日 時:平成25年2月19日(火)午後6時00分~7時50分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」
定刻になり、落合委員長が開会を宣言して議事が開始された。
まず、「平成24年度第2回倫理委員会議事録(案)」について、議事終了までに確認することをお願いした。
次いで、報告および協議が以下の如く行われた。
1. 登録関係
(1)本会の見解に基づく諸登録<平成25年1月31日現在>
①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録:47研究(40施設)
②体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録:575施設
③ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録:574施設
④顕微授精に関する登録:514施設
⑤非配偶者間人工授精に関する登録:15施設
齊藤委員から、資料に続いて以下の様な説明があった。
1)ART登録数については前回とほぼ同様の数である。
2)ARTオンライン登録状況について
2011年分は約27万件で、前年より3万件増えている。2012年も現段階で約28万件と年々増加傾向にある。妊娠転帰が不明のものは督促している。
3)登録更新申請について
対象施設が25施設だったので、小委員会のメンバーで審査を行った。
(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について
申請件数:323例[承認258例、非承認4例、審査対象外18例、取り下げ2例、照会中15例、審査中26例、](承認258例のうち8例は条件付)
(3)着床前診断の実施報告のまとめ
榊原主務幹事から、資料3に基づいて説明が行われた。はじめに前回の倫理委員会でarray CGHを対象とする転座以外の部位の情報はクライエントに開示しないことを条件に、習慣流産の着床前診断の方法として認めることになったことを説明したうえで、審査を行なったことが報告された。審査結果は資料3にある通り、13例中認可6例、照会6例、審査対象外1例であった。照会は、IVF大阪クリニックの2例が説明書の記載に関するもの、セントマザー産婦人科医院の1例と竹内レディスクリニックの1例は化学流産を含むもので、それぞれ内容について回答を求めることとなった。また、照会症例に関しては、セントマザー産婦人科医院の2例は認可、慶應義塾大学の1例については当該施設の倫理委員会の見解について再度問い合わせることになったことが併せて報告された。
杉浦 真弓委員:CGHは委託検査を検査会社に出すことを認めたのか?
落合 和德委員長:現状では検査会社に出すことを認めざるを得ないであろう、ということになった。
杉浦 真弓委員:そうなると、自施設で技術を研磨することに臨床研究の価値がある。数例のPGDを実施してもサイエンスとしての価値はもはやない。委託して行うとなるとどの部分が臨床研究なのか、申請施設に明白にしてもらわないと「臨床研究として行う」とした日産婦の見解と矛盾する。
落合 和德委員長:実際には、CGHは検査会社でないと行えない。
杉浦 真弓委員:array CGHの方が技術としては優れているが、PGSによって流産は減少するが、出産率が増加するというデータはいまだにない。ESHRE PGD Consortiumdata XIではPGS周期数が初めて減少した。PGSの有効性に疑問を持ち始めた結果である。
落合 和德委員長:そういったことは重要なポイントである。何を臨床研究とするのか、日常臨床にまで容認されていないものをどう扱っていくかを考えて行かなければいけない。検査を委託したから臨床研究でないとは言えない。ただし、患者さんが求めるからということではなく、明確な目的ときちんとしたプロトコールが必要だと思う。大事な指摘を頂いたことを議事録に残して、今後、臨床研究の議論を進めて行きたい。
2. 母体血を用いた出生前遺伝学的検査について
久具副委員長から、次第に基づいて説明があった。
12月の理事会で承認された指針案についてパブリック・コメントを求めたところ、219件寄せられた。内容を大まかに賛成から反対まで、その他も含めて5つに分類した。それらの意見を最終指針案に反映させた。具体的には性染色体、施設要件、適応、遺伝カウンセリングなどについて修正を加えたことが説明された。また、前文は取りやめて、指針の最後にその内容を附記として付け加えたことが報告された。
説明後に、以下の様な意見が交わされた。
落合 和德委員長:この指針案を3月の理事会に上程し、承認後に臨床研究の申請を受け付ける予定である。登録・審査に関する委員会は、この検討委員会のメンバーを中心に結成する予定である。
山中 美智子委員:NIPTのコンソーシアムに入っていなければできないのか?
