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倫理に関する見解

提供精子を用いた人工授精に関する見解

提供精子を用いた人工授精に関する見解

会   告

学会会員殿
 本会倫理委員会は、「非配偶者間人工授精に関する見解」(平成18年4月)について平成26年度より綿密な協議を重ねてまいりました。各界の意見を十分に聴取しました結果、改定案をとりまとめ、機関誌67巻4号に掲載し、会員の意見を聴取した上で、理事会に答申致しました。理事会(第1回理事会・平成27年5月30日)ならびに総会(平成27年6月20日)はこれを承認しましたので、会告の改定としてここに会員にお知らせ致します。

平成27年6月

公益社団法人 日本産科婦人科学会
理事長  小西 郁生
倫理委員会委員長  苛原  稔

_______________________________

公益社団法人 日本産科婦人科学会会告(改定)


提供精子を用いた人工授精に関する見解

 提供精子を用いた人工授精(artificial insemination with donor's semen;AID,以下本法)は、不妊の治療として行われる医療行為であり、その実施に際しては、わが国における倫理的・法的・社会的基盤に十分配慮し、これを実施する。

1. 本法は、本法以外の医療行為によっては妊娠の可能性がない、あるいはこれ以外の方法で妊娠をはかった場合に母体や児に重大な危険がおよぶと判断されるものを対象とする。
2. 被実施者は法的に婚姻している夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする。
3. 実施者は、被実施者である不妊夫婦双方に本法の内容、問題点、予想される成績について事前に文書を用いて説明し、了解を得た上で同意を取得し、同意文書を保管する。また本法の実施に際しては、被実施者夫婦およびその出生児のプライバシーを尊重する。
4. 精子提供者は心身とも健康で、感染症がなく自己の知る限り遺伝性疾患を認めず、精液所見が正常であることを条件とする。本法の治療にあたっては、感染の危険性を考慮し、凍結保存精子を用いる。同一提供者からの出生児は10名以内とする。
5. 精子提供者のプライバシー保護のため精子提供者は匿名とするが、実施医師は精子提供者の記録を保存するものとする。
6. 精子提供は営利目的で行われるべきものではなく、営利目的での精子提供の斡旋もしくは関与または類似行為をしてはならない。
7. 本学会員が本法を行うにあたっては、所定の書式に従って本学会に登録、報告しなければならない。

“提供精子を用いた人工授精に関する見解”に対する考え方(解説)

 今回、平成18年4月の会告「非配偶者間人工授精に関する見解」で用いられている「非配偶者間人工授精」という表現を、より適切な表現である「提供精子を用いた人工授精」に修正した。この会告がより正しく理解されることを目的とし、以下の解説を付した。
 提供精子を用いた人工授精は不妊の治療として行われる医療行為であるが、その影響が被実施者である不妊夫婦とその出生児および精子提供者と多岐にわたるため、専門的知識を持った医師がこれらの関係者全て、特に生まれてくる子供の権利・福祉に十分配慮し、適応を厳密に遵守して施行する必要がある。

1.本法は、本法以外の医療行為によっては妊娠の可能性がない、あるいはこれ以外の方法で妊娠をはかった場合に母体や児に重大な危険がおよぶと判断されるものを対象とする。
(解説)
 女性側に明らかな不妊原因がないか、あるいは治療可能であることが前提条件となる。臨床的にこれ以外の方法では妊娠が不可能、あるいはこれ以外の方法で妊娠をはかった場合に母体や児に重大な危険がおよぶと判断される、と医師が臨床的に判断した場合に適応となりうる。しかしながら、原則として本法の施行は無精子症に限定されるべきである。
 慎重な配慮なしに他の治療法で妊娠可能な症例に本法を行うことは、厳に慎まなければならない。さらに、本治療開始前に、夫婦にカウンセリングの機会を可能な限り提供することが推奨される。

2.被実施者は法的に婚姻している夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする。
(解説)
 本法の対象者が法律上の夫婦であることを確認するため、戸籍謄本を提出することが望ましい。本法の実施にあたっては、同意書を各施設で責任をもって保存する。

