19DEC2005
委員会提案
本会倫理委員会では、かねてより「着床前診断の適応」に関してワーキンググループを設置し検討して参りましたが、このたびワーキンググループより下記答申を受領いたしました。
本答申につき平成17年12月17日に開催されました第3回理事会において協議しました結果、本件の重要性に鑑み、本会会員のみならず、広く多くの方々よりご意見を聴取させていただくこととなりました。
つきましては、ご意見のある方は平成18年1月31日までに、書面(FAX, E-mailも可)にて学会事務局気付倫理委員会委員長宛お申し出くださるようお願い申し上げます。
宛先:日本産科婦人科学会 倫理委員長行
郵便番号113-0033 東京都文京区本郷2-3-9
ツインビュー御茶の水 3階
FAX 03-5842-5470
E-mail nissanfu@jsog.or.jp
E-mail タイトル(Subject) 着床前診断の適応について
平成17年12月
日本産科婦人科学会倫理委員会
委員長 吉村 泰典様
着床前診断の適応に関するWG
委員長 大濱 紘三
委 員 齋藤加代子、末岡 浩、杉浦 真弓
鈴木 良子、高桑 好一、阪埜 浩司
久松 美香、福嶋 義光
答 申
習慣流産(反復流産を含む)の染色体転座保因者を着床前診断の適応として認める。
解説
習慣流産夫婦の7〜8%に染色体構造異常がみられ、4.5%が均衡型転座保因者である。2回以上の流産既往後に均衡型相互転座保因者と診断された夫婦のうち、夫が保因者の場合は次回妊娠で流産する率は61.1%(生児獲得率は38.9%)、妻が保因者である場合の流産率は72.4%(生児獲得率は27.6%)であり、合計すれば流産率は68.1%になるとする報告がある(Sugiura-Ogasawara et al. 2004)。
これらの結果は、習慣流産に占める染色体転座保因者の率は決して高くないものの、流産既往のある染色体転座保因者は非転座保因者に比して高い率で流産を反復することを示している。一方、習慣流産の染色体転座保因者に対する着床前診断実施後の生児獲得率68.0%(ESHRE PGD Consortiumの長期調査)は、習慣流産の染色体転座保因者における自然流産での累積生児獲得率68.1%(Sugiura-Ogasawara et al.)と現時点では全く同じである。
しかしながら、このような流産の反復による身体的・精神的苦痛の回避を強く望む気持ちや、着床前診断を流産回避の選択肢の一つとして利用したいと思う気持ちは十分に理解される。
近年、着床前診断技術は急速に進歩しており、世界各国で4,000周期以上が実施され、診断技術の向上に伴って、その科学的なデータが蓄積されるようになってきている。また、現在、本会の着床前診断に関する症例ごとの小委員会における審査制度も十分に機能している。さらに臨床遺伝専門医などによる着床前診断を希望するクライエントに対する遺伝カウンセリング体制も充実してきている。
これらの諸状況を総合的に検討した結果、以下の要件を満たした医療機関における習慣流産の染色体転座保因者を適応とする着床前診断の実施は臨床研究として妥当であると結論した。
要 件
1. 適応
習慣流産(反復流産を含む)の染色体転座保因者を適応とする。
2. 実施医療機関の資格要件
習慣流産の染色体転座保因者を適応とする着床前診断は臨床研究と位置づけられ、これを実施する医療機関は、現在の重篤な遺伝性疾患を適応とする場合と同じ資格要件を備える必要がある。さらに本法の実施者は、1)染色体転座保因者の正確な細胞遺伝学的診断ができる技術と知識を有する者、2)体外受精の診療に習熟した医師、3)体外受精における検査室での手技に習熟した者、4)間期細胞核FISH法(fluorescence in-situ hybridization)を実施することのできる知識と技術(プローブの選択を含む)を有する者、であることに加え、5)情報管理者の関与が必須である。本法の実施責任者は実施分担者を組織し、精度管理の責任を負う。本法の実施責任者は生殖医学や不育症医療に関する高度の知識・技術を習得した医師であり、かつ遺伝性疾患や染色体異常に対して深い知識と出生前診断の豊かな経験を有していることを必要とする。
3. 遺伝カウンセリング
着床前診断の実施には、排卵誘発、採卵、胚移植、黄体機能支持など母体への負担を強いる治療・技術を駆使する必要があり、それらに伴う合併症や副作用(OHSS、麻酔の合併症、臓器・血管の損傷など)も存在する。また割球採取の胚への影響、技術的問題などに伴う正診率(診断精度)、倫理問題、さらに経済的負担などの問題があり、これらに関する十分な説明をクライエント夫婦に行った上で同意を得る必要がある。そのためには本法の実施責任者による説明の他に、臨床遺伝学に精通した者(臨床遺伝専門医等)による児の予後などを含めた遺伝カウンセリングが実施される必要がある。
その中で、習慣流産の染色体転座保因者に対する着床前診断実施後の生児獲得率は現在のところ(ESHRE PGD Consortiumの長期調査:68.0%)、習慣流産の染色体転座保因者における自然妊娠での累積生児獲得率(Sugiura-Ogasawara et al. :68.1%)と全く同じであり、習慣流産の染色体転座保因者に対する着床前診断の優位性は確立していないこと、親の均衡型染色体構造異常に由来する染色体異常以外の原因による流産が起こる可能性なども含め、本法の意義や限界についても言及しておく必要がある。
4. 検査法
出生前診断において不均衡型染色体構造異常を同定する際には十分量の細胞を得るべく培養を行い、分裂中期核板を作成し、複数の細胞を解析するのが一般的であるが、4〜8細胞期の受精卵から得られる1〜2細胞(割球)のみを材料とする着床前診断では、間期細胞核をFISH法を用いて、目的とする染色体の量的変化の有無を解析することになる。その際に使用されるプローブは、染色体転座保因者の転座の内容によって選択される。
間期細胞核を用いたFISH法の診断精度には限界があり、プローブによっても精度が異なるため、本法を実施する際には、事前に当該転座保因者において不均衡型染色体構造異常の検出が可能かどうか予備実験を含め十分検討しておく必要がある
5. 申請手続き
現在の着床前診断は臨床研究の段階にあり、重篤な遺伝性疾患を適応とする場合は、現段階では症例ごとに、本学会の倫理委員会の下に設けられた審査小委員会で審査している。習慣流産の染色体転座保因者を対象とする着床前診断は、手技などに関して現在の重篤な遺伝性疾患を対象とする場合と同じであることを考慮すれば、これまでと同様の手続きや審査法を適用すべきである。ただし、これまでの実績やクライエントへの配慮から、手続きの簡略化や審査の迅速化を図る必要がある。
申請書類には、(1)症例の概要(妊娠歴、流産歴、分娩歴、夫婦および流産児の染色体分析結果、不育症関連の諸検査成績、その他)、(2)施設内倫理審査委員会における審議内容および審議結果、(3)インフォームド・コンセントの内容(説明者、説明書類、同意書、その他)、(4)施設および実施者の資格要件に関する書類(生殖医療に関する実績、遺伝性疾患・染色体異常・出生前診断に関する実績、その他)、(5)遺伝カウンセリング体制、内容および担当者の実績(資格、経験等)、を含める。
6. 審査小委員会
現在の着床前診断の申請例に対するものと同様の審査小委員会を設置し、症例ごとに対応する。
参考文献
追記
着床前診断の新たな適応の審査に際して、学会として下記の事項に適切に対応されることを要望する。