これに対して4人の会員(セントマザー産婦人科医院:田中 温医師、国立成育医療研究センター周産期診療部:小澤 伸晃医師 、諏訪マタニティークリニック:根津 八紘医師、大谷産婦人科:大谷 徹郎医師:以上資料5)、会員以外からはフェアネス法律事務所:遠藤 直哉弁護士:資料6)そして神経筋疾患ネットワーク(資料7)から意見をいただいた。意見の締め切りが5月15日であった。
以上のご意見への回答を基にしてWGにて検討した。「着床前診断に関する見解の見直しについて」着床前診断ワーキンググループ答申(案)のホームページ上に公表したものから更に修正したものが資料8である。そして「着床前診断」に関する見解の新改定案が資料9である。個々の先生への回答が資料10である。根津医師、大谷医師、遠藤弁護士への回答は、WGの作業への直接の質問ではなかった為に本日の倫理委員会での検討となった。
資料8から検討したい。WG答申への御意見あり変更を行った。下線部が変更点である。平成10年、18年見解を一つに統合して明瞭な内容とした答申である。前回の答申では平成18年見解の変更は行わずに、平成10年見解の改定を行うとして回答していた。しかし、その後平成10年見解を基にして、そこに18年見解を組み入れる変更を行った。その改定の内容が資料9である。この変更の重要な点は、平成18年見解を組み入れたことであり、4. 1) 「本法は原則として重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合に限り適用される.」の部である。つまりもともと重篤な遺伝性疾患に対しての着床前診断を行うということがあり、遺伝子変異だけを対象としていたが、それに加えて、不均衡型転座の児を持った場合も審査対象とするとした。其れゆえに「遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合に限り適用される.」と変更した。この点が今回の改定の一番重要な点である。また平成18年見解を平成10年見解に組み入れるに際して、その重要な議論の過程を記載しておく必要がある。
よって、
*習慣流産に対する着床前診断についての考え方として
「本邦における着床前診断(以下本法)は、平成10年に本会見解が示されて以来、重篤な遺伝性疾患に限って適用されてきた。しかし、生殖補助医療技術の進歩、社会的な要請の出現に伴い、染色体転座に起因する習慣流産に対する本法の適用が検討され、慎重な議論の末、平成18年に「染色体転座に起因する習慣流産(反復流産を含む)を着床前診断の審査の対象とする。」という見解を発表した。これは、流産の反復による身体的・精神的苦痛の回避を強く望む心情や、流産を回避する手段の選択枝のひとつとして本法を利用したいと願う心情に配慮したものであり、平成10年見解における審査対象「重篤な遺伝性疾患」に新たな枠組みを設けるものであった。
染色体転座に起因する習慣流産では自然妊娠による生児獲得も期待できることが多く、充分な遺伝カウンセリングのもとに、その適応は症例ごとに慎重に審査し決定されるべきである。」
以上の解説的な補足を加えた。
嘉村 敏治委員長:これらの改定案の修正により、わかりやすくなってきた。改定案の修正に対してご意見はあるか?
吉村 泰典理事長:田中医師、小澤医師に対しての回答は、嘉村委員長、竹下委員連名での返答をお願いする。また総会までに返答をする必要がある。返事は理事会の後、総会までに出しておくこと。
嘉村 敏治委員長:これ以上の変更点はあるか?
