25JUN2004
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解とこれに対する考え方
付:ヒトES
細胞の樹立及び使用に関する指針(平成13 年文部科学省告示第155
号)
学会会員殿
本会倫理委員会は、「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解」(昭和60年3月)について平成11年度より綿密な協議を重ねてまいりました。各界の意見を充分に聴取しました結果、改正案をとりまとめ、機関誌53巻9号に掲載し、会員の意見を聴取した上で、理事会に答申致しました。理事会(第3回理事会・平成13年12月15日)はこれを承認しましたので、会告の改定としてここに会員にお知らせ致します。
平成14年1月
社団法人 日本産科婦人科学会
会 長 荒 木 勤
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解
1.研究の許容範囲
精子・卵子・受精卵は生殖医学発展のための基礎的研究ならびに不妊症の診断治療の進歩に貢献する目的のための研究に限って取り扱うことができる。
なお、受精卵はヒト胚性幹細胞(ES細胞)の樹立のためにも使用できる。
2.精子・卵子・受精卵の取り扱いに関する条件
精子・卵子及び受精卵は,提供者の承諾を得たうえ,また,提供者のプライバシーを守って研究に使用することができる。
1)非配偶者間における受精現象に関する研究は,その目的を説明し,充分な理解を得た上で,これを行う。
2)受精卵は2週間以内に限って,これを研究に用いることができる。
3)上記期間内の発生段階にある受精卵は凍結保存することができる。
3.研究後の処理
研究に用いた受精卵は,研究後,研究者の責任において,これを法に準じて処理する。
4.精子・卵子・受精卵の取り扱い者
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う責任者は,原則として医師とし,研究協力者は,その研究の重要性を充分認識したものがこれにあたる。
5.研究の登録報告等
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究を本学会員が行うに当っては,学会指定の書式に準じてこれを報告する。
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解と、これに対する考え方
(日産婦誌54巻2号付録 pp2〜3)
1.研究の許容範囲
精子・卵子・受精卵は生殖医学発展のための基礎的研究ならびに不妊症の診断治療の進歩に貢献する目的のための研究に限って取り扱うことができる。なお、受精卵はヒト胚性幹細胞(ES細胞)の樹立のためにも提供できる。しかしながら、その使用の状況いかんによっては、提供に際し学会として独自の判断をせざるを得ない場合もある。
〔解説〕
生殖医学に関する研究は,一般に動物を用いて行われている。しかし動物で得られた研究成績をヒトの生命現象にあてはめることは,必ずしもできない。特に体外受精の臨床応用を行うためには,ヒトの生命現象の特殊性を認識することが必要で,そのためにも,ヒト精子・卵子・受精卵を用いての生殖医学全般についての幅広い研究が必要である。
したがって,この研究の許容範囲には,生殖医学発展のために必要な全ての研究が包含されることが原則であり,研究の発展をいささかも規制するものではないが,将来の臨床応用への可能性も充分考慮して,研究者としての良識に立脚して行うこととする。例えば,研究に用いた精子・卵子・受精卵を臨床に用いてはならない。
またヒトES細胞については、ヒトのあらゆる細胞、組織に分化しうる能力を有する可能性があることから再生医療等への応用が期待されている。しかしながら、その樹立においてはヒトの生命の萌芽であるヒト受精卵(生殖補助医療に使用する目的で作成されたヒト胚のうち、使用されないことの決定した余剰胚)を使用するという面から、生命倫理上の配慮が不可欠であり、ヒトの尊厳を侵すことのないようヒト受精卵を提供する者の人権を保護しかつ敬虔の念をもって取り扱わなければならない。また、それらの提供者、すなわち生殖補助医療を受けている人々にとっては、受精卵は特別な意味を持ち、これに対する配慮が必要である。さらに卵の応用は厳正なルールに基づいてなされるべきである。ヒト受精卵を使用したES細胞の樹立、使用おいび提供に関しては、国の定めるガイドライン(ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針(平成13年文部科学省告示第155号))があり、少なくともこれを遵守することは当然である。しかしながら、ES細胞の研究の状況によっては、生命の創出に直接関わる本会としての独自の見解を明白にし、国のガイドラインとの整合を図る必要性も生じる事態もあり得るであろう。
2.精子・卵子・受精卵の取り扱いに関する条件
精子・卵子・及び受精卵は,提供者の承諾を得たうえ,また,提供者のプライバシーを守って研究に使用することができる.
2‐1)非配偶者間における受精現象に関する研究は,その目的を説明し,充分な理解を得た上で,これを行う.
〔解説〕
非配偶者間における受精現象に関する研究とは,主として,精子と卵子の受精過程,ならびに受精卵に関する研究などをいう.
2‐2)受精卵は2週間以内に限って,これを研究に用いることができる.
