わたしのON/OFF 明日に繋がるoff

わたしのON/OFF 明日に繋がるoff 野村 弘行 慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室 助教

 日本経済がかつての高度成長期から安定期に入ったように、近年、仕事の内容も量より質が求められるようになってきました。朝早くから夜遅くまで働き続けることではなく、決められた時間の中にきちんと仕事を収められる能力、そして斬新なアイデアを出せる能力が、今の"できる人"の条件です。私の経験で振り返ってみても、仕事や研究で行き詰まったとき、新しいアイデアがひらめいたのは常に仕事を離れたOFFの時間であり、机に向かっている時ではありませんでした。OFFの時間の使い方は、質の高いONの時間に結びついていることを実感します。
私のON
 産婦人科は取り扱う領域が、生殖、周産期、腫瘍、女性医学と多分野にわたり、内科系、外科系要素がともにあることが診療科としての魅力です。私の専門は婦人科腫瘍学ですが、この領域のみ見てもそれが当てはまります。がん治療の大きな要素として手術療法が占めるのは当然ですが、手術のみでコントロールできるがんは多くはありません。最近は新規分子標的治療薬の開発も盛んであり、薬物療法の重要性が増してきております。
 私は特にがん薬物療法に興味を持っており、臨床腫瘍学の視点でがん治療を俯瞰的にとらえマネージメントする能力を身につけ、それを発揮できるよう努力しております。
腫瘍センター外来での診療

腫瘍センター外来での診療

プロトコールや薬剤投与量のチェック

プロトコールや薬剤投与量のチェック

 新規治療の開発に臨床研究は不可欠です。研究を行う体制を整備し、日々の診療の中からクリニカル・クエスチョンを見つけそれを研究として実践することにも力を注いでいます。
臨床試験コーディネーター(CRC)の方たちと

臨床試験コーディネーター(CRC)の方たちと

学会での研究成果発表

学会での研究成果発表

私のOFF
 私の一番の趣味は鉄道に乗ることです。最近は鉄道趣味も市民権を得ているようでさまざまなジャンルに細分化されていますが、私の場合は「乗り鉄」であり「歴史派」といったところです。鉄道の面白さは、多様なコンテンツが巨大なシステムを形成しているという繊細かつ壮大なところです。そして、鉄道は単なる交通機関ではなく、その土地に刻まれた歴史であり、生活であり、文化でもあります。
 電車の雑踏の中に身を置いて物思いにふけるとき、窓外を流れる美しい日本の風景を眺めるとき、鉄道から垣間見える歴史に思いをはせるとき、視野が狭くなりがちな日常を脱却し、自分を見つめ直す良い機会となっています。

 東京には充実した鉄道網があり、私の自宅の最寄り駅には4路線が乗り入れています。病院から自宅への帰り道もさまざまなルートを選択できるため、通勤のわずかな時間を利用しての小旅行も可能です。新路線の開通は、最も胸躍る瞬間です。
 学会への行き帰り、また学会中の空いた時間は、普段は乗れない路線に乗る機会を作ります。その土地の雰囲気を肌で感じることができるからです。そして被災地の鉄道の復旧にも関心を寄せています。先日も学会の帰路に常磐線に立ち寄りましたが、常磐線はいまだ全線復旧の目途が立っておりません。現時点で東京から電車で行ける北限が竜田駅ですが、この先は数年間放置され錆び付いた線路が原発事故に伴う帰還困難区域へと続いています。

2016年1月現在