特に異議なく、今回の改定案の修正を理事会に提出することで承認された。
田中、小澤両医師への回答案は、総会に提示することはなく、理事会の後に各個人へ返答をすることで承認された。
嘉村 敏治委員長:次に他のご意見への返答の検討に移りたい。
神経筋ネットワークへは如何か。
杉浦 真弓委員:着床前診断の適応を拡大していると誤解している。
嘉村 敏治委員長:新聞社からも適応拡大かと問い合わせがある。
杉浦 真弓委員:今回の改定案をみて適応拡大と感じている印象である。改定案の中のどの文章をみて拡大と捉えてしまったのか。
竹下 俊行委員:「遺伝子および染色体の変異」という文言をみて拡大と誤解したのでは。
嘉村 敏治委員長:メディアより審査対象を広げるのか広げないのかの問い合わせがある。着床前診断の審査対象を広げると一部メディアでの報道があり、改定案の内容をよく読まずに適応拡大と捉えられたのでは。
杉浦 真弓委員:彼らへ拡大の予定がないことを返答すべきと思われる。
吉村 泰典理事長:「今回の改定案は平成10,18年を合わせたのみであり、適応拡大の意思は全くない。他の方からも問い合わせがあり、その内容をわかりやすくするために改定を行った」このように返答してはどうか。
異議なく、神経筋疾患ネットワークへも倫理委員会より返答することで承認された。
3:根津会員、大谷会員、遠藤弁護士への対応(久具副委員長)【資料11】
久具 宏司副委員長:彼らは着床前診断への申請、審査への必要性がないといっている。着床前診断審査システムの撤廃を訴えている。その為WGでの検討より倫理委員会での検討が必要と判断し、資料11に回答案を検討した。細かい点についてまで返答するよりは、簡潔にPGD審査システムの撤廃の必要性がない旨の返答案として作成した。3人への返答の共通した内容としては、基本的に社会からの要請として適応拡大の声が聞かれない、その為現在の見解で妥当であると確認したという主旨である。
澤 倫太郎委員:生命の選別論に関しては、大谷医師も述べているように着床前診断と出生前診断における生命の選別の線引きは難しい。着床前診断の場合には受精卵を取り扱う作業であることに関して記載が必要では。
吉村 泰典理事長:厚労省や総合科学技術会議でも検討されているように「生命の萌芽である受精卵を操作する」という文言を入れるのはどうか?
久具 宏司副委員長:第4パラグラフの「また、着床前診断は妊娠成立前に生命を選別することにもつながり、より慎重な対応を要すると考えます」これを「また、着床前診断は生命の萌芽である受精卵を操作し妊娠成立前に生命を選別することにもつながり、より慎重な対応を要すると考えます」ここに挿入するのが良いと思われる。
一同異議なく、上記の文言を回答案中に挿入することで承認された。
吉村 泰典理事長:資料11、第3パラグラフの「それどころかより慎重な審査を要望する意見書もいただいております。」この部分へは神経筋ネットワークの4人分のご意見(資料7)の名前を削除して別添する必要がある。
澤 倫太郎委員:今回は、受精卵は生命の萌芽として考えているとして良いのか。
吉村 泰典理事長:国の総合科学技術会議で認められていることである。
久具 宏司副委員長:根津医師へは「厳重注意」の文言をいれたが如何か。
「現在の「着床前診断に関する見解」の下では、本会会員が着床前診断を実施するに際しては、本会への申請を行ったうえで本会での審査、承認を経ることを必要とします。しかしながらお寄せいただいたご意見の書面において、貴殿は、本会への申請および本会の承認の手続きのいずれも経ることなく、ご自身の判断で着床前診断を行ったことを明らかにしています。かかる行為は、本会会員として遵守すべき見解を蔑ろにするもので、重大な見解違反と言わざるを得ません。この理由をもって、ここに、本会は貴殿に対して、「厳重注意」の処分とするものであります。」(資料11 根津医師への回答案一部)
澤 倫太郎委員:今回で2回目の厳重注意である。
安達 知子委員:書面上の厳重注意はこれのみで行うのか?
