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産婦人科の“魅力”
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内分泌・生殖医学の魅力

2016年1月29日 
久具 宏司
生殖・内分泌委員会委員長

 「ホルモン」という名称で一括される生理活性物質による生体系の調節全体を研究する学問が内分泌学です。このうち、女性を対象とした内分泌、なかでも生殖行動に関連する内分泌を中心に産婦人科医が担当します。生体の恒常性を保つための内分泌器官での内分泌現象とともに、卵巣の中の卵子から始まる生殖現象を広く研究するのが内分泌・生殖医学であり、関連する診療の対象は広範囲に及びます。

 まずは卵巣です。卵巣は、卵胞発育、排卵が起こる、生殖現象の始まりの場です。しかし、毎月起こる排卵の局所における実態、排卵に至る卵胞が選ばれる機序は明らかではありません。卵子とその周囲の卵胞液、顆粒膜細胞との相互作用についても、わからないことだらけです。内分泌器官としての卵巣は、エストロゲンとプロゲステロンを分泌します。エストロゲンは女性ホルモンとも呼ばれるため、その役割は従来、女性らしさをつくり出すこととされてきました。しかし、エストロゲンの作用は今や生殖現象だけでなく、骨、血管、脳、筋肉や、糖や脂質の代謝にも関与することが明白となり、内分泌学におけるエストロゲンの重要性は一段と増しています。一方、プロゲステロンについては、妊娠維持が主たる作用であることはわかっていても、その全体像は杳として知れないのが現状です。

 次に視床下部下垂体系です。卵巣での周期的な排卵現象は視床下部下垂体系の緻密な調節機構により制御されています。エストロゲンのフィードバック作用の詳細な機序など、その詳しい調節機構は長年不明のままでしたが、キスペプチンの発見により、最近一躍注目を集めています。今後も新しい物質や機序が明らかにされる可能性があり、研究を進める範囲は大きく広がっています。たとえば、肥満ややせなどの体重の変化や、肉体や精神のストレスが月経周期や妊孕性に及ぼす影響の機序が解明されていく可能性があります。

 中枢、卵巣からのホルモン作用の最終標的となる臓器が子宮です。子宮では、排卵に向けて妊娠成立に適した状態となるように子宮内膜が周期的に変動していると思われますが、その機序についても解明されていない部分が多く、現在、生化学的な視点のほかに、物理学的な視点も含め、さまざまな方向からの研究が進められています。

 このように産婦人科領域の内分泌学の研究分野は、今後ますます広がっていくと思われます。これらの基礎的な研究のうえに成り立っている医療のひとつに不妊治療があります。体外受精を主体とする生殖補助医療(ART)は、不妊治療の中心を成しています。また、子宮内膜症や子宮筋腫など、妊娠成立の障害となりうる疾患に対して治療を行い、妊娠へと導くことも不妊治療の一環です。この領域では、薬物治療のほか、腹腔鏡手術を行うことが標準治療となっており、産婦人科医はその技術を磨くことが求められています。


(顕微授精)


 現在の日本では、他の先進諸国同様、少子化、晩産化が社会的に大きな問題となっていますが、ARTを主とする不妊治療はこの問題に対処する手段として大きな貢献を果たしてきました。しかしそれでもなお、少子化、晩産化はとどまるところを知りません。この問題は、医療によって解決できるものではありませんが、ARTが今後ますます注目されていくことは間違いありません。一方、年齢とともに卵巣と卵子も同じように加齢を重ね、妊孕性が下降していくことは、最近になってようやく社会に認知されはじめました。今後は、この逃れようのない加齢の真実と重要性を社会に正しく伝えていくとともに、卵巣、卵子の加齢のメカニズムや診断法の研究を進めることが期待されています。

 ARTの技術を進めていくと、第三者の関わる不妊治療や、死後生殖、着床前診断など、倫理的な課題に突き当たります。現在、日本でも研究が始まった子宮移植による妊娠の試みも倫理的な問題を含んでいます。これらの問題点は医療者だけで答を出すことはできず、社会との真摯な関わりの中に解決点を見出さなければなりません。

 このように生殖医療には、さまざまな面で社会や国のありようといった科学とは別の視点が必要であり、それだけに生殖医療を含めた産婦人科医療は世の中の多くの人々から注目されています。内分泌学という純粋なサイエンスの部分と、社会と密接につながった領域を併せ持つこと、そして生命の誕生に深く関わり次の世代へ繋がる医療を実践するということが、他の診療科では味わうことのできない産婦人科の醍醐味であると思います。
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