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Reason for your choice
産婦人科の“魅力”
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今、周産期医療がおもしろい!
―奇跡の中で働くところ―
2015年12月12日
竹田 省
周産期委員会委員長
ドラマ「コウノドリ」
 マンガから火がつきドラマ化されたTBS金曜ドラマ「コウノドリ」が本年10月からスタートし、人気を博しています。産科病棟、分娩室、手術室、NICU、新生児病棟での出来事を“ボクらは毎日、奇跡のすぐそばにいる”の副題どおり毎回ハラハラ、ドキドキ、倫理問題、人間模様をからめてドラマは進行して行きます。実際の周産期センターの現場でも、毎日これほどではないにしろ似たような状況で過ごしています。何年たっても、いくつになっても、毎日毎日が新鮮で、充実した日々をおくっています。この世に誕生した新しい生命から、私たちは新たなエネルギーをもらっているのかもしれません。
 医学部の面接では、“子供の頃、病気をしたときに優しい小児科の先生に治療して戴き、それがきっかけで医師になりたいのです。“と話す受験生が多いのは仕方の無いことです。記憶に残らない出生時の出来事なのですからしょうがないのかもしれませんが、分娩時に寝ずに頑張ったお母さんをはじめ産科医、助産師達の努力があることも忘れないで欲しいものです。
お産で命を落とすことは過去のこと?
 現在、世界で最も多い疾病による死亡原因は、エイズと妊娠・分娩であることは厳然とした事実です。妊産婦死亡の世界の現状(UNICEF 2008)をみると年間50万人以上が亡くなり、最大の死因は「妊娠・分娩時の出血」です。開発途上国の妊産婦死亡率は平均950/出生10万(最も多いのはSierra Leoneで、2,000/出生10万、お産で100人に2人が死亡する)で、先進国の平均12.5/出生10万と比較すると格段に高くなっています。明治33年の妊産婦死亡率は449/出生10万、1950年では176/出生10万となり、さらに戦後、周産期関係者、行政などのさまざまな努力により、妊産婦死亡や周産期死亡、新生児・乳幼児死亡は激減し、世界で最も安全に出産・育児ができる国になっています。しかし、2008年3.1/出生10万(総数35名)、2009年3.6/10万(総数39名)、2010年5.0/10万(総数53名)、平成25年には3.4/10万(総数36件)と下げ止まっており、今後の動向が危惧されています。
 また、平成17 年厚生労働省研究班の調査によると、“1人の妊産婦死亡には、4,000~5,000人の重症妊産婦管理例が発生していることが推定されています。これらの重篤な症例でも大量出血によるものが最も多く、子宮摘出術など施行しかろうじて救命した症例も含まれています。死亡例分析では搬送例が多く、一次止血と輸液・輸血療法が極めて重要であり、手遅れにならないうちに高次医療機関に搬送することが重要と思われ、その対策が急務です。また、直接産科的死亡の出血以外の原因として、産科的肺塞栓症、妊娠高血圧症候群などがあり、頭蓋内出血や心疾患など間接産科的死亡も問題となっています。まだまだ妊産婦死亡対策には改善の余地が残されており、“妊産婦死亡ゼロ”をめざして努力しています。
帝王切開術の歴史
 日本で最初の帝王切開術は、ペリーが浦賀に来る1年前の1852年 (嘉永5年) 、秩父郡大宮郷(現埼玉県飯能市)の難産で苦しむ妊婦を救うために伊古田純道と岡部均平によって行われた。妊婦は経産婦であったが、上肢が脱出し、臍帯脱出もおこしており、胎児はすでに死亡していた。内回転術や穿頭術も行ったが娩出できずこのままだと産婦の命までも失われる状況であった。岡部は叔父にあたる伊古田純道の応援を頼み、二人で初めての帝王切開術を行うことにした。オランダ医学書「サロモン氏産論」を見ながら母体救命のために行ったもので「子宮截開術実記」にその経過が詳しく書かれている。今でいうinformed consentをとり、手術記録、術後の経過がきちんと書かれている。麻酔もなく子宮筋創は縫合しなかったが、閉腹までに半とき(1時間)を要し、現在の帝王切開術とあまりかわらず、見事なものであった。産婦もよく手術に耐え、術後腹膜炎、イレウスを起こしながらも創部が離開し、膿が流出するとともに解熱、回復し、満88歳の長寿を全うした。