久具 宏司副委員長:別書面で「厳重注意」の用紙がある。この文章は厳重注意とした理由の文章である。
嘉村 敏治委員長:文章はこれでよいか?改定案を理事会に提出し、それが承認されたらご返事を送る。また理事会では大谷医師、根津医師、遠藤弁護士への回答案を提出する。また根津医師への「厳重注意」の文章も別に分けて提出することとする。
吉村 泰典理事長:神経筋ネットワークへの返事は「誤解があったという事」「適応拡大ではないという事」この2点を強調した返事を作成して、理事会での検討が必要である。
他に異議なく回答案は理事会提出し検討予定となった。
4. 登録関係報告事項
(1)本会の見解に基づく諸登録(平成22年5月31日)(齊藤委員)【資料2】
齊藤 英和委員から資料2に従って平成22年5月31日現在の登録状況について報告があった。
①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録:44研究
②体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録:621施設
③ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録:621施設
④顕微授精に関する登録:509施設
⑤非配偶者間人工授精に関する登録:16施設
齊藤 英和委員:ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録は44施設と毎年少しずつ減少傾向にある。体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録、顕微授精に関する登録は621、509施設とそれぞれ徐々に増加傾向にある。非配偶者間人工授精に関する登録は16施設とやや減少傾向である。また毎月の審査に関しては新規の応募は減少傾向にある。
ARTオンライン登録状況は2007年が約16万件、2008年が19万件であった。
2009年分はほぼ同数の19万件程である。4月にART実施施設での安全管理に関する調査を実施した。現在その調査結果を分析中である。
特に異議なく承認された。
(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について(榊原委員)【資料3】
榊原 秀也委員から資料3に従って平成22年5月31日現在の登録状況について報告があった。
申請件数:172例
[承認152例、非承認4例、審査対象外15例、取り下げ1例)
榊原 秀也委員:平成22年6月1日に行った第一回着床前審査小委員会では、新規申請が3症例あった。いずれも習慣流産の相互均衡型転座であり、クライテリアに合致し承認となった。(資料3)
前回の照会症例(慶應義塾大学)で保留になっていた重篤な遺伝性疾患のDuchenne型筋ジストロフィー症例に関して検討を行った。染色体の欠失部と臨床症状が合致しない点が問題となっていたが、臨床経過の詳細を問い合わせたところ、臨床的には重篤なタイプであり、認可する結論に至った。
また慶応大学の習慣流産症例における着床前診断に関する遺伝カウンセリングが自施設の遺伝相談外来で、それを実施するグループの医師が行っていると思われた。これは今回の見解の改定においても、同施設であっても少なくとも他の所属であることが透明性があって望ましいとあり、今回は承認するが、今後はこの点を考慮していただく必要がある。本症例は条件付承認になった。
また着床前診断は百数十例以上行われており、平原小委員長を中心としてデーターを解析し、日本産科婦人科学会としてのアウトカムをまとめ、検討を行っていく必要があるとなった。つまり着床前診断を行った症例で、何例中何名が妊娠したか、流産はどうであったのかの検討が必要ということである。
久具 宏司副委員長:現時点では結果をまとめる受け皿の委員会がない。
榊原 秀也委員:審査小委員会はあくまで着床前診断の審査の委員会である。
齊藤 英和委員:体外受精の実施の登録報告をみても、それが着床前診断を行った症例か否かは不明であり、後から解析が不可である。
榊原 秀也委員:登録時に着床前診断を行った症例であるとのチェック項目がない。
安達 知子委員:実施施設の報告義務の段階で初めて着床前診断を行った症例のアウトカムが分かる。妊娠した事のみでなく、胚の生検の段階で不可であったとか、採卵時の失敗であったなどの症例もあるはずである。臨床研究であるから、本来はこのような情報も含め特に均衡型転座の症例では報告してほしい。
杉浦 真弓委員:今度から資料4にある着床前診断の診断実施報告書の形式が変わる。これからは追跡できないのか。
竹下 俊行委員:採卵していない限りは、先程の情報のすべては得ることが出来ないのが現状である。
杉浦 真弓委員:症例数が多いところは、自施設でまとめて報告したいと思っているのでは。学会がサイエンティフィックに報告してよいのか。2重投稿となるのでは。我々が求めるのは、そこまで詳細なものでなく、あくまで報告ではないのか。
久具 宏司副委員長:学会がデーターを集めるが、学会の名前としてサイエンティフィックなPaperに発表すると2重投稿になるのでは。
安達 知子委員:着床前診断の診断実施報告書で申請したが、着床前診断を行えなかった症例もあるはずであり、また胚生検に至らなかった症例があるはず。着床前診断の診断実施報告書はあくまで着床前診断を行った症例の報告であり、全体の母集団が分かっていない可能性がある。今後、報告書の形式を変える必要があるのでは。
竹下 俊行委員:報告書の変更に関しては、理事会での検討で良いと思われる。
嘉村 敏治委員長:データーの集積は、倫理委員会担当で良いのかということも問題である。データーセンターが別にないと機能しないのでは。
久具 宏司副委員長:ARTのデーター集積は倫理委員会の小委員会で集積している。
澤 倫太郎委員:着床前診断に関しては、普通の医療としての社会認識が得られていない為、生殖内分泌委員会での検討となっていない。ゆえに倫理委員会での集積となっている。
久具 宏司副委員長:現状ではARTのデーターは事務局に集まってくるのみであり、医師の目で確認がされていない。
嘉村 敏治委員長:データーにも不十分な検討項目があるが、現在までの分かっているアウトカムをまとめ検討する必要がある。
榊原 秀也委員:現時点では、着床前診断審査小委員会でデーター集積を行うというコンセンサスで宜しいか?
