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日本では、妊娠を望む健康な男女が、避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を、「不妊症」といいます。
ただし、女性に排卵がなかったり、子宮内膜症を合併していたり、過去に骨盤腹膜炎にかかったことがあると、妊娠しにくいことが分かっています。このような場合は「不妊かもしれない」と考え、1年間も待たずに、検査や治療を始めた方が良いといわれています。年齢が上がると(加齢)男女ともに妊娠しづらくなるので、すぐに治療を開始した方が良い場合もあります。
日本では、夫婦の4.4組に1組が不妊で悩んでいるといわれています1)。もし「不妊症かも…」と気になったら、いまの健康状態を確認し、これからの人生プランをイメージするためにも、産婦人科へご相談ください。
1)出典:国立社会保障・人口問題研究所 第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)
成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業
『不妊に悩む方への特定治療支援事業のあり方』に関する医療政策的研究:「妊活入門アニメ プレニンカツ」
こども家庭庁:「みんなで知ろう、不妊症・不育症のこと」
日本生殖医学会:「生殖医療Q&A」
不妊症には、男性側、女性側、もしくは男女両方に原因がある場合と、まったく原因が分からない場合があります。
卵巣で、卵子を包んでいる袋(卵胞)が十分に発育し、中に入っている卵子が成熟すると、排卵が起こります。月経が規則的な女性では、月経の開始日から約2週間後に、卵子が排卵するといわれています。排卵とともに女性ホルモンの分泌が変化し、子宮内膜は妊娠に向けた準備段階に入ります。妊娠が成立しなければ、子宮内膜は剥がれ落ちて月経の出血になります。
一方、月経が不順な女性では、たとえ月経のような出血があっても、排卵していないことがあります。卵子を排卵できなければ、妊娠もできません。うまく排卵できない原因には、肥満や極端なやせ(体重減少)、男性ホルモンが高くなる多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺の機能異常や乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の分泌異常、心身のストレスなど、様々な要因があります。これらに対して、それぞれのホルモンバランスの乱れを治療しながら、排卵を起こす治療(排卵誘発)を行います。もしまったく月経がない場合は、早発卵巣不全(早発閉経)という病気の方もおられます。
ご自身で基礎体温をつけてみると、排卵しているかどうか、おおよその見当が付きます。
HUMAN+:「月経周期の正しい数え方・基礎体温のつけ方」
卵管は、子宮と卵巣をつなぐ、精子と卵子の通り道です。卵巣から排卵した卵子は、卵管の中で精子と出会い、受精します。受精でできた受精卵(胚)は、子宮へ向かって移動します。胚が、子宮の内膜に着床できれば、妊娠の成立です。もし卵管が詰まっていると、卵子と精子は出会うことがないので、妊娠もできません。
たとえば、クラミジアに感染したことがある方は、気づかないうちに炎症(卵管炎・骨盤腹膜炎)が起こり、卵管が詰まってしまうことがあります。また、月経痛が強い方は、子宮内膜症という病気が潜んでいて、癒着で卵管が詰まってしまうこともあります。
子宮の入り口にある子宮頸管は、外部から細菌などが侵入しないように、バリアの機能をしています。排卵が近づくと、子宮頸管の内部は、キレイな粘液で満たされ、精子が通りやすい環境に変化します。もし、この粘液をうまく分泌できないと、精子が子宮や卵管まで到達しにくくなります。
子宮内膜ポリープや子宮筋腫、子宮腺筋症、先天的な形態異常などが原因で、子宮の中が変形していたり、子宮内膜の状態が悪いと、胚は子宮に着床しにくくなります。過去の手術や炎症が原因で、子宮の中に癒着がある場合も、胚は着床できず、妊娠に至りません。
女性は、30歳を過ぎると妊娠するチカラ(妊孕性)が低下し始め、35歳を過ぎるとその低下が加速します。加齢による妊孕性の低下は、卵巣で卵子の数と質が低下することと、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が増えることが、主な原因と考えられています。
HUMAN+:「加齢と妊娠のリスク」
不妊症の原因は、男性側に理由がある割合と、女性側に理由がある割合が、ほぼ半々といわれています。
精巣で精子を造るチカラを、造精機能といいます。造精機能が低く、精子の数が少なかったり、精子の運動性が低いと、妊娠しにくくなります。造精機能が低下する原因はよく分かっていませんが、一部で染色体や遺伝子の異常が関連するといわれています。また、精索静脈瘤といった病気のために、精巣内の温度が高くなると、造精機能は低下します。
精巣で造られた精子が、ペニスの先端へ到達するまでの通り道(精管)が、途中で詰まってしまうことがあります。この場合、精液を射精できても、肝心の精子が出てこられず、妊娠することができません。過去の炎症(精巣上体炎)などが原因で、精管が詰まってしまった可能性があります。