3.実施者は、被実施者である不妊夫婦双方に本法の内容、問題点、予想される成績について事前に文書を用いて説明し、了解を得た上で同意を取得し、同意文書を保管する。また本法の実施に際しては、被実施者夫婦およびその出生児のプライバシーを尊重する。
(解説)
 本法において夫婦の同意を確認することは、生まれてくる子どもの福祉を考える上で極めて重要である。そのため治療開始前に、本法により出生した子どもは夫婦の嫡出子と認めることを明記した同意書に、夫婦が同席の上で署名し、夫婦とも拇印を押すなど本人確認を行ったのちに治療を開始する。この同意書等は各施設で責任をもって一定期間保存する。また治療中夫婦の意思を再確認するため、本法を施行するごとに、夫婦の書面による同意を得ることとする。
 本法は、当事者のプライバシーに関わる部分も通常の医療以上に大きいため、医師をはじめとした医療関係者が、被実施夫婦および出生児のプライバシーを守ることは当然の義務である。

4.精子提供者は心身とも健康で、感染症がなく自己の知る限り遺伝性疾患を認めず、精液所見が正常であることを条件とする。本法の実施にあたっては、感染性を考慮し、凍結保存精子を用いる。同一提供者からの出生児は10名以内とする。
(解説)
 精子提供者は、感染症(肝炎、AIDSを含む性病等)、血液型、精液検査を予め行い、感染症のないこと、精液所見が正常であることを確認する。また、自分の2親等以内の家族、および自分自身に遺伝性疾患のないことを提供者の条件とする。その上で提供者になることに同意する旨の同意書に署名、拇印し、提供者の登録を行う。
 実施にあたっては、HIV-1/2をはじめとする感染症にwindow期間が存在し、実際に新鮮精液使用によるこの期間の感染が報告されていることを考慮し、少なくとも180日凍結保存してその後提供者の感染症検査を行って陰性であった凍結保存精液のみを使用する。
 同一の精子提供者からの出生児数は10人を超えないこととし、実施施設では授精の記録および妊娠の有無を把握するよう努力する。
 また本法の実施者は提供者が本法について理解して提供することができるよう、十分に説明をし、提供前後にわたって必要があればプライバシーを厳密に保持しつつカウンセリングを受けられる体制を整備する。

5.精子提供者のプライバシー保護のため精子提供者は匿名とするが、実施医師は精子提供者の記録を保存するものとする。
(解説)
 精子提供者のプライバシー保護のため、提供者はクライエントに対し匿名とされる。実施医師は、授精のたびごとに提供者を同定できるよう診療録に記載するが、授精ごとの精子提供者の記録は、現時点では出生児数を制限するために保存されるべきものである。但し、診療録・同意書の保存期間については長期間の子どもの福祉に関係する可能性がある本法の特殊性を考慮し、より長期の保存が望ましい。

6.精子提供は営利目的で行われるべきものではなく、営利目的での精子提供の斡旋もしくは関与または類似行為をしてはならない。
(解説)
 本法は、これ以外の医療行為によっては妊娠の可能性のない男性不妊に対して適応されるべきであり、その施行にあたっては医学的立場のみならず、倫理的、かつ社会的基盤が十分に配慮されるべきである。営利目的で本法の斡旋もしくは関与またはその類似行為を行うことは許されるべきではない。本法の商業主義的濫用は、生殖技術の適正利用が保障されなくなると同時に被実施夫婦や提供者のプライバシーや出生児の権利も保障されなくなる。

7.本学会員が本法を行うにあたっては、所定の書式に従って本学会に登録、報告しなければならない。
(解説)
 本学会員が本法を施行する際、所定の書式に従って本学会に登録、報告することとする。

 

(“「非配偶者間人工授精と精子提供」に関する見解”として発表、
平成9年5月、会長 矢嶋 聰)
(平成18年4月改定、理事長 武谷雄二、倫理委員会委員長 吉村泰典)
(「提供精子を用いた人工授精に関する見解」として改定
平成27年6月、理事長  小西 郁生、倫理委員会委員長  苛原  稔)

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