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産婦人科の“魅力”
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周産期医療を志す君に
2009年7月9日 齋藤滋(周産期委員会委員長)
 学生実習で初めて分娩に立ち会った際の感動はいまだに鮮烈に残っています。赤ちゃんの頭が見え隠れし(排臨)、なかなかお産になりません。お母さんは苦しそうですが、懸命に痛みに耐えています。顔にはうっすらと汗が浮かんでいます。やがて少しずつ赤ちゃんの頭が下がってきて、股の間にはさまれたように陣痛の間欠期にもはっきりと見えるようになり、「頑張って、もう少しで赤ちゃんが生まれるよ」との産婦人科医の励ましの声にうなずく妊婦さん。次の陣痛でついに赤ちゃんの頭が出てきました。頭が出てきた後、授業では習っていたのですが90度体が回転して、ついに体も足も出てきました。赤ちゃんの体色は赤紫色でしたが、「おぎゃー、おぎゃー」と泣いた後、みるみる赤い色に変わってきて、なる程、体色が赤いから赤ちゃんなのだと感心しました。この時、私は感動して涙が出てきて、お母さんの手を握り「おめでとうございます」と自然に言葉が出ました。その時のお母さんの表情はまさに観音様の表情でありAltaic Smileそのもので、生涯忘れられない感動でした。その後、すぐに産婦人科教授室へ入り、「産婦人科医になりたいので、宜しくお願いします」と挨拶に行くと、「そんなに早く進路を決めても良いのか?もう少し他の科を回ってから決めても良いよ」と逆に諌められましたが、これ以上の感動は他科で経験することなく産婦人科に迷わず入局しました。
産婦人科医になって改めて感じることは産婦とそれを支える産科医、助産婦の間には“信頼”という絆があることです。それは不妊症や不育症で子供を得ることができなかったり、切迫早産等で長期間入院を必要としたり、難産であったりなど妊娠中の問題が大きければ大きいほど、強固になり、医師はその信頼に応えるため意を強くし、自らの仕事に誇りを持ち、また責任感も芽生えてきます。まさに患者さんに支えられ、また患者さんを何とかしたいという人間の本来持っている弱者への慈しみの感情が医師一人一人の人格を育てていくのです。こんな感動は産婦人科でしか味わえません。

 

周産期医療は母と子の医療です。新しい生命の誕生を担うこの医療は医学の発展の歴史と共に進歩してきました。妊産婦死亡率は明治初期に比べ百分の一まで低下し、種々な合併症を持つ妊婦も安全に出産できることが多くなりました。胎児疾患の診断と治療の分野にも著しい進歩が見られます。それでも、人類はこの領域の医療と医学になお一層の大きな期待を寄せているのです。私達の医療は、すべての母と子に安全で健康な出産と出生をもたらし、幸福な家庭の礎を提供するという究極の目標を有しています。

しかし、行く先には扉を閉ざした生物学の真理が立ちはだかっています。胎児という免疫学的異物を許容する“妊娠”は不思議な生物現象で、未だ謎に包まれています。本来なら拒絶されるべき胎児が子宮の中で成長していくのです。 妊娠は天が与えた自然界の免疫学的トレランスなのです。胎児の成長と発達を支える胎盤と臍帯の働きや母児相関のメカニズムも、詳細は全く解明されていません。しかし、妊娠初期の胎盤形成不全が妊娠高血圧症候群の原因であることも判ってきました。さらに胎児由来の細胞や胎盤細胞由来のDNA、RNAが母体血中に存在しており、出生前診断や早産、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤の予知・診断にも応用され始めています。私達は医学研究の粋を集めてこれらを探求しなければなりません。そして、病的状態への逸脱の原因を究明し、その予防法や治療法を開発してゆくのです。現代の複雑な社会では、生物学的解析のみでなく、生活環境などの外的要因の分析も怠れません。周産期医学の研究領域はどこまでも広く深いのです。早産児や子宮内胎児発育遅延児では成長すると肥満、高血圧、糖尿病などの成人病になりやすいことも判ってきました。つまり胎児期の成長がその後の疾病にもつながることになり、益々産科医の果たす役割は大きくなっています。

臨床が多様なのも魅力です。内科と外科の両方と、更に救急医療の側面も有していますし、日々の臨床では、保健学や臨床心理学の知識も必要です。高度な先端技術が要求される胎児医療にも高い倫理観と暖かい人間性を持って取り組んでいます。 “胎児を診る”のはロマンチックだと思いませんか? やり甲斐と感動の医療。日本中の母と子が君達の志の実現を待っています。また科の特色として連帯感の強いことが挙げられます。緊急帝王切開になればどこからか応援医師が集まり、真剣に母子救命のため尽力する感動を分かち合いませんか。うまくいった際は幸福感でいっぱいになり、仲間で飲み会に行っても、すごく美味しいお酒が飲めますよ(ちなみに私は下戸です)。日本の周産期医療のためには君達がぜひとも必要です。一緒に頑張りましょう!


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