〔解説〕
受精卵は受精後3日で桑実胚,4〜5日で胞胚となり,7日後に子宮に着床する.さらに胎芽は着床後に胚葉形成期に入るが,受精後14日までは2胚葉期であり,16〜17日以後に3胚葉形成期となって,その後の臓器分化を開始する.ヒトの生命がいつ始まるかは議論のあるところであるが,ヒトが個体として発育を開始する時期は個体形成に与かる臓器の分化の時期をもって,その始まりとすることができ,それ以前はまだ個体性が確立されず胞胚細胞が多分化性をもつ時期でもある.それゆえヒトが個体としての発育能を確立する以前の時期,すなわち受精後2週間以内を研究許容時期と定めた.同様の観点から諸外国でも受精後2週間以内を研究許容期間の限度としていることも,本見解の根拠のひとつとなっている.
2‐3)上記期間内の発生段階にある受精卵は凍結保存することができる.
〔解説〕
生物学や医学の研究においては,細胞を生きたまま保存することが極めてしばしば必要となるが,その方法としては,凍結保存が最良のものとして一般に用いられている.このため受精卵の保存にも,本法が用いられている.しかし,受精卵の特殊性を考慮し,その保存期間は提供者の生殖年齢を超えないこととする.
3.研究後の処理
研究に用いた受精卵は,研究後,研究者の責任において,これを法に準じて処理する.
〔解説〕
本項における法とは,死体解剖保存法(法律第204号,昭和24年6月10日)を指し,研究のためには死体あるいは手術などにより生体より分離された肢体などを保存することが可能であるが,保存の必要がなくなった場合は,一般社会通念に反しないよう,適宜処置して差し支えない.
4.精子・卵子・受精卵の取り扱い者
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う責任者は,原則として医師とし,研究協力者は,その研究の重要性を充分認識したものがこれにあたる.
〔解説〕
本項における医師とは,産科婦人科学・生殖生理学・発生学・その他関連領域の医学知識や技術を身につけた医師をいう.また研究協力者は,必ずしも医師である必要はないが,上記医師の指導や監督のもとに研究を行うものを指す.
5.研究の登録報告等
ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究を学会員が行うに当っては,学会指定の書式に準じてこれを報告する.また、ES細胞樹立のためにヒト受精卵の提供を行う場合も同様に学会にこれを報告する。
〔解説〕
本学会が「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解」を公表し,ヒト受精卵等の取り扱いについての基本姿勢を示してきたことの目的は,この分野の研究を規制することではなく,研究の自由をできるだけ尊重することにある.しかし,この問題の対社会的な重大性を考慮した場合,本学会として,この分野の研究実施状況を把握することは,医学的にも,社会的にも当然であり,そのためには,学会員がこの分野の研究を開始する場合,所定の書式によって本学会に登録・報告することにした.
第三章ヒト受精胚の提供
第一節 提供医療機関
(提供医療機関の基準)
第二十条 提供医療機関は、次に掲げる要件に適合するものとする。
一 ヒト受精胚の取扱いに関して十分な実績及び能力を有すること。 二 倫理審査委員会が設置されていること。 三 ヒト受精胚を提供する者の個人情報の保護のための十分な措置が講じられていること。 四 ヒト受精胚を滅失させることについての意思の確認の方法その他ヒト受精胚の取扱いに関する手続が明確に定められていること。 (提供医療機関の倫理審査委員会) 第二十一条 提供医療機関の倫理審査委員会は、樹立計画についてこの指針に即し、その科学的妥当性及び倫理的妥当性について総合的に審査を行い、その適否、留意事項、改善事項等に関して提供医療機関の長に対し意見を提出するとともに、当該審査の過程の記録を作成し、これを保管する業務を行うものとする。 2 第十三条第二項の規定は、提供医療機関の倫理審査委員会の要件について準用するものとする。この場合において、「樹立機関」とあるのは「提供医療機関」に読み替えるものとする。 第二節インフォームド・コンセント等 (インフォームド・コンセントの手続) 第二十二条 提供医療機関は、ヒト受精胚をヒトES
細胞の樹立に用いることについて、当該ヒトES
細胞の樹立に必要なヒト受精胚の提供者(当該ヒト受精胚の作成に必要な生殖細胞を供した夫婦(婚姻の届出をしていないが事実上夫婦と同様の関係にある者を除く。)をいう。以下単に「提供者」という。)のインフォームド・コンセントを受けるものとする。 2 前項のインフォームド・コンセントは、書面により表示されるものとする。 3 提供医療機関は、第一項のインフォームド・コンセントを受けるに当たり、提供者の心情に十分配慮するとともに、次に掲げる要件に適合するものとする。
