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倫理に関する見解

生殖補助医療実施医療機関の登録と報告に関する見解

会  告

学会会員殿

   本会倫理委員会は、「生殖補助医療実施医療機関の登録と報告に関する見解」(平成27年4月9日改定)について、平成26年12月22日に公布された「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号)に適合させるため、平成27年度より綿密な協議を重ねてまいりました。各界の意見を十分に聴取しました結果、改定案をとりまとめ、機関誌68巻4号に掲載し、会員の意見を聴取した上で、理事会に答申致しました。理事会(第1回理事会・平成28年6月4日)ならびに総会(平成28年6月25日)はこれを承認しましたので、会告の改定としてここに会員にお知らせ致します。

平成28年6月

公益社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 藤井 知行
倫理委員会委員長 苛原  稔
_______________________________

生殖補助医療実施医療機関の登録と報告に関する見解

はじめに
   生殖補助医療(ART)は不妊診療の重要な選択肢のひとつであり、難治性不妊症に対する治療法として位置付けられている。ARTの実施にあたっては、受ける患者の医学的、社会的、経済的かつ心理的側面に十分に配慮するとともに、施設、設備、要員などについて一定の基準を満たすことが必要である。また、登録施設においては効果的で安全な医療を行うために、必要な義務を負う。
   本見解は、現在におけるART実施施設が満たすべき義務、施設、設備、要員の基準、および登録および安全管理に関する留意点について、最少必要要件を示すものである。
   なお、本見解に基づく本学会へのART実施施設登録の有効期間は5年間であり、登録継続にあたっては毎回、厳正な更新審査が行われます。また有効期間終了6ヶ月前から、登録更新の審査を受け付けます。

1.生殖補助医療の実施登録施設の義務
1) ARTを実施しようとする全ての医療施設は、日本産科婦人科学会に対して登録する義務を負う。なお、ここでいうARTとは、日本産科婦人科学会へ登録義務のある生殖補助医療であり、ARTの過程で行われる下記の各手技は、登録施設においてのみ実施することができる。
      ①採卵および採卵に必要な麻酔
      ②媒精
      ③卵細胞質内精子注入、および類似の顕微授精手技
      ④卵子および受精卵の培養
      ⑤卵子および受精卵・胚の凍結と、凍結物の保管
      ⑥凍結されている卵子および受精卵・胚の解凍
      ⑦胚移植
2)ARTを実施しようとする医療施設は、日本産科婦人科学会が示す施設、設備、要員に関する基準を満たすことが必要である。
3)実際の診療においては、有効かつ安全な治療を実施するとともに、実施した症例の経過、妊娠・出産を含む転帰を把握し、報告する義務を負う。
4)治療の安全を確保するために、マニュアル等を整備し、各症例の診療に関連する記録・情報などを保存・管理する義務を負う。
5)安全に支障を来した際には、患者および取り扱う配偶子、胚に対して最善の対策をとるとともに、情報を共有し今後の再発を防ぐために、問題を正確に学会に報告する義務を負う。

2.実施登録施設が備えるべき施設・設備の基準
1)必ず設置するべき施設・設備
      ①採卵室・胚移植室(酸素吸入器、吸引器、生体監視モニター、救急蘇生セットを備えていること)。
      ②培養室・凍結保存設備(施錠できること)。
2)その他の設置することが望ましい施設・設備
      ①採精室
      ②カウンセリングルーム
      ③検査室

3.実施登録施設が配置すべき人員の基準
1)必要不可欠な基準要員
      ①実施責任者(1名)。
      ②実施医師(1名以上、ただし実施責任者と同一人でも可)。
      ③看護師(1名以上):不妊治療、および不妊患者の看護に関する知識、技術を十分に修得した看護師であること。
      ④胚を取り扱える技術者
配偶子、受精卵、胚の操作、取り扱い、および培養室、採精室、移植室などの施設、器具の準備、保守の一切を実際に行うART に精通した高い倫理観をもつ技術者(医師あるいは、いわゆる胚培養士)。
2)生殖補助医療の実施登録施設における実施責任者の要件
本会に登録の必要のあるARTを申請する施設の実施責任者は、以下の各項の条件を満たす者であることを要する。
      ①日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医であり、専門医取得後不妊治療に2年以上従事した者。
      ②日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する登録施設(生殖補助医療に関する登録施設)において1年以上勤務、または1年以上研修を受け、体外受精・胚移植の技術を習得した者。
      ③常勤であること。
      ④日本生殖医学会認定生殖医療専門医であることが望ましい。
3)実施責任者の責務は次の通りとする。
      ①診療に関する医療安全管理体制および各種書類の策定と管理。
      ②診療の実施に伴う安全管理。
      ③診療に関係する記録・情報等の保存と管理。
      ④日本産科婦人科学会への定期的な報告。
4) その他の要員:連携が望ましい要員
      ①泌尿器科医
         精巣内精子生検採取法(TESE),精巣上体内精子吸引採取法(MESA)等を実施する施設では、緊密な連携をとることができる泌尿器科医師。
      ②コーディネーター
         患者(夫婦)が納得して不妊治療を受けることができるように、不妊治療の説明補助、不妊の悩みや不妊治療後の妊娠・出産のケア等、患者(夫婦)を看護の側面から支援する者(いわゆるコーディネーター)。
      ③カウンセラー
         生殖医学・遺伝学の基礎的知識、ARTの基礎的知識および心理学・社会学に深い造詣を有し、臨床におけるカウンセリング経験をもち、不妊患者夫婦を側面からサポートできる者(いわゆるカウンセラー)。

