日 時:平成25年4月23日(火)午後6時00分~7時50分
場 所:日本産科婦人科学会事務局「会議室」
定刻になり、落合委員長が開会を宣言して議事が開始された。
まず、「平成24年度第3回倫理委員会議事録(案)の確認を各委員にお願いした後に、次第に則り以下の如く報告および協議が行われた。
1. 登録関係
(1)本会の見解に基づく諸登録<平成25年3月31日現在>
①ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する登録:47研究(40施設)
②体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録:575施設
③ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録:575施設
④顕微授精に関する登録:517施設
⑤非配偶者間人工授精に関する登録:15施設
齊藤委員より、資料について以下の様な説明がなされた。
オンライン登録について、2011年は前年より3万件の増加があった。妊娠予後不明の数は督促の結果5%台に減少した。登録施設の更新申請については、4月25日に登録・調査小委員会を開催して最終決定する予定である。
説明の後、以下の様な討議が行われた。
落合 和德委員長:オンライン登録はうまくいっていると考えてよいか?
齊藤 英和委員:報告のない施設については事務局から何度も問い合わせてもらっている。
石原 理委員:膨大な数のデータなので、ケアレスミスによる怪しげなデータは混じってくるが、それは致し方ないと思っている。
落合 和德委員長:今後はデータをどう公表していくのかが大切だと思う。
齊藤 英和委員:基本的なものはすでにHPなどを介して公表しているが、会員にデータを利用してもらうなどして還元していくつもりである。
(2)着床前診断に関する臨床研究申請・認可について
申請件数:327例[承認267例、非承認4例、審査対象外19例、取り下げ2例、照会中18例、審査中17例、](承認267例のうち8例は条件付)
(3)着床前診断の実施報告のまとめ
榊原主務幹事より、資料3に基づいて説明が行われた。審査結果は新規申請症例15例中認可12例、照会3例であった。照会症例は慶應義塾大学からのCGHによる習慣流産の3例(2012-54~56)で、説明書および同意書に「CGHを用いた場合における、対象とする転座以外の情報開示は行わない」ことの記載を確認したかったが、同意書が添付されておらず、その点を確認するため照会することとなった。また、照会症例は5例中2例が認可、3例が再照会となった。再照会は竹内レディースクリニックからの3例(2012-49~51)で、化学流産のうち臨床妊娠が成立していた可能性があるものを認定するために、黄体補充のhCGの使用の有無や、hCGの測定時期などを再度確認することとなった。
以上の説明の後、習慣流産の着床前診断審査における化学流産の取り扱いについて、専門の委員会で検討して頂くことを要請したい旨の意見が小委員会から出されていることが報告され、以下の様な議論が交わされた。
落合 和德委員長:審査のためには一定の基準が必要である。
竹下 俊行委員:なかなか難しい問題である。加藤レディスクリニックのデータも参考にさせてもらって、学問的に突き詰めて行くことが大事であると思う。
落合 和德委員長:具体的には専門委員会に検討を依頼するのがよいと考えている。
久具 宏司副委員長:加藤レディスクリニックから以前提出されたデータを基にすれば、きちんとした数値で表せると思う。
阪埜 浩司委員:化学流産が流産として認められないのは患者さんに気の毒だとの意見があるが、認めるためには科学的根拠がなければならない。
髙橋 健太郎委員:化学流産を定義する必要があると思う。
苛原 稔委員:hCGを投与すると尿中hCGは上昇するが、投与してもこれ以上には上がらないというラインは設定できると考える。
石原 理委員:化学流産と臨床妊娠の定義は決まっているので、運用として考える必要がある。化学流産も場合によっては認めてよいとする審査基準を設ければよい。
齊藤 英和委員:化学流産は、臨床妊娠の流産に比して、より重篤だから認めてよいという考え方もあると思うが。
