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Reason for your choice
産婦人科の“魅力”
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女性医学の紹介
2015年12月21日
高松 潔
女性ヘルスケア委員会委員長
1.女性医学って何?
 これまでの産婦人科学は、大きく分けると、妊娠・分娩に関連した周産期医学、不妊症やホルモンに関連した領域を中心とした生殖内分泌学、婦人科がんなどの腫瘍を扱う婦人科腫瘍学の3つの柱、つまり、サブスペシャルティからなっていましたが、近年、4つ目の柱として女性医学が注目されています(図1)。平成26年11月には、正式に女性医学が日本産科婦人科学会産婦人科専門医のサブスペシャルティとして認定されました。

    <図1>
写真1

 女性医学とは「産婦人科の専門領域のひとつで、QOLの維持・向上のために、女性に特有な心身にまつわる疾患を主として予防医学の観点から取り扱うことを目的とする」と定義されています。我々が患者さんを診るときは、患者さんの「今」を見ているわけですが、当然ながら「過去」があり、「未来」があります。一生の流れの中で女性のQOL向上を考えるのが女性医学と言えます。例えば、妊娠中にはじめて発見された糖代謝異常を妊娠糖尿病といい、血糖の管理が必要となりますが、多くの場合、出産後には回復します。しかし、妊娠糖尿病であった女性は将来、そうでなかった女性の約7倍の高頻度で2型糖尿病になることが知られています。つまり、無事に出産した後も「あとは育児を頑張ってね」ではなく、フォローが必要ということなのです。また、不妊の女性によく見られる多のう胞性卵巣症候群(PCOS)では、PCOSではない女性と比較して、将来、メタボリック症候群になるリスクが約2倍と有意に高いことが分かっています。つまり、現在の不妊治療だけでなく、将来に向けて今から生活習慣の見直しが必要といえます。婦人科腫瘍に対する手術では卵巣を摘出することがあります。もちろん卵巣がんなどのようにどうしても摘出しなければいけない場合もありますが、子宮筋腫のために子宮を全部摘出する場合のように、温存も可能だが、将来の卵巣がん罹患を危惧して摘出するか?という判断が必要になる場合があります。これまでは閉経後や閉経が近い年齢の場合には摘出することが多かったようです。しかし、確かに卵巣由来のエストロゲンは閉経後に低下しますが、卵巣は閉経後もアンドロゲンなどのホルモンを産生していることが知られており、65歳ぐらいまでは両側卵巣摘出をしない方がよいという考え方もあります。また、性成熟期には月経の前に体調が悪くなる、いわゆる月経前症候群(PMS)という病態がありますが、PMSを経験した女性では更年期障害が辛いという報告もなされています。このように、「今」は「未来」につながっており、「今」だけではなく、「未来」をも視野に入れた対応を志向した学問領域が女性医学です。その意味では、図2のようにこれまでの3つの柱の基礎となる領域とも言えますし、3つの柱の間を埋めるマトリックスのような存在とも言えると思います。
 2014年の日本人女性の平均寿命は86.83歳と世界一の長寿を誇っています。しかし、単なる寿命ではなく、健康で支障なく日常生活を送ることができる期間を示す健康寿命をみると73.62歳(平成22年)であり、決してQOLが維持されているとは言いがたい状況にあるのも事実です。今後の更なる高齢化社会に向けても女性医学は極めて重要な分野と考えられます。

    <図2>
写真2
2.女性医学のカバーする領域
 上記のことから、女性医学のカバーする領域はとても広いことがお分かりいただけると思います。従来、いわゆる周閉経期から老年期にかけての心身の変化に対応する更年期医学を中心としていましたが、これに加えて、子宮脱などの骨盤臓器脱(POP)や尿失禁・過活動性膀胱といった女性下部尿路症状(female LUTS)、性機能障害、逆に初経から性成熟期にかけての諸問題を扱う思春期医学、さらに感染症、子宮内膜症なども扱います。また、現代社会はストレスフルですが、心と身体の関係を科学的に研究して、これを医学に活用しようとする学問である女性心身医学も範疇になりますし、産婦人科診療に必要な法律知識もカバーします。
 加えて、疾患をまたいだ治療法に対する対応も行っています。閉経後のエストロゲンレベルの低下によって惹起される心身の愁訴、更年期障害や脂質異常症、骨粗鬆症などに対してエストロゲンを投与することにより改善を図るホルモン補充療法(HRT)や避妊に加えて、月経困難症や過多月経、PMSなどに有用ないわゆる低用量ピル(現在では低用量経口避妊薬(OC)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)と呼ばれます)の利用方法の検討も女性医学の領域にあり、2012年6月にはHRTガイドライン2012年度版、2015年11月にはOC・LEPガイドライン2015年度版が発刊されました。日本においてもホルモン製剤が安心・安全かつ有効に使える状況であるべく努力しています。
3.女性医学のトピックス
 女性医学は広い分野をカバーしますので、トピックスはたくさんありますが、現在、日本産科婦人科学会において女性医学を担当する常置委員会である女性ヘルスケア委員会における小委員会とその活動から、トピックスの一端を知っていただければと思います。

