2009年12月11日
高倉 聡 (幹事、広報委員)
Q1. 産婦人科の専門領域はどのように分かれているのですか?自分の専門領域以外のことを学ぶ機会はないのでしょうか?
A1. 産婦人科の専門領域には「周産期」、「生殖・内分泌」、「婦人科腫瘍」、「女性のヘルスケア」があり、それぞれの領域のエキスパートがいます。こういう表現は語弊があるかもしれませんが、産婦人科の専門領域は外科が「消化器外科」「呼吸器外科」「乳腺・内分泌外科」などの専門領域が臓器別に分かれているのとは根本的に違います。産婦人科の各分野が扱うのはどの領域であっても臓器で言えば子宮・卵巣などの女性生殖器(無論、卵巣機能を調節している視床下部・脳下垂体を含みますが)です。産婦人科では各領域は「臓器別」ではなく女性のライフサイクルの中の「時」と「場合」によって分かれているのです。
ですから、女性の健康を総合的にサポートし、次の世代に命をつなぐ医療を行う産婦人科医は全ての領域に精通する必要があると思います。例えば、不妊症の患者さんが来院され、諸検査の結果、多発性の子宮筋腫、排卵障害、クラミジア感染症が見つかった場合、子宮筋腫摘出(婦人科腫瘍)、排卵誘発などの不妊治療(生殖・内分泌)、感染症の薬物療法(女性のヘルスケア)、そして妊娠した場合は周産期管理が必要となります。
産婦人科に進むことを考えている医学生・研修医の皆さんは、まず全ての領域をバランスよく学び、次に各領域のエキスパートを目指すことをお勧めします。また、そうしたことが可能な施設で研鑽されることを是非お勧めします。

A2. 産婦人科には外科的側面と内科的側面とがありますが、「婦人科腫瘍」の領域も例外ではありません。婦人科腫瘍の領域で扱う疾患としては子宮筋腫、良性卵巣腫瘍、子宮内膜症、子宮腺筋症などの良性疾患、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌などの悪性疾患があり、その診断、外科的・内科的治療のほとんどが産婦人科医が主体となり行われています。外科的治療としては開腹手術、腟式手術に加え、近年では良性疾患を中心により低浸襲な腹腔鏡や子宮鏡を用いた内視鏡下手術も積極的に行われています。一方、進行卵巣癌では初回手術での残存腫瘍径が小さい方が予後が良好であることが知られており、基本術式である子宮全摘術、両側付属器摘出術、大網切除術に加え、傍大動脈・骨盤内の後腹膜リンパ節郭清術や消化管などの合併切除も積極的に行われています。内科的治療としては前述した良性疾患に対するGnRHアゴニストや黄体ホルモンなどを用いた内分泌療法、悪性疾患の術後や再発時の癌化学療法などが行われています。