大川 玲子委員:もともと、理論的に挙児を得る確率は流産率と同じ、という検査法である。ハードルを下げて流産率が下がる、という可能性はあるかもしれないが、ただ被験者の対象を広げる、というのはいかがなものか。
落合 和德委員長:対象が広がることで流産率が低下するかを評価する必要がある。
榊原 秀也主務幹事:具体的には、化学流産の中で臨床妊娠に相当するものをどういう基準で認めるかだと思う。
久具 宏司副委員長:臨床妊娠に準ずるものとして扱えるものを拾い出すということになる。
落合 和德委員長:専門委員会に検討してもらう内容を明確にする必要がある。加藤レディスのデータなども取り入れて検討していくことにする。
(4)着床前診断データ解析のための臨時雇用について
落合委員長より、着床前診断の申請書類の保管場所が事務局内に無くなってきているので、 古い資料は外部倉庫に保管したい旨が諮られ、各委員の合意が得られた。また、今後、報告の結果をまとめて公表する方向で考えて行きたいが、データ解析をするのには莫大な労力を要するので、臨時雇いをしてでもきちんと纏めておく必要があることが説明され、各委員の 合意が得られた。なお、本件の具体的な計画については次期委員会に引き継ぐことになった。
2. 「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」改定案について、4月22日を期限に会員から寄せられたご意見4件に関する報告
榊原主務幹事より、パブリック・コメントについての報告があった。NIPTについて具体的に触れた方がよいという意見が寄せられているが、これについてはWGにおいて、見解の中にNIPTの臨床研究に関する注釈を入れるなどの修正を検討し、次回の倫理委員会に諮ることとなった。
3. 『ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解/考え方』改定案について、4月22日を期限に会員から寄せられたご意見1件に関する報告
阪埜 浩司委員:以前の見解は基礎研究に限定されるものだったが、今回は臨床研究も含まれるのか?研究に使用した精子卵子・受精卵の廃棄についても記載がなくなっているが?
石原 理委員:余分な部分は極力省く前提としたので、具体的なことを省いた。限定的なことを書くのは良くない。前の見解を作った当時は研究的な色彩があったのだと思う。
久具 宏司副委員長:研究という文言だと、基礎も臨床も含むように解釈できる。
落合 和德委員長:今回の改定では細則を作って関係するものを網羅した。研究の対象がヒト資料であるから、臨床研究の指針を当てはめる必要がある。
石原 理委員:本体は変えずに、細則の修正等で対応したい。
落合 和德委員長:審査・承認の在り方については、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査のように委員の構成も考えて行く必要がある。
以上の様な議論の後、5月14日にWGの委員会でパブコメを受けて最終案を検討し、倫理委員会に諮ることになった。
4. 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関するご意見、障がい者団体からの要望書・反対声明について
榊原主務幹事より、いろいろな意見が寄せられ、それぞれに対して受領した旨の回答をしたことが報告された。
5. 会告・見解にない、新たな生殖補助医療技術について
落合委員長より、見解・会告は重要であるが、時代と共に現実にそぐわないことがあることが示され、それを改めることについて以下の様な議論が交わされた。
髙橋 健太郎委員:法律的なものが必要である。国に働きかけないと実効性がない。
落合 和德委員長:目の前の患者さんに対してやらざるを得ないというのが、見解違反をする会員の言い分である。したがって、本会として水面下で行われないようにしていくことが必要であると考える。
久具 宏司副委員長:会告・見解にないものというと、卵子提供になる。この場合、禁止しているものは対象にならない。これは一学会で決められることではなく、本会としては国が決めるのを待っている段階である。国に先んじて学会が容認するという印象を会員に与えてしまう危惧がある。
審査・認可は会告・見解がないのだからできない。登録でよいのではないか?
落合 和德委員長:見解・会告に定められている中でやるべきか?
