公益社団法人 日本産科婦人科学会

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子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために

更新日時:2019年12月9日

世界的な公衆衛生上の問題「子宮頸がんの排除」に向けたWHOスライドの日本語翻訳版を掲載しました。以下のバナーからパワーポイントスライドをダウンロードし、ご利用下さい。


2019年12月7日改訂

1. 子宮頸がんとHPV

1)日本における子宮頸がんの最近の動向はどうなっていますか?

 子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡しており、患者数・死亡者数とも近年漸増傾向にあります。特に、他の年齢層に比較して20歳~40歳台の若い世代での罹患の増加が著しいものとなっています。

子宮頸がん説明図

子宮頸がん説明図

2)子宮頸がんはどのようにして起こるのですか? どのように予防できるのですか?

 子宮頸がんの95%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因です。子宮頸部に感染するHPVの感染経路は、性的接触と考えられます。HPVはごくありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち50%~80%は、HPVに感染していると推計されています。男性の感染率も同様です。性交渉を経験する年頃になれば、男女を問わず、誰でもHPVに感染しますし、そのような年頃の女性は誰でも子宮頸がんを発症する危険性があるのです。
 HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年~数十年と考えられます。HPVに感染した女性の一部は、感染細胞が異常な形に変化して、「子宮頸部異形成(いけいせい)」という病気を発症します。HPVの作用による細胞の異常は、軽い異常(軽度異形成)が起こり、その中の一部は、さらに強い異常(高度異形成)に進行します。
これらの異形成は、一般的に症状が出現しないため、「子宮頸がん検診」で見つけられます。しかし、がん検診を受診しないと、気づかれないまま、高度異形成から子宮頸がん(浸潤がん)に進行することがあります。
発がん性HPVの中で、とくに、HPV16型、HPV18型は特に高度異形成や子宮頸がんへ進行する頻度が高く、スピードも速いと言われています。しかし、HPV16型、HPV18型の感染は、HPVワクチンによって防ぐことができます。このように、がんの原因であるウイルスに感染しないことによって、がんの予防することをがんの「一次予防」と言います。一方、HPVに既に感染し、子宮頸部異形成を発症している女性を発見する子宮頸がん検診をがんの「二次予防」と言います。このように子宮頸がんは、最も予防しやすいがんであり、がん予防の知識が大切となる病気です。

子宮頸がん説明図

3)子宮頸がんの治療法は? 治療後の後遺症にはどんな症状がありますか?

 前がん病変やごく初期の早期がんの段階までに発見されれば、子宮頸部円錐切除術による子宮の温存も可能です。しかしながら円錐切除術はその後の妊娠における早産のリスクを高めたり、子宮の入り口が細くなったり閉じてしまう可能性などのリスクを伴い、将来の妊娠・出産に影響が出る可能性があります。

子宮頸がん説明図

(上図:円錐切除術)慶應義塾大学病院KOMPASから許可を得て転載

円錐切除術では子宮頸部を円錐状に切除するので、子宮全摘出術と異なり子宮頸部の一部と子宮体部は温存されますので、その後の妊娠が基本的には可能です。日本では年間約14,000人の方がこの手術を受けており、そのうち約1,300人が手術後に妊娠しています。

 一方浸潤がんに対しては根治手術(子宮や卵巣を摘出・リンパ節を広く郭清)や放射線治療、抗がん剤による化学療法などが選択されます。子宮頸がんの治療成績はかなり向上してきていますが、依然として進行症例の予後は不良であり、またこれらの治療により救命できたとしても、妊娠ができなくなったり、排尿障害、下肢のリンパ浮腫、ホルモン欠落症状など様々な後遺症で苦しむ患者さんも少なくありません。

2. HPVワクチン

1)日本で承認されているHPVワクチンはどのようなものですか?

