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卵巣の腫瘍とがん

更新日時:2025年1月30日

卵巣の腫瘍やがんとはどのような病気でしょうか?

卵巣はもともと2~3cmぐらいの大きさで、子宮の左右に一つずつあります。卵巣にできた腫瘍を卵巣腫瘍といい、大きいものだと10~20cmを超えることもあります。卵巣腫瘍は、腫瘍細胞の悪さ(悪性度)によって、①良性、②境界悪性(良性と悪性の中間)、③悪性(がん)の3つに分けられます。また、腫瘍のもとになった組織から、①上皮性腫瘍、②胚細胞腫瘍、③性索間質性腫瘍の3タイプに分けられます。ちなみに、卵巣がんのうち最も多いのは上皮性の卵巣がんで、卵巣がんの約9割を占めます。卵巣がんと卵管がん、腹膜がんは似通った部分が多いので、最近は卵巣・卵管・腹膜の腫瘍をまとめて取り扱うようになっています。

日本では、毎年約13,000人の女性が卵巣がんにかかり、約5,000人の方が亡くなっています。卵巣がんは、半数以上の患者さんが進行癌で発見されることもあって、子宮頸がんや子宮体がんと比べて悪性度が高く、治る見込みの低い(予後が悪い)がんです。

卵巣チョコレート嚢胞とは?

子宮内膜症は、ふだん月経で剥がれ落ちるはずの子宮の内膜組織が、子宮以外の場所(異所性)に入り込み、月経痛や不妊症の原因になる病気です。子宮内膜症の病変が卵巣に入り込み、月経血のようなチョコレート色の液体をため込むのが、卵巣子宮内膜症性嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)です。チョコレート嚢胞は、繰り返す月経に伴い、少しずつ増大していきます。20~30代で発症することが多く、まずはホルモン治療などで経過を観察することが一般的です。ただし、チョコレート嚢胞のサイズが大きい場合や、痛みを伴う場合は、嚢胞の部分を摘出(核出術)することもあります。
卵巣チョコレート嚢胞は良性の腫瘍ですが、約1%が悪性化し、がんになると言われています。悪性化した卵巣チョコレート嚢胞は、抗がん剤が効きにくいタイプの卵巣がん(明細胞がんや類内膜がん)になることが多いので、定期的に通院し、大きさの変化がないか確認していく必要があります。

卵巣がんの症状は?

初期の卵巣腫瘍は気づかれにくく、多くの女性が無症状で過ごしています。一方、病気が進んで腫瘍が増大したり、お腹に水(腹水)がたまるようになると、お腹が張って苦しい(腹部膨満感)、下腹部が痛い、尿意が近くなるといった症状が出てきます。もし卵巣腫瘍が破裂したり、ねじれたり(茎捻転)すると、突然激しい腹痛に襲われます。このような場合は、直ちに産婦人科を受診してください。

卵巣がんの検査は?

卵巣腫瘍の診断は、次のようなステップで行われます。

問診・身体検査

現在までの症状や既往歴・家族歴をお聞きし、外診と内診を行います。

超音波検査

卵巣を詳しく観察し、腫瘍の性質(嚢胞性か充実性か)を評価します。腫瘍が嚢胞性の場合は良性のことが多く、充実性の部分を認めた場合は悪性もしくは境界悪性の可能性を疑います。

MRI検査・血液中の腫瘍マーカー測定

腫瘍の性質をより正確に特定する目的で検査します。

手術と病理組織検査

最終的な診断を下すために、手術で卵巣腫瘍を摘出し、顕微鏡で詳しく調べます。
 

卵巣がんの広がり(進行期)の概要

進行期 説明
I期 がんは卵巣に限局しています。
II期 がんが卵巣から周囲の骨盤内臓器へと広がっています。
III期 がんが骨盤を越えて腹腔内にまで広がり、リンパ節にも転移している場合があります。
IV期 がんが肝臓や肺などの遠隔臓器に転移しています。


出典:日本婦人科腫瘍学会「患者さんとご家族のための子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん 治療ガイドライン第3版」p.154

卵巣がんの治療は?

卵巣腫瘍の悪性度(良性・境界悪性・悪性)で治療方針は異なりますが、手術療法が原則です。

良性腫瘍

年齢にもよりますが、将来の妊娠・出産に配慮し、卵巣の正常部分はできるだけ温存しながら、腫瘍の部分だけを摘出する手術が一般的です。最近は腹腔鏡手術が主流で、従来の開腹手術と比べて、体の負担が少なく、手術後の回復も早いのが特徴です。

境界悪性腫瘍

両側の卵巣と卵管、子宮、大網(胃と大腸の間の膜)を、開腹手術で切除するのが一般的です。

悪性腫瘍

がんをできる限り除去するために、開腹手術で両側の卵巣と卵管、子宮、大網を切除します。リンパ節を摘出したり、がんの広がった腸管や腹膜などを切除することもあります。
 


出典:日本婦人科腫瘍学会「患者さんとご家族のための子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん 治療ガイドライン第3版」p.156

 
将来の妊娠・出産を希望なさる場合や、境界悪性腫瘍~悪性腫瘍であっても、その種類や広がり(進行期)によっては、卵巣や卵管、子宮の温存を試みることがあります。慎重な判断が求められますので、主治医とよくご相談下さい。
卵巣がんでは、ほとんどの患者さん(I期の一部を除く)に対して、手術後の抗がん剤治療が勧められます。抗がん剤は、タキサン製剤(パクリタキセルなど)とプラチナ製剤(カルボプラチンなど)を併用するのが一般的です。III期以上の進行がんの方には、抗がん剤治療の後に、PARP阻害剤(オラパリブ、ニラパリブ)や血管新生阻害剤(ベバシズマブ)を用いた維持療法も勧められています。
がんの組織(MyChoice診断システム)や血液検査(BRACAnalysis診断システム)を用いた、卵巣がんの遺伝子検査も行われています。これらの結果をもとに、抗がん剤治療後に追加する維持療法の薬剤を決定したり、遺伝性卵巣がんの一つである遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)を診断します。また、がん遺伝子パネル検査で、がんに関連する遺伝子の異常を調べることで、一人ひとりに合った治療法が見つかることもあります。このように卵巣がんの個別化医療も徐々に進んでいますので、遺伝子検査や遺伝カウンセリング、追加の治療法などについて、主治医から詳しい説明をお聞きください。

最後に

卵巣がんは悪性度が高いので、何といっても早期発見・早期治療が大切です。卵巣がんに気づくのは難しいかもしれませんが、下腹部の違和感など、少しでも気になることがあれば、お近くの産婦人科を受診してください。卵巣がんの治療は、患者さんの状況やがんの進行期(ステージ)によって、大きく異なります。主治医と十分に相談しながら、最適と思われる治療法を選択してください。
 
日本婦人科腫瘍学会:「動画アニメで婦人科がんのことを知ろう/患者さん向け動画アニメーション」

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