わたしのON/OFF 明日に繋がるoff

わたしのON/OFF 明日に繋がるoff 齋藤 滋 富山大学産科婦人科 教授

私のON
 私の1週間は超多忙な月曜日から始まります。このところ土、日とも学会や会議で出張が続いており、月曜日が来るのが多少なりとも恐くなってきています。
 まず月曜日は、いつもより早く7時45分から抄読会が始まります。2つの海外論文を紹介し、今後の研究や臨床に活かすために利用しています。その後、医局会を開催し、種々の伝達事項や協議事項につき話し合います。その後、教授室に戻り、週末のメールで返事が必要なものをピックアップして秘書にお願いして資料を添付して送ります。
 これから外来診療です。私の外来は月曜と金曜の週2回ですが、県内の病院から紹介された初診患者を診断し、方針決定を行ないます。さらに県内、県外からたくさんの不育症患者が来られており、これらの患者さんを診させていただいています。通常14時半~15時までかかります。終了後、職員食堂へ行きますが、この時間になると定食はいつも売り切れです。適当な品を注文し、15分以内に食べ終り、病棟へ向かいます。
 病棟でまず行ないますのは、1週間の手術のプレゼンです。このプレゼンで手術術式のみならず手術の注意点や工夫などにつき、私から担当医に質問をぶつけます。ここでうまく答えることができないと、第2、第3の質問が入ります。また細胞診や組織診の所見もあらかじめ自分の目で見ておかなければ、化けの皮が剥がれます。私にとっても勝負の時だと思っていますので、担当医がどのように回答してくれるか、毎回楽しみです。
 次に回診に入りますが、あらかじめカルテ上でのプレゼンをしてもらい、担当医に注意したりコメントをしています。これは私が若かった時に患者さんの前で叱られた苦い経験があるためで、担当医を患者さんの前で叱ることは決してしないように心掛けています(今では当たり前でしょうが、昔はいつも担当医が注意されていました)。
 これが終わると病棟回診で産科と婦人科の患者全員の回診を行ないます。この間、全く休み時間がないので、まさに体力との勝負となります。
 回診が終わってから、教授室に戻り5分間休憩してからメールのチェックを行ない、秘書に手伝ってもらいながら返信します。月に1回は研究打合せ会をしますので、この際は1時間半~2時間の打合せの後にメールのチェックとなります。こうこうなるとクタクタです。
 火、木は原則として手術に入り、主として婦人科癌手術の指導をしています。地方の大学教授は何でもしなければなりません。水は教授会や病院運営会議となります。その他、教室員の学会スライドのチェック、抄録の修正、投稿論文の校正、日産婦学会やその他の関連学会の仕事、Journal Reproductive Immunology誌のEditorとしての仕事など、様々な仕事があります。また学生との実習後の飲み会にもできる限り参加するようにしています。金曜日に外来診療が終了し、1週間のメールをチェックして抜けていないかを確認して帰宅しますが、いつも1週間頑張ったなと思っています。
私のOFF
 こんな緊張を取り除いてくれるのがオフの時間です。私は18年前に富山に来てから海釣りを始めました。釣りは奥が深くて、ほとんどが釣れない時間ですが、潮の加減だと思うのですが、短時間ですが一斉に釣れる時間帯があります。これを時合といいます。この時期を逃さないように心の準備をしつつ、周りの景色を鑑賞し、精神的にリラックスしつつ、餌がなくなっていないかを小まめにチェックしておく必要があります。また、その間に研究や臨床のアイデアを考えたりしています。釣りにも「オン」、「オフ」があるのです。また棚といって魚がいる深さが決まっています。常に海底から何m上か、もしくは海底近くかをチェックして、船頭さんが魚群探知機で魚群を察知した際は、海底何mかを正確に判断して、餌のある位置を上下させます。また北陸独自のフカセ釣りでは潮の流れに任せて流します。原則、おもりはつけませんが、小さなウキをつけたり、小さなおもりをつけたりしてまさにピンポイントに棚あわせをします。これが実におもしろいのです。このポイントが見事に当たると、決まったように、例えば80m流すと大きな鯛が釣れます。釣った後は、さばいて食卓で刺身、焼き魚、煮付けと楽しむことも釣りの楽しみの一つです。
 釣りの趣味が高じて、海外のモーリシャスでblue marlin(カジキマグロ)釣りにも挑戦し、3回目で初めて2匹を釣り上げることができました。小さいほうのblue marlinは剥製にして教授室に飾っています。これには長い話があるのですが、省略すると以下のようになります。
 まずblue marlinを約1時間くらいかけて釣り上げると、マストに旗を掲げます。2匹釣れたので、私の船は2つの旗を掲げて港に帰港しますが、旗をみて、周りから観光客、地元の子供たち、釣り客など大勢集まってきます。直ちにクレーンで釣り上げて、重さの計測を行ない、記念写真を撮ります。私の身長が183cmですので、いかにblue marlinが大きいかが判ると思います。その後、業者がやってきて剥製にしろと勧めます。釣り人は最高に興奮しているので気前は良くなっています。しかもルピーという貨幣価値が判らない値段で注文を取りにきます。私もあやうく失敗しそうになりましたが、ルピーが判らなかったのでユーロでいくらかを後で聞き直すと、日本円にして20万円強でした。これではあまりに高すぎます。交渉を重ね500ユーロに値切り、小さいほうのカジキマグロの頭だけの剥製にしました。これが正解でした。もし大きなカジキマグロを剥製にしておれば、飾る場所がありませんでした。また値切ったので、船便で富山まで届けてもらうようにしました。半年くらい待って、出来上がったから船便で送るとメールが入り、それから3ヶ月くらい待って名古屋の税関から電話がかかってきました。只今、齋藤さんの荷物を名古屋港で受け取ったが、「blue marlinと書かれているが中身はなんでしょうか?」「カジキマグロです」と答えると、すでに秘書が私に電話を取り次いだ際、産婦人科の教授と伝えてあったものですから、「研究に使用するものでしょうか?」と真面目に質問され、思わず吹き出してしまい「学会に行った際、釣り上げたカジキマグロの剥製です。研究には使いません」と答えました。次の発言がショッキングで「それでは税金がかかります。いくらのものでしょうか?」でありました。剥製にかかった費用が500ユーロだったと答えますと、「25%の関税をいただきます」との事務的な返事が返ってきました。その後、帰宅して家内に私の自宅でカジキマグロの剥製を飾ろうと思うのですが、如何でしょうかと切り出すと、「気持ち悪いから家には持って帰らないで」と一刀両断に斬られてしまいました。確かに一般の人には気持ち悪いかもしれません。というわけで、剥製は教授室に飾られる結果となりました。
 皆様、富山大学に来られた際は、ぜひとも私の部屋にお寄り下さい。

2016年2月現在