公益社団法人 日本産科婦人科学会

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見解/宣言/声明
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子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種の勧奨再開を求める声明

更新日時:2018年7月12日

平成27年8月29日

公益社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 藤井 知行

 平成25年6月に厚生労働省からHPVワクチンの接種勧奨の一時中止勧告がなされてから、2年以上が経過しました。この間、厚生労働省の副反応検討部会等で本ワクチン接種後の様々な症状に関する徹底したデータ収集と解析、追跡調査、専門家による議論が行われてきました。平成26年2月の第8回の副反応検討部会では、慢性疼痛・運動障害等は機能性身体症状によるものであるという見解が出されました1)。また平成26年7月の第10回の同検討部会においては、販売開始から平成26年3月末までに国内で接種を受けた延べ889.8万人を対象とした有害事象が検討され、慢性疼痛・運動障害等は176件で10万接種あたり2.0件の頻度であると報告されました2)。その後の研究においても、これらの症状とワクチン成分との因果関係を示す科学的・疫学的根拠は得られていません。しかしながらワクチン接種を勧奨できない状況が継続し、その結果、現在は接種率がほとんどゼロに近いレベルにまで低下しています3)

 このような状況の中で、本会は、まず第1に、頻度は少ないが実際に様々な症状で苦しんでおられる方の診療体制の早急な整備を構築した上での接種勧奨の再開を要望してきました。実際に、本年4月までに都道府県医師会および厚生労働省に協力し、全国47都道府県における協力医療機関の設置を完了し、全国どこにおいても地域の協力医療機関が窓口となり、さらには高次専門医療機関(27施設)への紹介体制を含め、HPVワクチン接種後の症状に困っておられる方への診療体制が整いました4)。また特筆すべきこととして、本年8月19日に、日本医師会・日本医学会より『HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き』が発刊され5)、接種医や地域の医療機関においての、問診・診察・治療を含む初期対応のポイントやリハビリテーションを含めた日常生活の支援、家族・学校との連携の重要性についても明記されました。これらの診療体制および手引きの両者が整備されたことは、接種希望者がより安心してワクチン接種を受けられる環境が整ってきたと言えます。

 第2に本会は、子宮頸がんとHPVワクチンに関する科学的根拠に基づく正しい知識と最新の情報を常に国民に向けて発信するとともに、今後、接種勧奨が再開された場合に、接種希望者とそのご家族に対して、接種医がワクチンのベネフィットとリスクの十分なインフォームドコンセントを行い、相互信頼関係の下に接種が行われる体制の構築に努力してきました。日本では毎年約1万人が子宮頸がんに罹患し、約3,000人が死亡しています。最近特に20〜30歳代に増加しており、若い女性や子育て世代の女性が子宮頸がんに罹患し、妊娠能力や命を失うことは、深刻な問題として捉えられています6)。子宮頸がんの予防対策として細胞診による検診が行われてきましたが、日本の検診受診率が30〜40%台(2013年は全国平均32.7%)7)であり、欧米先進国の70〜80%台と比較して低いことから、検診のみでこれ以上子宮頸がんの死亡数を減少させることは難しい状況です。2015年6月に発表された国のがん対策推進基本計画の中間評価報告書においても、主ながんの中で子宮頸がんのみ死亡率の増加が加速しています8)。厚生労働省第6回副反応検討部会のデータでは、HPVワクチンの国内販売開始以降、接種により回避することができた子宮頸がん患者数は13,000人〜20,000人、死者数は3,600〜5,600人と推計され9)、今後これを接種しないことによる不利益に関しても科学的根拠に基づいて考慮することが必要です。
 世界の趨勢を見ますと、世界保健機構(WHO)および国際産科婦人科連合(FIGO)は最新の世界中のデータ解析結果に基づいてHPVワクチンの安全性と有効性を繰り返し確認し、HPVに起因するすべてのがん予防のために、国家プログラムによるHPVワクチン接種を強く推奨しています10)11)。また実際に英国・米国・豪州では、ワクチン接種プログラム世代のHPV感染率の低下および子宮頸部の前がん病変の有意な減少が次々と報告されています12)-14)。一方で日本においてみられるような慢性疼痛等の様々な症状はワクチン接種とは関係なく発症することもあり、WHOは日本の状況を危惧する声明を発信しています10)。今後も、本ワクチンの接種の勧奨中止が現状のまま継続されることになれば、若い世代のワクチンによるがん予防の利益を受けられず、世界の中で日本だけが、将来も子宮頸がん罹患率の高い国となる可能性が懸念されます。

 HPVワクチンは、検診(細胞診)とともに子宮頸がん予防のために必須の両輪であり、接種を推奨すべきと考えます。日本産科婦人科学会は、今後も子宮頸がんの根絶を目指して、HPVワクチンに関する科学的根拠に基づいた知識と最新の情報を国民に伝えるとともに、ワクチン接種後の諸症状に対応しつつ、HPVワクチンの接種勧奨を早期に再開することを強く要望いたします。

引用文献
1)第8回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2014年2月26日)
2)第10回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2014年7月4日)
3)Hanley SJ, et al: HPV vaccination crisis in Japan. Lancet. 2015 Jun 27;385(9987):2571.
4)http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/medical_institution/dl/medical_institution.pdf
5)HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き. 公益社団法人 日本医師会/日本医学会. 2015年8月.
6)Motoki Y, et al: Increasing trends in cervical cancer mortality among young Japanese women below the age of 50 years: An analysis using the kanagawa population-based cancer registry, 1975-2012. Cancer Epidemiol 2015, [Epub ahead of print] PMID: 26277329
7)国民生活基礎調査より. 国立がん研究センターがん対策情報センターhttp://ganjoho.jp/public/statistics/pub/kenshin.html
8)がん対策推進基本計画中間評価報告書 資料2. 国立がん研究センターがん対策情報センター. 2015年6月10日
9)第6回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2013年12月25日)
10)GACVS (Global Advisory Committee on Vaccine Safety) safety uptade on HPV Vaccines Geneva,13 June 2013
11)Human papillomavirus vaccines: WHO position paper, October 2014. No. 43, 2014, 89, 465-492. http://www.who.int/wer
12) Gertig DM,et al: Impact of a population-based HPV vaccination program on cervical abnormalities: a data linkage study. BMC Med 2013;11:227-238.
13) Markowitz LE, et al: Reduction in human papillomavirus (HPV) prevalence among young women following HPV vaccine introduction in the United States, National Health and Nutrition Examination Surveys, 2003-2010. J Infect Dis 2013;208(3):385-393.
14) Pollock KG, et al: Reduction of low- and high-grade cervical abnormalities associated with high uptake of the HPV bivalent vaccine in Scotland. Br J Cancer 2014;111:1824-1830.

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