・ 産婦人科における乳腺疾患管理のあり方に関する小委員会
 乳房は女児の思春期性徴の目安であり、産褥乳汁産生の臓器となるなど、産婦人科医療と密接な関係があります。また、乳がんは女性がんの発症率では第一位を占め、中高年女性では乳がん検診が重要となりますが、この年代では子宮がん検診とともに乳がん検診を希望する女性も少なくありません。このように女性の生涯を通じたメディカルパートナーを目指す産婦人科医にとっては、乳房管理や乳がん検診を積極的に行う必要性が増しています。そこで、産婦人科医による乳房管理の在り方、特に若年者、妊娠中、HRT中の乳房管理の在り方、さらに近年増加している乳がん診療に対する産婦人科医の関わり方、関連する技術取得について検討し、最近の知見、他学会との連携を基本に「産婦人科における乳房管理マニュアル(仮称)」を作成する予定です。

・ 婦人科疾患(良性・悪性)治療がおよぼす身体的影響に関する疫学研究小委員会 
   子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんといった婦人科がんに対する治療の進歩に伴い、がん患者の長期生存が期待できるようになりました。婦人科がんでは、多くの場合、両側卵巣が摘出されたり、骨盤への放射線治療がなされたりするため、卵巣欠落症状や脂質プロファイルの悪化や骨粗鬆症が危惧されます。しかし、治療後の長期健康に関する調査・疫学は行われていないため、がん治療による健康障害がその後の患者の健康と生活の質に対してどのように影響があるかはいまだ不明です。また、良性疾患においても、卵巣がんリスクを考慮して、閉経前に両側卵巣が摘出されることも少なくありません。そこで現在、婦人科疾患治療後の心身の変化を後方視的ならびに前方視的に検討しています。今後、治療後のフォローアップのプロトコールが作成されることが期待されます。

・ 骨盤臓器脱の保存的治療法に関する検討小委員会
 日本は2013年に65歳以上の人口が25%となり,世界で最も急速に高齢化が進んでいる国の一つと言われています。中高年女性のヘルスケアを考えるとき、骨盤底臓器の機能(排尿・排便・性機能)障害は極めて重要であり、中高年女性のQOLを大きく阻害することが知られています。特にPOPに対しては、一時期、メッシュによる手術が盛んに行われましたが、人工素材である合成メッシュは耐久性には有効性が認められる反面、脱出、炎症、疼痛などの特有の術後障害も報告され、米国FDAからのメッシュ使用の警告もあり、外科手術法の適応の見直しも進んでいる現状です。そこで、現在、日本におけるPOP治療の現状把握のために、POPに対する保存的治療の進め方の実態調査を行っています。これまでに実施した手術療法の実態調査を合わせて、コメディカル、助産師を含めた外来診療の方向性を示す日本におけるPOP治療のガイドラインの作成を目指しています。

・ 本邦における産婦人科感染症実態調査小委員会
 産婦人科領域の感染症には、性感染症、性器や骨盤内感染症、母子感染、感染症が原因の流早産や不妊不育、周術期感染症、ウイルス感染による発がんなど多くの問題があり、日常臨床では大きな分野を占めています。そこで、これらの診断と治療に際してその科学的根拠や感染病態を明らかにすることは必須であると考えられます。現在、性感染症(クラミジア、淋菌、尖圭コンジローマ、性器ヘルペス)による母子感染と周産期異常に着目し、新生児管理も含めた実態調査を行っています。

