日本産科婦人科学会
JAPANESEENGLISH
JSOG HOME
学術講演会 刊行物 専門医申請関連
会員専用 login
Home > お知らせ

お知らせ

抗インフルエンザウイルス薬投与妊婦の出産と小児に対する特定使用成績調査(第2回目報告 2011.2)

要旨
 2009年-2010年に新型インフルエンザ(A/H1N1)の世界的大流行が起こった。妊婦は重症化しやすく、諸外国からの報告では死亡率も高かったことから日本産科婦人科学会は妊婦に対し、早期の予防的ならびに治療的抗インフルエンザ薬服用を勧めている。我が国では新型インフルエンザによる妊婦死亡は現在のところ認められず大きな成果をあげている。また抗インフルエンザ薬の発症後48時間以内服用は重症化防止に貢献することが強く示唆されている。
 妊娠中に抗インフルエンザ薬投与を受けた859例について妊娠予後を解析した。タミフル投与が778例(89.1%)、リレンザ投与77例(8.8%)、タミフルとリレンザ併用投与4例(0.5%)であった。タミフル投与例、リレンザ投与例とも流産、死産、早産、低出生体重児、胎児発育不全(FGR)児を増加させず、また妊娠初期の薬剤投与によっても心形態異常やその他の形態異常リスクは特段に増加させなかった。妊娠中期、後期にタミフルもしくはリレンザを投与しても現在のところ重大な問題点は指摘されなかった。
 このため現時点では妊婦インフルエンザ感染例に対するタミフル投与、リレンザ吸入については特に制限を必要とするような副作用は認められず、投与の有益性が危険性を上回ると結論する。ただし他の抗インフルエンザ薬(ラピアクタ、イナビル)についての安全性については使用例がなく今回のデータからは知見が得られなかった。

 新型インフルエンザ(A/H1N1)は2009年に世界的な大流行を引き起こし、妊婦に肺炎等が合併しやすく、死亡のリスクが高いことが海外から報告された。これらの報告を受け、日本産科婦人科学会では「妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対しての新型インフルエンザ(A/H1N1)感染に対する対応(Q&A)」を2009年5月に作成し、以後改定を加えてきた。Q&Aでは妊婦の新型インフルエンザ(A/H1N1)感染が確認された場合、早期の抗インフルエンザ薬の服用を勧めている。また内科医とも協力し適切な対応をとっていただいた。その結果、表1(PDF 200KB)に示す如く日本では妊婦の重症例も少なく、また一人の母体死亡も出さなかった。これは他国に比べて2日以内の抗インフルエンザ薬の使用率が高いこと、ワクチン接種率が高いこともその要因であろうと推察される(表2(PDF 212KB))。
 これまでのところ抗インフルエンザ薬を妊婦が服用しても重篤な副作用は報告されていないが、症例数は不十分である。そのため厚生労働省安全対策課長から抗インフルエンザ薬の妊婦ならびに出生児に対する安全性に対して客観的に評価することが求められ、日本産科婦人科学会に要請があった。中間報告として平成22年11月に163例の解析データを報告した。この度、症例を集積し2回目の中間解析を行ったのでその成果を報告する。本調査は抗インフルエンザ薬を処方された妊婦より出生した児のフォローアップも含まれるが、今回の報告は妊婦ならびに出生した児の情報のみに限る。

調査方法
 2009年10月以降にインフルエンザに罹患した妊婦及び抗インフルエンザ薬を予防投与された妊婦を対象とした。日本産科婦人科学会からの施設登録表調査に協力できると回答した医療機関に依頼した(なお本調査は中外製薬と日本産科婦人科学会が共同で実施した)。本研究には参加した産科施設数は399施設であり、今回対象となった分娩は2009年10月1日〜2010年12月31日に起こったものである。出産後、分娩施設を退院するまでに観察された調査項目(妊娠・分娩転帰、産科合併症、新生児情報等)を分娩施設職員が記載し、本研究事務局まで郵送した。児に関しては1ヵ月、3ヶ月、6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月までフォローアップされる予定であるが、今回の報告にそれらの情報は含まれていない。なお妊婦ならびに新生児の調査にあたっては個人情報が流出しないよう連結可能匿名化して管理した。調査については各施設担当医が説明し同意が得られた症例のみ登録した。なお本調査については富山大学倫理委員会での承認を得ている。
 胎児発育不全は板橋らの報告(日本小児科学会新生児委員会.新しい在胎期間別出生時体格標準値の導入について.日本小児科学会雑誌2010; 114:1271-1293)に基づき、10パーセンタイル値をカットオフ値と定めた。