 これまでこのような難産例や前置胎盤、児頭骨盤不均衡などでは、母児ともに命をおとしていたので画期的な出来事であった。また、華岡青州の麻酔法とともに帝王切開術の臨床応用は、その後の母児の救命率の向上、外科系医療技術の成果につながる大きな第一歩であった。このような地域の医師たちが、目の前の苦しんでいる患者を救おうとやむにやまれぬ思いで踏み切った治療であったが、若いときからいろいろな人に教えを請い、新しいことをどん欲に学び吸収していた様子がうかがい知れる。こうした先人たちの偉業のうえに現在の産科医療が成り立っていることは言うまでもないが、是非若い医学生、医師たちも医学部に入学した頃を思い出し、先人たちのひたむきな純粋でがむしゃらな姿勢をお手本に研鑽してもらいたい(周産期医学40巻11号より)。
最近の妊娠・分娩事情
 女性の社会進出、晩婚化などさまざまな女性を取り巻く変化に加え、核家族化などライフスタイルの変化などから妊娠、出産、子育てをめぐる社会環境が激変しています。年ごとに結婚年齢、初産年齢が上昇し、高齢での出産が増えてきました。これに伴い妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、前置胎盤の増加、帝王切開術に伴う癒着胎盤の増加などハイリスク妊娠・分娩がますます増加しています。
 一方、生殖医療技術はめざましく進歩し、海外で施行した卵子提供による体外受精や代理懐胎など新たな問題も生じています。その結果、高齢出産や不妊治療後の妊娠・分娩も多く、通常なら閉経する50歳以降の妊娠分娩例も見られるようになっています。高齢出産は子宮筋腫の合併、妊娠高血圧症候群、静脈血栓塞栓症などの妊娠異常、合併症も多く、帝王切開など分娩異常も明らかに多くなります。妊娠・分娩時の経過の異常によっては、産褥期のトラブルだけでなく、その後の人生の高血圧や糖尿病など生活習慣病の原因にもなることが知られるようになってきています。
 また、女性のやせ願望が強まるとともに妊婦の摂取カロリーが減少し、それに伴い1976年以降、出生児体重は減少の一途をたどっています。Barker D.博士によってとなえられた妊娠中の母体の低栄養は胎児の成人病を引き起こすという成人病胎児期発症起源説(Developmental origins of Health and Disease)は、種々の疫学調査や動物実験でも証明されてきています。日本のこの状況は、成人病胎児期起源説を証明するための自然に行われている実証実験場になるのかもしれません。
メンタルサポートは緊急の課題
 分娩・産褥の現場では、家族が集まり祝福し、いたわり、助け合う光景が見られますが、色々な事情により母子が孤立し、心身ともに健やかに過ごすことに問題が生ずることがあります。妊娠、産褥期のメンタルヘルスの問題発生や家庭環境の問題は、母性喪失、育児ノイローゼ、育児放棄、ネグレクト、児童虐待などその後に育児の大きな障害となります。産後うつ病は、軽い状態を含めると10~15%に発症し、適切な医療介入が行われず、両親や周囲のサポートも得られない状況に追いやられると、母児が極めて悲惨な状況に陥ることも危惧されます。妊娠・産褥期の母児のサポート、メンタルヘルスケアの問題は、緊急の課題であり、周産期医療関係者全員で取り組む必要があります。
産婦人科医の役割とは?
 産婦人科医療は精子・卵子から思春期、性成熟期、更年期、老年期まで女性の一生を担当し、ホルモン異常、不妊症、妊娠・分娩、子宮筋腫、内膜症、更年期障害、うつ病、婦人科内科、骨粗鬆症、婦人科癌、終末期医療などをカバーしています。生殖医療、周産期医療、がん診療、ヘルスケアなど予防から治療、カウンセリングにいたるまで幅広く行われています。
 産婦人科医の役割は、妊娠・分娩を安全に見守り、時には介入し、また、女性の健康を心身ともに増進させ、病気を予防・治療することにあります。産婦人医療の充実は、しいては女性の寿命を延長させ、quality of life(QOL)を向上させ、ますます女性が元気に強くなることにつながることでしょう!
 産婦人科医不足の折、産婦人科医療の担い手達は極めて忙しく厳しい状況ながら、日夜身を削って頑張っています。ますます女性が元気に強くなれるようわれわれ頑張りますので、日常診療の現場で忙しくしている産婦人科医に温かい目を向けて欲しいものです。
 また、このすばらしい産婦人科分野に是非、若い医師が参加してくれることを願っています。一緒にこの分野で充実した日々を過ごしませんか?!

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