2010年6月28日
下平和久 (幹事、広報委員)
一般の医療は患者さん個人を対象とします。また、公衆衛生などは社会全体を対象として、個人は対象としません。ところが産婦人科は、目の前にいる患者さんのみならず、次の世代や、さらにその先の未来の世代までを対象として考えます。これは、他の科にはない大きな特徴です。その産婦人科の中でも、世代を超えた医療を特に実感できるのが周産期医学です。
周産期医学について医学生・研修医の方から寄せられた質問にお答えします。
Q1. 周産期医療って、お産を取り上げるだけの単純な仕事じゃないの?
A1. 周産期医学は、お産をとりあげるだけの科ではありません。まず、お母さんについては妊娠前から全身の管理を行います。妊婦の全身は、循環血漿量が普段の1.4倍になるなど、短期間で劇的な変化を遂げます。これを管理し、安全な分娩、産褥につなげるのは周産期科の仕事です。また、胎児については、妊娠初期に超音波診断などを駆使して異常の発見を行うところから始まり、必要に応じて遺伝子診断まで含めた出生前診断を行ったり、各種ME機器を用いて胎児well beingの評価を行ったりします。さらに胎児診断だけではなく、各種の胎児治療も周産期科の仕事です。
分娩は、広汎な知識と練磨された技能を持った産婦人科医の仕事であり、「緊急帝王切開」、「吸引分娩」、「鉗子分娩」など、いずれも現在の日本では他の科の先生は手を出せません。特にハイリスク分娩の管理は周産期科医の独壇場であり、母児共に救命できたときの喜びは何物にも代えがたいものです。
Q2. 周産期科医って、忙しくて私生活がなくならない?
A2. 産婦人科は忙しいと良く言われます。しかし、近年は労働条件の改善が積極的に行われており、多くの大学病院で、当直の翌日の半休などが実施されています。救命救急科と同様に交代勤務制をとりいれた病院もあります。主治医制の名のもとに一年中拘束されているような科とは違う、"ON" と"OFF"のはっきりとした勤務体制が周産期科の魅力となりつつあります
Q3. 周産期医療に従事する女性医師は、自分の分娩・出産・育児ができなくなる?
A3. 産婦人科は女性医師の比率の増加が著しい科で、女性医師の働きやすい環境が整ってきています。さらに、妊娠、出産の経験は周産期科での仕事をするうえで貴重な体験になります。お母さん先生に対する妊婦さん達の信頼は篤いものがあり、「女性であること」を直接的に生かせる分野であると言えましょう。
Q4. 周産期医療って、男性医師は入り込みにくい?
A4. 「学生時代、産科外来の実習や分娩の見学で、『男子学生はイヤ』と断わられた。」「分娩室の中は助産師さんと妊婦さんが作る女性の世界で、自分は入り込めなかった。」 男子学生から良く聞く言葉です。
しかし、いま、周産期の現場では、「男性の先生」も強く求められているのです。自分の分娩・出産等で途切れることのない男性医師の持続的な医療は、不安でいっぱいのお母さんたちにとって、強い人気があります。また、自分が分娩をしない性であるからこそ冷静に考えられる点もあり、男性周産期科医は、臨床・研究・教育の各分野で多くの業績を上げています。
職場の中でも、男性医師、女性医師、いずれもバランス良く在籍していることが、集団としての強さとなりますから、各医局、病院の先生方も、男女両方の先生を歓迎しています。

Q5. 周産期医療をするには、「専門医」取得が必要になるの?
A5. 現在、日本周産期・新生児医学会が周産期科専門医を認定しています。産科部門としては「周産期(母体・胎児)専門医(Perinatal Obstetrician)」、新生児科部門として「周産期(新生児)専門医(Neonatologist)」があり、母体・胎児専門医については平成21年度に最初の認定を行いました。
では、周産期専門医を持っていなければ一切お産はできなくなるのでしょうか? 決してそうではありません。「周産期専門医」とは、周産期医療に従事する医師の水準を高め、高度な医学知識と技能によって他の医師に適切な指示を与えることができる臨床能力を有する専門医のことで、高度周産期医療機関で指導的な立場にある医師が取得するべきものです。このため、個人でとる資格ではなく、施設と合わせて認定される資格となっています。周産期に従事する方は、一定期間は専門医のいる施設で研修を行い、さらに興味が深まれば、専門医を取るべく研修を開始することをお勧めします。
また、周産期関係の個人で取得する資格としては、日本超音波医学会の「超音波専門医(産婦人科コース)」、日本内分泌学会の「内分泌代謝科(産婦人科)専門医」などがあり、それぞれ、所定の研修システムがあります。さらに、日本周産期・新生児医学会の「新生児蘇生講習会(Neonatal Cardiopulmonary Resusci- tation:NCPR)で所定のコースを受講しておくことも必要だと考えます。
終わりに
「産婦人科の中の産婦人科」などと言ったら、腫瘍や不妊の先生に怒られそうですが、周産期分野は、世代を超えた医療である産婦人科の白眉とも言うべき領域です。産婦人科医は皆、お産に関しての楽しい思いや怖い思い出を沢山持っています。身近の産婦人科の先生に聞いてみてください。「おれ腫瘍専門医だけど、実はお産大好きなんだ」と言う様な、「隠れ産科医」が沢山見つかるかも知れません。
