日 時:平成23年11月28日(月)午後6時00分~7時20分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」
議事次第:
定刻になり落合委員長が開会を宣言し、討議を開始した。
次第に則り最初に前回議事録を確認し、報告協議事項に移った。
1 登録関係
(1)本会の見解に基づく諸登録のART登録数、ARTオンライン登録状況について齊藤委員から報告があった。
齊藤 英和委員:まず、2010年分の登録の締め切りは11月末であるが、11月28日現在で約23万件の登録がなされている。そのうちの妊娠の予後、転帰等についての不明例については問い合わせる予定である。次に、2011年分についてはすでに19万件の登録があり、年々増え続ける傾向にある。3番目に、再登録の更新に関して、今年は5年毎の再登録で多くの施設が申請する年であり、513施設が対象となっている。審査に当たっては現在の登録・調査小委員会の委員だけでは負担が大きいので、委員以外に6名の先生方に担当していただけるよう依頼し、全員から承諾を頂いた。
(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について榊原主務幹事から報告があった。
榊原 秀也主務幹事:11月11日に着床前診断に関する審査小委員会が開催された。殆どが染色体相互転座による習慣流産の症例であり、2011-23から34までは認可とした。2011-35は母親の均衡型相互転座に起因する生後1ヶ月で死亡した多発奇形児の症例で、習慣流産ではないが2010年6月改定の見解にある「重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある、遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合」に該当するということで認可として答申した。2011-36に関しては病歴と家系図に食い違いがあり、照会とした。2011-37は習慣流産、2011-38~41はデュシェンヌ型筋ジストロフィーの症例であり、何れも重篤であることが確認できたので認可とした。
落合 和徳委員長:2011-35は本会の新しい会告に合致するという小委員会の答申であるので、認めることとする。2011-36については照会していただくことにする。
2 セント・ルカ産婦人科からの着床前診断申請に対する照会文書発出について
榊原主務幹事より以下のような説明がなされた。
榊原 秀也主務幹事:8月23日に開催された着床前診断に関する審査小委員会において、現在本会の見解で認められていないPGSの実施を求めるよう、セント・ルカ産婦人科より申請書の提出があり審議された。その中に既にPGSを実施した症例があると解釈できるような記載があった。そこで、PGSを実施したのであれば見解違反となる可能性もあるので問い合わせをすることになり、資料4にある照会状を発出した。発出後2ヶ月ほど経つが回答は無く、この取扱いについてお諮りしたい。
落合 和徳委員長:通常は何ヶ月くらいで返答が来るものなのか?督促するべきものなのか?
久具 宏司副委員長:督促してしまったら、回答次第では処分を考えなければならなくなるので、すぐに督促する必要は無い。暫く待ってよいと思う。
榊原 秀也主務幹事:では、当面、倫理委員会の度に回答の有無を報告することにする。
落合 和徳委員長:こちらからはアクションを起こさずに、先方からの回答を待つことにする。
3 「遺伝カウンセリング講習会」の開催について
榊原主務幹事より、着床前診断に関る遺伝カウンセリングを行う医師やカウンセラーに本会の見解や着床前診断の審査について伝達することを目的とした講習会であり、昨年の7月に続いて来年7月頃に再び開催したいという平原委員の意向であるとの説明があった。
平原 史樹委員:2010年6月に着床前診断に関する見解が改定されたのに伴い、7月に広く情報を伝達する目的で開催した。また、以前から着床前診断に関して学会でどのような議論が行われているかが、議事録を公開していないためにわからないという意見が、着床前診断のカウンセリングをしている先生方からあった。昨年7月に開催したところ好評であり、定期的な開催を要望する声がアンケートでも多かった。
落合 和徳委員長:受講資格はあるのか?
平原 史樹委員:無しにしている。臨床遺伝専門医に関しては一定の資格要件を設けてHPで着床前診断のカウンセリングを行う医師として公表している。
落合 和徳委員長:前回受講した人たちも受講できるのか?
