公益社団法人 日本産科婦人科学会

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HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種勧奨の早期再開を求める声明

更新日時:2018年7月12日

平成29年1月13日

公益社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 藤井 知行

 子宮頸がんの一次予防を目指して平成25年4月に予防接種法に基づき定期接種化されたHPVワクチンが、同年6月にその接種勧奨が中止され、すでに3年半以上が経過しました。日本産科婦人科学会(以下本会)は、平成27年8月に、“HPVワクチン接種の勧奨再開を求める声明”1)をすでに発表しておりますが、今回、平成28年12月に開催された厚生労働省の第23回副反応検討部会2)における報告を含め、以下の理由に基づき改めてHPVワクチンの接種勧奨の一刻も早い再開を強く求めます。

 HPVワクチンは現在世界130カ国以上で承認され、60数カ国において公費助成による接種が行われています。WHO(世界保健機関)はHPVワクチンの安全性と有効性を繰り返し確認し、子宮頸がん及びHPV関連疾患予防のため、その接種を強く推奨しています3)。 本ワクチンの有害事象につきましては、この3年半の間に国内外においてさらなる多くの解析が慎重に行われてきましたが、現在までに日本において問題となっているような慢性疼痛や運動障害等の多様な症状とワクチン接種との因果関係を証明する報告はなく、本ワクチンの安全性に懸念を示すような科学的・疫学的根拠は示されておりません。平成27年9月の第15回の厚生労働省副反応検討部会4)において、接種後の多様な症状は機能性身体症状であるという見解が確認され、また国民への適切な情報提供を行うためには、ワクチン接種の有無によらない当該症状の頻度等に関する疫学的研究による知見が必要であるとの見解が示されました。これを受け、厚生労働省研究班による『青少年における疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状の受療状況に関する全国疫学調査』が実施され、平成28年12月に開催された第23回の副反応検討部会2)において、その結果が報告されました。これによるとワクチン接種歴のない12〜18歳の女子においては人口10万人当たり20.4人の頻度で症状を示し、また年齢構成など多くのバイアスが存在するため直接比較することはできませんが、接種歴のある女子においては人口10万人当たり27.8人の頻度で症状を示すと推計されました。これらの結果から、HPVワクチンの接種歴の有無にかかわらず、思春期の女性にこのような多様な症状を呈する方が一定数存在することが示されました。私どもは、他の分野の専門家と協力して、こうした症状を呈する女性の診療に今後も真摯に取り組んでまいります。

日本において、子宮頸がんは20〜30歳代の若い女性で増加しており、年間1万人以上が罹患し、約2900人が死亡しています5)。平成28年12月に国立がん研究センターから発表された最新の国内の部位別のがんの死亡率変化のデータによると、子宮頸がんのみが過去10年で9.6%増とその増加が加速しています6)。このような罹患率・死亡率増加を防ぐための子宮頸がん予防戦略として、一次予防としてのワクチンが、二次予防としての検診(細胞診)とともに必須であることはグローバルコンセンサスであり確立しています。HPVワクチン接種を国のプログラムとして早くから取り入れた英国・豪州などの国々では、ワクチン接種世代のHPV感染率の劇的な減少と子宮頸部前がん病変の有意な減少が示されています7)。一方、日本においては、平成8〜11年度生まれの女子のHPVワクチン接種率が70〜80%台であったのに対して、接種勧奨中止の長期間の継続により接種率が劇的に低下し、平成14・15年度生まれの女子では1%未満の接種率である現状が第23回の副反応検討部会にて報告されました2)。WHOは2015年12月の声明の中で、若い女性が本来予防し得るHPV関連がんのリスクにさらされたままとなっている日本の状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されないことにつながる現状の政策決定は、真に有害な結果となり得ると警告しています8)。本会は、将来、先進国の中で我が国に於いてのみ多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益が、これ以上拡大しないよう、国が一刻も早くHPVワクチンの接種勧奨を再開することを強く求めます。

引用文献
1)https://www.jsog.or.jp/statement/statement_150829.html
2)第23回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2016年12月26日)
3) Human papillomavirus vaccines: WHO position paper, October 2014.No.43,2014,89, 465-492. http://www.who.int/wer
4)第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2015年9月17日)
5) http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
6) http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/20161221_02.pdf
7) Brotherton JM et al. Med J Aust. 2016; 204(5):184-184e1.
8)http://www.who.int/vaccine_safety/committee/GACVS_HPV_ statement_17Dec2015.pdf?ua=1

以上

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