公益社団法人 日本産科婦人科学会

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COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について

更新日時:2020年6月22日

2020年6月20日

COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について

公益社団法人日本産科婦人科学会
リプロダクティブ・ヘルス普及推進委員会

 わが国のCOVID-19感染拡大は、一応の収束が認められ、政府の緊急事態宣言は、2020年5月25日に全面解除されました。
 今回の感染拡大は、わが国の社会全体にきわめて大きな影響を与え続けており、特に社会的経済的弱者への影響は、きわめて大きくなっていると考えられます。
 本委員会は、わが国におけるリプロダクティブ・ヘルスの向上のため、その概念と諸課題に対する理解の普及を推進することを目的とし、日本産科婦人科学会の理事会内委員会として2019年度より活動を行っています。その活動の一つとして、今回の感染拡大が、わが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について検討を行いました。その結果、迅速に対応を検討すべき多くの課題が抽出されましたので、産婦人科医及び社会の皆様との共有を図るため、お示しいたします。

 今後、わが国の産婦人科医療提供体制は、当初の応急的、救急医療的な体制から、通常医療体制の中でCOVID-19に関連した診療を無理なく行うことができる体制へと移行を図っていく必要があります。産婦人科の先生方には、諸課題について、十分な配慮してご対応いただくようにお願いいたします。また、ここでお示しする諸課題は、産婦人科医療の範囲で解決可能な問題ではなく、社会全体で認識を共有し、関係諸機関が連携協力して解決の道を見いだしていく必要があると考えられますので、ご高配をお願い申し上げます。

COVID-19はわが国の社会になにをもたらしたのでしょうか?

社会は最大限の防御反応を示しました。

  • 都道府県間の移動制限
  • 社会・経済活動の抑制・停止
  • Mass Gatheringの抑制(集会等の中止)
  • Social distancing(マスク着用・対面会話の回避・肉体的接触の回避)

このような対応は、社会の中の人間関係の分断をもたらしました。

  • 休校・休業・自粛は、あらゆる人々の生活を変えました。
  • 若年層・低所得層の生活基盤を根底から揺るがしています。
  • また、家庭内の人間関係にも大きなストレスをもたらしています。
  • 在宅ワーク
  • 外遊びの差し控え

社会・家庭内で潜在していたリプロダクティブ・ヘルス上の問題が顕在化しました。

  • DVの増加・凶悪化
  • 特別定額給付金(10万円)手続きが世帯単位を基準としたことによるDV被害者の権利侵害
  • 面前DVや虐待等による、家庭に居場所がない子どもたちへの大きな影響
  • 予期せぬ妊娠の増加

COVID-19感染拡大は産婦人科医療に大きな影響をもたらしました。

医療提供・受診行動の抑制がおこりました。

  • 「不要不急」の診療の差し控えが医療機関側・患者側の双方でおきました。
  • 結果として、必要な診療が行われない、急いだ方がいい受診が差し控えられた可能性があります。

医療機関側では、院内感染を防止し、安全に医療及び分娩を提供できる環境を確保するため様々な対応が行われました。

  • 不妊治療の差し控え
  • 婦人科悪性腫瘍診療制限の発生
  • 婦人科良性疾患手術の延期
    ◆「with コロナ」の段階での診療のあり方を検討する必要があります。
  • 立会分娩の中止
  • 面会の中止(病院全体・産科病棟・NICU)
    ◆結果として、妊産婦さんに大きな心理的ストレスが加わりました。
    ◆立会分娩の中止、産科病棟の面会中止は妊産婦さんに孤立感をもたらした可能性があります。また、NICUの面会中止は、母子分離による愛着形成を阻害する結果になった可能性があります。

里帰り分娩の差し控えをめぐって

  • 感染者が少ない地域の分娩施設では、感染地域から里帰りの受入を回避する傾向がありました。里帰りの妊婦さんに2週間の自己隔離が要請された場合もありました。
    ◆「with コロナ」の段階での里帰り分娩のあり方を検討する必要があります。

PCR等によるスクリーニング検査について

  • COVID-19感染は、その自然経過に未解明の部分が多く残されています。診断のための検査法も開発途上と言った方がいいかもしれません。妊婦さんのための最善の検査のあり方は、まだ検討段階にあります。

陽性妊婦さん・疑い妊婦さんへの対応の問題

  • 各地域で、受入体制の整備が行われました。幸いなことにこれまでは陽性妊婦さんの数は限られており、なんとか対応できています。
  • 分娩様式:現状では分娩施設の設備が十分とは言えないことから、施設によっては原則帝王切開とすることもやむをえない状況です。
    ◆現状では、感染予防のための対応のため、患者さん・妊産婦さんに大きな負担をかける結果になっています。
    ◆今後、感染が拡大した場合にも陽性あるいは疑い妊婦の方々に適切に対応できる体制となっているか、検証が必要です。
    ◆今後は、妊産婦さんにとって負担のかからない分娩様式を選択できるように施設整備を進めていく必要があります。

COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響に関する日本産科婦人科学会(リプロダクティブ・ヘルス普及推進委員会)の意見

  • 産婦人科医は、COVID-19がわが国のリプロダクティブヘルス・ライツに重大な影響を及ぼしていることを認識する必要がある。
  • 特に、潜在的に存在していたdomestic violence、児童虐待の顕在化、凶悪化が起きていること、今後予期しなかった妊娠の増加が予測されることを認識し、適切に対応する必要がある。日本産科婦人科学会として、これまでこれらの課題の存在を適切に認識できず、十分な対策を講じることができなかったという事実を確認し、今後の対応に生かしていく必要がある。
  • 地域医療現場の産婦人科医がCOVID-19対応に手を取られた結果、緊急に支援が必要な性暴力被害者やDV被害者に適切に対応する機能を十分発揮することができなかった可能性があることを認識する必要がある。今後は支援が必要な女性たちが、気軽に相談できる産婦人科窓口を地域に確保していく必要がある。
  • COVID-19があぶり出した、女性の貧困や暴力の被害、リプロダクティブヘルス・ライツの侵害を分析し、女性の社会的健康の向上を目指して、専門家集団として社会にコミットしていく必要がある。
  • COVID-19は妊産婦にとって、心理的、身体的、社会的、経済的な意味で大きな負担となっている。産婦人科医は、適切な情報提供に努めるとともに、負担軽減に向けた対応を、妊産婦の立場に寄り添って進めるべきである。
  • COVID-19感染を恐れて医療機関への受診抑制が認められているが、受診の必要がある妊産婦、患者が適切に受診できる体制の整備と社会啓発活動を強化する必要がある。
  • 今後、COVID-19感染者、感染者発生施設が差別的対応を受ける等の社会的な不利益をこうむる可能性があり、それを回避するための施策を進める必要がある。
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