・ 女性アスリートのヘルスケアに関する小委員会
 2020年の東京オリンピック開催が決まり、アスリートのヘルスケアに注目が集まっています。これまで日本産科婦人科学会女性ヘルスケア委員会では、2200名を超える方々における大規模なアンケート調査を行い、各スポーツ種目別に、月経周期異常の有無、疲労骨折既往の有無、月経困難症や月経前症候群の有無、摂食障害の有無、OC・LEPの使用状況や有害事象などについて検討してきました。その結果、女性アスリートでは、無月経の頻度は、競技レベルや各個人種目別によってはコントロールと比較し有意に高く、また既往の疲労骨折発生頻度も同様に有意に高いことが明らかとなりました。また、肥満度を示す指標であるBody Mass Index(BMI)の低い群では無月経頻度や既往疲労骨折頻度が有意に高いことも分かってきました。これらの結果を元に、若い女性アスリートの疲労骨折や無月経を防止するための管理指針を作成する予定であり、これは東京オリンピックを目指してスポーツに打ち込む思春期女性のヘルスケアにとって極めて有意義だと考えられます。

・ 女性のヘルスケアアドバイザー養成プログラムに関する小委員会
 産婦人科は「妊娠した人が行くところ」という先入観が強く、月経トラブルや二次性徴など女性のヘルスケアニーズが高くなる思春期~20代の若年女性は産婦人科の敷居を高く感じている実態があります。そこで、実臨床において、女性の包括的なヘルスケアを実践し、学校教育や企業での健康教育にも積極的にプロモーションを展開できる産婦人科医(女性のヘルスケアアドバイザー)を養成することを目的として、プログラムを実施しています。全国各地からの希望者に対し、年5回の研修会を行い、年間約200名のアドバイザーが誕生しており、各地域での啓発活動に取り組んでいます。

・ HRTガイドライン2017年度改訂版作成小委員会
 HRTが中高年女性のQOLの維持・向上に欠かせないツールであることは言うまでもありません。しかし、2002年のWomen’s Health Initiative(WHI)中間報告において乳がんリスクの上昇が懸念されて以来、HRTには誤解がつきまとってきたことも事実です。そこで安心・安全かつ有効にHRTを施行することができるようにHRTガイドラインが作成されています。医学の進歩に伴い、さまざまな新しい報告もなされているため、現在、改訂作業が進んでいます。2017年度に発刊予定です。

4.女性医学の魅力
産婦人科というとお産、あるいは不妊治療、がんの手術と思われがちですが、これまでに述べたように、女性医学を通じて泌尿器科的、内科的、あるいは心療内科や精神科的なことも広く学べることができるのです。このため、いろいろな理由で一時、実臨床から離れているときでも学習を継続することができるというメリットもあります。いわば産婦人科における総合内科的な立ち位置にあると言えます。逆に、女性医学の中に女性内科あるいは女性予防医学を確立させることで、内科医師が行っているような診療を産婦人科医師がオフィス外来で可能となり、オフィスギネコロジーとして、職域の拡大につながるものと期待しています。 関連学会として最も大きな学会は日本女性医学学会であり、日本産科婦人科学会女性ヘルスケア委員会とも密に連携しています。2015年11月7日~8日に開催された第30回学術集会では1100名強もの参加者を迎えて、盛会裏に終了いたしました。

(第30回日本女性医学学会学術集会 シンポジウム 名古屋市)

日本女性医学学会では女性ヘルスケア専門医制度を設けています(http://www.jmwh.jp/n-ninteiseido.html)。所定の研修ならびに認定審査試験を経て、専門医の資格を得ることができます。前述のとおり、オフィスギネコロジーに携わるクリニックの先生方にも有用な資格ではないかと思います。現在、全国で268名の専門医が活躍しています(平成27年10月現在)。
5.一緒に女性医学を学びましょう!
 このように女性医学は、産婦人科はもちろんのこと、他科領域も取り込んだ新しい医療・医学であり、女性のQOLの維持・向上に加えて、将来の産婦人科の発展のために大きく寄与すると考えられます。近年の女性活躍推進法の成立や、国が女性の健康増進に力を入れようとしている背景からも女性医学のニーズが高まっており、これに応える専門家として女性医学を担う人材が社会から求められていることは理解されると思います。医学生や研修医の先生方には是非、女性医学に興味をもっていただき、一緒に女性の一生にわたる健康の包括的管理、つまりトータルヘルスケアができる医師を目指しましょう。


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