平原 史樹委員:受講可能である。
落合 和徳委員長:それでは、そういった趣旨で来年度の事業計画に入れることにする。
4 登録・調査小委員会の追加予算申請について
齊藤委員より説明があった。ARTの調査・解析に関しては徳島大学の医療情報部のご厚意により無料で行ってきたが、今後はさらに円滑かつ継続的に作業効率を上げるために外注委託を考えている旨が説明された。具体的には初期費用180万円のうち本年度に100万円、次年度に80万円。次年度以降の維持費が80万円程度の見通しであることが確認され、承認された。
5 慶應義塾大学からの「着床前診断に関する学会倫理委員会見解伺い」について
榊原主務幹事より以下のような説明がなされた。
まず、慶応大学の倫理委員会から主に「重篤な遺伝性疾患の着床前診断」について慶応大学倫理委員会で承認されて本会へ申請しても本会から重篤性について照会することがあったことから、重篤性に関する見解について問い合わせがあった。本会からは重篤性の解釈に関する回答を既に発出しているが、個別の症例については今後も照会の可能性がある。そこで、平成24年1月に開催予定の着床前診断に関する審査小委員会の冒頭に、慶応大学倫理委員会委員との話し合いの場を持つことを調整中であることが報告された。次いで、以下の様な討議が交わされた。
落合 和徳委員長:各施設の倫理委員会で重症度を判定するのはなかなか難しいものがある。但し、全例受けていると学会の小委員会で事前審査をするようなことにもなりかねない。
今回は慶応大学の倫理委員会の関係者に来ていただいて意見交換をする方向で調整をしているが、皆さんの御意見をお伺いしたい。
石原 理委員:研究の承認は本来的に各施設の倫理委員会がすべきであり、学会の倫理委員会が承認するべきものではないと考える。施設の登録は構わないが、研究の承認をするのは現在のIRBの概念にそぐわない。
落合 和徳委員長:学会の倫理委員会と各施設の倫理委員会の関係を明確にしておかないと、責任を擦り付け合うような形になってもいけないし、審査を任される立場になっても困る。この点については委員の先生方に御意見を伺いたい。本会の着床前診断に関する審査小委員会の役割は適応を本会の見解に照らし合わせて判断するところにあると思う。
久具 宏司副委員長:本会で着床前診断の審査を行うようになった経緯というのは、本来は国が決めるべきことであったが、最初にごく限られたケースについて学会で認めて始まったということがある。現在もその流れが続いており、もし、着床前診断の審査をしないとなると学会がこれに関して各施設に任せてしまったということになる。そうなると障がい者団体からの意見等を反映することが出来なくなる。小委員会で各症例が会告に合致しているかを審査することは必要である。
安達 知子委員:初期は公開倫理委員会などを開いて、障がい者を排除しないような配慮をとるスタンスがあった。施設によっては学会が認めないなら自分たちでやればよいというような、きちんと機能しているとはいえない倫理委員会もみられる。
苛原 稔委員:着床前診断を始めた時は、世の中の状況がまだこれを受け入れるようなものではなかった。したがって、学会での審査は、学会でもきちんと審査しているということを世間に見せる意味合いもあった。しかし、時代は変わっていくので、全体の動向を眺めながら少しずつ進めていくことが大切である。慶応大学との話し合いについては、コンセンサスを作るのではなく、意見交換をするということであれば、よいことだと思う。
石原 理委員:意見を交換するのはよいと思うが、判断は各施設で行うべきものだと思う。判断について責任を持つのは倫理委員会であり、訴訟になった時には施設長と倫理委員が対象になることがわかっていない施設が多い。
安達 知子委員:慶応大学からの症例の中には、筋ジストロフィー以外の新しい疾患も含まれており、慶応大学の倫理委員会で承認されてはいたが、こちらで重篤性を判断する以外に、診断の精度などに関して何回かやり取りをしたこともあった。
竹下 俊行委員:承認をするのは各施設だが、学会として見解に合致しているかを判断する必要はある。したがって、まず学会で申請症例が見解に合致しているかを審査し、その上で各施設にお返しして判断してもらうのも一つの方法だと思う。
平原 史樹委員:慶応大学には審査の考え方を一度お返事している。ただし、慶応の倫理委員会で学会の基準では結論を出しかねる状況があるらしい。
その辺も含めて意見交換をしてみたい。
