日本産科婦人科学会について
挨拶
2009年4月3日
超克そして再興へ
社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 吉村 泰典
日本産科婦人科学会は、明治35年より医学の真理の探求を通じて、わが国の産科婦人科学の発展と産婦人科医療の向上に中心的な役割を果たしてきており、社会的にも大きな影響力と責任を負っております。本会は昭和52年に社団法人としての法人格を取得いたしましたが、平成20年12月の「公益法人制度改革関連三法」の施行により、一般社団法人か公益社団法人かのいずれかに移行する必要性が生じました。本学会は国民の健康の維持、増進を支えるという社会的ミッションの事業の公益性及び税制面等の観点から、慎重に検討した結果、公益社団法人を申請する方針とし、平成21年4月2日の第61回日本産科婦人科学会総会において、公益社団法人申請に係る定款等変更のご承認をいただきました。
これまで本会の事業運営における代議員や理事の選出、専門医制度に関する委員会等業務に関しては、地方部会に長年重要な役割を果たしていただいたところですが、その運営や会計などにつきましては各地方部会の自主性に委ねられてまいりました。しかしながら、一般社団であれ公益社団であれ、登記と会計の連結が必要となることから、現行のままでは各地方部会を支部組織として位置づけることが不可能となってきました。ついては、内閣府に設置された第三者機関である「公益認定等委員会」事務局との再三の協議の上、本学会の常置委員会として新たに地方連絡委員会を設置し、地方部会が担ってきた業務の組織を変え、運営することといたしましたので、会員各位のご理解をお願い申し上げます。
さて、今日のわが国の産婦人科医療、特に周産期医療は国民にとっても、医療従事者にとっても依然として危機的状況に陥っています。われわれ日本産科婦人科学会は国民に対して安全で安心な産婦人科医療を提供するといった重大な責務を負っている専門職能集団として、これら状況を乗り越え社会の信託に応えなければなりません。幸い会員の皆様の孜孜とした努力があり、漸く社会に周産期医療の抱えるさまざまな問題が認識されるようになり、国や地方自治体も真摯に産婦人科医療の改善に向けての施策を実行に移すようになってきています。もとより周産期医療といえば、医療サービスの受益者は明日の社会そのものであり、医療提供体制の整備や国民に対する支援のためには、国や地方行政からの公的補助がさらに必要となると思います。これまでハイリスク妊娠分娩加算の対象拡大と評価の充実、妊婦検診の公的助成の拡大、産科医療従事者の待遇改善や出産一時金の増額などが認められ、わが国の周産期医療提供体制も徐々に整備され、解決への曙光が見え始めてきています。
今、社会はあらゆる領域で専門医を求めています。学会は、メディカルプロフェッションとして国民に対して良質で安全な産婦人科医療を提供できるような専門医の育成や産婦人科医療施設における治療の標準化といった社会的使命を負っています。本会も昭和62年に中央認定医制度委員会を設置、平成13年には中央専門医制度委員会と名称を変更し、基本領域学会の一つとして一定基準の臨床経験を有する産婦人科専門医の養成に努めています。最近では、産婦人科診療の4つの分野である生殖医学、周産期医学、婦人科腫瘍学、更年期医学を専門とする学会において、それぞれ独自に専門医制度(サブスペシャリティー)を立ち上げてきています。関連領域の専門医を取得するためには産婦人科全般にわたる横断的な基礎知識と技術の修得が前提となり、その後にサブスペシャリティーとしての研修を積み上げていくことになり、日本産科婦人科学会認定の専門医は各サブスペシャリティーのコアの位置を占めています。そのためにも、後期臨床研修における専門医育成のための教育システムの充実は極めて重要なテーマであり、これが質の高い産婦人科医療の提供に繋がるものと思います。日本学術会議や日本専門医制度評価・認定機構では、医療の質を保証できる体制づくりとして専門医制度改革をあげています。現在では専門医を育成するための教育制度の評価や研修施設の認定は各学会に委ねられており、社会からは適切な外部評価を受けていないといった問題点も指摘されています。本学会も専門医制度を根本的に再検討する時期にあり、研修プログラムや認定試験などの内形基準の新たな提唱が必要となってくると思います。
学会における学術や診療の活性化を図り、さらに発展させてゆくためには、産婦人科を専攻する若手医師の確保が最重要課題です。平成19年より初期臨床研修医や医学生を対象に信州の地でサマースクールを開催しています。毎年、全国から多数の初期臨床研修医や学生の方に集まっていただき、体験セミナーとして超音波、腹腔鏡、新生児蘇生などを実施し、参加者からは素晴らしいとの内容評価を受けています。このセミナーを通して既に後期研修として産婦人科を専攻する医師が数多く誕生しており、その成果は瞠目に値するものがあります。また、産婦人科医師不足の状況を鑑み、理解のある企業による産婦人科医育成奨学金制度が発足し、産婦人科を志望する医学生や若手産婦人科医師の海外派遣に対する資金援助も実施されています。これまでは学術委員会内の小委員会で医師確保に向けた活動が開始されましたが、若手医師に対する働きかけは教育委員会の重要な事業として位置づけられています。こうした会員各位の不断の努力により、本会への新入会員数の大幅な増加がみられるようになってきています。
広報活動も本学会の重要な役割の一つです。本学会は平成20年1月より研修医や医学生を対象にしてニュースレター “Reason for Your Choice”を発刊しています。若い人々に産婦人科の素晴らしさを知っていただくための企画で、年2回の予定で発行されています。また、本会が編集協力をする妊産婦を中心とした若い女性と産婦人科医を結ぶ朝日新聞社のコミュニティペーパー“アネティス”が、平成20年2月より全国の産婦人科医療機関に年4回配布されています。産婦人科の先生方の仕事ぶりや女性の体と健康についての正しい知識や情報を提供するなどして、国民に対して女性の健康を守る産婦人科医の評価が高まるための一助としていきたいと考えております。こうした着実な活動は、社会に開かれた学会として、公益社団法人を取得するための重要な公益事業として位置づけられると思います。
われわれが専攻する産婦人科学は、次世代に向けた未来志向型の医療であり、同時に女性の生涯を通じてのその健康に奉仕する総合的支援型医療として、その職域の拡大が叫ばれるようになってきています。今や本学会は社会の信頼に応えるための先導者たらん医療人の養成とともに、学会本来の目的である学問の進歩にも力を注ぐべきであると思います。若い医師に学術基礎研究の重要性とその魅力を教育することが肝要であり、彼らが純粋にサイエンスを極めるといったアプローチを通して、現在の閉塞感のある医療をブレークスルーしてほしいと祈っています。
今、世界は未曾有の金融・経済危機に直面しております。先行きが混沌とする中にあって、未来への夢を持つことができる産婦人科医療を実現し、次代を担う若手産婦人科医師に輝く瞳を取り戻していただきたいと思っております。周産期医療における緊急事態にも懇到に対処しつつ、将来を見据えた重層的で複合的な施策を強力に展開しつつ、先生方とともに本会の新たな航路を見出していく決意であります。今後とも皆様方のご指導、ご支援を切にお願い申し上げます。