Q3. 婦人科がんと他臓器のがんの違いはなんでしょう?
A3. いろいろあると思いますが、次の3つをあげたいと思います。一つ目は次世代に生命を伝えてゆく生殖臓器に発生することです。患者さんを救うためにはその後の妊娠をあきらめてもらわなくてはならず多くの産婦人科医のジレンマとなっています。しかし、近年、治療法の進歩により卵巣胚細胞腫瘍や初期の子宮頸癌・体癌などでは子宮や卵巣を温存することも可能になりつつあります。2010年4月23~25日に開催される第62回日本産科婦人科学会学術講演会ではシンポジウム「婦人科癌における妊孕性温存治療(手術および薬物療法)」が行われます。皆さんも是非参加してみて下さい。2つ目は発生や、増殖あるいは抑制に女性特有の性ホルモンが深く関与していることです。後述するように、挙児希望のある初期の子宮体癌や異形子宮内膜増殖症では黄体ホルモン療法が行われています。 3つ目は子宮頸癌が「予防できる唯一のがん」であることです。ご存知のように子宮頸癌の発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関与していますが、最近、このHPVに対するワクチンが承認されました。12歳の女児全員が接種すれば、頸癌に罹患する人や死亡者を70%以上減らせるとも推計されています。さらに子宮頸癌は検診システムが確立されており、前癌病変を効率よく発見することができ、上皮内癌までに診断・治療すればほぼ100%治癒させることが可能です。
Q4. 臨床試験の重要性が言われていますが、婦人科腫瘍の領域ではどういった臨床試験が行われているのでしょうか?日本からも優れた研究成果が出ているのでしょうか?
A4. 新しい薬や治療・診断法を臨床に用いる場合臨床試験でその有効性や安全性を評価することが必要です。抗がん剤についてみると第I相試験では、薬の安全性の確認、有効で安全な投与量や投与方法等を調べます。第II相試験では第I相試験で有効で安全と判断した投与量や投与方法を用い、少数(一般に数十人)の対象患者で薬の有効性と安全性を確認します。第III相試験では多数(一般に数百人)の対象に新しい薬や治療法が従来の薬や治療法(標準的な治療)と比べ、有効性や安全性の面で優れているかどうかを比較試験で検証します。
本邦の婦人科腫瘍の分野においては大学や病院の枠を超えJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ; http://www.jcog.jp/)婦人科腫瘍グループやJGOG(婦人科悪性腫瘍研究機構; http://www.jgog.gr.jp/)などのグループが中心となって臨床試験を行っています。さらに、各国のグループと国際協調試験も行われています。現在,卵巣明細胞腺癌に対する化学療法を検討しているJGOG3017試験は日本のリーダーシップのもと、韓国・英国などと協力して行われています。また、現在、子宮体癌の術後化学療法について検討しているJGOG2043試験、卵巣癌の術前化学療法の有効性について検討しているJCOG0602試験、再発・IVb期子宮頸癌の化学療法について検討しているJCOG0505試験などが行われています。
近年の本邦の試験結果で注目されているものの一つに、若年子宮体癌・異形子宮内膜増殖症に対する酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)による妊孕能(子宮)温存療法を検討した第II相試験があります。この試験では挙児希望のある40歳以下の28人の子宮体癌IA期相当の患者と17人の子宮内膜増殖症を対象にMPAによる治療が行われ子宮体癌症例の55%、異形子宮内膜増殖症症例の82%で著効を示し、経過観察期間3年の間に11名が妊娠し、7名が出産できたと報告されています。また、進行卵巣癌に対する第一次化学療法に関する第III相試験のJGOG3016試験ではカルボプラチンとパクリタキセル(180mg/m2)を3週ごとに投与する標準治療を320人に、カルボプラチンは3週ごとパクリタキセル(80mg/m2)を毎週投与する試験治療を317人に行い比較検討されました。その結果、無増悪生存期間中央値が試験治療群(28.0ヶ月)で標準治療群(17.2ヶ月)より10.8ヶ月延長していることなどが示され世界中から注目されています。
将来、あなたが立案したプロトコールコンセプトをもとに日本中の参加施設で臨床試験が行われ、新たなエビデンスができる日が来るかもしれません。

Q5. 最近ではいろんなガイドラインが出ていますが、婦人科腫瘍に関連するものはありますか?
A5. 世界中で行われた臨床試験などから得られたエビデンスをチェックし執筆されたものが、評価を受け、さらに十分な議論を経て作成されたものがガイドラインです。婦人科腫瘍関連ではこの過程を経て作成された卵巣がん・子宮頸癌・子宮体癌ガイドラインが日本婦人科腫瘍学会から刊行(後援:本学会、日本産婦人科医会、JGOG)されています。これらのガイドラインは同学会のHP(
http://www.jsgo.gr.jp/)でも閲覧可能です。なお、これらのガイドラインは最新の知見を取り入れ3年に一回改定されていきます。
Q6. 婦人科腫瘍関連の専門医・認定医制度などについて教えて下さい。
A6. 産婦人科医は前述したように周産期、生殖医学、婦人科腫瘍、女性のヘルスケア全てに精通している必要があり、全ての産婦人科専攻医が日本産科婦人科学会が認定する「産婦人科専門医」の取得を目指します。詳細は「Reason for your choice No.3」(
905KB)をご参照下さい。
「婦人科腫瘍専門医」は日本婦人科腫瘍学会が認定しています。申請には「産婦人科専門医」であること、指定修練施設での3-5年の修練、婦人科浸潤がん症例(手術、放射線治療、化学療法などを含む)150例以上の経験、婦人科腫瘍に関する研究発表(論文を含む)、教育プログラムへの出席などが必要です。手術は浸潤がんの執刀者として30例以上(15例以上は広汎子宮全摘術)、第1助手として30例を含めて100例以上の浸潤がんの手術経験が必要とされます。取得するには書類審査を経て、筆記試験と面接試験に合格する必要があります。また、日本臨床細胞学会(http://www.jscc.or.jp/)が「細胞診専門医」、日本産科婦人科内視鏡学会(http://jsgoe.umin.jp/)が「技術認定医」、日本がん治療認定医機構(http://www.jbct.jp/)が「がん治療認定医」をそれぞれ認定しています。
是非、将来トライしてみて下さい。
終わりに
医学生・研修医の皆さん。もし、婦人科腫瘍の世界に少しでも興味が湧いたなら、身近にいる産婦人科医に是非声をかけてみて下さい。きっと、その魅力を熱く語ってくれるでしょう。