久具 宏司副委員長:コンソーシアムに入っていなくても、臨床研究として申請して頂ければよい。
山中 美智子委員:性染色体について行う場合は、臨床研究の対象にならないのか?
久具 宏司副委員長:性染色体については、今後検討していくことになる。
髙橋 健太郎委員:パブリック・コメントの中で、条件を緩和せよという意見の内容は、対象についてのものが多かったのか、施設についてのものが多かったのか?
久具 宏司副委員長:年齢などの対象についてのものが多かった。施設の要件も厳しくすると、地方では対象施設がなくて出来なくなるという意見もあった。
杉浦 真弓委員:8ページの「積極的に知らせる必要はない」の部分だが、あえて説明しなくても説明義務違反にはならないのか?これは、NIPTだけと考えてよいのか?学会としては、羊水検査なども含めた出生前診断の説明をする義務はない、ということでよいのか?学会として、どう考えているのか?
山中 美智子委員:ダウン症候群では、高齢だから羊水検査を説明しなかったということで説明義務違反を問われたことはないと思う。
久具 宏司副委員長:この文言は、母体血清マーカーが出た時のものを参考にしている。法律家の見解では、すべての妊婦に知らせることで社会にとって有害なことが予測されるのであれば、知らせないことに違法性はない、ということであった。
落合 和德委員長:血清マーカーの時の見解も改定されずにまだ活きているので、今回はこのような表現となった。
小西 郁生理事長:日本医学会に「遺伝子・健康・社会」検討委員会があり、そこに関与してもらうつもりである。日本医学会の中に認定・登録部会を設けて、そこに登録してもらうことを考えている。3月9日の理事会で承認されたら、その後に関連学会による合同の記者会見をして発表する予定である。なお、小児科学会は、認定・登録部会に委員は出すが、共同声明に名を連ねるのは遠慮したいということである。
落合 和德委員長:次回の理事会で承認いただければ、直ちに認定・登録制度の委員会を立ち上げて行きたい。
吉村 泰典前理事長:指針は、パブリック・コメントも受けて良いものになった。ただ、施設内倫理委員会で決めて申請してくるとなると、施設によって検査会社が違う場合にデータが異なることになる。そうすると、日本人のデータが正しいのかどうかという点で、臨床研究として問題が生じるかもしれない。検査会社については、認定・登録制度の委員会で検討すべきだと考える。もう一つ、血清マーカーの件は、見解集の1721ページにある平成23年の見解で「適切かつ十分な遺伝カウンセリングを提供できる体制を整え、適切に情報を提供することが求められている」となっているので、積極的に知らせなくても罪に問われることはないと考える。
大川 玲子委員:積極的に知らせる必要はないが、質問された時には適切に答えなければならない、ということになるのか?
久具 宏司副委員長:尋ねられた医師が登録施設に紹介できればよい。すべての医療機関で遺伝カウンセリングの体制が整っていないことを前提としている。
竹下 俊行委員:患者さんから検査費用を徴収するとなると、臨床研究の目的を説明するのが難しい。
杉浦 真弓委員:コンソーシアムの研究は遺伝カウンセリングを確立するためのアンケート調査であって、検査の内容は研究対象でないと理解している。
久具 宏司副委員長:NIPTのコンソーシアムは、検査の手法ではなくて遺伝カウンセリングの内容、体制が研究対象である。また、検査会社の審査については指針案の8ページⅤ-5で検査会社の要件について言及しているので、審査の時にチェックすることはできる。
落合 和德委員長:検査会社については施設認定の際に審査する。国民の注目も集めているので、慎重に滑り出すことが重要である。
澤 倫太郎委員:シーケノムでもトランスポートの検体の精度には分かっていない部分もあるらしいので、そういったことも研究対象となるのでないか?