 国内で承認されているHPVワクチンは2価と4価の2種類があります。2価ワクチンは子宮頸がんの主な原因となるHPV-16型と18型に対するワクチンです。一方4価ワクチンは16型・18型と、良性の尖形コンジローマの原因となる6型・11型の4つの型に対するワクチンです。これらワクチンはHPVの感染を予防するもので、すでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果は認められません。したがって、初めての性交渉を経験する前に接種することが最も効果的です。現在世界の80カ国以上において、HPVワクチンの国の公費助成によるプログラムが実施されています。なお、海外ではすでに9つの型のHPVの感染を予防し、90%以上の子宮頸がんを予防すると推定されている9価ワクチンが接種され始めていますが、日本ではまだ承認されていません。

2)HPVワクチンの効果は国内外でどのように示されているのですか?

 HPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・米国・北欧などの国々では、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることが報告されています。これらの国々では、ワクチン接種世代と同じ世代でワクチンを接種していない人のHPV感染も低下しています(集団免疫効果といいます)。またフィンランドの報告によると、HPVに関連して発生する浸潤がんが、ワクチンを接種した人たちにおいては全く発生していないとされています。
 最近の報告では、HPVワクチンと子宮頸がん検診が最も成功しているオーストラリアでは2028年に世界に先駆けて新規の子宮頸がん患者はほぼいなくなるとのシミュレーションがなされました。世界全体でもHPVワクチンと検診を適切に組み合わせることで今世紀中の排除が可能であるとのシミュレーションがなされました。日本においてこのままHPVワクチンの接種が進まない状況が今後も改善しないと、子宮頸がんの予防において世界の流れから大きく取り残される懸念があります。

子宮頸がん説明図

WHO全世界的な公衆衛生上の問題としての子宮頸がんの排除
(このHPよりパワーポイントのファイルをダウンロードできます)

 国内においても複数の研究が進行中です。
 新潟県で行われている研究では、ワクチンを接種した20歳~22歳の女性においてHPV-16型・18型(HPVワクチンによる効果が期待される型)に感染している割合が有意に低下していることがすでに示されています。

子宮頸がん説明図

 秋田県、宮城県における研究では、20〜24歳の女性の子宮頸がん検診において異常な細胞が見つかる割合が、ワクチン接種者では非接種者と比較して有意に少ないことが判明しています。日本対がん協会のデータを用いた研究からは、20〜29歳の女性において子宮頸部の前がん病変と診断される割合はワクチン接種者で有意に少ないことが示されました。
 松山市における研究ではワクチン接種世代では20歳時の子宮頸がん検診において前がん病変が見つかる割合が有意に減少していることが示されました。

子宮頸がん説明図

 他にも前がん病変からのHPV16型・18型の検出がワクチン接種世代で減少していることも報告されています。

3)HPVワクチンの安全性はどう評価されているのです?

 HPVワクチンは接種により、注射部位の一時的な痛み・腫れなどの局所症状は約8割の方に生じるとされています。また、注射時の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)を起こした事例が報告されていますが、これについては接種直後30分程度安静にすることで対応が可能です。
 平成29年11月の厚生労働省専門部会で、慢性の痛みや運動機能の障害などHPVワクチン接種後に報告された「多様な症状」とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されておらず、これらは機能性身体症状と考えられるとの見解が発表されています。
 また平成28年12月に厚生労働省研究班(祖父江班)の全国疫学調査の結果が報告され、HPVワクチン接種歴のない女子でも、HPVワクチン接種歴のある女子に報告されている症状と同様の「多様な症状」を呈する人が一定数(12〜18歳女子では10万人あたり20.4人)存在すること、すなわち、「多様な症状」がHPVワクチン接種後に特有の症状ではないことが示されました。さらに、名古屋市で行われたアンケート調査では、24種類の「多様な症状」の頻度がHPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示されました。HPVワクチン接種と24症状の因果関係は証明されなかったということになります。
 これまでに行われたHPVワクチンに関する多くの臨床研究を統合解析したコクランレビューでは、HPVワクチン接種によって短期的な局所反応(接種部位の反応)は増加するものの、全身的な事象や重篤な副反応は増加しないと報告されています。WHOも世界中の最新データを継続的に評価し、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題は見つかっていないと発表しています。