I.抗インフルエンザ薬の投与時期と投与薬(表3(PDF 251KB)
 今回、中間解析で詳細を検討できた症例は887例であった。投与目的として485例(54.6%)が治療投与、355例(40.0%)が予防投与、3例(0.3%)が予防投与から治療へ変更され、44例が未記載であった。このうち、産褥期に処方された4例、治療薬なし7例、投与薬不明3例を除く873例中、778例(89.1%)がタミフルを投与されており、リレンザの投与は77例(8.8%)、タミフル・リレンザの投与4例(0.5%)、抗インフルエンザ薬以外の薬剤の投与は14例(1.6%)であった。日本産科婦人科学会のQ&A(2010年8月改定)で抗インフルエンザ薬としてタミフルを推奨し2010年11月の中間報告において少数例だがタミフルの安全性に関するデータを掲載したからかもしれない。

Ⅱ.抗インフルエンザ薬投与時期と胎児・新生児異常との関連
1) タミフルの影響
 表3(PDF 251KB)に示すように、絶対的過敏期(妊娠4-7週)にタミフルが59例に処方され、10例の異常が報告された(表4(PDF 157KB)表5(PDF 216KB))。報告された異常の内訳及び延べ症例数は、流産3例(5.1%)(妊娠8週1例、妊娠10週1例、妊娠14週1例)、早産3例(5.1%)(いずれも妊娠36週)、低出生体重児4例(36週早産1例、正期産3例)(6.8%)であった。一般的に流産は約15%に、FGRは約10%に生じ、2008年の日本のデータでは早産は5.8%、低出生体重児は9.6%であることから、タミフル投与群のこれらの発症率は異常値ではない。胎児形態異常として無脾症候群1例(1.7%)を認めた。
 相対的過敏期(8-12週)でのタミフル投与は99例であり、13例の異常が報告された(表4(PDF 157KB)表5(PDF 216KB))。報告された異常の内訳及び延べ症例数は、早産4例(4.0%)(いずれも36週)、低出生体重児4例(4.0%)(いずれも正期産)、胎児発育不全(FGR)1例(妊娠38週)であった。胎児形態異常は心房中隔欠損・左肺静脈狭窄合併1例(1.0%)のみであった。その他の新生児異常として早産による呼吸障害1例(妊娠36週)、網膜出血1例(39週低出生体重児)、嘔吐1例、鼠径ヘルニア1例、高ビリルビン血症1例、敗血症疑い1例であった。
 比較的過敏期(13-16週)ではタミフル投与が87例に行われ、15例の異常が報告された(表4(PDF 157KB)表5(PDF 216KB))。報告された異常の内訳及び延べ症例数は、早産7例(妊娠22週1例、妊娠31週1例、妊娠32週1例、妊娠36週4例)、出生体重1000g未満児1例(妊娠22週)、出生体重1000g〜1499g児1例(妊娠32週)、出生体重2000g〜2499g児6例(早産1例、正期産5例)、胎児発育不全(FGR)2例(早産1例、正期産1例)であった。心形態異常は0例で小外表異常として耳ろう孔1例を認めた。その他の異常として、低血糖1例、白質軟化症1例、高ビリルビン血症1例、微熱1例であった。
 妊娠中期(16-28週)では277例にタミフルが処方され、57例の新生児異常が報告された(表4(PDF 157KB)表5(PDF 216KB))。異常と報告された新生児の内訳は早産22例(7.9%)(妊娠31週:2例、妊娠34週:4例、妊娠35週:2例、妊娠36週:14例)であった。なお1例は妊娠20週でタミフルが処方され妊娠36週で死産となった。低出生体重児は30例(早産11例、正期産19例)(10.8%)、胎児発育不全(FGR)は10例(早産1例、正期産9例)(3.6%)に認めたが、これらの発生率も特に問題となる値ではなかった。心形態異常はファロー四微症(34週6日、FGR、1686g)1例、心内膜床欠損と多指症合併(37週、FGR、2205g)1例、心室中隔欠損2例、心房中隔欠損1例、心雑音2例認め、計7例(2.5%)とやや高率であったが、16週以降のタミフル服用であるため薬剤服用と心形態異常の因果関係は否定的であると委員会は評価した。その他の形態異常として口蓋裂1例、顔貌異常・チアノーゼ・両多合指症1例、多指症(心内膜床欠損症と合併)1例を認めた。したがって、形態異常児は計9例(3.2%)となった。その他の新生児異常として高ビリルビン血症6例、新生児感染症3例、低血糖1例、皮下腫瘤1例、水泡1例、難聴1例、計13例(4.7%)であったが、タミフル投与と関連性の高い副作用は抽出できなかった。
 妊娠後期にタミフル250例が処方され37例の新生児異常が報告された(表4(PDF 157KB)表5(PDF 216KB))。異常と報告された新生児症例の内訳は早産9例(妊娠34週1例、妊娠35週2例、妊娠36週6例)、低出生体重児22例(早産5例、正期産17例)、胎児発育不全(FGR)14例(すべて正期産児)であった。心形態異常は5例(ASD・VSD・2尖大動脈弁1例、VSD1例、総肺静脈還流異常1例、大血管転移1例、心雑音1例)であった。その他の形態異常として3例(二分脊椎1例、脳梁欠損1例、水頭症・クルーゾン病1例)であった。その他の新生児異常として4例(早産、FGR児で呼吸障害・高ビリルビン血症・血小板減少1例、聴力障害1例、呼吸障害によるチアノーゼ1例、発熱1例)であった。妊娠後期症例においても心形態異常率が2.0%と若干の高値を認めたが、妊娠後期にはすでに胎児循環器系は出来上がっており、タミフルとの因果関係は否定的である。
 以上総括すると妊娠初期のタミフル投与により流産率、心形態異常、その他の形態異常は増加せず、また早産、低体重出生児、胎児発育不全児も増加しなかった。妊娠中期、後期のタミフル投与により死産は1例(妊娠20週にタミフル投与、妊娠36週5日に死産でタミフルとの因果関係は不明)に認められるのみで、特段の異常は認められなかった。