落合 和德委員長:必要であれば、そういったことも臨床研究のエンド・ポイントに加えるべきであると考える。認定・登録委員会では、プロトコールについての審査はしないのか?
久具 宏司副委員長:外形の審査が原則である。プロトコールについては、施設の倫理委員会で審査することになっている。
落合 和德委員長:それでは、この最終指針案を次回理事会に提案する。
3. 「体外授精に関する重大インシデントの報告」について
落合 和德委員長:大阪大学で起きた、液体窒素の枯渇による胚の死滅の事例についてのインシデントの報告があった。このような重大なインシデントについて、学会の倫理委員会で登録していくべきか?例えば、生殖医療に関するリスクマネージメント委員会とも連携する必要がある。このようなインシデント事例を、本会として把握しておくべきか?これは施設の問題であるとも言えるが、事例を集めて分析し報告することは有益と考える。
澤 倫太郎委員:報告を受領するだけでよいと思う。分析は、それぞれの施設で行えばよいと考える。今まで倫理委員会が調査をしてきたのは、メディアで取り上げたものへの対応だけであった。
久具 宏司副委員長:生殖医療に関するリスクマネージメント委員会は、取り違え事件をきっかけにできた。それについては、見解集の1684~1687ページに掲載されている。
落合 和德委員長:全例を集めて、重大事例がどれほどあるかを調べておくことは重要であると考える。
小西 郁生理事長:重大事例を集めることは、再発予防に役立てるために大切なことである。
齊藤 英和委員:年次報告してもらっている安全管理に関する調査票と合わせて、インシデントを報告してもらうことはできる。
澤 倫太郎委員:個々の事例の積み上げだけでよいと思う。個々の対応については、施設に任せることでよいと思う。
髙橋 健太郎委員:分析することより、事例について会員に注意喚起するのがよい。
矢野 哲委員:大学病院でquality controlするのは難しい。胚培養士が雇えない施設もある。そういった問題もあるので、大阪大学に聞いてみることが必要である。
落合 和德委員長:あまり表に出てこない事例もあると思う。どこまで本会として取り扱う必要があるか?
吉村 泰典前理事長:まずは、調査票の7項目について実施しているのかを大阪大学に聞いておくことが必要である。
落合 和德委員長:とりあえずは、個別対応とする。今後、調査票と共に集めておくように考えて行く。分析するかどうかについては、生殖医療に関するリスクマネージメント委員会に委ねることとする。
澤 倫太郎委員:インシデントは厚労省が集めているので、やり過ぎると2重にならないか?次世代に影響するようなものでよいのでないか?
落合 和德委員長:生殖医療に関するインシデントを集めることは、再発予防の点で重要である。倫理委員会として、意見をまとめて生殖医療に関するリスクマネージメント委員会に伝えることとする。
4. 「卵子の提供による生殖医療」に関する報道を受け、1月18日の常務理事会後に記者会見を行った件
落合委員長から資料に基づいて報告がなされた。
5. 「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」改定案について、現在学会ホームページにおいて会員からのご意見募集中の件[学会誌3月号に掲載]
平原委員から、改定について説明があった。
NIPTに関しては、7-1の3ページの新たな分子遺伝学的技術を用いた検査のところで、総論的に述べていることが説明された。
6. 『ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解/考え方』改定案について、現在学会ホームページにおいて会員からのご意見募集中の件 [学会誌3月号に掲載]
落合委員長から、主として、前回の見解後に出された省令やガイドラインとの整合性をとったものであることが説明された。
7. 大谷 徹郎医師、根津 八紘医師が本会に無申請で着床前診断を行った件で、昨年9月13日と9月28日に行ったそれぞれとの面談の際の記録について、本人と学会の双方が内容を確認ならびに修正した旨倫理委員長名で通知し、最終版として両医師に対して送付したことについて
落合 和德委員長:面談内容の記録について、両先生から修正を受けたものを送付した。処分の内容に関しては、総務に検討を依頼しており、回答を求めることを前提とした厳重注意の方向で検討されている。
8. 会告・見解にない、新たな生殖補助医療技術について
落合委員長から、「会告・見解にない新たな生殖補助医療技術に関する考え方」について、前文を読み上げた以下のような提案があった。
1 厚労省の臨床研究に関する倫理指針(平成15年7月30日制定平成20年7月31日全部改正)に準拠し、臨床研究の枠組みで行う。
2 臨床研究プロトコールの審査は各施設で行い、当該研究の全責任は研究代表者が負う。
3 臨床研究プロトコールを登録制とし、本会に登録する。
4 当該研究で得られた成果を本会に報告する。本会はこれを検討して、今後の補助生殖医療の礎となる科学的根拠構築の材料とする。
説明後に、以下の様な討議が行われた。
落合 和德委員長:新たな技術への本会の対応に時間がかかることで、申請することなく水面下で行われてしまうことが危惧される。会告・見解がなくていいということではない。
矢野 哲委員:素晴らしいことだと思う。学会が指針を示して一つ一つ研究としてやってもらうのがよい。止めるだけではよくない。枠組みを示すことで、学術的な意味でも研究としてやってもらうのがよい。
大川 玲子委員:患者さんという表現は、如何なものか?