4)HPVワクチン接種後に「多様な症状」が現れた場合の治療の現状を教えてください。

 ワクチン接種後に何らかの症状が現れた方のための診療相談窓口が全国85医療機関(全ての都道府県)に設置されています。また平成27年8月には日本医師会・日本医学会より「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」が発刊され、接種医や地域の医療機関においての、問診・診察・治療を含む初期対応のポイントやリハビリテーションを含めた日常生活の支援、家族・学校との連携の重要性についても明記されました。
 平成29年7月の厚生労働省研究班(牛田班)の報告では、HPVワクチン接種歴があり症状を呈する方に対する認知行動療法と言われるような治療方法の効果に関する解析結果が示され、症状のフォローアップのできた156例中115例(73.7%)は症状が消失または軽快し32例(20.5%)は不変、9例(5.8%)は悪化したとされました。HPVワクチン接種の有無にかかわらず、慢性の痛みや運動機能の障害などの症状が長く続く患者さんの中には回復が難しい方がいるのも事実であり、早期から専門家による診療が必要と考えられます。
 今後は、このような思春期に多いとされる多様な症状を呈する患者さんに対しては、複数の診療科の専門家が連携して適切な治療にあたるとともに、社会全体で苦しんでいる患者さんをしっかり支えていくことが重要です。私たちは、HPVワクチンの接種の有無にかかわらず、こうした症状を呈する患者さんの診療体制のさらなる整備について、他の分野の専門家と協力して真摯に取り組んでまいります。

5)現在、接種の推奨が中止されているそうですが、実際に接種はできますか?
接種後に重篤な症状がおきたときに、救済制度はあるのでしょうか?

 HPVワクチンは平成25年4月に予防接種法に基づき定期接種化されました。現在、自治体から接種対象者に個別に接種を奨めるような積極的勧奨は中断されていますが、定期接種としての位置づけに変化はなく、公費助成による接種は可能です。詳しくは平成30年1月に厚生労働省がホームページに公開したリーフレットも参考にして下さい。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html

 また、お住まいの自治体の定期接種ワクチンの担当部署に問い合わせることもできます。万一接種後に重篤な有害事象が発生した場合は、予防接種法に基づく救済制度の申請は可能で、因果関係などの審査の後、必要な補償が受けられる場合もあります。

3. 日本産科婦人科学会のHPVワクチンに関する考え方について教えてください。

 WHOは繰り返し若い女性が本来予防し得るHPV関連がんのリスクにさらされている日本の状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されないことに繋がる現状の日本の政策は、真に有害な結果となり得ると警告しています。日本産科婦人科学会は、先進国の中で我が国においてのみ将来多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益が生じないためには、科学的見地に立ってHPVワクチン接種は必要と考え、HPVワクチン接種の積極的勧奨の再開を国に対して強く求める声明を4回にわたり発表してきました。また、自治体がHPVワクチンは定期接種であることを対象者や保護者に対して告知する動きへの支持も表明いたしました。
http://www.jsog.or.jp/modules/statement/index.php?content_id=38
 私どもは、これからも子宮頸がんとHPVワクチンに関する科学的根拠に基づく正しい知識と最新の情報を常に国民に向けて発信するとともに、子宮頸がんの予防およびこの病気で苦しむ患者さんを他の多くの先進国と同じように減らしていくことを、皆様と共に目指していくべきと考えております。

このホームページの内容を含む子宮頸がん予防についての詳細解説については、後日公開予定で準備中です。

下記の「より詳しい解説(PDFバージョン)」から閲覧できるPDFは改定前の旧バージョンですが、現在もご利用いただけます。

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