大川 玲子委員:水面下で行われていることを放置することは良くないが、それを認める方向で動いてしまってよいのか?臓器移植でも倫理規定を作らなければならなかった。この案は容認する方向に動くように感じられる。平成12年の厚生科学審議会の答申に則ってやるべきである。新しく出てきた問題は後追いでもよいと考える。
久具 宏司副委員長:AIDなど、日産婦の見解が出来ていて法制化されていないものもあるが、他のものは法制化を待つべきである。
落合 和德委員長:法制化については今後も言い続けることが重要である。しかし、現実に見解を守らない会員がいることに変わりはない。クライアントを守るという観点から、きちんとした臨床研究が必要である。
久具 宏司副委員長:登録するだけだとしても、本会が把握するとなると責任は生じてくる。
石原 理委員:日産婦が警察や裁判所になってはいけない。会告はあくまで紳士協定であると思う。守るべきものは会員と患者さんである。安全性や合理性のない医療には警告を発するべきである。卵子提供の問題は法整備に対する国の怠慢であり、それを追求するべきである。患者さんが海外へ行って卵子提供を受ける現状は看過できない。逆に、これから出て来る新たな医療に対して抑制的にならないか心配である。
苛原 稔委員:外国で一般化しているのに日本で行われていないものに関しては、臨床研究を行うべきだと思っている。そのためには、その医療が日本でも行われるべきか審査して少数の施設で始めて検証し、一般化する道筋がよいと思う。卵子提供には生まれた子の問題など学会独自で解決できないことがあるので、国と一緒にやっていくことが必要である。第3者機関に国を含められないか?実際のルール作りでは考えるべきことが多い。
峯岸 敬委員:今行われていることを把握していくことは重要だが、卵子提供については法整備の問題があるので、着手するのは難しいと思う。
落合 和德委員長:卵子提供だけでなく、PGDやPGSなど根津先生や大谷先生との問題も念頭に置いている。今までは会告違反ということで除名処分にしていた。また、施設によっては倫理委員会の構成や議事内容に問題があり、そういった点も考慮していきたい。
石原 理委員:法整備については、本会からも働きかけていただきたい。
久具 宏司副委員長:卵子提供にしても精子提供にしても、こどもの見地からみて登録制にしておかなかればならないが、国に関与してもらわなければ出来ない。
落合 和德委員長:我々だけでは解決できない問題があるので、国に関与を求める必要がある。
澤 倫太郎委員:卵子提供については、国のシステムでないと動けない。
落合 和德委員長:少し拙速であったかもしれないが、この問題は継続して議論していくことが必要であると考える。会告違反を処罰するだけでは不十分である。
苛原 稔委員:倫理委員会は時代に合わなくなっている。旧態依然としてやっていても、うまく行かない。国を巻き込みながら新たなルール作りをする必要がある。
落合 和德委員長:取り締まるための会告・見解ではない。NIPTは新たな方向を示していると思う。今後の進め方については議論していく必要がある。
石原 理委員:専門学会が連携して推進していく必要がある。
落合 和德委員長:関係する団体や国に働きかけて行くことも結論の一つにしたい。総論については宜しいか?各論については苛原先生にもお願いして進めて行くことにする。本件は6月の総会に諮るのではなく、次期委員会での継続審議とさせていただきたい。
大川 玲子委員:科学ではなく医療の問題であるので、生殖の専門家だけでなく多くの分野の人たちの意見も取り入れて議論していくべきであると思う。
落合 和德委員長:大川委員の御意見は、今後の倫理委員会の構成やあり方についての参考にしたい。
6. 関連報道記事(「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」、「不妊治療」関連、他)
・5月1日(水)午後8時00分~9時55分 BSフジLIVE PRIME NEWS
吉村 泰典先生ご出演予定:テーマ「新出生前診断」や「不妊治療」の現状と課題について
榊原主務幹事より上記関連報道記事について報告があり、その後以下の様な議論があった。
苛原 稔委員:NIPTの臨床研究はすぐ終わってしまうのでは?報告や解析はどうなっているのか?
久具 宏司副委員長:症例の定期的な報告は受けるが、研究成果は各施設から発表してもらう。それを見てからとりあえず1年を経た時点で、いつまで臨床研究とするかを決める。
小西 郁生理事長:臨床研究により遺伝カウンセリングの成果が検証され、日本における遺伝カウンセリング体制の在り方が見えてくると思う。しかし、検査が外国でしかできないのであれば、一般診療化は難しいかもしれない。
7. その他
落合 和德委員長:倫理委員会で積み残した課題や問題の処理など自浄的な作業が多く、倫理の本質にかかわるような協議がなかなかできなかった。今後は課題を先取りするような議論についても検討していきたい。
小西 郁生理事長:NIPTについてはだいぶ落ち着いてきた。産婦人科は常に社会と深い関わりを持っている。本日は落合委員長から今後の方向性についても提案があった。今後もよろしくお願いしたい。
以上で討議を終了し、午後7時50分に閉会となった。