吉村 泰典前理事長:クライアント、とするのがよい。
久具 宏司副委員長:例えば、卵子提供は国が是非を決めるものであって、日産婦は言及しないということにしてきた。方針転換ということになるのか?臨床研究を認めるとすると、日産婦として認めることになるのか?前文の「容認」という表現は、「把握する」くらいの表現がよいと考える。
落合 和德委員長:これを示したとすると、大きな方針転換となる。
小西 郁生理事長:パブリック・コメントの中には、学会に情報提供を求めるものもある。国に規制するつもりはなく、担当する学会に指針を示してもらいたい、ということである。産婦人科は、技術の進歩と倫理とが問題となることが多い。学会が議論の場を提供することで、コンセンサスを作る中心となっていくことが大事である。その位置づけの中で、臨床研究は行われるべきである。
落合 和德委員長:もし、プロトコールまで審査することになると、研究に対する責任の問題も生じてくる。
吉村 泰典前理事長:これはかなり難しい。1から4まででは足りない。まずは、臨床研究としてやるべきものなのか、そうでないものであるのか、という問題がある。卵子提供は、臨床研究に即さない。医学的なことでなく、国のガイドラインや法律が必要となる問題である。臨床研究に即さない場合には、国に要望を出すことが必要である。国が関与する気がなくても、してもらわなければならないことがあり、要望を出すことも必要である。
杉浦 真弓委員:生殖に関しては臨床研究に即さないことが多く、法律がなければ問題に対処しきれない。法律制定を学会としては要望し続けることが必要である。
落合 和德委員長:水面下で行われてしまうようなことを、表面に出すことが趣旨である。
久具 宏司副委員長:結果として、学会が主導して卵子提供を認めた、というようなことにならないようにすることが重要である。
髙橋 健太郎委員:吉村先生のご意見のように、臨床研究に即するものと、そうでないものとの2本立てで行くのがよい。
落合 和德委員長:根津先生の件でも、きちんとしたプロトコールでやってもらって、データを出してもらうことが大事である。
久具 宏司副委員長:卵子提供に関する見解はないので、データを取ることは良い。しかし、データを取ったことで容認することになってしまうのはよろしくない。
落合 和德委員長:クライアントを守るという立場からすると、きちんとした形をとることが必要であると考える。今後、議論を重ねて、理事会で承認してもらう方向で行きたい。
山中 美智子委員:これを基に、見解・会告を改定していくことを明記した方がよい。
小西 郁生理事長:腫瘍患者の卵子保存などは、臨床研究となるのか?
吉村 泰典前理事長:オンコファーティリティーは、臨床研究でやるべきである。これからは、若年者の卵子保存が課題である。
落合 和德委員長:今までは、出てきた問題に対する後追いだったが、今後は主導してやっていきたい。
吉村 泰典前理事長:まずは、PGSをやって欲しい。
以上で、議事を終了し閉会となった。