落合 和徳委員長:とにかく、話を聞いてみて、各施設の倫理委員会での問題点を把握したい。各施設で決められないことを、こちらで決めるということはしない。意見交換をするということで今回の話し合いをお認めしたい。
6 慶應義塾大学からの「着床前診断実施報告書の書式に関する検討依頼」について
榊原主務幹事より、依頼内容と対応に関して以下の様な説明があった。現在の個別症例の報告書は年度毎の報告なので、年度を跨いで体外受精を行った場合の記載が難しいということがあり、書式の改定について要望があった。小委員会で議論された考えとしては、様式を変えるとなると理事会の承認が必要になるので、当面は運用でこれを処理する、ということである。
落合 和徳委員長:現場でやりやすい様な形に変えていくことは必要だと思う。
石原 理委員:前から言っているが、ICMARTに報告できるような形に変えていただきたい。現在の様式は、国際的な基準からかけ離れている。
落合 和徳委員長:日産婦の報告と同時に国際的な報告も重要である。報告書の様式を変更して報告が二度手間にならない様にする必要がある。
平原 史樹委員:各施設は症例ごとにまとめているのに、学会は単年度毎の報告を求めているところに問題があると思う。
落合 和徳委員長:小手先の手直しではなく、理事会に諮ってきちんと手直しすることにする。ICMARTに合わせた国際的な規格のものを提案する。
石原 理委員:着床前診断に対する社会の理解を深めるためには、情報は出すべきである。
落合 和徳委員長:1年かけてよいので、小委員会で検討して具体的な手順を提案していただきたい。小委員会の方で現場の先生方の意見も取り入れながら、倫理委員会に提出していただき、理事会に上程することとしたい。現場の先生方の意見も取り入れた使いやすいものであると同時に、国際的な報告にも互換性のあるものを作ることを目指したい。
さらに、以下の事項について報告がなされた。
7の加藤レディスクリニックからの「離婚した妻に対する凍結受精卵移植に関する患者への返答」、および8の聖マリアンナ医科大学からの「『卵巣凍結保存―休眠原始卵胞活性化―卵巣自家移植―体外受精・胚移植』による新たな不妊治療の開発の申請」については、それぞれ回答の書類を発出した。
9の「“障がいをもつ子どもの親”の聞きあう時間」より送られた資料、および10 の関連報道記事 <「出生前診断」、他>については参考資料として添付してあることが周知された。
11 その他
以上で用意された議題は終了したが、最後に以下の様な意見が交わされた。
平原 史樹委員:セント・ルカの件に関しては、とりあえずこちらから何もしないと、暗黙の了解ではないかと解釈して着床前診断を行ってしまう危険性がある。思い出した頃にこちらからアクションをしておいた方がよいと思われる。実際にスクリーニングをやっても、日産婦からお咎めはなさそうだと解釈されては困る。
落合 和徳委員長:実際には回答を督促することになるが、先ほどの議論ではまだ静観することになっている。
平原 史樹委員:今回はまだ様子を見ていてよいと思うが、待ち続けるのはよくない。
落合 和徳委員長:どんどんやってしまってよいという意見の人たちがいることは耳にしているが、実際にエビデンスは無い。一応、次の倫理委員会までは待つことにする。
矢野 哲委員:倫理委員会のスタンスは障がい者団体を慮るところにあると思う。学会としてはその点を配慮して行き過ぎないように見解を決めている。見解を守らない施設があるということは、学会としてそれを守ってあげられないということを意味するので、自己責任でやってもらえばよい。見解を遵守しない施設に対してpunishmentを考える必要はないと思う。
落合 和徳委員長:我々は、見解を守っている施設に対して護る必要はあるが、守っていない施設に対して擁護することは無い、ということか。
苛原 稔委員:一旦決めた会告が、10年も20年も同じように変わらずにあるのはおかしい。この会の使命は常にアンテナを張って、ゆっくりでよいのでコンセンサスの得られるガイドラインを示していくことだと思う。
落合 和徳委員長:とても大事な指摘だと思う。倫理委員会の見解、会告に関しては今までも見直してきた。しかし、診療ガイドラインも2年に一度改定されるような時代であるので、改定の必要な会告・見解を示していくことが必要である。来年度に向けてこれを行っていくことにする。必要に応じて小委員会やワーキンググループを設置することも考える。
石原 理委員:研究に関する会告が時代に合わなくなっているので、変える必要がある。
落合 和徳委員長:役割分担なども検討させていただきたい。
以上で討議を終了し、落合委員長が閉会を宣言して会議は終了した。