勃起することができない(勃起障害ED)、女性の腟の中で射精できない(射精障害)など、うまく性交できないことを性交障害といいます。性交障害は、妊娠への精神的プレッシャーをはじめ、さまざまなストレスが原因と考えられています。また、糖尿病などの病気が潜んでいることもあります。
加齢による妊娠するチカラ(妊孕性)の低下は、男性でも起こります。女性と比べてペースはゆっくりですが、35歳を過ぎると精子の質が徐々に低下するといわれています。
HUMAN+:「男性の不妊症」
子宮筋腫や子宮内膜症、子宮内膜ポリープ、クラミジア感染症などの病気がないか、婦人科的診察(内診)や腟からの超音波検査で調べます。子宮筋腫や子宮内膜症、子宮内膜ポリープの疑いがある場合は、MRI検査や子宮鏡検査、腹腔鏡検査を追加することもあります。
卵管が詰まっていないか、子宮の内腔の形に異常がないか、造影剤を用いて検査します。
脳から分泌され卵巣で卵胞の発育を促すホルモン(卵胞刺激ホルモンFSH)や排卵を促すホルモン(黄体化ホルモンLH)、卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモン(プロゲステロン)などを測定する検査です。これらのホルモンに影響する甲状腺ホルモンや乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)も調べます。これらのホルモン検査は、月経の周期にあわせて行います。
卵巣の機能(卵巣予備能)を推測する目的で検査されるのが、抗ミュラー管ホルモン(AMH)です。AMHは、卵巣に残っている卵子の数を反映するといわれていますが、卵子の質を推測することはできません。
マスターベーションで採取した精液を検査し、精子の数や運動率などを調べます。不妊症を診ている産婦人科や泌尿器科で検査できます。精子の状態が悪い場合は、精索静脈瘤などの病気がないか、泌尿器科の専門医に診察してもらいます。
不妊症の原因に応じて、いくつかの治療法を組み合わせます。卵巣から卵子の排卵を促すことと、卵子と精子の受精をサポートすることが、不妊治療の中心です。
排卵誘発剤を用いて、卵巣からの排卵を促します。排卵誘発剤には、軽度の排卵障害に対する内服薬と、高度な排卵障害に対する注射薬があります。
腹腔鏡による卵管癒着剥離術や、卵管鏡による卵管形成術など、卵管の通りを良くする手術を考慮します。最近は、卵管での受精を必要としない、体外受精や顕微授精に進むことが多いです。
腹腔鏡による子宮内膜症の病巣除去術を考慮しますが、卵巣機能のダメージ(卵巣予備能の低下)に注意が必要です。女性が高齢の場合は、速やかに体外受精や顕微授精へ進むことが多いです。
男性側の治療を行ったり、精子の状態に合わせて人工授精や体外受精・顕微授精を行ったりします。
精巣の中の精子を探し(精巣内精子採取術)、もし精子を見つけることができたら、卵子へ顕微授精します。精子の通り道(精管)が詰まっている場合は、精管の再建手術を行うこともあります。
勃起障害の治療薬を投与したり、人工授精を行ったりします。
一般的には、タイミング性交 → 排卵誘発 → 人工授精 → 体外受精・顕微授精というように、数周期おきに次の治療法へステップアップしていきます。女性が高齢の場合は、このステップアップのペースが早まります。不妊症の原因が不明な場合も、同じように治療をステップアップしていきます。精子の状態が極端に悪い場合は、できるだけ早く体外受精や顕微授精を試みます。
最も妊娠しやすいと言われている排卵の直前(排卵の1~2日前から排卵当日)に、性交するよう指導する方法です。卵胞の大きさや尿中のホルモンを測定しながら、排卵日を推定するので、数回の通院が必要です。
内服薬や注射薬で排卵を促す方法です。もともとは排卵障害に対する治療法ですが、排卵がある方でも、人工授精の妊娠率を上げる目的で排卵誘発することがあります。
マスターベーションで採取した精液から、良好な運動精子を集めて、排卵の直前に子宮内へ注入する方法です(人工授精AIH)。
体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)、胚移植(ET)といった、より専門的な不妊治療を総称して、生殖補助医療(ART)といいます。
生殖補助医療を行う場合、まず排卵誘発剤で卵巣を刺激し、複数個の卵胞を発育させます。卵胞が十分に発育したら、経腟超音波で見ながら卵胞を穿刺・吸引し、卵子を回収します(採卵)。精液の状態に応じて、卵子に精子をかけ合わせる体外受精IVF、もしくは卵子に精子を直接注入する顕微授精ICSIの、いずれかを行い、卵子と精子の受精を促します。受精した胚を数日間培養し、発育が良好な胚を選択します。採卵した周期に胚を子宮の中へ移植する方法(新鮮胚移植)と、胚を一旦凍結保存し、卵巣や子宮を休ませた後に、解凍して子宮へ移植する方法(凍結融解胚移植)があります。
HUMAN+:「生殖補助医療~進歩した不妊治療」
成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業)
標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究:「患者さんのための生殖医療ガイドライン」
日本受精着床学会:「体外受精・顕微授精の疑問にお答えします 生殖補助医療技術ARTって何?」
日本では、年間50万件近くの生殖補助医療が行われています。最新の治療成績を、日本産科婦人科学会のホームページでご覧いただけます。
日本産科婦人科学会 登録・調査委員会:「ARTデータブック」