2) リレンザの影響
 リレンザは絶対的過敏期(4-7週)に4例、相対的過敏期(8-12週)に16例に対して処方されたが、胎児新生児異常は認めなかった(表5(PDF 216KB)表6(PDF 155KB))。
 比較的過敏期(13-16週)に13例処方され、1例に低出生体重児(妊娠37週)が報告された。
 妊娠中期にリレンザが28例に対して処方され、2例の新生児異常が報告された。異常と報告された新生児症例の内訳は、早産・低出生体重児・新生児呼吸窮迫症候群1例(妊娠24週)、早産・低出生体重児1例(妊娠35週)であった。
 妊娠後期に16例処方され、4例の新生児異常が報告された。異常と報告された新生児症例の内訳は早産1例(妊娠36週)、早産・低出生体重児・低血糖1例(妊娠33週)、副腎腫瘍1例(妊娠39週)、高ビリルビン血症1例(妊娠39週)であった。

Ⅲ.総括
 表4(PDF 157KB)に示すとおり、タミフルが投与された778例において、低出生体重児が71例(9.1%)、早産が46例(5.9%)、胎児発育不全(FGR)が27例(3.5%)認められ、自然発生率とほぼ同等であった。心形態異常は14例(1.8%)に認められたが、16週までに処方された250例中では2例(0.8%)であり、スウェーデンのデータ(Reprod Toxicol 2003:17:255-261)の0.9%とほぼ一致している。しかし、日本の先天異常モニタリングセンターの心臓関連の先天異常率(0.56%)より(http://www.icbdsrj.jp/2006data.html)若干高い。以上より、タミフルによる心形態異常については直ちに注意喚起が必要なレベルではないが、引き続き注視していく必要があると考えられた。
 絶対的過敏期にタミフルが投与された59例中3例(5.1%)に流産を認めたが、自然流産率の15%より低く、タミフルの影響とは考えにくい。相対的過敏期に1例の心形態異常(ASD)、比較的過敏期に1例の形態異常(耳ろう孔)、妊娠中期に9例の形態異常(VSD2例、心雑音2例、ASD1例、ファロ―四徴1例、心内膜床欠損症・多指症1例、口蓋裂1例、顔貌異常・両側多合指症1例)と1例の死産を認め、また妊娠後期に8例の形態異常(ASD・VSD・2尖大動脈弁1例、心雑音1例、総肺静脈還流異常症1例、大血管転移1例、VSD1例、二分脊椎1例、けいれん・脳梁欠損1例、水頭症・クルーゾン病1例)が認められたが、タミフルとの因果関係は服薬時期から考え、否定的である。
 表6(PDF 155KB)に示すとおり、リレンザ使用77例では、早産4例(5.2%)、低出生体重児4例(5.2%)胎児発育不全(FGR)1例(1.3%)等が認められたが、自然発生率よりむしろ低率であった。今後は、集積した症例の分析、かつ児の2歳時までのフォローアップが必要であるが、現時点での妊婦インフルエンザ(A/H1N1)感染例に対するタミフル投与、リレンザ吸入につき、特に制限を必要とするような副作用は認められなかった。このため評価委員会はタミフルならびにリレンザの妊婦に対する投与に関し有益性が危険性を上回ると結論する。このため新型インフルエンザ感染(A/H1N1)に対応するQ&Aも変更せず、継続とする。なお他の抗インフルエンザ薬(ラピアクタ、イナビル)についての安全性については、使用例がなく今回のデータからは知見が得られなかった。

平成23年2月
抗インフルエンザウイルス薬投与妊婦の出産と小児に対する特定使用成績調査
評価委員
        齋藤 滋  (富山大学)
        海野 信也 (北里大学)
        水上 尚典 (北海道大学)
        中井 章人 (日本医科大学)
        久保 隆彦 (国立成育医療研究センター)

このページのトップへ

サイトマップこのサイトについて
© 公益社団法人 日本産科婦人科学会