4.実施施設が設置すべき委員会
1)倫理委員会
      ①「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究」、「提供精子を用いた人工授精」、ならびに「医学的適応による未受精卵子、胚(受精卵)および卵巣組織の凍結・保存」を実施する施設は、自医療機関内に倫理委員会を設置し承認を得る。
      ②倫理委員会は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成26年12月22日 文部科学省、厚生労働省)」に定める「倫理審査委員会」が満たすべき各条件に合致することを必要とする。
      ③施設申請に際しては、倫理委員会の審査記録を添付すること。但し、審査記録には審議議題と結果ならびに審査者氏名を含むこと。
      ④自医療機関で十分な人員が確保できない場合には、他の医療機関・大学等に設置されている、上記会告に準じた倫理委員会に審査を委託してもよいこととする。
2)安全管理委員会
   医療機関内に生殖医療に関する安全管理のための委員会を設置すること。医療機関内で発生する生殖医療に関する事故等の安全確保を目的とした改善のための方策を講ずること。なお、当該医療機関において、医療法に基づくリスクマネジメント委員会等の同種の委員会がすでに設置されている場合には、それを充てても良い。

5.その他の要件
実施登録施設は、次の項目を満たすことが必要である。
1)自医療機関で妊娠経過を観察し分娩する妊婦に関しては、妊娠から出産に至る経過を把握すること。
2)自医療機関で分娩を取り扱わない場合には、分娩を取り扱う他の医療機関と適切な連携をもち、妊娠から出産に至る経過について報告を受け把握すること。
3)日本産科婦人科学会が実施する「生殖医学の臨床実施に関する調査」に対し、自医療機関のART実施の結果を報告すること。ART登録施設が「生殖医学の臨床実施に関する調査の報告」の義務を果たさない場合は、その理由を問わず、登録を抹消されることがある。
4)ART登録施設の本学会へのART実施結果の報告において、連続する3年間、体外受精・胚移植,顕微授精,凍結受精卵移植のいずれも行われなかった場合は、その施設における凍結受精卵の保管のないことを照会の後、当該施設の登録を抹消する。当該施設がART実施を再開する場合は、再度登録申請を要する。
5)妊娠し生児を得た症例の不妊治療に関する記録については、保存期間を20年以上とするのが望ましい。

6.ART実施施設登録の申請および審査の留意点
1)施設登録審査は日本産科婦人科学会倫理委員会で行う。
2)生殖補助医療に関する登録申請にあたり留意すべき事項は以下のとおりである。
   (1)実施場所
      ①採卵室、培養室、移植室を分娩室と兼ねてはいけない。
      ②実施場所の設備配置に関する詳細な見取り図を提出すること。見取り図は実施場所の安全性(施錠)の評価が可能なものとすること。
   (2)実施責任者および実施医師
      ①登録申請時に、その勤務・研修を行った施設の実施責任者による勤務・研修証明書を添付する。
      ②ART研修歴のうち、国外でART技術を習得したものはその詳しい内容を示す証明書の原文と邦訳を提出すること(国外でのART研修歴について実施責任者要件に見合うものであるか否かは個別に審査する)。
      ③実施責任者に異動が生じた場合には、遅滞なく報告する。実施責任者の条件を満たす医師が欠ける場合には、その欠員が充足されるまで実施を停止する。
3)日本産科婦人科学会に報告された実施症例のデータは学会に帰属し、その管理、公開、その他の使用に関する責任は日本産科婦人科学会が負う。

7.安全管理に関する留意事項
   ART登録施設は、生殖医療の安全を確保するため、下記の事項に留意すること。
      ①生殖医療に係る安全管理のための指針を整備し、医療機関内に掲げること。
      ②生殖医療に係る安全管理のための委員会を設置し、安全管理の現状を把握するとともに、医療機関内における事故報告等の生殖医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること。
      ③生殖医療に係る安全管理のための職員研修を定期的に実施すること。
      ④体外での配偶子・受精卵の操作にあたっては、安全確保の観点から必ずダブルチェックを行う体制を構築すること。なお、ダブルチェックは、実施責任者の監督下に、医師・看護師・いわゆる胚培養士のいずれかの職種の職員2名以上で行う必要がある。
      ⑤各ART登録施設は安全管理体制の状況を、「ARTの臨床実施における安全管理に関する調査票(別表)」を用いて、毎年、日本産科婦人科学会倫理委員会に報告すること。報告のない場合、および報告内容に問題のある場合は、登録を抹消されることがある。

 

(“「体外受精・胚移植の臨床実施」の「登録報告制」について”として発表、
昭和61年3月、会長 中山徹他)
(「生殖補助医療実施医療機関の登録と報告に関する見解」発表、
平成18年4月、理事長 武谷雄二、倫理委員会委員長 吉村泰典)
(平成22年4月改定、理事長 吉村泰典、倫理委員会委員長 嘉村敏治)
(平成27年4月改定、理事長 小西郁生、倫理委員会委員長 苛原 稔)
(平成28年6月改定、理事長 藤井知行、倫理委員会委員長 苛原 稔)

(別表)
ARTの臨床実施における安全管理に関する調査票

日本産科婦人科学会 殿

下記のように報告します。

  平成   年   月   日

施設名
実施責任者  
役職・氏名

 

内 容

いずれかを○で囲む

生殖医療に関する安全管理のための指針を整備し、医療機関内に掲げている。

実施  未実施

医療機関内に生殖医療に関する安全管理のための委員会を設置している。

実施  未実施

施設内でインシデントを報告する体制を整えている。

実施  未実施

生殖医療に関する安全管理のために定期的に職員の研修を実施している。

実施  未実施

生殖医療に関する安全管理のために作業安全管理マニュアルを策定している

実施  未実施

ARTの実施においてはダブルチェックを行える体制を整えている。

実施  未実施

ARTの実施においてはすべての症例ごとに記録を残している。

実施  未実施

平成27年4月9日改定
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