一同異議なし。
嘉村 敏治委員長:平原先生中心に着床前診断審査小委員会で6月末までに現在までのデーターのまとめ、今後更に問題点を抽出していく方向で宜しいか。
一同異議なく承認された。
5.遺伝カウンセリング講習会開催について(榊原委員)【資料13】
「生殖医療に関する遺伝カウンセリング受入れ可能な臨床遺伝専門医」認定講習会について
榊原 秀也委員:7月4日(10時~16時)に東京ステーションコンファレンスでの開催を予定している。240人程度の参加を予定している。講習の修了書を発行する予定である。資料14はその時に配布する遺伝カウンセリングのアンケートである。着床前診断に関して現在までの見解に合致しない症例も現れ、審査が混乱をきたしている現状がある。この会を開催する主旨は、着床前診断の遺伝カウンセラー達に、着床前診断の現況を伝えることである。更に彼らとディスカッションを行う予定である。
嘉村 敏治委員長:第何回であるか?
久具 宏司副委員長:第3回である。
山中 美智子委員:最初は専門医をとるメリットは何かあるのかとの議論があった。
杉浦 真弓委員:その点が不明瞭で2回までの開催で途絶えていた。これらの取得者はホームページに「生殖医療に関する遺伝カウンセリング受入れ可能な臨床遺伝専門医」*として公示されるというメリットがある。
山中 美智子委員:他の学会からは誤解を受けている節がある。日本皮膚科学会からは学会独自で遺伝専門医を作って、産婦人科が独走するのは如何かとのご意見があった。
杉浦 真弓委員:現在のように着床前診断に関しての相談先が分かりにくいというときに、初めて意義ある資格となってきているのではと思われる。
他に意見なく承認された。
6:出生前診断WG中間案(平原 史樹委員)【資料12】
平原 史樹委員:現在「出生前に行われる検査および診断に関する見解」および「先天異常の胎児診断、特に妊娠絨毛検査に関する見解」の改定案をWGにて作成している最中である。出生前診断に関する最新のエビデンスをいれており、それぞれの解説を入れている。今年度中にブラッシュアップしていく予定である。血清マーカー検査に関しては情報提供を行い、適切なカウンセリングを元に患者自身に考えていただくスタンスとなっている。血清マーカー検査に関して、その取り扱いの議論をWGで行っていく予定である。「よく情報提供して適切なカウンセリングを行っていく」主旨の文言が入る方向で検討している。
久具 宏司副委員長:ガイドライン委員会との整合性が必要である。
平原 史樹委員:連絡を取りながら作成していく方針である。
嘉村 敏治委員長:今後、意見が集約された段階で、倫理委員会にて再検討予定することで宜しいか。
平原 史樹委員:中間報告であるので、ご意見があれば教えていただきたい。
一同異議なく承認された。
7:その他
日本版ベストプラクティス・ガイドライン(試案)への回答について
平原 史樹委員:本件は遺伝子検査会社SRLでの自分達のガイドラインに対して、産科婦人科学会としての意見を求めているのでは。
榊原 秀也委員:日本臨床検査標準学会より7月末までの、意見の問い合わせである。
平原 史樹委員:倫理委員会全員で検討してみて意見を集約していく方向でよいと思われる。6月26日の臨時理事会にて検討を行うのではどうか?
一同異論なく承認された。
嘉村 敏治委員長の閉会の挨拶で会は終了した。
資 料:
1. 前回議事録案
2. 登録・調査小委員会報告
3. 着床前診断審査小委員会報告
4. 4月号掲載会告改定案
5. 4.に対する会員からの意見
6. 4.に対する遠藤弁護士からの意見
7. 4.に対する神経筋疾患ネットワークからの意見
8. WG答申案の修正案
9. 見解改定案修正案
10. 田中会員、小澤会員に対する回答案
11. 根津会員、大谷会員、遠藤弁護士への回答案
12. 出生前診断WG中間案
13. 遺伝カウンセリング講習会プログラム
14. 「臨床遺伝専門医」制度に伴う認定講習会開催に関して応募状況
15. 臨床遺伝専門医HP案内案
16. 日本版ベストプラクティス・ガイドライン(試案)