一 提供者が置かれている立場を不当に利用しないこと。 二 同意の能力を欠く者にヒト受精胚の提供を依頼しないこと。 三 提供者によるヒト受精胚を滅失させることについての意思が事前に確認されていること。 四 提供者が提供するかどうか判断するために必要な時間的余裕を有すること。 五 インフォームド・コンセントの受取後少なくとも一月間は、当該ヒト受精胚を保存すること。 4
提供者は、当該ヒト受精胚が保存されている間は、インフォームド・コンセントを撤回することができるものとする。 (インフォームド・コンセントの説明) 第二十三条 インフォームド・コンセントに係る説明は、樹立機関が行うものとする。 2
樹立機関は、当該樹立機関に所属する者(樹立責任者を除く。)のうちから、当該樹立機関の長が指名する者に前項の説明を実施させるものとする。 3
前項の規定により樹立機関の長の指名を受けた者は、第一項の説明を実施するに当たり、提供者に対し、次に掲げる事項を記載した文書(以下「説明書」という。)を提示し、分かりやすく、これを行うものとする。
一 ヒトES
細胞の樹立の目的及び方法 二 ヒト受精胚が樹立過程で滅失することその他提供されるヒト受精胚の取扱い 三 予想されるヒトES
細胞の使用方法及び成果 四 樹立計画のこの指針に対する適合性が樹立機関、提供医療機関及び国により確認されている旨 五 提供者の個人情報が樹立機関に移送されないことその他個人情報の保護の具体的な方法 六 ヒト受精胚の提供が無償で行われるため、提供者が将来にわたり報酬を受けることのない旨 七 ヒトES
細胞について遺伝子の解析が行われる可能性のある旨及びその遺伝子の解析が特定の個人を識別するものではない旨 八 ヒトES
細胞から提供者が特定されないため、研究成果その他の当該ヒトES
細胞に関する情報が提供者に教示できない旨 九 ヒトES 細胞の樹立の過程及びヒトES
細胞を使用する研究から得られた研究成果が学会等で公開される可能性のある旨 十 ヒトES
細胞が樹立機関において長期間維持管理されるとともに、使用機関に無償で分配される旨 十一 ヒトES
細胞から有用な成果が得られた場合には、その成果(分化細胞を含む。)から特許権、著作権その他の無体財産権又は経済的利益が生ずる可能性がある旨及びこれらが提供者に帰属しない旨 十二 提供又は不提供の意思表示が提供者に対して何らの利益又は不利益をもたらすものではない旨 十三 同意後少なくとも一月間は、ヒト受精胚が保存される旨及び当該ヒト受精胚が保存されている間は、その撤回が可能である旨並びにその方法 4
樹立機関は、第一項の説明を実施する際には、提供者の個人情報を保護するため適切な措置を講じるとともに、前項の説明書及び当該説明を実施した旨を示す文書(以下「説明実施書」という。)を提供者に、その写しを提供医療機関にそれぞれ交付するものとする。 5
樹立機関は、最新の科学的知見を踏まえ、正確に第一項の説明を行うものとする。 (インフォームド・コンセントの確認) 第二十四条 提供医療機関の長は、樹立計画に基づくインフォームド・コンセントの受取の適切な実施に関して、第二十二条第二項に規定する書面、説明書及び説明実施書を確認するとともに、当該提供医療機関の倫理審査委員会の意見を聴くものとする。 2
提供医療機関の長は、ヒト受精胚を樹立機関に移送する際には、前項の確認を行った旨を文書で樹立機関に通知するものとする。 3
前項の通知を受けた場合には、樹立機関の長は、当該通知の写しを文部科学大臣に提出するものとする。 (提供者の個人情報の保護) 第二十五条 ヒトES
細胞の樹立及び使用に携わる者は、提供者の個人情報の保護に最大限度努めるものとする。 2
前項の趣旨にかんがみ、提供医療機関は、ヒト受精胚を樹立機関に移送する際には、当該ヒト受精胚と提供者に関する個人情報が照合できないよう必要な措置を講じるものとする。

<参考> ヒトES 細胞の樹立及び使用に関する指針(平成13 年文部科学省告示第155 号)
(樹立機関の倫理審査委員会)
第十三条 樹立機関の倫理審査委員会は、次に掲げる業務を行うものとする。
一 樹立計画についてこの指針に即し、その科学的妥当性及び倫理的妥当性について総合的に審査を行い、その適否、留意事項、改善事項等に関して樹立機関の長に対し意見を提出するとともに、当該審査の過程の記録を作成し、これを保管すること。 二 樹立の進行状況及び結果について報告を受け、必要に応じて調査を行い、その留意事項、改善事項等に関して樹立機関の長に対し意見を提出すること。 2
樹立機関の倫理審査委員会は、次に掲げる要件に適合するものとする。
一 樹立計画の科学的妥当性及び倫理的妥当性を総合的に審査できるよう、生物学、医学及び法律に関する専門家、生命倫理に関する意見を述べるにふさわしい識見を有する者並びに一般の立場に立って意見を述べられる者から構成されていること。 二 樹立機関の関係者以外の者が二名以上含まれていること。 三 男性及び女性がそれぞれ二名以上含まれていること。 四 樹立計画を実施する者が審査に参画しないこと。 五 倫理審査委員会の活動の自由及び独立が保障されるよう適切な運営手続が定められていること。 六 倫理審査委員会の構成、組織及び運営並びに議事の内容の公開その他樹立計画の審査に必要な手続に関する規則が定められ、かつ、当該規則が公開されていること。